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少し短め

第四章【禁忌の劫略者】
429『廃墟の戦い』

 正直な話を言おう。

 僕は、灰燼の侍にはまだ及ばない。

 こいつと手合わせして、そんな確信を覚えた。


「……ったく、チート共が」


 小さく呟き、僕は息を吐く。

 炎の鎌を振り払えば、僕を中心として炎の円が描かれる。


 僕の視線の先で、灰燼の侍は追い込まれている。

 実力で劣る僕に。

 負けるはずのない僕に。

 その理由は……まぁ、考えるまでもないことだろう。


 僕は大地を駆ける。

 以前とは比べ物にならない速度。

 それでも、灰燼からすれば充分に捉えられる速度だったはず。


 にも関わらず、灰燼の反応が僅かに遅れた。


「……ッ!?」


 奴は驚いたように居合一閃。

 僕へと亡びの刃を放ってくるが、僕は、それを真正面から炎の鎌で相殺する。

 熱気が肌を焼く。

 あまりの熱波に灰燼の顔が苦痛にゆがむ中、放たれた凶刃は全て、紅蓮の炎に燃えて消失した。


「ぐ……!」


 奴は焦ったように後方へと飛ぶ。


 まぁ、戦闘中にわざわざ自分の能力を説明する……っていうのは、ラノベでも漫画でもありふれた展開だとは思うけど。

 普通に考えて損しかないので、僕はそういうことはやってない。


 ので、内心でこの力について確認する。


 ――神霊デスサイズ。


 深淵に棲みつく守護者の中で、最強の存在。

 ボイドという規格外を除けば、間違いなく頭一つ飛び抜けた化け物。

 活性と超再生を備えた僕でさえ【死】を覚悟した怪物。

 それこそが、今回僕が憑依させた守護者統括とも呼べる存在、デスサイズだった。


 その能力は【神炎】。


 ありとあらゆるものを燃やす炎。

 その炎が燃やす対象と燃やさない対象は僕が定めることが出来る。

 そして、1度定めてしまえば……物理的に燃やせないものですら、いとも簡単に燃やし尽くす。


 そしてこの炎。

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 つまり……まぁ、なんと言ったらいいのかな。

 燃やす対象を選択出来て。

 どんなものでも一瞬で燃やし尽くせて。

 1度でも掠ったらそれが最期、死ぬまで永遠に燃やし続ける。

 という、アホみたいなチート能力なわけだ。


 ほんと……どうやって勝てっていうねん。

 あの時の僕が勝てたのは、デスサイズが全力を出していなかったと言うのが理由の一つと、もう一つは、奇跡が幾つも重なった結果、っていうのが挙げられる。


 まぁ、それは今回どうだっていいことだ。


 僕の身に降りたのは、本気のデスサイズ。

 僕が戦った当時よりも遥かに強くなった能力に、デスサイズ本人の身体能力も加算されている。


 凶悪無比な能力に。

 全盛期に近しいだけの身体能力。

 加えて、闇の王の完璧サポート。


 ……まぁ、長々と話してきたけれど。

 結論、何が言いたいかと聞かれれば。



「これだけ積んで……まだ届かんとは」



 口の中で、小さく呟く。

 本当に……アホみたいな男だけれど、さすがは爺ちゃんの血族だな。強さのステータスがイカれてやがる。


 まともに戦ったら、多分押し負ける。

 今も全力で攻め入ってはいるが、それでもあと一歩届いていない。

 ならば、死に物狂いで向かっていけば届くのかもしれないが……なんとなく、届かないような直感があった。


 だって、この男の【底】は此処じゃないから。


「……余程、爺ちゃんのが堪えてると見えるな」


 僕の言葉に、奴は大きく反応を示す。

 ……以前より、この男は弱くなっている。

 衰弱している、と言ってもいいかもしれない。

 思考能力が落ちている。

 体のキレも鈍くなった。

 技の速度も数も、見る影もない。


 それは何故か。

 この男が……爺ちゃんを刺したことを引きずっているからだ。


「う、うるさい……うるさいでござる! 拙僧はもう決めたのでござる!! あの男に協力すると! そうすれば……そうすれば! 親父は助かる!!」

「……その犠牲に、何千何万と人が死のうと構わないか?」


 鮮やか万死に力を貸す。

 つまりは、そういう事だ。

 僕は静かに問いかけて。


 その答えは、悲痛極まりない掠れ声。




「…………それで、親父が救えるなら」



「…………へぇ」


 ……なんという、素晴らしき家族愛。

 すげぇな、お前。いや本当にさ。

 感動したよ、灰燼の侍。


 僕は今心の底から感心してる。



 ――お前、よくもまぁ爺ちゃんの顔に泥を塗れたな。



 僕は一気に加速する。

 驚く灰燼を完全に無視し、その顔面を掴み取る。


「そうか。なら、もういいよお前」

「ぐっ……!?」


 勢いそのまま地面へと叩きつけると、後頭部に衝撃を受けた灰燼は声を漏らす。

 そんな男を見下ろして、僕は言う。


「もう喋るな、それ以上恥を晒すな。お前の言動が【老巧蜘蛛】を貶める」

「ぐっ、ぅぅッ!! お、お前に何が! 何がわかると言うでござるか!!」


 叫ぶ灰燼。

 その顔面へと、無慈悲に拳を振り下ろす。

 鈍い音と、嫌な悲鳴。

 奴の鼻が潰れ、鮮血が吹き上がる。


「喋るなと言ったぞ。聞こえなかったか?」

「う、ぐ……っ! こ、この……!」


 喋る男へ馬乗りになり、今再び拳を振り下ろす。

 情けも容赦もかけない。

 何度だって殴ってやるよ。

 てめぇが黙るまで。


 てめぇが、爺ちゃんに謝るまで。


 僕は拳を振り下ろす。

 何度も。何度も。

 その度に鮮血が吹き上がり、悲鳴が上がる。


「こ、の……ォッ!」


 灰燼の瞳から、光は消えない。

 それだけ、万死の死者蘇生に賭ける思いが強いのか。

 僕は思わず舌打ちを漏らし……次の瞬間、上空から【第六感】が嫌な予感を感じ取る。


「……ッ」


 咄嗟に回避。

 後方へと飛び退ると、僕のいた場所へと無数の刀が突き刺さる。

 それはまるで、灰燼の侍を守る砦のよう。

 僕は思わず喉を鳴らし……視線の先で、その男は立ち上がる。


 その体は、既に満身創痍。

 それでも、その体からは気圧される程の威圧感が溢れ出していた。


「確かに。お前の言うことは正しいよ。父さんは……こんな僕を認めはしないだろう」


 灰燼は言う。

 その顔は悔しさに苛まされていて。

 それでも男は、口にした。


「……でも。失望されても、怒られても、見放されたって。それでも、父さんに生きてもらいたい」


 それは、男の純粋な思い。

 僕は思わず歯を食いしばり。

 男は、正真正銘【命をかけて】僕の前に立ち塞がった。



「父さんを守る。例え、世界を敵に回したとしても」



 ……ったく、厄介な野郎だよ。

 内心で、そう吐き捨てた。



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