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第四章【禁忌の劫略者】
440『悪魔王』

 その少女とは、長い付き合いだ。


 私が悪魔王に君臨したのは、10年前。

 私がまだ、13の頃だ。

 忌々しい五代目勇者が人の世に君臨していた当時だ。


「やあ、悪魔王。元気?」

「たった今元気ではなくなったな。貴様の顔を見たせいで」


 齢13の私の前に、幾度となく勇者は迫った。

 おそらく、勇者自身に私を殺そうという意思はなかった。

 私と世間話をするために来た。

 そういわれても、私は信じると思う。


 本当にふざけた女だったが……されど、最後に至るまで私とその女とがじっくりと語り合ったことはなかった。


 毎度毎度、勇者についてくるオマケどもが邪魔だった……というのもある。

 あのサイコパスども。悪魔王に君臨したとはいえ、齢13の子供を寄ってたかって殺そうとするとは、貴様ら正気か? いや、確実に正気ではなかろう。イカれてるとしか思えない。

 なので、何の容赦もなく返り討ちにした。

 それを見て、勇者は毎度のごとく爆笑していた。


「すごいすごい! 君みたいな天才は初めて見たよ! 勝てる気がしないね!」

「ならば去ったらどうだ?」

「うんそうするよ、今、外の撤退班を呼ぶねー」


 その日も、いつもと同じわ、

 それは、普段と変わらぬ問答だった。

 どうせ明日も来るのだろう。

 辟易とため息をついた私だっが。


 その後の言葉は、私の想像を超えてきた。



「そうだ、悪魔王。実は私、弟子を取ってね」



「……………………はぁ?」


 なんの冗談だろうと思った。

 この、適当さが固まって出来たような女が、よりにもよって弟子を取った、だと?


「はっ、そんな冗談、誰が聞くか。本当だと言い張りたいのであれば、明日にでもここに連れてきてみろ」


 無理を承知でそう言った。


 翌日、ヤツは本気で連れてきやがった。



「じゃじゃーん! 私の弟子、六代目勇者の六紗優だよ! 可愛がってあげてね!」



 馬鹿じゃないのか。

 この時ばかりは本当にそう思った。

 その日は、勇者はお供の一人も連れずに我が元にやってきた。

 薬聖に特化した勇者が、だ。

 そんなもの、殺してくれと言っているようなものだろう。

 しかも、私よりもさらに若い幼子を連れて、だ。


「貴様……ここで死にたいのか?」

「え? 死にたくないよ。人間だもの」


 まじめったらしく言う姿すら、無性に腹が立った。

 私は大きくため息を漏らす。

 そして、改めてその少女と向き直った。



 それが、私と『六紗優』の最初の出会い。



 これから先、幾度となく相見える因縁の始まり。

 今代の悪魔王と、六代目勇者。

 決して切れる事ない、腐れ縁の始まりだった。




 ☆☆☆




「……そういえば、5代目が言っていたな」


 阿久津はそう呟く。

 視線は前方の六紗優から逸らすことなく。

 その体は警戒心に満ちていた。


「貴様は、力に呪われている」


 その言葉に、六紗の肩が僅かに揺れた。

 それを見逃すことなく、阿久津は言及する。


「ふむ。動かせるかどうかは別として……意識そのものはあるらしい。ならば、こうして語りかけるのも無駄では無いのだろうな」


 だが。

 そう言って彼女は目を閉ざす。

 意志とは裏腹に、その隙を逃すことなく六紗は炎を放出し。

 それを前に、悪魔王は告げた。



「だからと言って、語ることなど在るまいさ」



 瞬間、金色の瞳が炎を捉える。

 目の前へと迫っていた攻撃は眼前で反射され、凄まじい衝撃が数倍にもなって反転する。

 その圧力に六紗は僅かに吹き飛ばされるが、それでも僅かに体勢を崩すだけに終わる。


 その光景には成志川も歯を噛みしめた。

 だが、悪魔王は一切驚くことも無く、淡々と告げる。


「力に呪われた哀れな少女。力を持ちながら、それに溺れぬ勇気ありし者。貴様とならば……良き平和も築けるかもしれない。そう思っていた」


 その瞳が、剣呑さを帯びる。

 視線一つで大気が揺れる。

 えも言えぬ圧迫感が空間を支配する。

 悪魔王の、王たる風格。

 その地位を冠せし姿が、そこには在った。



「甚だ愚かしい。実に愚昧な考えだった」



 その言葉には、失望だけが込められていた。

 阿久津は理解していた。

 その姿にならざるを得ないほどに、鮮やか万死という個人は脅威だったのだと。


 心臓部にこべり着いた真っ赤な血液が。

 5代目の『力を心臓に封印した』という言葉が。


 全てが、六紗優の【敗北】を指していた。


 しかし、それを阿久津は気にしない。

 負けることは、恥ではない。

 真なる恥は、自分の意思を曲げること。

 自分自身を貫き通せぬこと。



 力に溺れて、仲間を危険に晒すこと。



「お前は、私の友、足り得ない」



 瞬間、阿久津の踏みしめていた大地が弾ける。

 その際に、金色が僅かに零れた。

 臨界天魔眼の【反射】を足場利用した、超速移動。

 灰村解が死ぬ以前ですら敵無しだった阿久津真央は、2年前とは比べ物にならないほどに緻密な制御ができるようになっていた。


 悪魔王としての圧倒的な力量に。

 技量と、消耗を抑える『第壱巻』が加わった。


 それつまり、強いということ。



「【天魔】」



 拳に金色の光が宿る。

 それを前に何かを覚えたのか、六紗は全身から青い炎を放出する。

 だが、阿久津の全身を金色の光が包み込み、それらの全てが反射する。


 青い炎は、六紗の全身を包み込み。

 その視界を、青一色に染め上げる。


 視界の不良。


 それによる硬直は、ほんの一瞬。

 されどそれは、一撃をかますには十分過ぎる隙だった。


 青の爆炎。


 その向こう側から、阿久津の拳が唸りを上げた。



「【逢魔神拳(ディア・ボロス)】」



 その拳は、六紗の顔面に突き刺さる。

 金色の光が溢れ出し、その拳は何十倍の重さにも変化し、六紗の体を吹き飛ばす。


 周囲に展開されていた蒼い炎が、衝撃ひとつで霧散する。


 その光景に、成志川は唖然と口を開閉させる。


「な、なんという……」


 そこに在ったのは、シンプルな強さ。

 ただの反転。

 それを極めたがゆえの、凶悪さ。

 ただ、ひたすらに『強い』。

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 成志川は思わず喉を鳴らし……そんな彼へと、阿久津は声をかける。


「おい、妄言。惚けている暇があるならこの場を離れろ。私とて……アレを相手に他者を守りながら戦う余裕はない」

「……ッ」


 前方を見れば、倒れ伏した六紗はゆっくりと立ち上がりつつあった。

 拳を撃ち抜いたにも関わらず、その顔は逆再生するように復元してゆき、立ち上がった時には血の一滴も残ってはいない。

 血すら即座に蒸発するほどの高熱。

 そして、常軌を逸した再生能力。


 ……仮に、その再生に【制限】がなかったとしたら。


 阿久津は全身から汗を吹き出しながら、息を吐く。


「……さて。私の力も……まだ、暑さそのものまでは反転できない訳だが」


 そう言って、彼女はコートを剥ぎ取った。

 体を離れたコートは青い炎に燃えてゆき、それを見送り、彼女は告げる。


「だからと言って、負ける理由は見当たらんな」


 彼女は両の拳を握りしめる。

 その体から想力が吹き上がり。

 そして彼女は、その力を解放する。




「【第二異能(ツインテット)】」




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