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第四章【禁忌の劫略者】
427『第二異能』

『この力を……弱くする?』


 エニグマの言葉に、成志川は首をかしげた。

 対し、それを隣で聞いていたシオン、大爆笑。


『なはははは! おいカイ! こいつ馬鹿だぜ、能力弱くしたら弱くなるに決まってんだろうが!』

『うるさいわね! あんたちょっと黙ってなさい、って灰村から言ってやりなさい!』

『シオン、あんたちょっと黙ってなさい』

『おう! カイが言うなら仕方ねぇな!』


 シオンは黙り、解が二人の会話に混ざる。


『で、能力を弱くするってのは……』


 理解できないが、もしや弱くすることでなにか成長できるのか?

 そんな思いを込めて問いかけたカイは。


『決まってるじゃない! その方が苦戦してカッコイイからよ!』

『前言撤回。アンタ馬鹿だよ』


 カイは断言した。

 その言葉を右から左へ聞き流したエニグマ。

 彼女はてくてくと成志川の方へと歩いてゆくと、胸を張って声を上げる。


『いいこと! 苦戦ってのはね、カッコ良さを最大限に生かすための技なのよ! たしかにチートには憧れる! めちゃくちゃ強い技で瞬殺。「もしかして、これで終わりか?」ってのにも憧れる! というかそれもカッコイイと思います!』

『おいカイ、コイツ頭大丈夫か?』

『見るんじゃない。アホが伝染(うつ)る。これ以上アホになったら死ぬぞ』


 カイがシオンの目を塞ぐ中。

 エニグマは、自信満々にこう言った。



『ただし、この世界はダメね! よく考えたらチートしか居ないじゃない!!』



 その言葉に、成志川はエニグマから視線を逸らす。

 全反射。

 時間停止。

 前世降霊。

 言霊使い。

 無限兵装。

 強奪、コピー、そして即死まで。

 言ってはなんだがそこら辺にチートがころがっている。そんな中で『もう終わりか?』などという異次元な強さは実現不可能。


 故にこそ、エニグマは()()()()()()()()()


『だからこそ、下手に力を求めるのはやめましょう! チートに埋もれるくらいなら成り下がりなさい! 自分の力を抑制してみなさい! そうして初めて見えてくるものもある……かもしれないわ! よくわかんないけど、弱いからこそ、初めて見えてくるものがあるってよく言うじゃない!!』

『じ、自分の力を……抑制する』


 それに一体なんの意味があるのか。

 というか、完全に無駄では無いのか。

 ただカッコイイから言ってるだけじゃないのか。


 そう思わずにはいられなかった。


 周囲にいた皆がそう思った。

 完全に無駄であると確信していた。


 だが。


 反論は、思わぬところから飛んできた。



『あら、それはとてもいい考えですね』



『うげっ』


 廊下から、凛とした声が響く。

 ――正統派の王、六紗優。

 灰村解は思わず声を上げ、それを聞いた栗毛の少女は青筋をうかべる。


『……ねぇ、灰村くん。いま【うげっ】と仰いませんでした?』

『間違いないぽよ! この男……優ちゃんの心をがっしり掴んで離さないくせに! 少しはお前を好きな優t』

『ふんッッ!!』


 謎生物の腹に、六紗優の拳が突き刺さる。

 生き物が出してはいけない類の悲鳴をあげてのたうち回る謎生物。

 それを一瞥、少女は満面の笑みでこちらを向いた。


()()()()()()()()()()()?』


 無論、全員が首を縦に振った。

 ほぼ初対面の者も、みな一斉に直感したのだ。

 ――コイツは怒らせたらやばい、と。

 然してそれは、限りなく正解に近かった。


 少女は大きく息を吐くと、成志川へと向き直る。


『少なくとも……その方法、間違いではないでしょうね。特に、私や貴方等、想力の消耗が激しい異能力者にとっては効果的な戦術でしょう』

『ほ、ほほ、本当に言っているのか……?』


 思わず問いかけた成志川に。

 正統派の王は、真面目100パーセントで口を開く。


『ええ、試したことはありませんが……そうですね。本気の七割。70パーセント前後で抑えておくといいでしょう。そして、遺る三割は体の奥底に閉じ込めて置くのです』


 3割を封印し、7割を行使。

 無論、封印した3割は使うことは出来ない。

 そこだけ見れば弱体化するだけの話だろう。

 されど、話はそこで終わりではない。



『これは制約のようなもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 その言葉に成志川は目を見開く。

 そんなことが……できるのか?

 思わず問うた彼を前に、六紗優は笑顔で言った。



『異能とは即ち妄想の力。想像出来れば、使えない力など無いのですよ』




 ☆☆☆




 3割の封印。

 それこそが、強敵に相対した時、本気を出すまで【生き延びることが出来る】限界だった。

 それ以上を封印すれば、封印を解除する間もなく殺される可能性がある。


 だからこその、3割。

 されど、成志川はいとも簡単に限界を超えていた。


 心の臓を雁字搦めに縛る鎖。


 胸に手を当て、鍵を回す。

 南京錠が砕け散り。

 胸の奥にしまい込んだ、余力が体に溢れてくる。


「封印したのは、本気の5()()


 通常時は、半分の力しか使えなくなる。

 それは、自分の命すら賭けた大きな博打。

 まず大前提として、相手から生き延びる。

 それが出来ねば弱体化するだけの愚行でしかない。


 だが、今この瞬間。

 成志川景は、見事に博打に勝利した。


 此処に解禁するは、()()()()()()




第二異能(ツインテット)――【限界突破(リミット・アウト)】」




 瞬間、凄まじい想力が膨れ上がる。

 限界超過――150%

 言葉にすれば、ただ限界の1.5倍。

 されど、先程と比べた時、その強さは驚異の次元へと突入していた。

 あまりの威圧感。

 それを前に万死は察する。


 ――あぁ、この少年は僕の命に届き得る。


 そう理解した瞬間。

 彼は、楽しそうに笑った。


「あぁ、すごいなぁ、すごいなぁ! 第二異能、ツインテット!! それ、歴史上遡っても限られた数名しか使えなかったんだろう!! すごいよ君は、天才かなぁ!」


 それは、真正面からの賞賛の言葉。

 されど、その言葉はそれだけに終わらなかった。



「そんな君が死ぬなんて、まさか灰村解も想像しちゃいないだろうね」



 その目が細まり、殺意がほとばしる。

 どこまでも濃密で、幻視すら覚える殺意の塊。

 それを前に、成志川はどこまでも穏やかだった。


「……知ってたかい。第二異能というのは……今はまでに、何一つとして『具体内容』が伝わっていない。使用者こそ明記されていても、異能の内容は伝わっていない」

「……それ、今関係ある話かなぁ?」


 万死は思わずそう言って。

 次の瞬間、成志川景は薄く笑って首肯した。


「あぁ。第二異能は想力消費も加速する。奥の手でもあるし、使用者は最後の最後まで他人に見せようとしない。それでもなお使ったということは……それだけ切羽詰った状況だということ」


 殺すか殺されるかの瀬戸際で。

 それでも使った。


 それが何を示しているか。


 成志川は、右手を構える。

 その手に、膨大な熱量が産み落とされる。



「そりゃ伝わらないさ。だって、見たヤツは全員殺されてるんだから」



 放たれる熱量の塊。

 まるでそれは、小さな太陽。

 紅蓮の炎がとぐろを巻いて、どこまでも荒れ狂いながら万死へ迫る。

 その勢いは、まるで電光石火。


「チッ……!」


 舌打ちを漏らし、万死は剣でその熱玉を両断する。

 切り裂かれた熱量が彼の左右で爆発し、顔を歪めた万死は……その瞳に憎悪を浮かべる。


「復活できないってことは……自死による回復も出来ないと言うこと。お前はもう……無敵の怪物なんかじゃない」

「あぁ、そうかい! さっきより少し強くなったみたいだけど……そんな程度でイキってもらっても困るんだよねぇ!」


 苛立ち満面、万死は駆け出す。

 屋上を踏み締め……次の瞬間、成志川の足元から無数の骨が突き出してくる。


「けひっ!」


 見れば、万死は足を踏み出した状態で止まっており、その顔には笑顔が張り付いている。

 その姿を、成志川景は一瞥し。

 つまらなさそうに言った。



「【動くな】」



 瞬間、ピタリと骨の攻撃が止まる。

 どころか、万死すらも指1本動かすことできずに硬直している。


「ぐ、ぬ……ぁッ!!」

「必死だな。だけど……もう分かってるだろ、無駄だって」


 ここは妄想の世界。

 成志川景の固有世界。

 此処では彼が神そのもの。

 もはや、()()()()()()()()()()()()()

 妄言に至る前、妄想の段階で現実は変容し、塗り潰される。



「――上塗り開始」



 成志川は呟き、右腕を構える。

 その手に、神々しい大剣が生まれ落ち。


 次の瞬間、成志川は弾かれたように駆け出した。

 大剣を両手で振りかぶる。

 そこには、純然たる殺意が込められており、それを前に鮮やか万死は吠えた。


「が、ァァァアああああああッッ!!」


 動くなと告げられた空間で。

 それでも万死は、筋力にものを言わせて制御を振り切った。


 振り下ろされた大剣を、骨の剣で受け止める。

 両刃に……破損はなく。

 それは、互いの武器が同等の強度を誇っていることを意味していた。


「……ッ! こんな、良くわからないやつに負けたとあっちゃ、死骨の王の名折れだしねぇ! それに、僕は負けないよ、なんてったって最強だからねぇ!!」

「最強……か。少なくともそれは、お前に向けて放たれていい言葉じゃないな」


 成志川は、至近距離で獰猛に笑う。



「僕の方が、ずっと強いから」



 既にそこに、一切の手加減はなく。

 ただ、両名が本気で潰し合うだけの、殺し合いが広がっていた。


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