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11月から、ちょいとリアルが多忙を極めております。

毎日18:00投稿は守っていきたいのですが……場合によっては遅れたり、短くなったりするかもしれません。

申し訳ありませんが、ご了承くださいませ。

第四章【禁忌の劫略者】
431『守るべきもの②』

 先にしかけたのは灰燼だった。

 たったの一息。

 その間に数百の斬撃が飛んでくる。

 それら一撃一撃が掠っただけで即死の攻撃。

 僕は思わず頬を吊り上げ、拳を振り抜く。


「【地竜の岩牙(アラガマンド)】ッ!!」


 瞬間、僕の拳から放たれたのは岩の衝撃波。

 それは姿を変え、地竜アラガマンドの姿を取る。だが、今回はソレで終わりではない。

 地竜が燃え上がり、紅く染まる。


 轟々と燃え盛り、それを見て目を剥く灰燼に。

 僕はたった一言、呟いた。



「燃え尽くせ――性質変更(モードチェンジ)・炎竜」



『ガァァァァァァァッッ!!』


 衝撃が空気を裂く音が、炎竜の咆哮のように聞こえた。

 それを前に、全ての斬撃は飲み込まれ、消えてゆく。

 正確に言えば……燃やし尽くされてゆく。


 その光景に歯噛みした灰燼は、刀から手を離し、前方へと手を伸ばす。

 それに思わず顔を顰めた僕は……次の瞬間、猛烈な嫌な予感に突き動かされた。


「【千却万雷】」


 そして、声が響いて。

 僕の目の前で、炎竜が跡形もなく掻き消えた。


「ぐ……っ」


 咄嗟にその場を飛び退くと、僕のいた場所を10本近い刀が串刺しにした。

 そのうちの数本は燃えて原型を失っていたが、それでもあまりある脅威。

 というか、炎竜をたったの10本で相殺できるこの威力……頭おかしいと思います!


「このやろ……」

「『千却万雷』」


 上空から飛来する無数の刀。

 それらを最小限の動きで回避しつつ、奴へと向けて一歩踏み出す。


 ……この男と戦う上で、近接戦闘は何よりの悪手に見える。

 刀に触れるだけで発動するリーチ無限の居合。

 その速度は目にも追えぬほど。

 真眼を使ってようやく捉えることが出来るレベルだ。そんなもんを至近距離から放たれれば……回避するのは至難の業。


 と来れば、遠距離から距離を置いて戦うのがベスト……と、普通ならそう考える。


 だが、戦って見たらわかるさ。

 この男に関して、距離を取るなど無意味極まりない行為である、と。


 確かに攻撃は回避しやすくなるだろう。

 だが届く。

 回避しやすくなったにせよ、攻撃は届くのだ。

 どれだけ距離を取ろうと……下手をすれば、地球の反対側にいようと刃が届くのかもしれない。

 そんな化け物相手に距離で戦おうという輩など、余程遠距離攻撃に自信のある奴くらいだろう。


 でもってこの僕、灰村解。


 生まれてこの方……まぁ、遠距離攻撃が出来た時期もあったけれど、そんな器用なことが出来るほど優れちゃいない。

 多才であれど、多彩には追いつかない。

 現実は残酷で、できること、できないことはハッキリと明確化されている。


 その中で、僕にできること。


 死んで、冥府で鍛え上げ。

 生き返ってからも、走り続けた。

 鍛え続けた、この拳で、この脚で。


 ただ、思いっきり殴り、蹴り捨てる。

 それだけしか、僕にはできない。

 なら、迷うことなく前を向け。

 恐怖を拭って、走り出せ。


「『性質変更(モードチェンジ)』」


 全身を覆う鎧が弾ける。

 と同時に無数の斬撃が僕へと迫った。

 掠れば、死。

 その事実に歯を食いしばり、僕は目を見開いて大地を駆けた。



「【深淵犬ケルベロス】」



 足の筋肉が一気に肥大化する。

 深淵犬ケルベロス。

 神霊デスサイズに次ぐ、深淵屈指の守護者。

 その強さは速度と攻撃力に特化しており、こと速度に関してだけいえば……あのボイドとも戦える。


 そして、これだけでは終わらない。

 こいつの力は借りたくなかったが……もう、そんなことを言ってられる状況でもない。



「【限定憑依(リミット・オン)】……()()()()G()



 特異世界クラウディアの影響で、悪しき変化を遂げてしまった白い塊。

 その見た目は……まぁ、Gのようにも見えるけれど、その本質はその甲殻にある。

 腕を、脚を、白い甲殻が包み込む。

 それはまるで軽鎧のよう。


 全身を包む黒い毛並みに。

 白銀色の軽鎧。


 僕が最も――【速度】に特化した状態だ。


「フッ――――」


 一気に加速。

 視界が一息で切り替わる。

 あまりの速度に真眼すら対応が遅れる。

 それでも遅れたのはコンマ1秒足らず。


 一瞬で僕は灰燼の目の前まで迫り。

 そして、奴が反応し、目を見開くより先に右脚を振り抜いた。



「【黒歴一蹴(レクイエム)】」



 それは、寸分たがわず奴の胴体を蹴り抜いた。

 一瞬遅れて衝撃が轟き、灰燼の口から大量の鮮血が吹き上がる。


「謝るよ、もう。一切の手加減はできない」


 カッコイイことも言いっこなしだ。

 ただ、少しでも手を抜けばこっちが殺される。

 そう直感した。

 だから、もう手は抜かない。

 全身全霊……お前を【倒す】という気概じゃまだ届かない。お前を確実に【殺す】覚悟で、僕はお前に挑むとするよ。



「行くぞ格上。これが陰陽師、灰村解の全力だ」



 僕の言葉に、たたらを踏んで……それでも男は踏みとどまった。

 その腹へと飛び蹴りをかます。

 直撃を受けた男から、悲鳴にもならない声が上がる中、僕は足の甲殻から気圧を噴射する。


 遥かなるGの能力。

 それは圧倒的な防御力と、気圧噴射によるジェット加速。


 胴を中心に回転すると、勢いそのまま右足で回し蹴りを叩き込む。

 そして、そこに加わるのが、ケルベロスの純粋無垢な脚力だ。


「……ッ」


 死を予期したか、灰燼は咄嗟に鞘で回し蹴りを防御する。

 それでも突き抜けた衝撃は刀を壊し、その体を大きく吹き飛ばしてゆく。


 既に、その体には多くのダメージが溜まっている。

 人間、3日間では傷は癒えない。

 前回の戦いから引き継いだ傷に加えて、今回、僕は多くのダメージを与えたと思ってる。

 いくら強くても……そろそろ、お前も僕のレベルまで【堕ちてくる】時間だろう。


「悪いとは思うよ」


 ただ、一切の容赦はしない。

 殴り。蹴り。

 無数の乱打に、灰燼は刀で攻撃を防御する。

 それでもあまりある威力は、確実に男の体内へとダメージを蓄積させて行ったが。


「はぁっ、はぁっ……ッ!」


 荒い息と、鋭い視線に気が締まる。

 ……それでも、決定的な一打だけは確実に回避している。

 それを理解しているからこそ、一切の油断も僕の中には存在しなかった。


「らぁッ!!」


 僕の懇親の右ストレート。

 それを柄で防御した灰燼は、数メートル吹き飛ばされ、それでも膝を屈することなく耐え忍ぶ。


「……なにが、お前を――」


 既に、死んでいてもおかしくない傷だ。

 にも関わらず、この男から迸る闘気はなんだ。

 何がこの男を、ここまで強く突き動かす。


 思わず問うたが。

 少し考えれば、自ずと言葉が導き出せた。


「お前、爺ちゃんのことを……」


 僕は思わず呟いて。

 次の瞬間、奴の全身から想力が湧き上がる。



「お前が……何を、背負って立つのかは……分からない。けれど、断言できる。君の想いは、僕の願いには敵わない」



 この男の願い。

 それは、たった一人の男を救うこと。

 それ以外の全てを捨てたとしても。

 全てを敵に回したとしても、救う覚悟がこの男にはある。


 その姿に……僕は、嫌悪感すら抱いた。


 カッコ良さなど微塵もない。

 その姿は、ただ無様。

 何者にもなれはしない。

 お前はただ、自分も皆も全て不幸にして自爆するだけの病巣だ。



「うるせぇよ、意気地無し。助けたいとほざくなら、手ぇ伸ばしてから言いやがれ」



 地面に零れる水を、お前は見捨てようとしている。

 拾えるかもしれないそれを。

 助けられるかもしれない一滴の水を。

 お前は見送り、新しい水をコップに注ごうとしているだけ。


 僕はそれが、とても気に食わない。


 僕は思わず牙を向き。

 男は、相も変わらず諦めきった瞳で覚悟を告げる。



「そうかい。じゃあ、死んでくれ」



 そして、男は居合の構えをとった。


 瞬間、溢れ出したのは膨大な想力。


 知覚したのは、常軌を逸した量の【刀】。

 斬撃ではなく、本物の刀。

 防御不可避のチカラの塊。

 それが、視界を埋め尽くすほどに召喚され、僕の方へと飛ばされた。


「――ッ!?」


 防御は……まず不可能。

 回避以外に道はなく。


 僕は、毒提灯(グレアス)の力で大地へ潜り、その攻撃を回避しようと動き出した。




 そう。動き出した。



 その、刹那。



 僕は、僕の第六感に強く突き動かされた。



 僅かな【視線】を感じて背後を振り向く。


 目は、限界まで見開かれていたかと思う。



 ……そうさ、現実は残酷だ。



 都合のいいことなんて起こりはしない。


 こういう時。


 必死になって戦う僕らへ。


 ()()()()()()使()()()()()()だなんて、そんなことは有り得ない。


 僕が振り向いた先で。

 ()()()()()()()数名が、廃墟の影から僕らを見ていた。


 それを見た、その瞬間。



 僕は、毒提灯の憑依を、解除した。



 僕が守るべきもの。

 僕が、成すべきこと。


 そんなもんは決まってる。

 黒歴史ノートを葬ること。

 僕の過去を、秘匿のまま守り通すこと。


 そうに決まってる。


 そうだ。

 それ以外は見捨ててしまえ。


 少なくとも、僕はそう思う。




「…………そう、思ってた、のになぁ」




 胸に、鋭い痛みが弾けた。

 身体中から鮮血が舞う。


 目の前には、僕を見あげる子供たち。

 その瞳には涙が映ってはいたけれど。


 傷一つない彼らの姿に、僕は笑って大地に倒れた。




 僕の全身には、無数の凶刃が突き刺さっていた。




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