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第四章【禁忌の劫略者】
438『凱旋』

 時は少し遡り。

 壊れかけた廃墟の中で。

 少年は脱力し、瞼を閉ざす。


 既に満身創痍。

 立っているだけで精一杯。


 にも関わらず、その場にいた全員の背筋が凍った。


 シオンは冷や汗を流して笑みを深め。

 灰燼の侍は、焦ったように全ての刃を少年へと向ける。

 そこに在るのは静謐だけ。

 まるで眠っているような静けさの中で。


 少年は、最後の封印を解除する。




「【限定解除(リミット・オフ)】」




 その瞬間、限定憑依(リミット・オン)は消失し。

 少年は、蒼い瞳を見開いた。




 ☆☆☆




 いつだって、僕は弱者だ。

 逆立ちしたって勝てない相手は存在する。

 足掻いても越えられない壁は存在する。


 そのために、僕はいつだって捨ててきた。


 何かを得るには、何かを捨てねばならない。

 強さを得るには強さを捨てる必要がある。

 そしてそれは、生半可な【覚悟】じゃ進めない道だ。


 前言撤回は、無い。


 僕が捨てるのは、僕の力全て。

 今までに身につけてきた【陰陽師】としての技術、その全てだ。

 ……まぁ、捨てると言っても、それは一時的なものだ。


 だから、得る力に関しても多くは望まない。



 ただ、数分でいい。


 ()()()()()()()()()()()()




「おいおい……まじかよ」


 シオンの、呆れたような声がした。

 迫り来る無数の刃。

 それらを前に、僕は右手を掲げて、告げる。




「【()()】」




 そして、目の前の全てが崩壊する。

 迫り来る刃も、斬撃も。

 形あるもの、形無きもの。

 姿あるもの。姿なきもの。

 全て総括し、指定範囲内の【概念】全てが、瞬く間に崩壊する。


「……ッ!?」

「……随分とまぁ、強くなってんじゃねぇか」


 以前よりも、遥かに威力が増している。

 下手をすれば、王の凱旋を使った時と、同等の威力が出ているかもしれない。


 右手を横方向へと伸ばす。

 腹の底から溢れてくる、無限に等しいだけの想力。

 あまりの量に大気が震える。

 高密度の想力は僕の周囲に可視化され、黒いマントと砕けた王冠のような形をとった。

 それは奇しくも、()()()()()()の格好に瓜二つ。


 僕は苦笑しつつ、身体中を包み込んだ想力を集い、前を向く。



「モード【()()()()】」



 僕は灰燼へと視線を向ける。

 右腕に力を込めれば、腕は狼のモノへと変化した。


 本日は月曜日。

 他でもない、神狼技能が強化される日だ。



第二異能(ツインテット)暦の七星(セブンスタ)】」



 毛並みが黒から銀色へと変わる。

 その光景に灰燼は喉を鳴らし、シオンは僕に向かって爆笑していた。


「おいおいおい……瀕死のくせしてやるじゃねぇか! オレに任しといてもいいんだぜ!」

「任さない。僕はただ、自分の尻拭いをするだけさ」


 これは、自分で始めた喧嘩だ。

 なら、僕の手でケリをつける。

 それにお前、仮に勝ってもこのバカ息子の事殺すだろ? それはいけない。

 と、言うわけで。



「手ぇ出すなよシオン、僕がやる」


「うるせぇ! オレが殺るから黙ってろ!」



 前門のシオン、後門の僕。

 両者に挟まれ、灰燼の侍は歯を食いしばる。


「こ、この……ッ!」


 彼は腰の刀へと手を伸ばす。

 それを見た瞬間、僕もシオンも動いていた。


「【廻天】」


 彼が無数の斬撃を放つと同時に。

 僕は、その斬撃全てを捻り潰した。

 それは文字通り、ネジって歪めてその場で消した。

 それを見た灰燼は驚いたように僕を振り返り。


 僕は黙って、彼の前方を指さした。


「――ッ!?」

「忘れちゃ困るぜクソ野郎! てめぇの相手はオレ様だ!」


 前方から迫るは完全武装のシオン。

 無数の銃に、無数の剣。

 左右に持った大盾に、周囲に浮かぶ謎の光。

 それを前に嫌な予感を感じたか、灰燼は斬撃を飛ばしつつ後退。


 僕に注意を払いながら距離をとってゆく。


「お、お前ら……二人がかりで汚いぞ!」

「道端で漏らす野郎に言われたくねぇ!!」

「お前、拙僧のこと覚えてるよねぇ!?」


 シオンの言葉に灰燼は叫び。

 そして、はたと気がついた。


 自分のすぐ近くに、謎の【渦】があることに。


 その渦はシオンのすぐ側にも浮かんでおり、それを見た彼は目を剥き、シオンは獰猛に笑った。


「この力……散々オレ様もやられたっけか!!」


 シオンはそう言って、渦へと向かって拳を放つ。

 それは寸分たがわず渦の中に吸い込まれてゆき。



「次元技能……【渦】」



 僕がつぶやくと同時に。

 彼女の拳が転移し、そのまま灰燼の頬を殴り飛ばした。


「が……!?」


 灰燼は大きく吹き飛ばされつつ、何とか体勢を整えて立ち上がる。

 その背後へと、僕は転移した。


「――ッ!?」


 焦るヤツへと、右足を振り抜く。

 その蹴りは奴の顔面に突き刺さり、たたらを踏むように後退してゆく。

 僕は追撃。

 拳に肘打ち、前蹴りに。

 連続で無数の打撃を放ってゆく。


「が……ぁ、ッ! こ、この……!」


 身体中から血を吹き出して、灰燼は声を上げる。


 その瞳には未だ衰えぬ闘気があった。


 ……あぁ、そうだよな。

 負けたくねぇよな。

 男なんだから。

 負けて悔しくないなんて男じゃない。


 だけどさ。

 男だからこそ、避けちゃいけない時があるだろうが。


 その姿を見て、僕は拳を振りかぶる。



 容赦される……だなんて、思うなよ。



「親の目の前でくらい、胸を張って生きやがれ」



 僕の拳が、奴の腹をぶち抜いた。

 神狼技能が、奴の無けなしの防御をぶっ壊す。

 衝撃が突き抜け、骨が碎ける感覚があった。

 灰燼は声にもならない悲鳴を上げて吹き飛んでゆき……その体は、廃墟の中へと消えてゆく。


 その姿を見送って、僕は『その状態』を解除する。


 途端に襲い来る疲労感。

 今にも倒れそうな中、膝に力を込め、必死になって前を向く。


 ……お前は、僕が最大の敵だったのかもしれないが、僕は違うんだよ、灰燼の侍。

 お前を倒しても、まだ万死が残ってるんでな。


 悪いが、お前に時間は掛けられない。


 僕は拳突きつけ、最後に告げる。




「ちったぁ頭冷やせ。でもって、さっさと病院行ってこい」




 爺ちゃんと、2人仲良く入院してこい馬鹿野郎。

次回、ふたつの戦場が繋がり始める。

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