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第四章【禁忌の劫略者】
411『灰村解VSポンタ②』

 闇の王。

 自分の見知った技術を、そのままコピーする力。


 もとより、天戒に一切の修行は要らない。

 必要なのは神力そのものの修行だけ。

 その後は比較的簡単で、ある程度の時間を費やせば、どのような天戒すらも扱えるようになる。

 そこから訓練し、修行を積んで、その天戒を実践可能なレベルへと引き上げる。


 ――その時間を、僕は限りなくゼロにした。


 見聞したものを真眼と才能によって見様見真似でコピー。

 それを【闇の王】により強化し、習得零秒で実践で用いる。


 仕組みとしては、その程度の簡単な力。


 されど、誰にも真似できやしない、僕だけの反則武装。


 真眼、才能、妄想力に、神力操作能力。

 加えて、異能力者灰村解としての、三年以上にわたる経験。

 何一つ欠けても成立しない、奇跡の天戒。


 そんな奇跡を片手に相対するのは、僕が考える最強の男。


 その全身から、蒸気があふれ出す。

 それは、最強のイスカンダルが持つ、唯一無二の弱点。

 ――変身の時間制限。

 彼がその限界に達するのは初めて見たが……。



「――おい男。まさか、これでボクが弱体化する、なんて思っていないよな」



 たったのひと睨み。

 それだけで背筋の底が冷たくなった。


 彼を縛っていた糸が、一瞬で弾け飛ぶ。


 ……世界最強は伊達ではなく、僕が目指した殴り合いの強さはいまだ健在。

 あの暴走列車ですら、ついぞ一度も触れなかった物理法則の化け物。

 それを前に、僕は笑って両の五指を構える。


「一つ聞くが、マジな質問か?」

「いいや、聞いてみただけぽよ」


 そう言いあって、僕らは笑う。

 伊達に、長い付き合いじゃないだろう?

 お互い、相手が不調だからって手を抜くほど、善人じゃないのは分かり切ってる。

 相手が不調で、本気を出せない今だからこそ――徹底的にひねりつぶす。

 それが、僕とポンタの関係だろうに。


「ふざけた質問してると調教するぞ、謎生物」

「そちらこそ、出会い頭に土下座するよう躾けてやるぽよ!」


 そう叫び、僕らは一斉に走り出す。

 ポンタは拳を固め、僕は五指へと力を込める。

 僕らの距離は次第に縮まってゆき……そして、僕はありったけの糸を固めて、圧倒的な重量を叩きつける。


「ハァッ!」


 こんなもの、爺ちゃんの戦い方とは縁遠いもの。

 あの人はこんなことをしなくても強い。

 だけど同時に、僕に爺ちゃんと同じ戦い方をしろ、というのも無理な話。

 経験が違う。練度が違う。

 そもそも大前提として、使用者が違う。


 ならば、ここから先は真似をするな。


 こっから先は――灰村解の戦いだ。


 ポンタは、糸の塊を前に拳を握りしめて。

 ――次の瞬間、その拳がピタリと止まった。

 彼は()()()()()()()()()()()()()、その無防備な姿へと思い切り糸塊をぶっぱなす。


「ぐっ……!?」


 ポンタは、どこか困惑したように飛ばされてゆく。

 僕は糸を全て解いて揺蕩わせる。

 糸塊の後ろから現れた僕を見て、ポンタは眉を大きく顰めた。


「お前……!」

「どうしたポンタ。()()()()()()()()()()?」


 僕の言葉を受けて、ポンタは歯を食いしばる。


 他の誰でもない、僕にしかできない戦い方。

 複数の能力を組み合わせ、無数の戦術を組み立てる。

 ……もとより頭だけは自信があるんだ。

 何十手先も読み切って、完膚なきまでに完封する。


 僕は右手へと左手を添えると、左手から猛毒が溢れ出す。

 それらに汚染された『糸』が紫色へと染まり果て、彼は思わず頬をひきつらせた。



「『毒支配』×『老巧蜘蛛』」



「……冗談キツイぽよ!」


 僕は糸を薙ぎ払うと、ポンタはそう叫ぶ。

 彼は無数の拳をその場で繰り出すと、空気が爆ぜ、まるで衝撃波のように糸の襲撃を粉砕する。

 糸が千切れて、細切れに吹き飛んでゆく。


 それらの糸を見て、僕は拳を握りしめる。



「『毒支配・毒霧』」



 瞬間、千切れた糸全てから、猛烈な毒霧が溢れ出す。

 それを前にポンタは難しい顔をうかべる。

 ……もとより、征服王に毒が効くとは思っちゃいないさ。


 これはあくまで、()()()()()()()()()()()




「『()()()()』」




 それは、零巻で見た習得可能だった技能のうち1つ。

 自分の気配を好きな場所へと移動させ。

 そして、僕自身の気配を一時的に消す力。


 僕は、僕の気配を彼の背後へと移動した。


「――ッ!?」


 毒霧の中から、焦ったような声がした。

 両眼を見開く。

 この目は霧の中でも、しっかりと『ポンタの体』を力の塊として捉えている。

 彼は振り返り、全力全開で拳を振りかぶる。


 そして僕は、残った神力を全て、ひとつの力へと費やした。


 観客席へと視線を向けると、六紗と視線が交差した。

 僕の視線を受けて、何かを察したように六紗は目を剥き。


 僕は、笑って他人の力を行使する。




「完全模倣――【我が前に刻は要らず(ブレイブ・オクロノス)】」




 そして、世界の時が止まった。

 瞬間、迫り来る【以上極まる神力消耗】。

 あまりのキツさに目眩がするが、それでも、歯を食いしばって前を向く。


 足を踏み出す。

 思いっきり大地を蹴って、後ろに飛ばす。

 今の身体能力を、フル動員し。

 一歩、二歩、三歩と、加速する。


 されど、直ぐに僕の神力は尽きた。


 ポンタの振り下ろした拳は、毒霧を全てまとめて吹っ飛ばす。

 彼はそこに誰もいない事に目を見開いて、僕の方へと振り返る。



 その時既に、僕は拳を振り下ろしていた。



 振り下ろされる拳は、吸い込まれるようにポンタの頭蓋へと向かってゆく。


 その拳を前に、ポンタはただ、限界まで目を見開いて……。












「……ぽよよっ!?」



 直撃する――その、瞬間。

 ほんの、数ミリ直前で。


 ポンタの体が、元の謎生物へと逆戻りした。


「な……!? ふがっ!?」


 あまりの事態に、僕の拳は虚空を空振り。

 勢いそのまま、顔面から地面へダイブした。

 あまりの痛さに呻きつつ、疲労のあまり全く動くこともままならない。


「こ、れが……神力切れか」


 初めて痛感する『燃料切れ』。

 キッついなぁ! めちゃくちゃキツイ、すごく吐きそう!

 僕は仰向けになって苦笑していると、近くから似たような声が聞こえてきた。


「ぽよぽよぽよ……だから嫌だったんだぽよ。あっ、やばいぽよ。口から朝食べたドックフードがまろびでるぽよ。おい男、ちょっとボクの体を横向きにして欲しいぽよ」

「うるせぇ、さっさと吐き散らせ謎生ぶ……うぉっぷ」


 僕は吐き気を抑えて口を噤むと、すぐ近くから『ぽろろろろろ……』という妙な吐き声が聞こえてきた。


「ちょ、ちょっとあんたたち……救護班! 今すぐ担架持ってきなさい!」


 遠くから六紗の声が聞こえてくる中。

 僕は、思わず笑って息を吐く。



「くっそ……こんな引き分け、有りかよ」



 灰村解とポンタの戦いは。

 互いの神力と想力切れという結末で、幕を閉ざした。




 ☆☆☆




「あんたら熱くなり過ぎよ!」


 その後。

 医務室へと運ばれた僕らは、六紗にそんな理不尽な事を言われていた。

 ので、僕は当然のように反論した。


「いや、お前が戦えって……」

「た、確かに言ったわよ! だけどあんなに善戦すると思わないじゃない! アンタが一方的に負けるとしか思っちゃいなかったのよ!」

「よし、ぶっころ」


 僕は拳を振りかぶると、それを見ていた六紗の護衛、シーラが僕を羽交い締めにした。


「はっ、灰村解! 気持ちは分かる! とても分かるが我慢してくれ! 貴殿は今、かなり深刻な燃料切れ状態だ! 今動けば下手をすれば命に関わるぞ!」

「えっ、そうなの?」


 なにそれやばいじゃん。

 想力(神力)切れ=死、って。

 お前ら、もしかして今までそんな死と隣り合わせで戦ってたわけ? びっくりしたよ新事実過ぎて。

 ……まぁ、僕は想力が切れる心配がなかったからあれだけどさ。そういうことはもうちょっと先に言って欲しい。


 そうこう考えて大人しくしていると、六紗が大袈裟な程のため息を漏らした。


「つーか、アンタなんなのよ? いきなり能力に目覚めて? というか私の力使ってなかった!?」

「えっ? 何言ってんだよ。気のせいだろ?」

「えっ? あ、私の気のせい? …………んなわけないでしょ!? だ、騙されないからね!」


 嘘つけ、今一瞬騙されただろ。

 やっぱりこいつちょろ過ぎるよ。


「ほんとお前……将来、悪い男に引っかかりそうで心配だよ」

「う、ううう、うるさいわね! 私は悪い男になんて引っかからないわよ! 私が好きなのは…………ぁっ! な、なんでもないわよバカ!」

「理不尽すぎる……」


 お前が勝手に自爆してるんだろうが。

 いいって、もう隠しきれてないから。

 そうは思うが、隠しているつもり満々の六紗を前に何かを言う気も起きず。

 僕はポンタを見ると、彼は案の定、自ら虎の尾を踏み潰しに言った。


「いや、優ちゃんが好きなのってこの男ぽy――」

「フンっ!!」


 瞬間、六紗の拳がポンタの腹にめり込んだ。

 ポンタは声にならない悲鳴をあげ、気絶。

 僕は御冥福をお祈りした。

 ほらな? 勝っても負けてもお前は死ぬ運命にあったんだよ。それは引き分けでも同じことだ。


 ポンタはぴくぴくと痙攣しており、それを見て真っ赤な顔をした六紗は僕を睨みつける。


「な、何も聞いてないわよね!?」

「ん? あぁ、耳糞詰まってて聞こえなかったわ」


 そう、僕は難聴系だからね!

 昔に流行ったでしょ、難聴系主人公。

 あれだよアレ。

 だから、ほら。

 拳をこっちに向けないで?

 なんだ殺意を感じるよ。

 おっかないから、ほら。

 なんにも聞いてないって。真面目に。


 必死に弁明すると、彼女は何とか拳を収めた。

 あっ、あっぶねー!

 危うくポンタの巻き添いで死ぬところだったわー!


「そ、そう! それは良かったけれど……ちゃんと耳かきしなさいよ? なんなら私がしてあげても……」

「いや、なんか鼓膜破れそうだからいいわ」

「なんでよ!!」


 六紗はそう叫び、面白そうにシーラは笑った。

 それを見た六紗の怒りがシーラへと向かい、僕は息を吐いて窓の外へと視線を向ける。



 ……さて、これでスタートライン。



 やっと、力を失う前の『背中』が見えた。

 あとは追いつき、追い越すだけ。

 拳を握れば、僅かながら回復した神力が集まる。


「……もっと、たくさんの異能が見れる場所」


 ふと呟いた言葉に、死んだはずのポンタが蘇り、反応を示す。


「……ぽよ。やっぱりお前の能力。コピー系ぽよ? 強奪系と言い……反則ばかり手にする男ぽよ」

「うるせい」


 短くそういうと、体を起こしたポンタはこんなことを口にした。


「……もしも、そのコピーが見るだけで完成するものだとしたら。ボク、ちょうどいい【異能見学会】を知ってるぽよ」

「……ホントか?」


 僕は思わず反応し。

 ポンタは、したり顔をしてこう言った。




「【正統派一武闘会】。正統派の中で一番の異能力者を決める大会が、一ヶ月後に行われるぽよ」




 少なくとも、全然したり顔をするような名前ではなかったと思う。

最近、なんだか六紗が可愛い。

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