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第四章【禁忌の劫略者】
428『妄言VS狂気』

 妄想の世界。

 成志川景を中心として広がる其処で。

 死骨の王、鮮やか万死は笑顔で吠えた。


「くヒィッ、はっはぁあああああああッッ!!」


 彼が放つは、無数の斬撃。

 それらは一撃一撃が即死級。

 触れるだけで四肢が吹き飛び、直撃すれば細胞一片も残らず消える。

 切裂く……というより、叩き潰すに近しい攻撃だ。


 それに対するは、酷く冷静な成志川。

 彼は大剣を構えると、たった一言口を開いた。


「【全て逸れる】」


 瞬間、彼へと向けられた斬撃がすべて別方向へとそれてゆき、成志川の立つ周辺が粉微塵に崩れ落ちる。

 足場にしていた建物が崩壊する。

 鮮やか万死は思わず舌打ちをして……次の瞬間、目の前から成志川景は消え失せていた。


「な……!?」

「笑ってられるのは、今が最期だったな」


 背後からの声。

 思わずふりかえった鮮やか万死は、直後、背中へと深深と突き刺さった拳に痛みを浮かべる。


「ぐ……!?」

「痛みはあるようだな、安心したよ」


 背後で、成志川景は第二射の拳を構える。

 それを前に、万死は両手を眼前へと構え、途中から骨の壁を召喚する。

 それは、限りなく自身の【硬度】に近づけた、無類の強度を誇る骨の壁。


 されどその壁を、成志川の拳は簡単に貫いた。


「人には相応の死に方がある。貴様は、存分に痛み、苦しみ、その果てに溺死しろ」


 拳が万死の頬を抉る。

 その体は大きく吹き飛ばされて上空へと向かい、そして、成志川は屋上を蹴った。

 まるで瞬間移動のように、彼の姿は万死の頭上へと移動して。


 焦る万死へ、思い切り右足を振り落とす。



「それがお前に、相応しい」



 そして、一閃。

 万死のガードすら貫通し、その体へと深々と右足が突き刺さる。


「が……!?」


 短い悲鳴。

 万死は一直線に眼下のアスファルトへと突き刺さり、それを傍目に成志川は着地する。


 前方を見れば、万死は口から吐血し、大の字になって倒れていた。


「がほっ……、あぁ……嫌になるくらい強いなぁ。困った。これはとっても困ったぞ」


 困ったといいながら。

 それでも、その顔には一切の負の感情は浮かんでいなかった。

 まるで、なにか大切なものが抜け落ちたような虚無。どこまでも広がる無表情だけがそこにはあった。


「貴様……」

「もしかして、他のみんなも君くらい強いのかな? だとしたら……本当に困った。さすがの僕も、全員をぶっ殺すのは無理かもしれない。それだけの強さだよ、君。本心から言うけれど、誇っていいよ」


 ムクリと、男は立ち上がる。

 その姿に目を細め、成志川は大剣を構える。


 やはりこの男……()()()()()()()()()()()()()


 全身から吹き上がる、言語化の出来ない瘴気のようなもの。それは、見る者が幻視した光景に他ならない。

 それでも強いて言葉に嵌めるとすれば、恐怖を具現化すればあのような光景になるのだろうと、成志川は思った。



「君は……全盛の()()に勝ったのか、灰村くん」



 今一度、少年への尊敬を覚えずには居られない。

 あまりの威圧感に、空間が歪む。

 自分が神に等しいこの空間で。

 佇まい一つで、気圧された。

 それが何よりの異常事態を示している。


「……この状態で、ようやくマトモに戦える、って感じかな」


 頬をひきつらせてそう呟き。

 彼の目の先で、男は顔を上げ、告げる。



「殺す」



 何よりも明確な殺意。

 それを前に、さしもの成志川でさえも恐怖した。

 それは、理性よりも本能で知覚した、とても原始的な恐怖。


 この男は、本気で自分を殺す気だ。


 そう理解した瞬間、成志川は大剣を握る手に力を込め直す。



「悪いがそれは叶わない。お前はここで死ぬからだ、鮮やか万死」


「あ、そう。じゃあ死ね」




 そう言って。

 鮮やか万死は、一息で成志川の懐まで踏み込んだ。

 恐るべき速度……だがしかし、今の成志川にとって見切れないほどじゃない。


 剣と剣。

 二つの斬撃が真正面から対峙し、凄まじい衝撃が周囲の建物を壊してゆく。

 遠くから悲鳴が聞こえてくる中。

 成志川は、歯を食いしばって大剣を握る。


「ぐ、ぐ……ッ!」

「辛そうだねぇ。どうしたのかな?」


 目の前から声がする。

 目の前を睨めば、鮮やか万死は限界まで目を剥き、成志川を見つめていた。



「答えは簡単。()()()()()()()()()()()()()()()?」



 万死の前蹴りが成志川の腹を撃ち抜く。

 あまりの一撃に思わずたたらを踏みつつも、それでも視線はそらさない。

 鮮やか万死は剣を片手に1歩踏み出し……次の瞬間、その顔が横からの衝撃に歪む。


「ぐ……っ」

「……もしかして、見えてなかったのか?」


 前蹴りを食らったと同時に、放った右のフック。

 それは万死の顔面を的確に捉えており、口から血を吐いた万死はさらなる殺意を漲らせる。


「がァッ!!」


 短く吠えて、血戒を発動する。

 ――【無窮の洛陽(ロスト・ガヴェイン)】。

 その力は、ありとあらゆる死に介入する力。

 自分の死、他人の死。

 どころか今までに殺してきた『死』にすら介入し、それらの死骨すら操れる。



「【死徘徊の宴ロスト・アニバーサリー】ィ!」



 地面から無数の『骸骨』が現れる。

 それを見た成志川は顔を歪め、鮮やか万死は笑みを深める。


「僕がこれまで殺してきた……その一端! ()()5()0()0()()()()()()()()!」

「……外道が」


 それは、死霊の軍勢。

 無数のスケルトンが列を成し、成志川へと迫る。

 中には、明らかに人間ではないスケルトンや、……子供と思しき骸骨の姿まである。

 成志川は思い切り歯を食いしばると、前を向き、叫ぶ。


「オーガーッッ!!」

『グァァァッ!!』


 上空から声が響き、スケルトンたちの中心へと大鬼が落ちてくる。

 その衝撃で多くのスケルトンが砕けてゆく。

 その光景に奥歯をかみ締めながら、成志川はオーガーに叫ぶ。


「僕はあの男を! お前はその間、スケルトンを頼む!」

『グァァァッ!!』


 答えるように、大鬼は周囲のスケルトンを破壊し始める。

 成志川は万死へと視線を向ける。

 既に最初の位置から姿は消していたが……その居場所は、常に空間把握で察している。


「きっ、はぁっ!」


 笑みの交じった声が聞こえ、成志川は背後へと大剣を振るう。

 奇しくも剣を迎え撃つような格好となり、周囲へと再び衝撃がつき抜ける。


「あぁ、あぁ!! なんてことだ、可哀想に!! なんてことをするんだ成志川ぁ! 彼らに罪はない! 中には子供だっているんだよォ!!」


 それは悲痛な慟哭にすら聞こえた。

 だが、その一言が、成志川景を完全に怒らせた。


「それをッ! 貴様が殺したのだろうがッッ!!」


 怒り満面に、大剣を振るう成志川。

 その威力に万死は逆らうことなく吹き飛ばされて、再び骨の中に姿を眩ませる。


「灰村くんが……貴様を嫌う理由を、今、本当の意味で理解した! 貴様は他者を顧みない! 平然と誰かを殺す! 己が愉悦のためにッ!!」


「えっ、それが普通でしょ。何言ってるのかな?」


 骨の中から響いた声に、奥歯が砕けた。

 体の中に吹き上がる怒り。

 それを知覚した成志川は息を吐く。


(……落ち着け、この勢いは、相手の思うつぼだ)


 先程、万死が言ったことを思い出す。

 ――その状態は長くは続かない。

 それは何より正確に的を射ていた。

 成志川は比較的想力に恵まれた方だ。

 無論、灰村解や、シオン・ライアーといった規格外は居るにせよ、彼らを除けばかなり高位の想力量を保持している。


 だが、それでもなお【第二異能】というものは消耗が大きかった。


 そも、【妄言此処に極まれり】という力でさえも常軌を逸した想力消費をしているのだ。そこに第二異能が加わった今……本気を出せる時間は、有限だ。


(冷静に……そして、確実に、相手を殺す)


 この男にも、なにか狂気の理由があるのかもしれない。

 そういう【情け】は今この瞬間、叩き潰して捨て去った。



「――もはや、容赦を掛ける余地も無し」


「うわぁ、容赦してくれてたんだァ。お前……灰村解より気持ち悪いね」



 骨の中から万死の瞳がこちらを捉える。

 成志川は大剣を構え、最後の攻防に想力を込める。




「【この勝利を、我が紅蓮の太陽に捧ぐ】」




 少年は、命を賭ける。

 初めて出来た、たった一人の親友のために。




 ☆☆☆




 崩れた廃墟の中心で。

 僕は、後方……街の方へと視線を向ける。

 この距離でも聞こえてくる衝撃に、崩れる建物の数々。


「おうおう……これまた派手にやってるな……」


 一瞬でビルが切り裂かれるとか。

 戦闘の衝撃がここまで伝わってくるとか。

 正直……頭イカレてると思います。


 うーん……。あんな中に入って行ったら、一瞬で殺されそうだなぁ。

 なんにも出来ずに刻まれる気がする。

 というか、万死も毒に侵されてるはずなのに、まだあれだけ戦えるのかよ……。


「相変わらず、反則野郎しか居ないんだよな」


 そんな感想を抱きつつ、僕は前方へと視線を戻す。


 炎の大鎌を低く構えて。


 首を傾げて問いかける。




「で、その程度か? 灰燼の侍」




 僕の声に、その男は身を震わせる。

 僕を見上げる瞳には恐怖が宿っている。


「な、なんで……どうしてでござるか! こ、この前は、一分も、能力が……!」


 あぁ……3日前の話をしてるのか?

 確かにあの時は、能力に慣れてなかったからな。

 だから、あんな中途半端な力しか示せなかった。


 だけど、安心しろよ灰燼。

 僕はまだまだ、活動限界には程遠い。


 大鎌を振るえば、男は咄嗟に居合の構えを取る。


「もう、説得とかはしないよ。ただ、存分に抵抗しろ。僕は油断もしないし、慢心もしないし、容赦もしない」


 僕がすべきは、お前を倒すこと。

 安心しろよ、殺しはしない。

 爺ちゃんの前に引きずっていかなきゃならないからな。


 そのために僕は。

 全身全霊で――お前を倒す。


 僕は紅蓮の大鎌を構え、告げる。



「お前を、殴る」



 成志川、ちょっと待ってろ。

 今こいつをぶん殴って、助けに行くから。

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