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クライマックスとか言っておきながら、そこから更に想像のつかない方向へ向かっております。

第四章【禁忌の劫略者】
436『炎』

 最強とは、どんな力を言うのか。

 その答えは人によって様々だろう。


 人は言う、全てを即死させる力であると。


 人は言う、全ての能力を無効化する力であると。


 人は言う、概念すらも奪う力であると。


 人は言う、時を操る力であると。


 だがしかし。

 物語における主人公。

 誰より強くあるべきその人が。

 そういった力を持っていること。

 それこそ、稀な話である。


 ひとつの分野――たとえば、ライトノベルという括りだけでみれば、確かにそう言った能力が溢れかえっているのも否めない。

 されど、世の中の物語はそこが全てではなく。


 ありとあらゆる分野。

 全てを総括して見た時に……主人公と呼ばれる立場のものが、そういった力を持っていることは稀であろう。


 何故。


 ここで疑問を投げかける。

 何故、誰より強くあるべき彼らは、そのような力を持って居ないのか。

 その力さえあれば、誰よりも強く在れるのに。


 人は答える、それでは強すぎるからだ、と。


 人は答える、それは敵の持つべき力だからだ、と。


 人は答える、それでは物語が破綻してしまうからだ、と。


 確かにそれは否定しない。

 否定する必要もなく正しいからだ。

 だが、それでも。

 ……それでも矛盾点は挙げられる。


 主人公は能力に恵まれず。

 敵対するキャラクターが、最強の力に恵まれる。

 それこそ、物語が破綻するのではないか。

 正常に考えれば、そんな疑問が浮かぶだろう。



 だが、それでも物語は破綻しない。



 それは何故か。

 何故、苦戦の果てに勝利できるのか。

 恵まれない力で、最強を打倒できたのか。

 主人公の補正が働いたからとでも言うつもりか。

 作者がそうなるように仕向けたとでも言うつもりか。


 否、断じて否。


 そんなわけがあろうものか。

 答えは至極簡単。

 敵よりも主人公の方が優れていたから。

 最強に見える力が、対した力に劣っていた。


 極端まで切り詰めてしまえば、それだけの話。


 極端なことを言ってしまえば。

 主人公の持つ力こそ、最強なのだ。

 誰にも負けない、最後には勝利する。

 ハッピーエンドを手中に収める。

 そんな人物の持つ力こそ、最強の座に相応しい。


 ――さて。


 ここで一つ問題を挙げよう。



『ならば、最も【主人公らしい】力とはなんだと思う、御仁』



 数年前。

 壊れる前の、少年のアパートで。

 阿久津の問いかけに、灰村解は間髪入れずに答えを発した。



『――炎。シンプルで純粋な力だ』




 ☆☆☆




 真正面から、ふたつの力が衝突する。

 大気が弾け、周囲の建物が吹き飛んでゆく中。

 爆心地から、ふたつの影が弾かれてくる。


 それらは、反対方向に飛んでゆく。

 そのうちの片方は六紗のすぐ隣を通り過ぎてゆき、それを理解した彼女は驚いたように振り返る。


「……っ! う、嘘でしょ……!」


 他でもない、ポンタの強さを1番よく知る六紗優。

 振り返れば、爆心地から弾かれ、吹き飛ばされた『鮮やか万死』が倒れていた。

 その体は既に満身創痍。


 だが、それでも生きていた。


『ぐえ……、困ったなぁ、思った以上に手こずっちゃったよ……』


 その声を聞いて、彼女は走り出す。

 向かう先は、万死とは反対方向。

 時間停止を使ってまで走った彼女は、その先に倒れる人影を見て悲鳴をあげた。


「ぽ……ポンタ!?」


 そこに倒れていたのは、他でもないポンタその人。

 彼は血に塗れており、その姿も保てなくなったのか、彼は煙を上げて動物状態へと戻ってしまう。


「ぽ、ぽよ……ッ」

『あは、はははははっ! いやぁ、愚かだなぁ』


 笑い声が響く。

 振り返れば、鮮やか万死は膝に手を当て、立ち上がっていた。

 彼はポンタを見据えており、その瞳には大きな愉悦が歪んでいた。


『お前は僕を殺すつもりで攻撃を放った。対して僕は……()()()()()()()()()()()()()()()()を放ったんだぁ』


 それは、立場と勝利条件の違い。

 ポンタには時間制限があり、その一撃で倒すこと以外に勝利条件はない。


 対するは万死。

 彼は、その一撃で殺されないこと。

 それ以外の全てが勝利に該当していた。


 勝利条件が違えば選択肢も増えてくる。

 その選択肢の多さが、現状へとそのまま直結していた。


『僕は君に殺されなければそれで良かった。真正面から打ち勝て……と言われれば無理だろうけど、不意打ちでも何でも使って生き延びろ、と言われたら……僕に並ぶ奴はいないよ』


 その言葉に、六紗は歯を食いしばる。



『安心して。君は僕より強かった。ただ、僕の方がずぅっと、性格が悪かったって言う話さ』



 鮮やか万死はそう笑い……次の瞬間、後方へと右手をかざした。

 直後、背後から襲いかかった成志川は、万死の掌から放たれた肉塊に捕らえられ、思わず歯を食いしばる。


「ぐ……!」

『僕は性格が悪い。だからねぇ、その時その場所で、どんなことをされたら嫌かっていうのはよく分かるんだァ』


 性格が悪いからこそ。

 人の『されて嫌なこと』を四六時中考えているからこそ、自然と身についた危機の察知能力。

 彼は成志川を振り返ると、右手へと力を込める。

 肉塊に強烈な力が篭もり、成志川が悲鳴をあげる。


『……お前には、随分と手こずらせて貰ったからねぇ』

「ぐ、ぁっ、あああああああああああッッ!!」


 悲痛な悲鳴に、六紗は目を見開く。

 咄嗟に時間を停止させる。

 時が動き出したその時には、既に成志川の姿は消えていて、それを見て万死は顔を歪める。


『時間停止……厄介だねぇ、本当に』

「はぁっ、はぁ、はぁっ」


 振り返る。

 十数メートル先には息を荒らげる六紗優の姿があり、それを見て万死は手を広げた。

 直後、地面を食い破って無数の『肉』が六紗へ向かう。

 だが、触れる直前で少女の姿は消え、また別な場所に現れる。


『だけど、厄介なだけで強くはない。君の力はあくまでも()()()()()()()()()なだけで……僕ら【物の怪】に対しては驚異なだけで脅威足りてない』


 その言葉に、六紗は冷や汗を流す。

 ……彼の言葉は、その通りだった。

 確かに時間停止の力は強い。

 が、強いのは能力であって彼女自身ではない。


 鋼鉄を切り裂けるような力はない。

 数キロを秒で駆け抜ける脚力もない。

 時間停止以外に特殊な力も使えない。


 万死は腕を払うと、空中に無数の骨の刃が生まれ落ちる。

 それらは六紗に向かって突き進み、それらを前転しながら躱した彼女は息を弾ませる。


『時間を止めて首でも切られたら、人間ならなんにも出来ず死ぬだろうねぇ。だけど僕らは違う。君の刃は通らない。心臓を穿たれても瀕死にはならない』



『君は、人外(ぼくら)には、敵わない』



 地面に無数の骨が突き刺さる。

 そのうちの数本が彼女の体を掠ってゆき、鮮血が溢れて痛みに顔が歪む。


『そろそろ、想力も尽きてきたんじゃないかなぁ』


 事実、時間停止の想力消費は大きい。

 ここまで、万死を探すことにも時間停止を多用してきた。

 もはや、彼女にはまともに使えるだけの力は残っていない。


『そぉれ』

「ぐッッ!?」


 鋭い激痛、足がもつれて体が崩れる。

 足へと視線を向ければ、骨の刃が太ももを貫通しており、少し動かすだけで信じられない激痛が走る。


『あれぇ、どうしたの? もう終わり? もしかして……君たちの中では、君がいちばん弱いんじゃないかなぁ? 今まで、警戒してて損したよ』


 背後から足音がする。

 前を見れば、期せずして、ポンタの姿が目の前にあった。


「こ、こんな所で……」

『諦めなよ、弱い自分が悪いんだから』


 すぐ背後で、気配は止まった。

 振り返る。




 と同時に、背中を衝撃が貫いた。




「が……!?」


 見れば、自分の背中を抜き手が貫いていた。

 胸から突き出たその手は、真っ赤な鮮血に染まっている。


 その手には、脈動する肉のかたまりが握られていた。


 それが【自分の心臓】であると、六紗は一瞬で理解した。



「あ、が……っ」



『この畜生には、惨たらしく殺すって言ったけどさぁ……おまえ、さすがに弱すぎ。遊ぶ気も起きないよ』


 というわけで。

 鮮やか万死はそう続け、にっこり笑った。



『さようなら。死んでくれ、六紗優』



 目の前で、六紗優の心臓は握り潰された。


次回【炎②】

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