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第四章【禁忌の劫略者】
426『妄言使い③』

『成志川! あんた最近いいとこ無しね!』

『ぐえっふ……!?』


 エニグマが噴出した鋭い言の刃。

 それが、成志川の心臓にクリーンヒットした。

 彼はその場に崩れ落ち、それを見下ろし、エニグマは自信満々に胸を張った。


『学園に攻め込んだ時は『あれっ、もしかしてアンタが主人公なんじゃないの?』と勘違いしてしまうほどバリバリ存在感示していたのに! いつの間にかアンタ空気よ!』

『く、空気……!』


 あまりの言葉に成志川は胸を抑える。

 ……たしかに。

 たしかに最近は気配が薄かった気がする。

 というか、全然活躍していなかった気がする。

 暴走列車に攻め入られた時も、それ以外だって、さした活躍も出来ずに撤退している。

 最近では、灰村解に『学園祭だよ!』を言うだけのキャラに成り果てていた。


『ぼ、僕だって……頑張ってるんだよエニグマ! 頑張ってこの結果なんだ……!』

『黙らっしゃい! エニグマは言い訳なんて聞きたくないわ!』


 エニグマは成志川の頬をぶっ叩く。

 強烈な音がして成志川の体が吹っ飛んでゆき、それを見兼ねた灰村解が席から立ち上がる。


『お、おい……エニグマ先生。なんか二人だけの独特な空気感漂わせてるところ悪いが……』

『黙らっしゃいな! 成志川から主人公の座を奪っておきながら……良くもまぁ堂々と私の前に立てたものね!』

『いや奪ってねぇけど……』


 頬を引き攣らせる灰村解。

 そして、その横合いから元気な声がした。


『なんだ! 喧嘩か! オレ様が参戦してやるよ!』

『特にアンタよ! 眼帯、オレっ娘、赤髪、戦闘狂、極めつけはアホの娘! あんたみたいな強烈極まるキャラがいるから成志川が埋もれるの! 分かったら黙って! そして成志川に謝って! そしてこれからはキャラを殺して生きると宣言しなさい! というか、まずその眼帯をどーにかしなさいよ! キャラが強すぎんのよ!!』

『いや、エニグマ先生。あんたのキャラが1番強烈だと思うんだけど』


 灰村解の言葉を、完全無視。

 エニグマは成志川へと向き直ると、えへんと胸を張って口を開く。



『だからもっと目立ちましょう、協力するわ!』



 なんともふわっとした言葉。

 果たして、暴走状態のエニグマを止めるべきか、ある程度付き合って満足させるべきか。

 思考をめぐらせ、成志川は喉を鳴らす。


『えっと……具体的には』


 とりあえず、具体策を聞いてみる。

 断るのはそれからでも遅くはないだろう。

 そう考えての発言に。


 エニグマは、ニヤッと笑ってこう言った。




『アンタ、能力を弱くしなさい!』




 ☆☆☆




 上空へと放たれた弾丸。

 その小さな弾丸には溢れんばかりの熱気が包まれており、それを見た鮮やか万死は顔を歪めた。


「あぁ、もう、気持ち悪いなぁ」


 それは、脅威に対しての嫌悪感ではなく。

 ただ、成志川景という個人に対する『嫌い』だった。

 鮮やか万死は、左手を右の肩へと伸ばす。

 成志川は思わず目を細め……次の瞬間、全身の細胞がどよめいた。



「とりあえず死んでみようか『死骨武装(アームズ・オン)』」



 声が響いて。

 次の瞬間、成志川はその場を飛び退いた。

 だが、飛び退くと同時に右腕へと強烈な痛みが走り、思わず自分の腕を見下ろす。

 そこには、()()()()()()()()()()()と、地面へと刻まれた【斬撃】の跡がある。


「ぐっ……!」

「あれぇ、躱したのぉ? 残念だなぁ」


 後方から嫌な音が聞こえる。

 振り返れば、地面に刻まれた斬撃は遠く遠方にまで続いており、遠くに見えていた巨大なビルがたったの一撃で両断されていた。


 歯を食いしばり、上空を見る。

 太陽の弾丸は真っ二つに切り裂かれ、鮮やか万死は建物の上に着地する。



 ――その手には、禍々しい骨の剣が握られていた。



 代わりに、彼の右腕は支えが無くなったように風に揺れている。

 成志川は、長年の経験を元に考察した。

 あの剣は……おそらく、()()()()()()()()()

 骨により構成された物の怪が、己が一部を抜き取り、武器へと変えた。


 然してそれは、限りなく正鵠を射ていた。


「僕は物の怪、がしゃどくろ。聞いているだろう? 僕のこの体はあくまで借り物。本体は、この肉袋の中に収まっている骨そのものさ」


 がしゃどくろ。

 見上げるほど大きな死骨の王。

 どのような物語でも、強い敵や、時にはラスボスとしても描かれる、日本固有の魑魅魍魎。


「そして、僕の骨は硬いんだぁ。人間の歯は百年耐えられる程度には造られているのかもしれないけれど……僕の骨は文字通り、格が3つ4つ異なっている」


 物の怪の寿命は人間とは比べ物にならない。

 加えて、この男は死骨の王。

 寿命なんて言う概念はなく。

 それに対応し、この男の骨はどこまでも硬く、決して壊れぬ耐久性を誇っている。


「ひとつ聞かせてもらってもいいかなぁ? 君、どうやって死にたい?」

「【腕の傷はなかったことに】……その程度で誇るとは、底が知れるな、物の怪がしゃどくろ」


 成志川の一言で、腕は元通りへと復元する。

 その姿を見下ろして、鮮やか万死は目を細める。


「僕はねぇ、絶望してる顔が見たいんだぁ。希望なんて何も無い、絶対的な力の差で追い詰めて、絶望の表情を浮かべたその瞬間。その首を切り落として……その絶望を永遠のものにしたい……!」


 その言葉に、成志川は顔を歪める。


(……この、男は……ッ)


 心の内に怒りが溜まってゆく。

 あの灰村解が、本気で怒っていたのも頷ける。

 この男は……生きていてはいけない存在だ。

 上方で、鮮やか万死は狂気から一転、笑顔を爽やかなものへと変える。


「だから、君みたいに言葉一つで回復できるようなやつ、正直いらないんだよね! 僕は灰村解の大切な奴を殺しに行くから、ついてこないでねっ!」


 そう言って、男はどこかへと駆け出してゆく。

 その後ろ姿は屋上の向こうへと消えてゆき、それを見た成志川は歯を食いしばる。


「オーガ……!」

『グオォオ!!』


 彼の言葉に答えるように、オーガは成志川を担ぎ、裏路地の壁を交互に蹴るようにして上空へ昇って行く。


 数秒もせずに上空へと飛び出す。

 周囲を見渡す。

 既に隠れたのか、鮮やか万死の姿は見えない。


「クソっ……!」


 その光景に歯噛みし、成志川を担いだオーガは近くの屋上に着地する。

 成志川は、【妄言此処に極まれり(フレーバー・テキスト)】固有の空間把握能力を広げ、その姿を探す。



 然してその姿は、コンマ数秒で探し出せた。



「はぁい、もしかして探した?」



 だって男は、()()()()()()()()()()()()


 溢れる鮮血と、胸を穿つ骨の剣。

 振り返れば、そこには、満面の狂気が立っていた。


「き、さま……ッ!?」

「逃げたと思ったよねぇ、感覚じゃ僕の姿を探せなかったよねぇ。でも当然だよ。僕は最初から死んでいるようなもの。だって、骨だから」


 オーガが拳を振るう。

 と同時に胸から剣ががするりと抜けて、鮮やか万死は後方へと飛び退る。


「死体がころがっていたって、僕はなぁんにも気にしないよぉ」


 成志川は膝から崩れ落ち、それを見て万死は笑う。


「呼吸なく、匂いなく、音もなく。違うのは動くことだけ。ただ生きているだけの、ただの死体。それが僕。誰より死に近いこの僕さ。……それで、どうかなぁ? 心臓を一突きしてみたんだけど。ご自慢の『魔法の言葉』で治せるかな?」


 首を傾げ、楽しそうに万死は笑う。

 その姿を見て、成志川は胸のキズを押さえる。


(なんという……強さ。いいや、強さじゃない。これは……()()()()()()()()()()()()()()()


 この男は、誰かの嫌がることを徹底的に実行出来る。そういう男だと理解した。

 それが出来るだけの力があり、身体強度があり、無限に等しい命がある。

 その『復活』は灰村解が無効化した。

 さらに、その体には蝕む毒が流れているはず。


 間違いなく、その男は弱体化しているはず。



 ――にも関わらず、掌で踊らされる。



「……強いな、お前は。今の僕じゃ太刀打ちが出来そうにない」

「あれっ、もしかして諦めたの?」


 成志川の素直な言葉に、万死は言った。

 されど、その言葉には愉悦が混じっている。

 それは質問の体を取ってはいたが。

 されど、質問の形を取ってはいなかった。



「じゃあ、殺すねっ!」



 万死が一気に走り出す。

 オーガがそれに対して1歩踏み出して。



 ――次の瞬間、成志川の体から膨大な想力が溢れ出した。



『ゴァ!?』

「うそぉ!?」


 驚く両名に。

 成志川は、胸に手を当て、手を回す。

 それは、まるで胸の奥にしまい込んだ『鍵』を回すような所作にも見えた。



()()()()()、よって、()()()()()()()()()()()()



 前を向く。

 その瞳には膨大な想力が込められており。

 やばいと察した万死は、咄嗟に逃亡するために駆け出したが。


「もう遅いよ」


 それより速く、空間が侵食される。

 万死ごと飲み込んで、妄想の空間が構築される。


 それを見て万死はさらに加速したが、侵食の方がずっと速い。



「【君はもう、この空間から出られない】」



 極めつけは、その言葉。

 先程までとは別格の強制力が万死に働く。

 その体はピタリと停止し、彼は思わず歯を食いしばる。


「舐めてるねぇ……お前、もしかしなくても意図的に手を抜いていたのかなぁ! だとしたら、お前、灰村解よりムカつくかもしれないねぇ!!」

「それは、これ以上ない褒め言葉だな」


 胸から手を退かす。

 既に、傷は癒えていた。


「まぁ、手抜き……とは、また違う話になるが、とりあえず、現状だけわかってくれればそれでいいさ」


 成志川が優勢で、万死が劣勢。

 それだけ分かれば、あとは些事。


 鮮やか万死は顔をゆがめて。

 かくして少年は、口を開く。




「妄想に溺れ死ね、それが貴様の終点だ」



しゅ、主人公みたいじゃねぇか……(震え)。

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