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第四章【禁忌の劫略者】
433『立ち上がれ』

 オレはあまり頭が良くない。

 最近になって、オレは初めて自覚した。


 今まで、オレはオレが天才だって思ってた。

 事実、それには違いねぇんだろう。

 1度聞いたことは忘れねぇ。

 どんな言葉も少し聞いたら話せるようになってるし、勉強という面で見ても、今までにオレより優れた奴を見たことがねぇ。


 オレは天才だ。


 そういう自覚があったってのに。

 つい最近になって、その自覚が……自信が、砕かれる出来事があった。


 ……そういう奴と、出会っちまったのさ。


 一目見た瞬間、ビビッと来た。

 この男は何か違う。

 オレらとは違う何かを持っている。


 そんな感覚があった。


 だからこそ戦った。

 闘って、オレ様が勝利して。

 それでも確信は深まって行った。

 そいつと戦うにつれ、話すにつれ、一緒に過ごす時間が長くなるにつれて。


 オレは、そいつがすげぇ奴だと理解した。

 何がすげぇのか。

 そんなもんは決まってらァ。


 天才でもねぇやつが、凡人の土俵でオレらと肩を並べて戦ってる。


 その事実こそが、その男の偉大さを誇らしげに示していた。

 だからこそ。

 オレはそいつが好きになったし。



 ……そいつの考えてることが分からねぇことに、オレはオレ自身に失望した。



 明らかに、普通じゃねぇのは分かってた。

 コイツのことが好きな野郎は、全員気付いてた。絶対におかしいってことは。


 だけど、何を隠してるのか分からねぇ。

 コイツが何を考えてるのか分からねぇ。

 何がしたいのか。

 どうしてオレたちに嘘を吐くのか。


 興味ねぇ他の全てを理解出来ても。


 心の底から関心あるソレについて分からねぇんだから、オレはきっと馬鹿なんだろう。



 だけどよ、カイ。


 オレは、馬鹿でケッコーだぜ。

 だって、馬鹿でもオレはオレ様だ。

 それだけは、何があっても変わらねぇ。



 オレは死地の紅神、シオン・ライアー。



 史上最強のS級異能力者にして。

 他でもねぇ、お前の親分だ。



 それだけで、お前を守る理由は事足りてる。




 ☆☆☆




「【死搭載の我が身(ルナティック・マイン)】」


 声が聞こえて。

 僕の体を、謎の光が包み込む。

 その光は不思議と、致命傷の痛みを和らげてくれる。

 僅かに戻った余力を振り絞り、目を開く。


「し、オン……」

「喋んじゃねぇよ。いつ死んでもおかしくねぇ傷だぜ。子分は黙って、親分に守られてりゃいいんだよ」


 目を開いて、僕は光の正体を知る。

 それは、彼女の体から溢れ出る煙だった。

 それは白い蒸気のようにも見えたが、蒸気に包まれた僕の体は痛みが麻痺し、傷口からの出血も収まり始めていた。


 現代医学では、この崩壊した傷跡は癒せないはずだが……。

 麻酔と麻薬の中間のような。

 されど、ちゃんと治癒性を持った煙。

 さすがはファンタジー兵装……なんでもありとはこの事だな。


 僕は思わず苦笑すると、彼女は僕を地面へ横にし、僕を見下ろす。


「てめぇには……言いたいことが山ほどあるぜ。だが、よく、オレ様が来るまで持ちこたえた! それだけは褒めてやるぜ、カイ!」

「……ッ、ま、待て……シオン!」


 僕は咄嗟に叫ぶが、彼女は制止を振り切り立ち上がる。

 学校指定のワイシャツが風に揺れる。

 その上から羽織った黒いパーカーが、彼女の勢いを表すように、勢いよく風にはためいた。



「こっから先は、オレに任せろ」



 既に、その瞳から優しさは消えていた。

 僕に向けられている視線とは、全く別種の……まるで獣のような鋭い目付き。

 その視線を追えば、傷を負った灰燼の姿があった。


「……ッ、貴様は……あの時のッ!」

「あ? 知らねぇよてめぇなんて。オレは興味ねぇ野郎のことは覚えねぇ主義なんだ」


 だけど。

 そう続けたシオンの姿に、灰燼は目を細め。

 次の瞬間、溢れ出した想力の【一端】に触れ、その顔を青く染めあげた。



「てめぇは特別だ。殺した後も覚えといてやるぜ、クソ野郎」



 瞬間、彼女の身体中から機械音が響く。

 直後、溢れかえんばかり銃が彼女のからだから飛び出した。


 それを前に、灰燼は焦ったように刀へ手を伸ばし。

 シオン・ライアーは、殺意の限りを弾に込め、ありったけをぶっぱなす。



「Go Ahead。カイに手ぇ出したんだ。死ぬ覚悟は出来てんだろうな」



 そして閃光が瞬く。

 あまりの光量に目を細める。

 されど、僕の真眼は僅かに捉えた。


 その、異常極まる弾幕の【密度】を。


「……ッ!?」


 それを前には、灰燼ですら目を見開く。

 灰燼の侍……想力を用いる異能力者の中では最高位に位置する怪物。

 これを真正面から打ち倒せる存在は、本当に少ないだろうとは思う。


 けれど、時に戦いは純粋な強さ『以外のもの』で決着する時もある。


 灰燼は咄嗟に無数の斬撃を撃ち放つ。

 されど、総数があまりにも違いすぎる。

 一撃一撃の威力ではなく。

 圧倒的な、数の暴力だけがそこにはあった。


「ぐ……ッ!?」


 刃の弾幕をすり抜けて、多くの銃弾が灰燼へと迫る。

 ヤツは咄嗟にその場を跳ねて、それらの弾丸を回避した。

 されど、その全てを回避出来た訳では無い。


 鮮血が吹き上がり、ヤツは顔をしかめる。

 そして、シオンは銃を肩に担いで口を開いた。


「オレは馬鹿だからよ。道に迷ってばっかで到着が遅れちまったが……オレにとっちゃ幸運で、てめぇにとっては不運だな。オレたちは、()()()()()()()()()()()()()


 その言葉に、灰燼は歯を食いしばる。

『数』対【数】。

 一撃の威力は灰燼が優り。

 弾幕密度はシオンが勝る。


 相性が良いのか、悪いのか。

 少なくとも一つ、確かなことがある。



「く、そ……ッ」



 二人が大地を蹴って。

 そして、目にも止まらぬ速度の攻防が始まる。

 無数の斬撃が飛び。

 無数の弾丸が火を噴く。

 遠距離対遠距離の火力戦。


 それを前に、嫌な予感が止まらない。



 今、この2人が戦えば。


 ()()()()()()()()()()



 鋭く尖った第六感が叫んでいた。


 シオンが死ぬのは絶対に嫌だ。

 灰燼にしても、爺ちゃんに謝らせるまで殺す訳にはいかない。


 絶対に……二人とも死なせちゃいけない。

 なのに……ッ。


「クソっ……体が……動か、ねぇ」


 こんな所で倒れている訳にはいかない……。

 ここで立たねば、僕は後悔することになる。

 一生どころか、死んでからもずっと、僕は永遠に後悔し続ける。

 そんな予感がある。


「立て……、立て、立て……ッ!」


 全身には力を込め、命を振り絞る。

 此処だ、今この瞬間、この状況下ッ。

 ここで立ち上がらなきゃ、後悔する。


 後悔だけは、もう嫌だ。


 あの時ああしておけばよかった。

 そんな思いは二度と御免だ。

 たとえ、ここで全てを絞り尽くしてしまったとしても。

 たとえ、僕の全てを失ったとしても。


 今この瞬間、大切な人を守る。

 その為だけに、力を振り絞る。


 それ以上に大切なことが、どこにあるッ!



「ぁ、が、ぁぁぁああああああッッ!!」



 叫び、決死の思いで立ち上がる。

 僕の言葉に、シオンと灰燼は大きく目を見開き。


 僕は、最後の力を振り絞る。


「これが、最後だ……!」


 神力の限りを振り絞り。

 僕は、拳を握って【天戒】を行使する。





「【限定解除(リミット・オフ)】」





 静かな言葉が風に乗り。

 そして、僕はその力を解禁する。




 ☆☆☆




「はァァァァァっ!!」

「きゃははぁっ!!」


 大剣と骨の剣。

 二つの剣が交わり、衝撃を撒き散らす。

 両者はその衝撃に逆らうことなく、互いに大きく後退し、再び大地を駆ける。


 終始、攻勢なのは成志川。

 されど此度、鮮やか万死は攻勢に出た。


「【骨地獄の茨(スケイル・インフェル)】!」


 瞬間、成志川の視界を埋めつくしたのは骨の津波。

 村ひとつ飲み込んでしまえるほどの超広範囲攻撃。

 それを前に目を見開いた成志川は……次の瞬間、跳ねられたようにその場を飛び退く。


 と同時に、地面を食い破って骨の杭が突きあがる。

 それは一つにとどまらず、連続して無数の杭が地面より出ずる。

 成志川はそれを幾度となく回避しながら、大剣を両手に、強く握りしめた。



「【我が太陽、我が友に捧ぐ詩】ッ!」



 瞬間、大剣が光り輝く。

 それは紅蓮の太陽の煌めき。

 それを前に、津波の向こう側にいた万死ですら背筋が凍った。


「ま、まず……ッ」


 焦って動きだした時には、既に大剣は振り下ろされていた。



「【龍灼く天断の蒼(バルムンク)】ッッ!!」



 そして、骨の限りが切り裂かれる。

 たったの一振り。

 それだけで、視界を埋めつくしていた骨を全て焼き付くし、それでも止まらぬ衝撃は万死にすら襲いかかる。


「ぐ……ッ!?」

「はぁっ、はぁ……はぁっ!」


 小さくはないダメージを負った万死。

 されど、それ以上に成志川には疲労が溜まっていた。


「く、クソっ……!」


 戦いは、成志川が優勢のように思える。

 だが、優勢には相応の犠牲があり。

 あまりの消耗の大きさに、成志川は身体中から汗を流す。

 対する鮮やか万死。

 身体は血に濡れてはいるものの。

 彼は、息一つ乱さずにたっていた。


「ふぃー、疲れるねぇ、全くもう。少しは楽をさせてくれないかなぁ? お前は灰村解殺害の前菜なの。相応の敗北してくれなくちゃ困るよォ」

「こ、この……!」


 傷は多い。

 確実にダメージは溜まっているはず。

 なのに、ここに来て垣間見えた【底】の見えなさ。


 それを前に成志川は歯を食いしばり。


 そして――大きく、目を見開いた。

 その視線は、鮮やか万死の背後へと向かっていた。



「な……っ!?」



 その目は限界まで見開かれている。

 それを見た鮮やか万死は、一切の警戒を成志川から逸らすことなく、後方の気配を探った。


 死骨の王、がしゃどくろ。

 物の怪としての【本能】が、相手が強力であればあるほどに強く反応してくれる。

 故に視線を動かすことに意味はなく。

 だからこそ、少し驚いた。


「……君、何を見て驚いているのかなぁ」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 辛うじて感じ取ったのは、()()()()()の気配がひとつ。

 それ以外には何も存在してはいない。


「あっ、もしかして……こんな動物一匹の命すら気にするタイプ?」


 鮮やか万死は、笑みを深めて振り返る。

 背後にいた動物を『むんずっ』と掴みあげ、成志川の目の前へと晒し上げる。


 もしも、成志川が見知らぬ動物一匹の【死】だけで動揺してくれるなら。

 きっと、もっと楽に成志川を殺害できる。

 そう思っての行動だった。


 無論、彼の思考に一片の過ちも無い。


 どこまでもシンプルに、相手の嫌がることを追求する。そういった意味では何も間違ってはいない行動だった。



 ただ、それでも。


 唯一の失敗を挙げるとすれば。




「おい、離すぽよ、外道」




 ――その生物が、この星最強の獣であったということだ。




シオン&ポンタ参戦!

第4章は、物語クライマックスへ。

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