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カイの言っていた『あの力』。

思いっきり的中させていた人がいて驚きました。

第四章【禁忌の劫略者】
417『限定憑依』

 五指から伸びるは無数の糸。

 それら1本1本に緻密極まる神力が込められており、それに相対するのは無数の刀を操る侍。


 糸と刀。

 操るものは違うし、異能と天戒、使う力も全然違う。性格だってきっと違うし、顔もあまり似てはいない。


 だが、その強さだけは互いに本物だった。


「【千却万雷】ッ!」


 それは即死の異能。滅びの刃。

 刀の柄に触れる。

 それだけで放たれる無数の斬撃。

 居合の極地。

 それを前に、爺ちゃんは無数の糸で対応する。


「――焦燥。余程大きな傷を負ったか?」

「う、うう、うるさい黙るでござる! なんで拙僧の異能がただの糸なんかに――!」


 ござる。拙僧。

 そんな言葉に爺ちゃんは深々とため息をついた。


「……それが格好良いと思っているのか。最近の若者の考えはよく分からないな」

「いや、少なくとも格好良くはないし、アイツはけっこうオッサンだぞ爺ちゃん」

「うるさいでござるぅぅぅ!!」


 そう言って、変態侍は僕らへ向けて斬撃を放つ。

 それを見た爺ちゃんは咄嗟に動きだしたが、僕を見て直ぐに動きを止めた。


「完全模倣――【老巧蜘蛛】」


 僕は異能を完全コピー。

 爺ちゃんの動きを真似し、同じように糸を放てば、目の前の斬撃は僕らを逸れて通り抜ける。


「……灰村。君は――」

「知ってるだろ爺ちゃん。この目は特別性でな。……アンタがどうやって斬撃をいなしてるかも一目で分かる」


 変態侍の【千却万雷】とかいう異能。

 滅びの斬撃。

 あれはあらゆるものを貫通するが、唯一、その滅びの刃に触れられるものがある。

 そう、爺ちゃんの動きを見て理解した。


 ――それは、純然たるエネルギー。


 俗に、想力、神力と呼ばれるものだ。

 そのため、爺ちゃんはいつもより数割増で糸に神力を流し、糸に流れる神力を利用して斬撃を打ち消し、受け流している。


 僕は立ち上がると、爺ちゃんの隣へ立つ。


「……なんか、怒ってるところ悪いけど、僕らもやる。アンタだけには任せない」

「……言っておくが、あの愚息は今の君より遥かに強い」

「知ってる。でも、今のあんたを見ていると……なんだろうな。うっかり負けちまいそうな感じがする」


 よく、漫画とかでも見るけれど。

 何か嫌な予感ってのは、信じるべきものだ。

 なにか根拠があるわけじゃない。

 いいや違うな。正確に言えば……()()()()()()()()()()()()で、根拠は確実にあるんだ。

 ただ、その根拠は理性より前の本能の部分で引っかかっていて、知覚することは一切できない。


 それを【予感はあくまで気のせいだ】と断ずることは、僕はしたくない。


 それに、今の僕はちょっと特殊でな。

 王の凱旋の余波で、かなり感覚が尖ってる。

 その僕の【嫌な予感】だ。

 信じない意味が見当たらない。


 僕の言葉に、爺ちゃんは思わず顔を顰めたが。

 僕は、明確な言葉を口にした。



「――アンタは此処で、死ぬ気がする」



「…………そうか」


 爺ちゃんは驚かなかった。

 もしかしたら、爺ちゃんも何か嫌な予感を感じ取っていたのかもしれない。

 僕は、陣の白い壁へと視線を向ける。


 ……この陣は、あくまでも『内→外』の一切を封じるもの。爺ちゃんがやったように、ある程度強いヤツ――()()()()()()()()()()()()()ならいくらでも陣の中に入って来れる。


 もしも、こんな状態で。

 変態侍の側……あるいは、第3勢力の【敵】なんかが乱入してきたら。

 きっと、とても不味いことになる。


「……僕の力で、ボイドが呼べればよかったんだが」


 アイツは色んな意味で規格外。

 人間の力で呼び出すことなんてまず不可能。

 僕は大きく息を吐くと、改めて変態侍へと視線を向ける。



「それに、腹切って死ぬなんて言うなよ。僕はまだまだ、アンタに教わりたいことしかないんだから」



 そう言うと、爺ちゃんは少し目を見開いた。

 アンタがコイツをぶっ殺して、自分の腹を切って自害する……って言うのなら、僕はそれを止めるためにも参戦しよう。


 それに、さ。

 元はと言えば、僕らが始めた戦いだ。

 いくら因縁があるとはいえど、爺ちゃんに丸投げしていい問題でもないだろう?


「僕らがやる。爺ちゃん、アンタはあくまでも僕らのサポートだ。それが嫌だって言うなら……僕もアンタの敵に回るぜ」

「……全く、何とも生意気な弟子だ」


 うん、それは認める。

 助けてくれたことはありがとう。

 助けてくれなかったら死んでたかもね。

 だから、助けてくれたアンタに僕らが何か指図するのは間違ってると思うんだ。


 だけど、ここで引いたらダメな気がする。


「生意気だってなら後で怒られるよ。だから、最低限……今ここを生き延びる。それだけを考えて動いてくれ」

「…………」


 僕の言葉に、無言で彼は五指を構える。


「ならば、相応の動きは見せてくれるのだろうな」

「当然。……主に、ウチの暴走列車がな!」


 僕はアレだ。

 少し、やることがあるからな。

 正確に言うと、先程試そうとした力の調整。

 今度こそ、100%成功させる。

 それこそが、灰燼の侍を完封するための道筋だと信じてる。


 暴走列車は、僕の声に応じて前に出て。

 それを見て、爺ちゃんは思わず苦笑した。


「ならば、こうしようか。私は君たちが死なないよう守る。君たちは、私が死なないように守ってくれたまえ」

「……よく漫画とかで聞くセリフだな」


 ああいうセリフ。

 読者としては【よく考えたら意味わからない】ってなるけれど、今回ばかりは承知した。

 ようは、互いに守り合いながら、あのバカ息子をぶん殴る、って話だろ?


 前方を見れば、変態侍は腹を抑えて息を吐いていた。


 どうやら、暴走列車の一撃はかなり効いているみたいだ。

 それもそのはず。

 杯壊系の異能力者は反則極まる能力を持つ代わり、身体機能は普通よりも低くなっている。

 そんな所に、暴走列車の拳が直撃したんだ。普通なら、立ってることも難しいだろうに。


「一応言っとくが、暴走列車の攻撃を受けて……それ以上動けば命に関わるぞ」

「う、うるさいでござる! これは……そう! 朝食べたものが当たってるだけでござる! おなかがギュルギュル言ってるだけでござる!」


 それはそれで大問題だと思うけど。

 お前は前科があるんだから……いくら冗談でもシャレにならんぞ。

 僕らはそういう感じの目を浮かべ、それを見た変態侍は叫ぶ。


「はぁっ、はぁ……ッ、クソっ! こうなりゃヤケでござる! もう、親父だろうが手加減はしない! 全力で殺してやるでござる!!」


 ここに来て、最大の想力行使。

 それを前に、爺ちゃんと暴走列車は構えを取り。

 そして僕は、腹の底から神力を汲み上げる。



「朽ち果てよ!【千却万雷】ッッ!!」



 声が響いて、無数の斬撃が僕らを襲った。




 ☆☆☆




 何をヒントにしたかと言われれば。

 だいぶ前に阿久津さんから聞き及んだ、【特異世界クラウディア】の異能力者についてだった。


『特異世界クラウディアには……そうだな。この世界で言うところの物の怪、それを使役する異能力者が多くいたのだ。勇者のところの忌々しいペットも、どちらかというとその部類だな』

『でしょうね』


 人の言葉を話すどころか、バカみたいに強い異能を使う。

 そんなペットがいてたまるかってんだ。

 六紗の話によれば、飼い始めた当初はしゃべらなかったみたいだけどな。

 一年もしたらべらべら喋り始めてた、と言っていた。


 とまあ、今はポンタの話なんてどうだっていいんだけど。


『だが、そ奴らは厄介でな……。序列戦において使い魔の参加が認められる上、加えて、そう言った輩の中には、特殊な異能を使う者が多かった』

『……特殊な異能?』


 思わず呟けば、彼女は懐かしい思い出を振り返るように口を開く。


『ああ、私もかつては忌々しいほどに苦戦させられたよ』


 そういって、彼女は言った。



『――使い魔そのものを【鍵】とし、自身の体を依り代とした【降霊魔術】』



 その言葉に、僕は思わず首をかしげる。


『降霊……魔術?』

『ああ、いや、魔術というのは言い過ぎだったな。降霊の異能。そう表記したほうが正確だ。自身の体へと霊体化させた使い魔を憑依。自信の身体能力、時に姿をも大きく変えて、変質させる』


 いや、別にそれはいいんだけどさ。

 なんで今、わざわざ魔術なんて言ったんだろう?

 もしかしてそっちの方がカッコいいから?

 術よりも魔法よりも魔術の方が響きがカッコいいから?

 もしかして……阿久津さん、見た目だけじゃなく中身まで中二病なんじゃ。


 思わず身を引くと、彼女は不思議そうに首をかしげる。

 そして何か思い当たったのか、焦ったように自分の匂いを嗅いだ。


『す、すまない……! 実は先ほど、外出ついでにニンニクチャーハンを食べてきたのだ。それはもうすさまじいニンニクの臭いだろう……』

『いや、すごいいい匂いするけれど』


 つーかアンタ。指名手配されてるのにニンニクチャーハンなんて食べに行って大丈夫なのかよ。

 僕は思わずジト目を向けると、どこか照れたように顔を赤くする阿久津さん。


『そ、そそ、そうか……いい匂いがするか。御仁がそう言ってくれると、なんだろうな。とても嬉しい』

『おいカイ! なんかアクツが変なペットつれてる女と似たようなこと言い出したぜ!』

『聞くんじゃない。そしてシオン。暇ならどこか遊びに行っておいで』

『分かったぜ! 公園の砂場いってくらぁ!』


 シオンはそう言って駆け出してゆき、阿久津さんは頬に手を当て照れている。

 その光景にため息一つ漏らして――そのときに、その話も一緒に忘れていた。

 だって、その会話はとても他愛のないものだったから。




 ☆☆☆




「まさか、そんな異世界の情報が使えるとは思わないよな」


 僕は、アラガマンドへと手を伸ばす。

 今度こそ手は届き、硬質な感触が手に返る。


 瞼を閉ざし、意識を集中の沼に沈める。

 その姿を見た変態がすかさず斬撃を飛ばしてくるが……僕の前に、爺ちゃんの気配が立ちふさがった。

 おそらく、無数の糸で斬撃を逸らしてくれたんだろう。

 苛立ったような変態の気配と、ナムダの重い足音が聞こえる。


「聞いた話はあれっきり。たぶん、コレと本物は違うのだろうが」


 眼を開く。

 顔を上げれば、アラガマンドと目が合った。


『王よ』


 静かに僕を呼ぶアラガマンドに。

 僕は、その力を口にする。




「――【限定憑依(リミット・オン)】」




 悪いな、アラガマンド。

 その力、少しだけ借り受ける。


オンがあればオフもある。

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