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長かった第四章、最終話!

第四章【禁忌の劫略者】
448『10人目の異能使い』

「親不孝行者めが」



 開口一番に、そう言われた。

 目の前には、ベッドに横たわる老人の姿。

 僕は、それを前に限界まで目を見開いていた。


「信じられない……回復力です。正直、何がなにやら。人では無い何かの血が混ざってる、と言われた方がずっと納得できますよ」


 医師がなにやら言っていた。

 だけど、そんなことは聞き流し。

 僕は、這う這うの体でそのベッドへと近づいてゆく。


 瀕死でも、死にかけでも、いい。

 たった一言、手を握って伝えられれば、この命なんてどうだっていい。

 僕はそのベッドにしがみつき、父さんの手を握る。


 その手はやっぱり、優しくて、暖かくて。



「……ご、ごめん、父さん……っ!」



 心の底から、絞り出した言葉に。

 僕の憧れは、呆れたように笑って、僕の頭を撫でてくれた。




 ☆☆☆




「で、こうなったわけか」


 戦いから一夜明けて。

 僕は、病室のベッドの上で新聞を読んでいた。

 そこには大きく『正統派の王、六紗優の早すぎる引退発表』と書かれており、僕は正面の椅子に座る少女へと視線を向けた。


「いいのかよ、これ」

「いいに決まってんでしょ。ちゃんと考えた結果なんだから」


 そこには、ナイフを片手にりんごの皮を向いている六紗優の姿があった。


「あくまでも、この世界は悪魔王を追ってやってきただけ。異世界の犯罪者が頂点に君臨し続けるだなんて、そんなの神が許しても私が許さないわよ。……それに、私がこの罪を清算するべきは、あの世界でのことだしね」

「……特異世界クラウディア、か」


 僕はその名を呟き、天井へと視線を向けた。


 あの戦いの後。

 重症の僕に対し、六紗の傷は驚く程に少なかった。

 というか、無傷と言っても差し支え無いほどだ。

 心臓を穿たれた傷跡は小さく残ったようだが、それにしたってそれ以外の傷跡はまるで夢であったかのように消えている。


 それはひとえに、彼女が保有していた『力』のせいだと、僕は思う。


 ちらりと彼女の方へ血視線を向けると、僕の視線を感じてか、六紗は自分の右手を見下ろした。


「……私の力【黒死炎天】。どういう訳か、今はアンタの元に行ってるみたいだけど、あれは他者を喰らって自分の糧にする力。どんな傷であろうとも、それを癒すに足るエネルギーさえあれば瞬く間に治してしまう」

「だから、僕がこうして生きてるわけか」


 僕は、灰燼の侍により無数の斬撃に晒された。

 中には致死の傷もあった気がする。

 にも関わらず、目が覚めた時、僕の体からは多くの傷が消えていて、残っている傷も軽傷のものばかり。

 現場に戻ってきた成志川の言によれば、ひとりでに傷が治って行った……とのこと。


「超再生に、黒死炎天が持っていたエネルギー貯蔵。それを使って、何とか命を繋げた、って所か」


 そのせいで、今の『黒死炎天』は空っぽも空っぽ。

 喰らう力は残っていても、六紗の使っていたものと比べれば赤子同然の弱々しさしか持っていない。


 僕は指先に青い炎を灯らせる。

 その炎を見て、六紗は微妙そうな顔をする。


「つーか、なんで私が必死こいても使えなかった力、平然と使いこなしてんのよ。いくら弱体化してるって言っても禁忌よ、禁忌」

「なんでって……僕だから?」

「腹立つわね、そのあからさまなドヤ顔」


 六紗はギリギリとリンゴを握る。

 リンゴの汁が飛んでくる中、僕は炎を消してベッドの上を見る。


「まぁ、それはそれとして……」


 その光景に、僕は顔をしかめる。

 そこにあるのは、僕が望んでいた光景。


 されど、気分の悪い光景だった。



「……なんつー見事な……地獄絵図」



 そこには、9()()の『黒歴史ノート』が並べられていた。


 阿久津さんの持っていた【壱】。

 灰燼の侍が持っていた【弐】。

 成志川が持っていた【参】。

 シオンが持っていた【肆】。

 異能者殺しが持っていた【伍】。

 老巧蜘蛛が持っていた【陸】。

 正統派が保管していたという【漆】。

 鮮やか万死の持っていた【玖】。

 ナムダ・コルタナの持っていた【拾】。


 以上、全てで9冊。

 最後の【第(8)巻】を除き、全ての黒歴史が僕の元に集結していた。


 ふと、病室に風が吹き抜ける。

 顔をあげれば、窓際には銀髪の女性が立っている。


「うげっ」


 それを見て、顔を顰める六紗。

 その姿を一瞥……というか、思いっきり睨んでから、その女性は僕へと口を開く。


「私の情報網を全て漁ってみたが……やはり、第捌巻に関してだけは、どこにも情報が引っかからんな、御仁よ」


 悪魔王、阿久津真央。

 彼女は銀髪を風に揺らし、そう言った。

 のはいいんだけどさ……阿久津さん、それに六紗。


「お前ら……まだ仲直りしてないのか?」

「安心せよ御仁。そのような輩と直す絆など持ちえていないのでな」

「そうよ! 悪魔王は敵だもの! 特異世界クラウディアだけでは飽き足らず、この世界において犯した大罪! 忘れたとは言わせないわよ!!」


 ピキっ、と2人の額に青筋が浮かぶ。


「ほぅ……敵とは、よく言ったぞ勇者。なんなら今ここで因縁に終止符を打ってやってもいいんだが?」

「言ったわね! いいわよ、やりましょうか! 呪いが消えたおかげで今の私は絶好調! 誰にも負ける気がしないわ!」


 もはや一触即発。

 まぁ、だからなんだって話だけど。

 さすがに僕の前で殴り合いの喧嘩はしないだろう。だって病人ですもの。


 僕は2人から視線を逸らすと、ベッドの下へと手を伸ばす。


 ぽよっ、と変な感触があって。

 僕は、その謎生物を引っ張りあげる。


「で、お前はなんで気配を消してるんだ?」

「ボクは学ぶ男だから、ぽよかな?」


 よく分からんことを言うポンタ。

 僕はポンタをベッドの上に放ると、思いっきり背中から落ちたポンタはじたばたと手足を動かし、やっと思いで立ち上がる。


 普通ならここで「ボクを投げるなぽよ!」と叫び出しそうなものだが……。

 なんだろう、ポンタの様子が少しおかしい。

 彼は小さく咳払いをすると、饒舌に喋り出す。


「ボクの前世が征服王イスカンダルなのは周知の事実かと思うぽよ。だが、それが故に慢心があったぽよ。学習せずともボクは最強。事実そうであったぽよが……前世の知識だけではどうにもならない展開があると知ったぽよ!」


 うわぁ、なんだか嫌な予感がするなぁ。

 いつものパターンな気がしてきた。

 ポンタが余計なことを言って。

 六紗がそれをぶん殴る。

 見慣れすぎて。もはや一種の典型な気がする。

 そう思って六紗の方を見れば、既にコークスクリューブローの構えを取っている。


 グッバイ、ポンタ。来世で会おうぜ。


 僕は内心で、今から殴り殺されるであろうポンタにご冥福をお祈りし……。



「と、ここで優ちゃんの秘密を暴露してしまうから、いつもボクは死んでるんだぽよ」



 と言い放ったポンタに、ここにいた三名は皆一様に動揺した。


 ま、まさか……あのポンタが、殴り飛ばされたり蹴り飛ばされたり、投げ飛ばされたりしない……だと?


「お、おいポンタ……今日は剣の雨でも振るのか?」

「な、何か変なものでも食べたのではないか? なんせ、元が元々変な生物なのだから」

「確かにペットショップの店員も、よく分からない生物、とは言っていたけれど……」


「驚き方が酷いぽよ!」


 ポンタは叫び、僕を見上げる。


「まぁ、それはそれとして……おい男。今は、その第捌巻の在り処を探してるんじゃないぽよ?」

「まぁ、そうなんだが……」


 困惑気味にそう答えると、ポンタは告げた。


「正統派、悪魔王の情報網、その他諸々、これだけ探してないということは……そのノート、この世界には無い可能性が高いぽよ」


 ――この世界に、ない。

 なんて素晴らしいことだろうか!

 一瞬そう思ったし、なんなら今ここで黒歴史ノートをもやし尽くせば、実質【黒歴史焼却】になるのでは? なんて疑問も浮かんだ。

 だが、僕は妥協はしないぞ!

 全て集めて過去を改変するんだ!


 しかし……この世界にはない?

 まさか、冥府にでも落ちてるんじゃないだろうな。深淵剣デスパイアみたいな感じで。


 そう考えたが……ふと、僕の頭に【もう1つの異世界】が浮かんだ。


「……まさか」


 僕の呟きに、阿久津さんが腕を組む。


「……この世界にはない。……まさかとは思うが、ポンタ、貴様――」

「えっ? な、なによ。三人して何察したような話をしてるわけ?」


 1人だけ理解出来ていない六紗がオロオロとする中。

 大きくため息を漏らした阿久津さんは、僕に視線を向けてこう言った。




「御仁。第捌巻は……特異世界クラウディアに流れている可能性が高そうだ」




 ☆☆☆




「どうやら、最終決戦には間に合ったみたいだね」


 男は、空を見上げてそう言った。

 空は青く、太陽が二つ浮かんでいる。

 なんという、脱獄日和。

 ただし、それは監獄からの脱獄ではなく。


 冥府という厨二病地獄からの、脱獄であった。



「君はいつの日か、全てのノートを手に入れる。……なんでだろうね、出会った時から確信してた」



 男は、片手に持つ黒いノートへと視線を向ける。

 そこには【第捌巻】との文字が記されていて、それを見た男は笑った。



「君はいつか、全ての異能力者を打倒する。全てのノートを集めきる。だけどね、カイ君。それでも一冊、足りないことに気づいて欲しいんだ」



 黒いコートが風に揺れる。

 一般人のような、達人のような。

 社会人のような、ホームレスのような。

 掴みどころのない、空気のような男。


 彼は黒髪を指で弄って、楽しげに笑う。



「その時こそが、俺の出番だから」



 かくして、10人目の異能力者が立ち上がる。



 さぁ、カイ君。

 物語はそろそろ、幕引きの時間だ。


 最後の最後は、この俺が立ち塞がろう。


 3人で、同じ釜の飯を食った仲だけど。

 君が譲れないように、俺にも譲れないものがあるんだ。


 だから、カイ君。



「第捌巻を奪い合おう。今度は――敵として」



 そして、物語は終幕へと向かう。





以上、第四章【禁忌の劫略者】でした。



そして、物語はフィナーレへ。


全ての原点に、物語は終結する。


さあ、この黒歴史に幕を閉ざそう。



――これより僕は、過去を訣別する。



最終章【妄想クラウディア】

次回から、開幕予定。


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