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最終章【妄想クラウディア】
502『出迎え』

 特異世界クラウディア。

 この世界の裏側に、ピッタリと張り付く鏡面世界。まぁ、言ってみれば一種の異世界のようなもの。

 そこには異能が溢れている。

 たくさんの不可思議が満ちている。


 ……と、されている。


「で、ホントにあるのか? そんな世界……」

「あるって言ってんでしょうが!」


 僕の言葉に、六紗は叫んだ。

 その日のうちに、僕らは全ての準備を整えた。

 といっても、準備なんてのはとてもシンプル。

 数日分の食料と、着替え。

 それと、今ある黒歴史ノートの全て。

 それをバッグに詰め込み、終了だ。


 僕はバッグを背負い直し、近くの阿久津さんへと視線を向ける。


「移動手段としては……御仁の『次元』技能で穴を開け、私と勇者で穴の先を調整する」

「私と悪魔王は、1度向こう側から来ているわけだしね! 簡単な調整くらいなら朝飯前よ!」


 2人はそう言って肩を並べる。

 こうして、悪魔王と勇者が肩を並べて立っているだなんて、それこそ、特異世界クラウディアの人間が見たら卒倒するんじゃなかろうか?

 そんなことを思いつつ……僕は、背後を振り返る。


「成志川。それじゃあ……僕のいない間、この世界は任せたぞ」

「……寂しくなるけど、同時に少しだけ嬉しいよ。君に頼って貰えているんだからね」


 そう言って苦笑したのは、成志川景。

 特異世界クラウディアに渡るには、相応の危険が付きまとう。

 独り身ならまだしも……成志川にはエニグマ先生がいる。彼をそんな危険に連れ出す訳には行かない。


 そもそも、万死の時だって……。

 と、言い出したらキリがないのでやめておくが、今回、成志川には僕らの留守番をお願いすることにした。


「てめぇは、随分とまぁ主人公顔で活躍してくれたみたいだからな……。今回は出番無しだ。ざまぁみやがれ」

「うん。君たちが無事に帰ってきてくれさえすれば、僕はそれでいいからね」


 ……また爽やかなことを言いやがる。

 これでイケメンだったらモテてモテて大変だったろう。まぁ、成志川は、せめて痩せてから出直してきて欲しいところだが。

 そうこう考えていると、彼は僕へと近寄ってくる。


「それと、灰村くん。()()()()()()


 そう言って、彼が差し出してきたもの。

 それを見た瞬間、僕は大きく目を見開いた。


「……ッ!? お、お前……これって!」

「君と別れてから、二年間。何もすることがなかったわけじゃない。僕も僕なりに、色々と探し回ってみたんだ」


 道理で【埋蔵場所】に行っても、何も見つけられなかったわけだ。

 僕は、彼からそのアイテムを受け取る。

 それは、漆黒色の宝玉だった。


「……まぁ、それは戦闘には一切役に立たないだろうし、一種のお守り代わりにして欲しいかな」

「知ってるよ。……僕が作ったんだからな」


 そう言って、僕は宝玉を握って踵を返す。

 僕の言葉に、成志川は少し驚いたようだったが、僕が手を振ると、嬉しそうに笑ってくれた。


「必ず帰ってくる。こっちは任せた」

「……うん、任されたよ」


 僕は拳を握り、前を向く。

 既に、クラウディアへ乗り込むメンバーは揃っていた。



 悪魔王、阿久津真央。


 六代目勇者、六紗優。


 征服の獣、ポンタ。


 死地の紅神、シオン・ライアー。


 暴走列車、ナムダ・コルタナ。


 深淵最強の守護者、深淵竜ボイド。



 そして、僕、灰村解。



 男性三名、女性四名。

 過剰とも思える戦力で、僕らは異世界に殴り込む。


「御仁。特異世界クラウディアは、異能力者の巣窟だ。そこに生息する全ての生命体が異能を用いる。……純粋な強さで我らに匹敵するものこそ少ないが、その多様さは馬鹿には出来ん」


 ポンタみたいな謎生物ですら異能を使えるんだからな。

 それに、阿久津さんたちがその世界出身と言うのであれば、油断なんて出来ない。

 いつ、3人と同格の化け物が出てくるかも分からないんだからな。


 だから、馬鹿になんてしないさ。



 ただ、このメンバーで負けるとも思わない。



「【次元】」



 僕は、転移の渦を召喚する。

 それを前に、阿久津さんと六紗が向き直る。


「……覚悟は出来ている、と見て良いな?」

「愚問でしょ。コイツがブルって足を踏み出せない、なんてこと。今までに1度としてあったかしら?」


 六紗の言葉に、僕は苦笑した。

 恐怖でブルったことはある。

 けど、足を止めたことは1度もないな。


 僕は次元の渦を真正面から見据える。


 確かに怖いとは思うよ。

 行きたくないとも思ってる。

 けど、その先に過去焼却が待っているなら。

 僕の願いが叶うというのなら。



「……願いのためなら、何を捨てたっていい」



 そういう覚悟で、僕はここに立っている。


 僕の言葉に、乗り込む面々は笑みを漏らす。


 全員の視線を受けて、僕は、一歩渦へと近づいた。








 ――その、瞬間だった。






「さすがはカイ君だ。格好いいことを言う」




 ()()()()()()()()()()()()()()()



「――ッ!?」



 あまりの光景に、体が硬直する。

 その場にいた誰も、想像できなかったこと。


 どこに繋げた訳でもない。

 異世界行きへの調整だって出来てない。

 この穴は、どこにも繋がってない。


 にも関わらず。


 その中には、()()()()()



「ふ、ざけ……ッ!?」



 まさか……っ、僕の【次元】が……!

 それ以上の『界刻』の異能力で。

 力ずくで、その使用権をぶんどられた!


 そう理解した瞬間、怖気が走る。

 今の僕は【限定解除(リミット・オフ)】を用いてる。

 無限に等しい想力を取り戻している。



 ――そんな僕が、力技で敗北した。



 その事実が表していた。


 その相手が、どれほどの化け物かということを。


 抗う間もなく、僕は渦の中へと引きずり込まれる。


「ちょ!? ま、待ちやがれ! おい!」


 シオンが叫んだ声が聞こえた。

 皆が僕へと手を伸ばす。

 されどその手が届くことはなく。




 気がつけば、僕は異世界に立っていた。




 目を見開く。

 空には太陽が二つ並んでいて。

 青空の下に、僕は居た。

 周囲へと視線をめぐらせる。


 緑一色、草原の絨毯。

 僕のすぐ後ろには森があって。

 様々な動生物の、気配があった。


 だけど……そんな、ことよりも。



 僕は、目の前の男から、目を離せなかった。



「……な、なん……で、お前が!」



 僕がこのタイミングで、1番会いたくなかった奴。

 二年近く、同じ釜の飯を食った奴。

 僕が誰よりも信頼してた奴。



 ……友達だって、思ってた奴。



「もう、分かってるだろ? この状況だ」



 男は、そこに生きていた。

 あの場所と何も変わらず。

 黒いコートを風に揺らして。

 目を細めて、嬉しそうに僕を見ていた。


 その姿に、僕は苦痛に顔をゆがめた。


 誰か……嘘だと言ってくれ。

 なんで、どうして……。


 どうして……最後の異能力者が、お前なんだよ。




「き、霧矢ハチ……ッ!」




 僕の声に、彼は右手を構える。

 その指先に炎が灯り。


 全身の細胞が、死を叫んだ。




「お待たせカイ君。早速だが、死んでくれ」




 炎が放たれ。

 僕の体は、抗う間もなく飲み込まれた。




10人目の異能使い、霧矢ハチ。

世界最初にして、最強の逸常使い。


満を持して、表舞台へと登壇する。

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