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2019年(株)カンゼン

 人類の歴史上、江戸時代の日本くらい男色天国だった場所は、そうそうないだろう。
 比肩できるのは、古代ギリシアと古代ローマくらいか。
 ま、ソルティは同性愛の歴史にはたいして詳しくないのだが・・・。

 「ある時代に、ある国が、同性愛に寛容であった(ある)かどうか」にもっとも強い影響をもつのは、間違いなく宗教である。
 キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の影響下にある国々では、同性愛は基本ご法度である。
 仏教は本来、異性間・同性間を問わず、みだらな性行為を戒める。これは思想的・道徳的理由というより、単に修行の邪魔になるからである。大乗仏教の流れで日本にやって来て、なぜか女色一般を禁じるものとなり、寺院では男色がはびこることとなった。
 儒教は宗教というより哲学に近いと思うが、「家」を重んじる教えは、子孫を残さない同性愛行為を喜ばない。
 ヒンズー教についてはよくわからない。イギリス支配下のインドはむろん、キリスト教道徳に洗脳された。
 
 思うに、一神教は同性愛に厳しく、多神教は寛容なのではあるまいか?
 古代ギリシア、古代ローマ、日本の共通点を探すと、多神教=アニミズム文化というあたりに手掛かりがありそうである。
 すべてのものに神を見る感性とは、つまり、「存在するものはなべて喜ばしい」と現世肯定する思想であろう。現実的に一つの現象として同性愛があるのだから、「それはそれでOKじゃん」――ってことなのじゃなかろうか。
 
 本書は、最寄りの図書館で借りたのだが、「まあ、よくこのような本を仕入れて、貸出してくれるなあ~」と感心した。
 江戸時代の少年男娼たる「陰間」について、その生態から分布から仕事ぶりまで事細かに解説しているのはともかく、掲載している図版(浮世絵)が凄い。
 チョンマゲの成人男性が、雁の張った立派なへのこ(ペニス)を少年の菊門(アナル)に挿入しているそのものずばりの図版、いわゆる春画が、カラーグラビアも含めて何十枚と載っている。もちろん、ぼかしも黒塗りもない。
 
 昭和の昔、春画を扱った映画が銀座で上映されるというので、前売りチケットを買って楽しみに待っていたら、事前に司直の手が入り、上映中止になった。
 「なんつー、野暮な!」と憤りを感じたのを覚えている。
 浮世絵人気爆発の昨今であるが、つい最近、大墻敦(おおがきあつし)監督によるドキュメンタリー『春画と日本人』が全国公開された。(ソルティ未見)
 
 日本人のアイデンティティの底にある多神教的感性(別名エロ礼讃)は、そう簡単に塗り替えられるものではないのだろう。


男色春画