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ずっっっと昔に書いた短編作品。

何気なくランキングを見ていたら、コメディ日間7位にランクインしてました。

『偽勇者 なろう』で検索したら出てきますので、妄想クラウディア、最近シリアス続きで疲れるんだよなァ、というお方はぜひご一読ください。

第四章【禁忌の劫略者】
441『星は移りて矛盾なり』

 成志川は、大地を駆ける。

 悔しかった、あの場所に立てないのが。

 自分の弱さが情けない。


「どうして……どうしてっ」


 強くなりたい、今よりも、ずっと。

 誰にも負けないくらい。

 もう、こんな思いをしなくて済むくらい。

 強くなるんだ、二度と負けないように。


 だけど……今だけは。

 たった今、この瞬間だけは……あの二人の戦いに、入っていけない。


 助けに入りたい気持ちがある。


 だけど、前に動くことが邪魔になると分かっているから、なお悔しい。


 後方から大きな破壊音が響き渡る。

 その衝撃波に成志川は吹き飛ばされてゆき、その爆心地で阿久津は歯を食いしばる。


 袖無しのセーターに、青いジーンズ。

 戦闘をあらかじめ予期していた訳でもないだろう。それが、彼女の私服であることは明白だった。

 悪魔王としての強力な装備は一つも保有することなく、無防備のまま地獄の炎に身を投じる。

 それは、自殺行為に等しい蛮行だろう。



 だがそれは、あくまでも『普通』だったらの話だ。



「【第二異能(ツインテット)】……展開」



 そこに居る悪魔王は、世紀の大天才。

 異常も異常。

 普通であることなど、ただの一つもありはしない。誰もが認め、嫉妬に狂うほどの……才能の塊。

 歴代最強の悪魔王とさえ揶揄された彼女が。

 その力を、使えないはずがなかった。




「【星は移りて矛盾なり(ターン・オーバー)】」




 静かに、言葉が紡がれる。

 その瞬間、世界に訪れたのはひたすらの静寂。

 まるで、世界がひっくりかえったような。

 裏側と表側がそのまま反転したような。

 とても、嫌な感覚だった。


 六紗は、咄嗟に炎を放とうと腕を上げ。

 それを見て、悪魔王は笑みを深める。


「今この瞬間……()()()()()()()()


 それは反射異能の極地とも呼べる、反則。

 星の概念、物理法則、この世のルール。

 それら全てに対する、反射。

 ありとあらゆるものを跳ね返す彼女の眼は、飽くなき訓練の果てに、その極地へと辿り着いた。



「この瞬間、全ての【攻撃力】と【防御力】が、反転した」



 その瞬間、阿久津の姿は掻き消えて。

 瞬くより速く、六紗の後ろに回り込んだ。


「――――ッ!?」


 焦る六紗と、拳を振りかぶる阿久津。

 六紗優の師、5代目勇者をして『勝てる方法が思いつかない』と言わしめた怪物。

 全てを反転させる魔人。

 彼女はついに、自身の防御力を、攻撃力への反転させることに成功した。


 そして、守るだけじゃない強さを得た。



「言っておくが、今の私は誰より強いぞ」



 ただの拳。

 それは、凄まじい威力となって六紗に突き刺さる。


 彼女の体は弾かれるように吹き飛んでゆき、遠くのビルへと真正面から突き刺さる。

 どころかビルをも貫いて、それでも勢い止まらず吹き飛んでゆく。


 その光景に、阿久津は驚くことなく大地を踏み締め……蹴り飛ばす。

 瞬間、阿久津の体は物凄い勢いで空を駆け、一瞬で六紗へと追いついた。


 目の前に現れた阿久津へ、六紗は攻撃しようと炎を放つが……既に、その炎に一切の攻撃力は存在しない。


 阿久津は第二射の拳を振り上げる。

 咄嗟に六紗は両腕で防御を固め。


 その防御を突き抜けて、拳が腹に突き刺さる。


「が……!?」


 悲鳴にもならず。

 潰れたような声と共に、六紗の体は地上へと叩きつけられる。

 高度数百メートルから一瞬での落下。

 あまりの衝撃に体が歪むが、それでも大きなダメージはない。


 六紗の体は立ち上がり。

 上空から、阿久津は音もなく着地する。


「これは、あくまでも攻撃力と防御力を入れ替えるだけ。貴様の凶悪無比な攻撃力は、そのまま防御力に変わっているわけだ」

「…………」


 その言葉だけ聞けば、その反転は無意味な異能に思えるだろう。

 力の差が埋まったわけでもなく。

 ただ、入れ替えただけ。

 両者の力の均衡は、未だ変わらない。


 だが、それでも。


 その異能に現時点での意味はなくとも。

 未来を見すえた、意義がある。


 これで、阿久津は主導権を握ることに成功したのだから。


「殴られるだけ、というのは存外にキツいものでな。肉体的にも、精神的にも」


 攻撃が出来ないと言うこと。

 それがどれだけのハンデになるか。

 そんなもの、他でもない阿久津本人がよく分かっている。


 彼女は拳を鳴らすと、一歩踏み出す。



「ここから先は、私が、私の好きなように、私が思うがままに、お前を一方的に殴り続ける」



 そも、力の均衡は阿久津の方が勝っていた。

 絶対の矛と、絶対の盾。

 今回は、盾の性能の方が勝っていると理解している。何度も炎の直撃を反射していることからも、それは理解出来ていた。


 ならば、それが反転したとしたら?


 きっと彼女の拳は、()()()()()()()()()()

 なにせ、彼女の異能の方が優るのだから。

 力が反転した今、彼女の矛は、六紗の盾を砕き得る。


 無表情の六紗から、炎が吹き上がる。

 されどそれに脅威はなく。



 今此処に、この空間は悪魔王が支配した。




「往くぞ勇者、負ける覚悟は決まったか」




 金色の瞳を煌めかせ。

 悪魔王は、決着に足を踏み出す。


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