オレはあまり頭が良くない。
最近になって、オレは初めて自覚した。
今まで、オレはオレが天才だって思ってた。
事実、それには違いねぇんだろう。
1度聞いたことは忘れねぇ。
どんな言葉も少し聞いたら話せるようになってるし、勉強という面で見ても、今までにオレより優れた奴を見たことがねぇ。
オレは天才だ。
そういう自覚があったってのに。
つい最近になって、その自覚が……自信が、砕かれる出来事があった。
……そういう奴と、出会っちまったのさ。
一目見た瞬間、ビビッと来た。
この男は何か違う。
オレらとは違う何かを持っている。
そんな感覚があった。
だからこそ戦った。
闘って、オレ様が勝利して。
それでも確信は深まって行った。
そいつと戦うにつれ、話すにつれ、一緒に過ごす時間が長くなるにつれて。
オレは、そいつがすげぇ奴だと理解した。
何がすげぇのか。
そんなもんは決まってらァ。
天才でもねぇやつが、凡人の土俵でオレらと肩を並べて戦ってる。
その事実こそが、その男の偉大さを誇らしげに示していた。
だからこそ。
オレはそいつが好きになったし。
……そいつの考えてることが分からねぇことに、オレはオレ自身に失望した。
明らかに、普通じゃねぇのは分かってた。
コイツのことが好きな野郎は、全員気付いてた。絶対におかしいってことは。
だけど、何を隠してるのか分からねぇ。
コイツが何を考えてるのか分からねぇ。
何がしたいのか。
どうしてオレたちに嘘を吐くのか。
興味ねぇ他の全てを理解出来ても。
心の底から関心あるソレについて分からねぇんだから、オレはきっと馬鹿なんだろう。
だけどよ、カイ。
オレは、馬鹿でケッコーだぜ。
だって、馬鹿でもオレはオレ様だ。
それだけは、何があっても変わらねぇ。
オレは死地の紅神、シオン・ライアー。
史上最強のS級異能力者にして。
他でもねぇ、お前の親分だ。
それだけで、お前を守る理由は事足りてる。
☆☆☆
「【
声が聞こえて。
僕の体を、謎の光が包み込む。
その光は不思議と、致命傷の痛みを和らげてくれる。
僅かに戻った余力を振り絞り、目を開く。
「し、オン……」
「喋んじゃねぇよ。いつ死んでもおかしくねぇ傷だぜ。子分は黙って、親分に守られてりゃいいんだよ」
目を開いて、僕は光の正体を知る。
それは、彼女の体から溢れ出る煙だった。
それは白い蒸気のようにも見えたが、蒸気に包まれた僕の体は痛みが麻痺し、傷口からの出血も収まり始めていた。
現代医学では、この崩壊した傷跡は癒せないはずだが……。
麻酔と麻薬の中間のような。
されど、ちゃんと治癒性を持った煙。
さすがはファンタジー兵装……なんでもありとはこの事だな。
僕は思わず苦笑すると、彼女は僕を地面へ横にし、僕を見下ろす。
「てめぇには……言いたいことが山ほどあるぜ。だが、よく、オレ様が来るまで持ちこたえた! それだけは褒めてやるぜ、カイ!」
「……ッ、ま、待て……シオン!」
僕は咄嗟に叫ぶが、彼女は制止を振り切り立ち上がる。
学校指定のワイシャツが風に揺れる。
その上から羽織った黒いパーカーが、彼女の勢いを表すように、勢いよく風にはためいた。
「こっから先は、オレに任せろ」
既に、その瞳から優しさは消えていた。
僕に向けられている視線とは、全く別種の……まるで獣のような鋭い目付き。
その視線を追えば、傷を負った灰燼の姿があった。
「……ッ、貴様は……あの時のッ!」
「あ? 知らねぇよてめぇなんて。オレは興味ねぇ野郎のことは覚えねぇ主義なんだ」
だけど。
そう続けたシオンの姿に、灰燼は目を細め。
次の瞬間、溢れ出した想力の【一端】に触れ、その顔を青く染めあげた。
「てめぇは特別だ。殺した後も覚えといてやるぜ、クソ野郎」
瞬間、彼女の身体中から機械音が響く。
直後、溢れかえんばかり銃が彼女のからだから飛び出した。
それを前に、灰燼は焦ったように刀へ手を伸ばし。
シオン・ライアーは、殺意の限りを弾に込め、ありったけをぶっぱなす。
「Go Ahead。カイに手ぇ出したんだ。死ぬ覚悟は出来てんだろうな」
そして閃光が瞬く。
あまりの光量に目を細める。
されど、僕の真眼は僅かに捉えた。
その、異常極まる弾幕の【密度】を。
「……ッ!?」
それを前には、灰燼ですら目を見開く。
灰燼の侍……想力を用いる異能力者の中では最高位に位置する怪物。
これを真正面から打ち倒せる存在は、本当に少ないだろうとは思う。
けれど、時に戦いは純粋な強さ『以外のもの』で決着する時もある。
灰燼は咄嗟に無数の斬撃を撃ち放つ。
されど、総数があまりにも違いすぎる。
一撃一撃の威力ではなく。
圧倒的な、数の暴力だけがそこにはあった。
「ぐ……ッ!?」
刃の弾幕をすり抜けて、多くの銃弾が灰燼へと迫る。
ヤツは咄嗟にその場を跳ねて、それらの弾丸を回避した。
されど、その全てを回避出来た訳では無い。
鮮血が吹き上がり、ヤツは顔をしかめる。
そして、シオンは銃を肩に担いで口を開いた。
「オレは馬鹿だからよ。道に迷ってばっかで到着が遅れちまったが……オレにとっちゃ幸運で、てめぇにとっては不運だな。オレたちは、
その言葉に、灰燼は歯を食いしばる。
『数』対【数】。
一撃の威力は灰燼が優り。
弾幕密度はシオンが勝る。
相性が良いのか、悪いのか。
少なくとも一つ、確かなことがある。
「く、そ……ッ」
二人が大地を蹴って。
そして、目にも止まらぬ速度の攻防が始まる。
無数の斬撃が飛び。
無数の弾丸が火を噴く。
遠距離対遠距離の火力戦。
それを前に、嫌な予感が止まらない。
今、この2人が戦えば。
鋭く尖った第六感が叫んでいた。
シオンが死ぬのは絶対に嫌だ。
灰燼にしても、爺ちゃんに謝らせるまで殺す訳にはいかない。
絶対に……二人とも死なせちゃいけない。
なのに……ッ。
「クソっ……体が……動か、ねぇ」
こんな所で倒れている訳にはいかない……。
ここで立たねば、僕は後悔することになる。
一生どころか、死んでからもずっと、僕は永遠に後悔し続ける。
そんな予感がある。
「立て……、立て、立て……ッ!」
全身には力を込め、命を振り絞る。
此処だ、今この瞬間、この状況下ッ。
ここで立ち上がらなきゃ、後悔する。
後悔だけは、もう嫌だ。
あの時ああしておけばよかった。
そんな思いは二度と御免だ。
たとえ、ここで全てを絞り尽くしてしまったとしても。
たとえ、僕の全てを失ったとしても。
今この瞬間、大切な人を守る。
その為だけに、力を振り絞る。
それ以上に大切なことが、どこにあるッ!
「ぁ、が、ぁぁぁああああああッッ!!」
叫び、決死の思いで立ち上がる。
僕の言葉に、シオンと灰燼は大きく目を見開き。
僕は、最後の力を振り絞る。
「これが、最後だ……!」
神力の限りを振り絞り。
僕は、拳を握って【天戒】を行使する。
「【
静かな言葉が風に乗り。
そして、僕はその力を解禁する。
☆☆☆
「はァァァァァっ!!」
「きゃははぁっ!!」
大剣と骨の剣。
二つの剣が交わり、衝撃を撒き散らす。
両者はその衝撃に逆らうことなく、互いに大きく後退し、再び大地を駆ける。
終始、攻勢なのは成志川。
されど此度、鮮やか万死は攻勢に出た。
「【
瞬間、成志川の視界を埋めつくしたのは骨の津波。
村ひとつ飲み込んでしまえるほどの超広範囲攻撃。
それを前に目を見開いた成志川は……次の瞬間、跳ねられたようにその場を飛び退く。
と同時に、地面を食い破って骨の杭が突きあがる。
それは一つにとどまらず、連続して無数の杭が地面より出ずる。
成志川はそれを幾度となく回避しながら、大剣を両手に、強く握りしめた。
「【我が太陽、我が友に捧ぐ詩】ッ!」
瞬間、大剣が光り輝く。
それは紅蓮の太陽の煌めき。
それを前に、津波の向こう側にいた万死ですら背筋が凍った。
「ま、まず……ッ」
焦って動きだした時には、既に大剣は振り下ろされていた。
「【
そして、骨の限りが切り裂かれる。
たったの一振り。
それだけで、視界を埋めつくしていた骨を全て焼き付くし、それでも止まらぬ衝撃は万死にすら襲いかかる。
「ぐ……ッ!?」
「はぁっ、はぁ……はぁっ!」
小さくはないダメージを負った万死。
されど、それ以上に成志川には疲労が溜まっていた。
「く、クソっ……!」
戦いは、成志川が優勢のように思える。
だが、優勢には相応の犠牲があり。
あまりの消耗の大きさに、成志川は身体中から汗を流す。
対する鮮やか万死。
身体は血に濡れてはいるものの。
彼は、息一つ乱さずにたっていた。
「ふぃー、疲れるねぇ、全くもう。少しは楽をさせてくれないかなぁ? お前は灰村解殺害の前菜なの。相応の敗北してくれなくちゃ困るよォ」
「こ、この……!」
傷は多い。
確実にダメージは溜まっているはず。
なのに、ここに来て垣間見えた【底】の見えなさ。
それを前に成志川は歯を食いしばり。
そして――大きく、目を見開いた。
その視線は、鮮やか万死の背後へと向かっていた。
「な……っ!?」
その目は限界まで見開かれている。
それを見た鮮やか万死は、一切の警戒を成志川から逸らすことなく、後方の気配を探った。
死骨の王、がしゃどくろ。
物の怪としての【本能】が、相手が強力であればあるほどに強く反応してくれる。
故に視線を動かすことに意味はなく。
だからこそ、少し驚いた。
「……君、何を見て驚いているのかなぁ」
辛うじて感じ取ったのは、
それ以外には何も存在してはいない。
「あっ、もしかして……こんな動物一匹の命すら気にするタイプ?」
鮮やか万死は、笑みを深めて振り返る。
背後にいた動物を『むんずっ』と掴みあげ、成志川の目の前へと晒し上げる。
もしも、成志川が見知らぬ動物一匹の【死】だけで動揺してくれるなら。
きっと、もっと楽に成志川を殺害できる。
そう思っての行動だった。
無論、彼の思考に一片の過ちも無い。
どこまでもシンプルに、相手の嫌がることを追求する。そういった意味では何も間違ってはいない行動だった。
ただ、それでも。
唯一の失敗を挙げるとすれば。
「おい、離すぽよ、外道」
――その生物が、この星最強の獣であったということだ。
シオン&ポンタ参戦!
第4章は、物語クライマックスへ。
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