「しかし……なんで僕らが『異界の徒』だなんて呼ばれてたんだ?」
翌日。
僕はシオンを連れて街中に繰り出していた。
目的は情報収集と、その他諸々。
実を言うと、強力な異能力者を雇って霧矢をフルボッコにしてやろうか、とすら考えている。
まぁ、みんなには内緒だけどな。
あぁ、ちなみに残る連中は待機中だ。
阿久津さんと六紗をこの世界に連れ出すのは自殺行為だと既に理解した。
ボイドも同様に、下手に動かすと大変なことになる。
ポンタは六紗の前では無力と来たし、馬鹿だが頭はいいシオンと、普通に常識人のナムダ。こいつら以外に頼れる人員は居ない。
ちなみに、ナムダは厄介者たちの監視役として置いてきた。
「どーせキリヤの仕業じゃねぇのか? 最初にカイを殺せなかったから、今度はコソコソした手で来てんだろ」
「そういうもんかな」
まぁ、真面目モードのシオンが言うんだし、本当にそうなのかもしれない。
自分で手を下さず、7代目勇者を使って僕を捉え、横合いからノートを奪い取る。
そう考えれば、まぁ、悪くは無い考えなのかもしれない。
「にしても……」
ふと、僕はシオンを見た。
この世界で地球の服は……まぁ、目立つってほどでもないのだが、少しだけ奇抜に見える。
なので、この世界の村人的な服を着て、目立ちそうなものを全て外して居るのだが……。
「お前……やっぱりその目、見えてないのな」
「あ?」
シオンは今、普段から着用している黒い眼帯を外している。
そのため、彼女の右目が見えるのだが……その瞼は固く閉ざされ、開くような素振りはない。
「あー、まぁ、なんだ」
シオンは気まずそうに頬をかく。
片目が見えないのは、生まれつきなのか。
あるいは、何らかの理由があって、見えなくなったのか。
まぁ、そんなこたぁどうだっていいんだけど。
「お前、そっちの方がいいんじゃねぇの?」
僕はそう言って、彼女の顔をじっと見る。
彼女は驚いたように目を丸くして、どこかその頬も赤く見える。
が、シオンに関してそういう恋愛感情が混じることは無い。
僕は彼女の顎を掴んでその顔を見た。
「お、おっ、おお……」
「うん、下手に眼帯とか黒い格好とかしない方がいいと思うぞ、お前。そっちの方がかっこいいし」
前に誰かも言ってた気がする。
シオンは可愛いというより、かっこいいタイプの女性だ。
スカートだなんだというのも似合うと思うが、お前は男装……とまでは行かずとも、そういった服装の方が似合うと思う。
「な、なんだよいきなり! びっくりすんだろうが! は、離しやがれ!!」
「何照れてんだよ、女みたいな反応して」
「オレは女だ!!」
シオンはそう言って、ずんずんと歩いてゆく。
その姿を追って僕も歩き出すと……ふと、通りかかった近くに大きな建物が見えた。
思わず足を止めて建物を見る。
その建物の前には……すげぇ量の『串』が散乱している。
間違いない、あれだな。阿久津さんが嫌がらせをしたという勇者館は。
その勇者館が何なのかは知らないが、7代目勇者が中から出てきたということも聞いたし、おそらくは勇者の本拠地的な場所なのだろう。
そこに直接で向いてする嫌がらせが【食べた焼き鳥の串をポイ捨てする】というのだから、阿久津さんの小悪党っぷりが察せられる。
あの人、悪魔王とかラスボスとか、性格的に向いてないと思います。
「おいカイ! なにしてんだ!」
「あ、いや、悪い……ちょっとな」
前方のシオンに呼ばれて前を向く。
一人で先に進んでたくせに……僕がついてきてないと思えば待ってくれてるのは優しさからか。
あるいは、単純に寂しいからか。
……うん、後者かな。
考えるまでもねぇ事だった。
シオンは精神年齢が小学校低学年男子だからな。
「今行くよ」
とりあえず、勇者館から視線を逸らしてシオンの方へと歩き出す。
その際に、もう一度だけ勇者館へと視線を向ける。
カラーコンタクトから、僅かに真眼の光が漏れる。
上層の窓からこちらを見ていた瞳は、焦ったように揺れた気がした。
直ぐにカーテンは閉ざされて、僕も視線を外して前を向く。
勇者館の中から感じた、興味の視線。
それが誰のものだったのかは知らないが……随分とまぁ、わかりやすい視線で助かった。
「僕らに注目してるのは……なにも、霧矢のせい【だけ】って訳じゃ無さそうだな」
☆☆☆
「ここよ!」
数時間後。
特に収穫もなかった僕とシオンは、六紗たちと再び合流していた。
次の目的は衣食住の『住』の確保だったのだが、思っていたよりも簡単にそれは済んでしまった。
「私が勇者になる前に住んでた村よ! まぁ、あの町とは比較的近い場所にあって、誰も近づかないからちょうど良かったわ!」
「……優ちゃん」
その光景を見て、ポンタが困ったように彼女の名を呼んだ。
目の前に広がる村は、既に荒廃しきっている。
至る所に、覚えのある青い炎が燃え盛っており、それに、僕の内側に燻る炎が反応したのが分かった。
しかし……本当にいいのか。
ここは、六紗優の故郷。
生まれ育った場所。
つまり、なんだ。
彼女の『黒歴史』が起きた場所でもある。
そんな場所に、彼女は迷うことなく僕らを案内した。
彼女に無理をさせるくらいなら、最初に逃げ込んだ廃墟でもいい、と、僕は行ったのだが……。
「さっきも言ったけれど、心配は無用よ! 私だって前に進まなきゃ行けない。そのために、1度……ここに寄って、お墓参りしたいと思ってたから」
「……大丈夫なら、いいんだが」
僕はそう言って、彼女の肩に手を置いた。
その肩は震えてはいなかった。
無理をしている様子もない。
だけど、それでも僕は彼女に言った。
「無理するくらいなら僕に頼れよ。前も言ったが、僕はどこまでだってお前の味方だ」
「…………うん。ありがとう、解」
彼女はそう言って、村の中へと歩いてゆく。
ポンタに目配せすると、彼は迷うことなく六紗の後について行く。
とりあえず、六紗はポンタに任せておけば大丈夫だろう。
出来れば僕も彼女の側にいてやりたいが……先に、この炎をどうにかするのが先決だろうしな。
「【黒死炎天】」
呟けば、僕の体に青い炎が灯る。
この力は喰らう力。
霧矢の放った炎を食らったことで、不幸中の幸いながら、多少ながら想力が元に戻った。
無論、それだけで全盛期の力を全て使えるほどの想力量ではない。
だが、多少なら【限定解除】を使うことなく異能や技能を使用出来る。
僕の手に灯った炎へと、村中から青い炎が集まり、吸収されてゆく。
その度に、かつての『黒死炎天』が保有していたエネルギーが体の内に溜まってゆく。
だが、そのエネルギー補給が気分のいいものかと聞かれれば……必ずしもそうとは限らない。
なにせ、この炎は……かつて、六紗優が暴走した時の名残りなのだから。
直ぐに炎は鎮火する。
僕は青い炎をかき消すと、気分の悪さとは裏腹に、かなりの神力と想力が腹の底に溜まっていた。
「霧矢を倒すため……と、言い切ることが出来れば楽なんだろうがな」
下手に六紗を知っているから。
彼女の過去を、垣間見たことがあるから。
そう言い切ることに抵抗を感じる僕が居た。
「……灰村くん、そろそろ」
「あぁ。そうだな」
ナムダの言葉に促され、僕もまた歩き出す。
六紗の姿を真眼で探せば……しばらく行った先の家を前に立っている。
その家は燃え朽ちており、かつての原型も留めちゃいない。
あそこが彼女の実家……だった場所かな。
僕は思わず顔を歪めて。
――その、直後。
真眼は、
「――ッ!? ろ、六紗っ!!」
考えるよりも先に駆け出した。
もしも、……もしも万が一に。
霧矢ハチが、ここで待ち構えていたとしたら。
最悪の光景が頭に浮かぶ。
僕は歯を食いしばり、次元技能で空間を飛ぶ。
次の瞬間には、六紗とポンタのすぐ側に移動していて。
扉を開いた六紗優は、大きく目を見開いていた。
「お、おい……!」
ポンタも六紗も、まるで固まったように目を丸くしている。
だが、戦闘態勢に入る気配はない。
……なんだ、この反応は。
僕は不思議に思って、かろうじて残っていた扉から、家の中へと視線を向ける。
そして、僕もまた目を見開いて驚いた。
「やぁ、君たちなら……ここに来るだろうとは思ってたよ。異界の徒たち」
そこに居たのは、30代半ばといった女性。
彼女は机に腰をかけ。
その傍らには一抱えもある杖がある。
……その人物に、僕は初めて会った。
だけど、僕はそいつを知っていた。
六紗優の過去を見た時。
確かに僕は、彼女を知った。
「……5代目勇者、六紗の先代か」
僕の言葉に、その女性は微笑んだ。
そして、とんでねぇことを言い出した。
「初めまして。君が六紗の彼氏かな?」
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。