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最終章【妄想クラウディア】
508『逃亡劇』

「どこに行った……! 姿を現せ! 異界の徒共めが!!」


 そんな叫びが後ろから聞こえてきて。

 僕らは、廃墟のひとつに姿を隠していた。

 阿久津さんがこいつらを連れてきて、10分ほどだろうか。

 僕は荒くなった息を整えつつ、阿久津さんへと視線を向ける。


「で、どうしてこうなったんだよ……」

「そ、それが……」


 阿久津さんは、窓の外を睨みつつ口を開く。

 その様子を見て察した。

 おそらく、全面的にあの7代目勇者とやらが悪いんだろうな、って。

 察したはいいんだけれど……。


「いつものように、食べ終えた焼き鳥の串を大量に勇者館の前に捨てていたのだが……焼き鳥を食べようと仮面を外した時、怒り狂った7代目勇者が出てきて……!」

「何してんのよアンタぁ!!」

「……ッ! あの廃墟から声がしたぞ!!」


 まるでコント!

 君たち狙ってやってるのかなぁ!?

 僕らが逃げ出そうとするより先に、廃墟へと無数の聖騎士たちがなだれ込んでくる。


「悪事もここまでだ! どこの誰かは分からないが、数年前……先代が生きていた頃も似たような事件が会ったと聞く!」

「そうよ! 毎度毎度片付けるの大変で、誰の仕業なのかって何時も話してたのに……よりにもよってアンタのせい!? ふざけんじゃないわよ!!」


 7代目と6代目が叫ぶ。

 ちなみに阿久津さんも六紗も変装してるし、ポンタは僕のコートの中に隠れてるし、僕らの正体まではバレていない様子だ。

 さて、どうやって逃げるかな。

 そう考えていると、下らねぇ言い争いが聞こえてきた。


「いや、私は悪くない。私はストレス発散をしていただけだ。悪いのはこのストレス社会と、主に私のストレスの生みの親たる貴様らだ。というか貴様だ」

「なに、責任転嫁してんのよ!! というかあんた、焼き鳥ばっか食べてたら体調おかしくするわよ! ちゃんと野菜も食べなさいよ!」

「ネギを食っているだろう。あの、肉と肉の間に挟まっているアレだ。ちなみに私は野菜無しの焼き鳥派だがな」

「ならダメじゃないの!」


 ギャースカギャースカ……お前らうるさい!!

 喧嘩するほど仲が良すぎます!!

 離れてた時は『べっ、別にあんなやつと会いたくなんてないんだからっ』みたいな雰囲気だったくせに!

 お前ら顔を合わせた瞬間元気になりすぎだろうが! どんだけ仲がいいのかなぁ!?


「ちょっと現実見ろ、馬鹿2名!」


 僕は二人の頭に拳骨落とすと、巨大なたんこぶを作った二人は頭を抱えて僕を見上げる。


「な、なんなのよ……」

「痛い……猛烈に痛い……」

「痛いのも不満なのも分かるが、今は逃げるのが先だろうが!」


 前方を見れば、7代目勇者は腰の剣を抜き放つ。

 仮にも六紗優の後継者。

 いくら彼女の代用品といえど、顔は良いし雰囲気もあるし強そうだし……。

 さすがに六紗と同格って訳では無いと思うが……それにしたって、油断できるような相手じゃないはず。



「【闇の王】」



 全身から黒い蒸気が吹き上がる。

 僕の戦闘態勢を見て、ボイドがやる気満々で前にでてきたが、僕は片手で彼女を制す。


「……!? な、何故です我らが王よ!」

「お前がやったら殺るだろうが……」


 お前はただでさえ手加減できないんだから。

 それに、深淵竜ボイドの消耗だけは極力避けて通りたい。

 なにせ、霧矢ハチに唯一対抗出来る、ウチの切り札なんだからな。


 僕の言葉にボイドは渋々後ろに下がる。

 シオンへと視線を向ければ、彼女は7代目勇者とやらに興味もないのか、明後日の方向を見て鼻をほじっている。

 汚ぇな。


 まぁいいか。

 僕一人で処置できるなら、イレギュラーがない分、やりやすい。


 僕は前を向く。

 7代目勇者は喉を鳴らし、その頬に一筋の汗が伝う。



「退けろ、さもなくば怪我するぞ」




 ☆☆☆




 その男を一目見た瞬間。

 7代目勇者は、戦慄した。


 純粋な強さでは無い。

 それを表すのに言葉は要らない。

 目の前にした瞬間。

 7代目勇者としての直感が。

 本能が、理解した。



 この男こそが、この集団における【王】であると。



 今まで感じてきた中で最大の威圧感。

 強さよりも、生命としての格が違う。

 敵対して初めて理解する、その男の【大きさ】。


 果てしない、底の知れなさ。

 それは、下手をすれば今代の悪魔王よりも……。


 剣を持つ手が震える。

 それを必死に押さえつけると、剣はピタリと静止し、静かに敵の喉元へと切っ先を向けた。

 深呼吸。

 心を鎮めて前を見据える。

 さすれば、もう恐怖は消えていた。


「へぇ」


 男は静かに声を出し。

 その足が、僅かに動いた。

 と同時に、7代目勇者は切り払う。

 剣が何かを弾き飛ばす。

 知覚出来ず、視認もできない。

 ただ、目には見えない【何か】が飛んできた。

 そんな直感だけはあった。


「……アイツの能力。『千却万雷』ってのが、千本の刀を生み出す能力。その刀を1本1本に滅びの力が宿っていて……さすがに、それをコピーするとなったら骨が折れる」


 だが、と男は続ける。

 男の構えが変化する。

 彼は居合のような構えをとった。

 無論、刀なんてものは持ってない。

 だが、それでも。


 それを前に、7代目勇者は危機感を募らせた。



「『無刀一閃』」



 瞬間、勇者の第六感が空間中から危機を察した。

 デタラメに剣を振り払う。

 それは奇跡的にそれらの【斬撃】を弾き飛ばしたが、それでも切り払うことの出来なかった数発がその鎧を削ってゆく。


「まんまと騙されたよ……アイツは居合の達人なんかじゃない。この力は、あくまでも【具現】の力で斬撃を再現してるだけ」


 それなら簡単にコピーできる。

 そう続けて、男は再び斬撃を放つ。


「くっ、この具現……!」

「強いだろ? だからパクった」


 無数の斬撃が絶え間なく放たれてゆく。

 その度に鎧が削れて、勇者の顔に焦りが浮かぶ。


「くそっ、このままでは……!」

「勇者様! あの男の仲間達が窓から逃げてゆきます!」


 見れば、男の背後にいた仲間達が、続々と奥の窓から逃げ出してゆく。

 その光景に歯噛みしつつ、勇者は防御に専念して隙を窺う。


 そうだ、この男の目的は逃げること。

 ならば、この男もまた途中で逃亡するはず。

 絶対に、攻撃が止まる時はやってくる。

 その瞬間を狙うんだ。

 攻撃から逃亡に転換する、その時を。


「私は負けない! 悪を野放しにすることは民を傷つけるということ! 私はどこまでもこの世界の味方なのだから!」

「カッコイイなぁ、なら耐えてみろよ」


 男はそう告げ、勇者は歯を食いしばる。




 ☆☆☆




 そんな様子を、僕は廃墟から離れた場所から見つめていた。


「……まぁ、これだけ距離を離せば大丈夫だろ」


 僕の周囲には、阿久津さんや六紗たち、全員が集合している。

 場所は小さな丘の上。

 僕達が身を隠していた廃墟はずっと下の方に見えている。真眼だからこそ、勇者が【1人芝居】をしているのが見えるが、裸眼じゃこの距離は見えないだろう。


 指を鳴らすと、勇者は『はっ』と目を見開く。

 彼女は驚いたように周囲を見渡し、そして、周囲に充満する【黒い霧】を見て目を見開いた。


 その口は、こんなことを呟いたように見えた。



「まさか幻覚か」と。



 その光景に僕は微笑み。

 そんな僕を、阿久津さんは頬を引き攣らせて見つめていた。


「……末恐ろしいな、毒支配とは」

「毒支配。幻覚作用のある毒霧も可能とは。これまた面倒な力ぽよな」


 コートの中からポンタの声がしたため、懐に手を入れてひっぱりだす。

 彼を六紗へと投げて渡すと、僕は肩を回して歩き出す。


「あんなやつと戦うなんて、それこそ面倒なんでな。避けられる戦いは……全部回避する。あくまでも僕らの目的は霧矢ハチだからな」


 あの男を倒す。

 それまで、首を突っ込む必要も無い危険は総じて無視する。

 どこまでも目的に忠実に。

 霧矢ハチに対するならば……それくらいの覚悟はしなきゃならない。


 まぁ、まだこれといった勝ち目は見えてないけど。

 いつだって、絶対に勝てないなんてことは無かった。

 なら、今回だってそうだ。


 どんな手を使ってでも、アイツを倒す。

 たとえ、また力を失ったとしても。

 今度は、もっと大切なものを失ったとしても。


「……あんまり、気負い過ぎるのは良くないぽよ」


 ふと、ポンタから声が聞こえてきて。

 僕は、ふっと笑って言葉を返す。


「わかってる。僕は1人じゃないからな」


 あくまでも、戦うのは僕ら全員で、だ。

 ありとあらゆる総力を尽くして、奴を倒す。



 それが、この世界の目的だ。



 皆でこの先も幸せに暮らすために。

 僕の願いを、叶えるために。


 僕らが果たすべきことなんだ。




主人公の強さは本物なんですけどね。

ただ、相手が毎度毎度強すぎるだけなんです……。

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