挿絵表示切替ボタン

配色








行間

文字サイズ

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
134/170

この作品、たぶん今年中に完結だなぁ。

この後の最終章が、余程盛り上がらない限りは。

第四章【禁忌の劫略者】
444『灰村解⑤』

 禁書劫略。

 放つと同時に勝利の決まる一撃。

 それは確かに六紗へ向かった。

 彼女に向けて放った。


 だが、結果として強奪するまでは至らなかった。


「……ッ!?」


 鋭い音がなり響き、円環が弾かれる。

 信じられない光景に目を見開けば、同時に蒼い炎が迫り来る。

 僕は咄嗟にその場を退けると、僕のたっていた場所が炎によって食い尽くされる。


「ぐ……!」


 やはり……なんという威力。

 というか、僕の禁書劫略が……弾かれた?

 あの鮮やか万死からも奪えた力だ。

 確かに今の彼女は奴より強い。

 だが、だからといって奪えないとは思えない。


「……まさか、六紗まで届かなかった?」


 嫌な予感を感じ、大地を駆けると同時に円環を放つ。

 僕のいた地面を食い破るように地中から炎柱が立ち上り、それと入れ違いになるように円環が飛ぶ。


 真眼に力を込める。

 一挙手一投足を見逃さぬよう。

 必死になって眼を凝らす。

 円環が線となり、目にも止まらぬ速さで六紗へと襲いかかる。


 普通なら、それで終わりだ。

 普通の力で円環は防げない。

 今までの誰もが、そうだった。



 にも関わらず、六紗優だけは別だった。



「……ッ!?」



 ()()()()()()()()()()()()()()

 その光景に、一瞬で理解と納得が及んだ。

 ……そうだ、普通ならば防げない。


 だが、この女は常軌を逸した【逸常】だ。


 目には目を。

 歯には歯を。

 強奪には強奪を。


 逸常には、逸常を。


 たとえ一般人には防げない強奪も。

 同じ逸常の異能であれば、十分に弾き返すことが出来る、ってことか。

 僕は円環を手首へと戻し、舌打ちを漏らす。


「初めて知ったよ……この力の弱点なんて」


 作者だから、力の制限は知っていた。

 だが、これは生まれて初めて目の当たりにしたよ。僕の、この攻撃を防げる存在がいるだなんて。


 僕は大地を駆けると、膨大な炎が僕の居場所を飲み込んでゆく。


 圧倒的な威力、手数、そして速度。

 僕は思わず歯を食いしばり、加速した。


 廃墟跡からここまで。

 ずっと【限定解除(リミット・オフ)】を続けてきた。

 全盛期の想力が戻ったことで、異能や技能を使っての燃料切れは心配していない。

 だが、この状態を保つだけの【神力】が、どこまで持つか……。


「それに……ッ」


 全身に走る激痛に顔を歪める。

 ふと、シオンに言われた言葉を思い出した。


『おいカイ! 言っとくが、てめぇはこのう○こたれ侍よりずっと重傷だからな! 今はオレ様の特性治癒薬で傷を埋めたが、激しく動けばすぐに吹き出す代物だぜ』


 僕の体に包帯を巻きながら、シオンは言っていた。

 ……そりゃそうだ。

 この身には、あの侍の刃を受けた。

 本来であれば死んでいてもおかしくない傷。

 それをシオンの応急処置で延命し、治癒薬で無理やりに癒着させ、超再生で傷口が開くのを防いでいる。


 こうして立っているだけで体力を消耗し続けている。

 痛みで意識はハッキリしているが、1度でも攻撃が掠れば……倒れてしまえば、僕はもう二度と立ち上がれない。


 そんな直感がある。


 前を見れば、頬に涙を伝わせる六紗の姿があった。

 その顔には無表情が張り付いており、瞳はどこまでも暗く沈んでいる。

 にも関わらず、零した涙。


 きっと彼女には、意識があるんだろう。

 それでも止められないから、苦しんでいる。


 僕を殺してしまうのではないか。


 そんなことを気にして悲しんでいる。

 そう理解した瞬間。

 僕は一気に方向転換し、六紗へ駆けた。


「――ッ!?」


 六紗が驚いた気がした。

 無数の炎が迫るが、腕の円環を鞭のようにしならせ、それらの炎を打ち消してゆく。


 お前が僕の力を無効化できるなら。

 僕だって、お前の力を打ち消せるはず。


 だけど……ッ!


 円環を通り抜けて炎が迫り、僕は再び距離を取る。

 荒く息を吐いて視線を戻せば、そこには炎を従え僕を見据える少女が居た。


 ――炎とは、実に無形。


 多彩で多様で、どんな形にだって変わる。

 加えて六紗の炎は際限なく広がってゆく。

 今だからこそこの程度だが、周囲の無機物を今も尚食らっており、その度に彼女の体の傷が癒えてゆくのが分かった。


 時間経過は、そのまま彼女の有利に働く。


 そう理解して、僕は奥歯をかみ締めた。

 両の拳を握りしめ、足に思い切り力を込める。


「……ビビってんじゃねぇよ」


 覚悟なら決まってんだろ。

 腹の底から力を込めろ。

 勇気を手足に集めて握れ。

 下を向くな、前を向け。

 迷いはここで切り捨てろ。


『カイ、間違っても本気は出すんじゃねぇぞ』


 シオンの言葉が脳裏を過ぎる。

 僕は笑った。



「ごめん、嫌だ」



 僕の全身から、血の蒸気が溢れ出す。

 身体中が弾けては癒えてゆく。

 せっかく止血していた傷跡が開き、余命が秒刻みへと変化した。


 死ぬつもりは毛頭ない。

 かといって、負けるつもりも毛頭ない。



「【異常稼働(フルドライブ)】」



 なぁ、六紗。

 今のお前を倒すには、これくらいはしなきゃ無理ってもんだろ?

 腕を払えば、神狼技能が展開する。

 加えて重ねがけ、【暦の七星(セブンスタ)】。


 傷のあまりに視界が歪む。

 出血多量で体が揺れる。

 それでも耐える、必死になって前を向く。


 対すれば、なんとなく伝わってくる。


 悲しいんだろ。

 苦しいんだろ。

 辛いんだろう。

 寂しいんだろう。


 なぁ、六紗。



「なら、助けるよ」



 僕は灰村解だから。

 それが嫌だと言うのなら。

 なんというか……その、ごめん。


 ()()()()()()()()()()()()()()、謝っておく。


「歯ぁ、食いしばれよ」


 円環を拳に巻き付ける。

 強奪が炎で防がれるのならば。

 防ぎようもない、ゼロ距離からぶん殴る。


 僕にできることなんざ、それだけさ。


 僕は想力の限りを振り絞る。

 無限に等しいこの力。


 全て使って……かつての力を再現する。

 異常稼働を、さらにその先へ。




「【神域稼働(ゴッドドライブ)】」




 静かに、僕は呟いて。


 直後、六紗の視界から……僕は消えた。


「……ッ!?」


 一瞬で僕を見失ったことに、六紗は大きな動揺を見せる。


 黒い光が周囲へと軌跡を残す。

 真眼から放たれた燐光が線を描き。

 六紗は必死に炎を放つが、それら全てを置き去りにして僕は駆ける。


 周囲へと視線を巡らせる六紗は、既に僕の姿を捉えることも出来てはいない。

 彼女の頬に、冷や汗が滲んだのが見えた。

 六紗は両腕を交差させると、体の底から膨大な想力を汲み上げる。


 それは、僕の力にも匹敵するだけの想力。


 マズいと思った瞬間には。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()



「【黒死炎天・炎戒】」



 真眼が捉えた。

 それは全てが死の炎。

 彼女の体を中心として、全方位へと同時に、躱す事が出来ないように解放した。

 まるで、ドームが広がってゆくように。

 蒼い炎が全てのモノを飲み込み、壊してゆく。


 それを前に。

 僕は、たった一言呟いた。



「【次元】」



 瞬間、僕の姿はドームの中に在った。

 ――瞬間移動。

 初歩的も初歩的な。

 六紗優であれば、真っ先に警戒するような反則能力だったろう。


 拳を振り被る。


 目の前には、両手を広げた六紗優。

 彼女は大きく目を見開いて、僕を見ていた。


「普段のお前が相手だったら」


 ふと考える。

 いつもの六紗優が相手だったら。

 きっと僕は、何ひとつとして太刀打ちできずに負けたであろう。


 だけど、六紗。


 今のお前は、僕にとっては易過ぎる。




「悪いが、今日は僕の勝ちみたいだ」




 限界まで目を見開く六紗に。

 僕は、情け容赦なく拳を振り抜いた。


 鮮血が吹き上がり、その全身へと円環が纒わり付く。


 弾かれるような気配は、一切無かった。

 彼女の体から、黒色が抜け落ちてゆき。



 僕の手の甲に【死】の文字が刻まれた。



 禁書劫略――強奪完了。


 周囲から、青い炎が消えてゆく。

 六紗の体は力を失ったように倒れてゆき。


 僕は、彼女へと手を伸ばして……。




「――ぁ、がッッ!?」




 ドクンッッ、と強く心臓が脈動した。


 鋭い激痛。

 体の中から炎で焼かれるような痛み。


 正気を保っていられぬほどの、気持ち悪さ。


「こ、れは……がほ、ッ、げほっ……」


 気がつけば、口から鮮血が溢れ出していた。


 それは、無理を通した代償か。

 あるいは、()()()()()宿()()()()()か。


 あまりの痛みに膝をつく。

 意識が遠ざかってゆき、指先から冷たくなってゆく。


 ヤバい。

 これは……死んだ時と同じ感覚だ。


 僕は思わず歯を食いしばり、爪を肌に突き立てる。

 今意識を手放せば、二度と戻って来れない気がする。


 もしも、これが禁忌の代償ならば。


 灰村解が暴走した時。



 きっと、その被害は六紗の比にはならなくなる。



「く、そったれ……がァ!」


 こんな所で。

 こんなよく分からない力に、負ける訳には行かない。

 絶対に、僕は、負けられない。


 目標を、叶えるまでは。


 10冊のノートを、全て集めるその時までは。



「死んで、たまるか……ッ!」



 僕は血反吐を吐き捨て、拳を強く握りしめる。

 決意に瞳を見開いて。

 激痛に歯を噛み締めて、前を向く。




 そして、気がつく。





「………………はぁ?」




 いつの間にか、六紗も街並みも消えていて。


 僕は全然知らない空間に、倒れていた。


ブックマーク機能を使うには ログインしてください。
いいねで応援
受付停止中
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。
感想を書く
感想フォームを閉じる
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く際の禁止事項についてはこちらの記事をご確認ください。

※誤字脱字の報告は誤字報告機能をご利用ください。
誤字報告機能は、本文、または後書き下にございます。
詳しくはこちらの記事をご確認ください。

⇒感想一覧を見る

名前:



▼良い点

▼気になる点

▼一言
X(旧Twitter)・LINEで送る

LINEで送る

+注意+

・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
▲ページの上部へ