我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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やってもうた・・・纏めきれずついに1万文字超えてもうた・・・
お待たせしました、27話ようやく完成でございます。
あえて前書きの時点でお知らせ致しましょう、うちの吸魂鬼は映画仕様で空も飛ぶぞ!お辞儀をするのだ!


27話 最悪な夏休み入り

 吸魂鬼、別名ディメンター、理性を奪う者。

 地上を歩く生物の中で最も忌まわしい生物として疎まれつつもその能力を買われ、魔法使いの監獄であるアズカバンの看守や警備に重用されている魔法生物。

 彼らが恐れられ、彼らの勤める絶海の孤島にあるアズカバンが脱獄不能と言われる理由は、一重に彼らの性質にある。

 彼らは人の幸福な感情を吸い糧にする、正確にはソレを魔力に変換し己が為の原動力として消費する。吸いとられた犠牲者は(二度と幸福にはなれない)とすら錯覚し、長く吸われすぎると重度の鬱病患者のようになってしまい、正気と活力を失って何もできない状態になってしまう。

 過去に悲惨な出来事、具体的には強い恐怖や絶望を経験した者ほどその影響は強まり、最悪狂死する。

 

ーーあんな遠距離で、あの一瞬だけで、アズカバンに放り込まれたのと同等の消耗とは。

 

 自宅のキッチンで温かいココアを作りながら、極端なまでに吸魂鬼に影響された少女を思い浮かべるダンブルドア。

 船着き場での彼女の様、あれはただの気絶と言うには生ぬるい、あれは発狂だ、気絶したのは脳がパンクして意識が飛んでしまっただけにすぎない。

 

ーーヨーテリアや、お主は一体全体、どんな辛い記憶を持っているというのじゃ。

 

 ココアのカップを持ち、先程目を覚ましたヨーテリアの部屋へと持っていく。

 肉体的にも彼女の衰弱は凄まじいものがある、目を覚ますなり嘔吐はしてしまうし、ある程度は暑い筈のこの気温であるにも関わらず身体が芯から冷えきってしまっている・・・それこそ死人のように。

 何より酷いのは精神状態だ、ドアを開けて部屋に入ったダンブルドアは、ベッドに座っているヨーテリアを見て思わず歯を食い縛った。

 

「クッソ・・・畜生、許さない、許さないからな・・・」

 

 片手で伏せた目元を押さえ、吸魂鬼への恨み言をブツブツと呟くヨーテリア、しかしその言葉に怒気は無い、言ってしまえばこれは怯えをごまかす虚勢なのだ。

 許さないという言葉とは裏腹に彼女の歯はガチガチと鳴り続け、もう片手はペットのカピバラであるピーちゃんを抱いて離そうとしない。誰がどう見ても分かる、彼女は完全に恐慌状態にある。

 

「・・・ヨーテリアや?」

「あ、ああ、アルバスか、脅かさないでくれよ」

 

 たった一声にすら過剰に反応し錫杖に手をかけた彼女だったが、声の主がダンブルドアと分かると苦笑いしながら錫杖から手を離した。

 

「気分は、どうかね?」

「・・・あんま良くない」

「やはりのう。これをお飲みなさい、楽になるよ」

 

 そう言って、肩を落として髪を撫で付けながらため息をつくヨーテリアへココアを渡す。

 彼女は迷わずそれを飲み干したと思えば、突然苦しげに咳き込み始めた。

 

「ヨーテリアや、大丈夫かね!?すまぬ、ココアならばと思ったのじゃが軽率であったかッ」

「ゲェホッ、ちが、ヴェッホ、違うん、だッ。

 むせた、ゴホッゲフッ、むせただけだ!」

 

 涙目のヨーテリアに手を振って制止され、鬼気迫る表情で呪文を唱えようとしたダンブルドアはハッ、と我に返って杖を収め、額を押さえながらも、ダンブルドアは自分の狼狽え様を恥じた。

 ヨーテリアがこんな状態だと言うのに、自分が冷静さを欠いてどうする、余計彼女が不安になってしまうだろう。と己を叱責しつつ、むせこむヨーテリアの背をさすり落ち着かせる。

 

「大丈夫、大丈夫だ、色々とだいぶ楽になった」

 

 結構な時間苦しんでいたが、落ち着いた彼女は少しだけ顔色が良くなっている、吸魂鬼の影響を受けた者にはチョコを与えると鬱と似たその症状が緩和されるというが、やはりチョコと類似しているココアでも効果はあったらしい。

 

「凄いな、寒気が完璧に収まったぞ・・・ところでアルバス、やっぱりあの吸魂鬼は外に居るのか?」

「うむ、じゃがミスターマクスウェルと家の周囲に防護呪文を張り巡らせた、奴がお主へ影響を及ぼす事は無い」

 

 だから安心しなさいと、ダンブルドアはヨーテリアに微笑みかけその頭を優しく撫でようとしたが、彼女が礼を言いつつベッドに倒れこんでしまったので断念する。

 しばらく天井を見つめ呆けている彼女を眺めていたが眼福などと言ってられない用事もある、彼はまだホグワーツに仕事を残したままなのだ。

 

「すまんがヨーテリアや、わしは一度ホグワーツに帰らねばならん」

「ああ、仕事があるんだったな」

「うむ。万が一に備えてコレを置いていこう、わしに用事がある時はこれを使いなさい」

 

 そう言ってダンブルドアは、部屋のキャビネットからマグルで言うサッカーボール程の大きさの何かを取り出す、それは愛らしく(?)デフォルメされたダンブルドアご本人のぬいぐるみであった。

 首元に札がかけられており、(アルバスさん人形 ーお腹を押すと喋るよ!ー)などと書き込まれている。

 

「・・・なんぞこれ」

「わしの手作りなんじゃ、可愛いじゃろ?」

 

 アルバスさん人形を手渡され、呆然としているヨーテリアへにこやかに語りかけると、彼女は凄まじく微妙そうな顔をした後、人形を見つめながら唸り始める。

 

「使い方は書いてある通り、お腹を押すだけじゃ」

 

 悪戯を仕掛けた子供のような顔をしてみせたダンブルドアは、最後に「良い子にしてるんじゃヨー」とだけ言って、なぜか部屋の暖炉に入りポケットに入れておいた砂入り瓶を取り出した。

 別に彼はふざけているのでは無い、瓶の内容物の名は煙突飛行粉(フルーパウダー)、行きたい場所を宣言しながらこれを暖炉に振り撒くと、宣言した場所にある暖炉へと瞬時に移動できるという優れ物だ。

 ホグワーツ教師陣はこれを使い、ホグワーツ内の自室へと出勤しているのだ。

 

「ホグワーツ、アルバス・ダンブルドアの私室」

 

 目的地を宣言し粉を振り撒くと、エメラルドの炎が彼を包み、ダンブルドアはホグワーツへと転送された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルバスさん人形を手に入れた!

 ・・・元リーマン現魔法少女ヨーテリアさん、絶賛困惑中でございます。

 吸魂鬼のせいで鬱寸前になって、ダンブルドアのおかげでどうにか持ち直したと思ったらこのアルバスさん人形である、用事がある時にお腹を押せ?喋るって書いてあるだけなんですが・・・

 人形の頭を鷲掴みにして持ち上げてはみたが、試しに押してみるか?なんか「押すなよ?絶対押すなよ?」みたいな顔してたし。

 フリには答えるのが常識、押してみますかね。

 

「ポチッと、な・・・」

『もしもし、わしじゃよ』

 

 うおっ、マジで喋ったびっくりした。

 思わず声をあげて人形を取り落とすと、人形がダンブルドアボイスで愉快そうに笑い始める、もしもしって言ってたような気がするが何だこの人形は?

 

『すごいじゃろこれ、マグルで言う電話という奴かの?』

 

 当たり前のようにダンブルドアの声が響く、どうやら電話のようになってるらしい、さっき手作りって言ってたけどこの不思議機能も含めてか?

 何してんですかイギリス最強。

 

『わしの部屋のヨーテリア人形と繋がっておる、タダだし留守電機能付きじゃ、気軽に連絡してきなさい』

「お、おう・・・いやちょっと待てコラ、私の人形ってどういう事だよ」

『HAHAHAHA、じゃあの』

 

 ご丁寧に通話終了の音が鳴り、何度呼び掛けても応答が無いので人形をベッドに放り投げた、何を勝手に人をぬいぐるみにしとるかねあの耄碌ジジイは。

 ・・・まあ、これでダンブルドアとは普通に連絡出来るって訳だ、いつ帰ってくるかも分かる。

 あの腐れディメンターの影響も無いようにしてくれたらしい、研究でもして過ごしていようかな。

 

「・・・吸魂鬼ィィ・・・」

 

 思い出したら腹が立ってきた、自分の死ぬ様を思い出させられるなんて最悪の気分だ、あの吸魂鬼どうしてくれようか、殴り倒してやろうか?

 いやダメか、吸魂鬼にはある一つの魔法でしか対抗出来なかった筈だ、確かアズカバンの囚人で有名な呪文だった気がする、その呪文について調べてみても良い、やる事が沢山だ退屈しないぞーワハハ。

 善は急げの格言に従い本棚から本を選ぶ、フィルチおじさんのくれた本が丁度良いかな、確か防衛術関連の本だった気がする。

 本を何冊か抱えてさあ研究と意気込んだが、若干部屋が暑いのか気になる、もっと窓開けて風入れるかぁ。

 なんて思いながら閉じられたカーテンと窓を開けて、吹き込む風を存分に堪能する、これなら涼しいだろう。

 ついでに外の風景を眺めていると、少し離れた地点で何か黒いものが飛んでいるのが見えた、鳥かな?

 ・・・いや、鳥ってホバリングしたっけ?

 しなかった筈だ、なのに何故あの黒い物体はその場で止まってるんだ?

 

「ひッ」

 

 急いで窓を締めた、カーテンも締めた、馬鹿野郎なにが鳥だよ、そんな可愛い物じゃない!

 吸魂鬼の奴が、空に浮いて俺をじっと見ていやがった!

 

「見てやがった、ずっと見てやがったんだッ」

 

 目を凝らした時にはっきり見えたッ、全身が粟立つみたいな感覚がするし歯がガチガチと勝手に鳴りやがる、洒落にならないぞこんなの、おかしくなりそうな位怖い、自宅付近の住宅は少ないと言えど他に人が居るだろうに、あの吸魂鬼は俺だけをずっと見ていた、あいつ俺を狙ってやがるんだ!

 

「畜生、なんでこんなッ、ふざけんなよッ・・・!」

 

 布団にくるまってピーちゃんを抱えても、怖気(おぞけ)と震えは止まりはしない、なんで窓開けたりしたんだ俺の馬鹿!

 最悪だ、こんな状態で二ヶ月過ごすのか・・・ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリンデルバルドが、ねぇ・・・」

 

 9と4分の3番線にホグワーツ特急が辿り着いたのは、ヨーテリアが気絶してから半日もの時間が経った頃だった。

 ヨーテリア・グリンデルバルドが吸魂鬼を恐れて船着き場で気絶したという噂は汽車内で急速に広まり、当然英雄トム・リドルの耳にも入った。

 彼はその話を信じなかった、その噂を話してくれた上っ面だけの不愉快な友人達の前でこそ平静を装ってはいたが、内面ではそんな馬鹿なと笑い飛ばしていた。

 離れたとは言えど己の一番のお気に入り、このトム・リドルを打ち負かした唯一の女、それがたかだか吸魂鬼如きに後れを取るなどありえないと疑わなかった。

 しかしキングス・クロス駅に着いても、あの目立つデカい金髪は現れず、自分の家である忌まわしい孤児院に帰ってからもリドルはその事が頭から離れなかった。

 

ーーあのグリンデルバルドが、僕の認めた女が、吸魂鬼などにしてやられる筈がない、しかし・・・

 

 頭を抱えてウンウンと唸っていたリドルだったが、もやもやとした気分と長ったらしい思考を頭をブンブンと振る事で振り払った。

 

ーー何を狼狽えているトム・リドル、あの女より気にしなくてはならない事があるだろう。

 

 そう自分を叱りつけながら、リドルはポケットの中にあるメモを取り出した。メモにはこう書かれている、(マールヴォロ)だ。

 

「トム?もう帰ったの?」

「どうも、ミセス・コール」

 

 自室の扉を開けた痩せ気味の女性へ振り返りもせずにリドルは返事する。

 孤児院に勤める親同然の人であってもリドルは何の恩義も感じていない、忌々しい顔を見たくもないし不機嫌になった顔を見せてトラブルになるのも嫌だったのだ。

 

「ミセス・コール、僕の祖父・・・母さん側だけど、マールヴォロって言いましたっけ」

「アー、そうねぇそんな覚えがある、あなたのお母様の父親がマールヴォロだって、お母様本人が言ってたもの」

「どうも」

 

 素っ気なく返事をしながらリドルはメモの(マールヴォロ)の字を見つめる。

 リドルは在学中、空いた時間を使って自分の親について調べていた、魔法史の本、歴代監督生の記録、全部漁ったが結局魔法使いだと思っていた父親の名は出てこず、父親が魔法族でない(マグル)である事を理解した。

 

ーー僕を生んで死んだ母さんが魔法使いだったとは、意外だったが・・・

 

 リドルは母親の父、(マールヴォロ)の名前が書かれたメモをじっと見つめた。

 彼の調べによればマールヴォロ、正確にはマールヴォロ・ゴーントはスリザリンの血を引く名家だ、なにかと問題を起こしているようだがそんな事はどうでもいい。

 彼はホグワーツに居た時から夏休みに親戚であるマールヴォロを訪ねようと計画していた、少しでも良いから話をしてみたかったし、なんの音沙汰も無い父親がどうなったのか知っているかもしれない。マグルだし、別に死んでても構わないが。

 

「明日からしばらく孤児院を出ます、心配しないでください」

「そうするわ」

 

 今日は孤児院で休む、完璧で優秀な自分とて疲労と睡魔には勝てない。どっかの親愛なる脳筋とは違うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忌々しい孤児院を出て、リドルはゴーント一族の住むというリトル・ハングルトンなる小さな村を訪ねていた。

 ロンドンのプリべット通りから300㎞も離れたこの村に半日もかけて来るのは骨だった、汽車に揺られ落ちていく日を眺めながら、リドルは何故ロンドンなんて遠くの孤児院なんかに預けたんだ・・・と半眼になったものだが宿泊料や杖、いくつかの魔法薬も用意した、途中通ったグレート・ハングルトンなる村に泊まれそうだし何も困る事は無い。

 しかし彼と言えど徒歩で一時間はかかる距離なので、出来れば親戚のよしみで泊めて欲しいものだが・・・

 

「暗いな・・・ランプは、あった」

 

 用意しておいたランプを灯し、リトル・ハングルトンを歩くリドル。

 マグルの道具に頼るのは優秀な魔法使いとして腹立たしいが、未成年が学校外で魔法を使うと魔法省にしょっぴかれてしまう、やむを得ない。

 

ーー・・・嘘だろ?

 

 そしてゴーント宅と思われる家に辿り着いたリドルは、今にも崩れそうなあばら屋を見て、家主はとっくに死んでいるのではなかろうかと不安になった。

 ゴーント宅は崩落寸前の廃墟のようになっていたが、構わずリドルは蛇の死骸が打ち付けられた戸口をノックし、木の軋む音と共にゴーントの家へ入場とした。

 外観も酷い物だったが屋内はそれ以上に汚れ果て、すえたような気分の悪い異臭まで漂っていた、何かの腐臭だろうか?

 まさかと思い辺りを見回したリドルは、薄暗い部屋の中で肘掛け椅子に座る、髭と髪の伸びっぱなしなあまりにも不潔な男を見つけた。

 男は数秒間、警戒した様子で己を見つめていたリドルを注視していたが、やがて怒り狂った様子で弱った体を立ち上がらせ、両手に持っていた杖と小刀を振り上げた。

 

『貴様ァァッ、キィィィッ、サァァマァァァアッッ!』

 

 突然半狂乱になって襲いかかってくる男は、明らかに人でない言葉を話していたが何故かリドルには理解できた、だってその言葉は、忌々しいあの蛇と話すのに使っていた言葉なのだから。

 

『やめろ』

 

 つまる所(蛇語)だ。シュルシュルと不気味な音を立てて見せたリドルは、勝手に地面に倒れ付した無様な男を不機嫌そうに眺めた。

 男は先程まで放っていた殺気を鎮まらせ、自分と同じ蛇語を話してみせたリドルをしげしげと観察している。

 

『・・・お前、蛇語を話せるのか』

 

 男の問いを簡潔に肯定しながら、リドルは壊れやすそうな戸口を紛れもない怒りを込めて閉めた。

 自分はこんな薄汚い気狂いに会うために遠路はるばるやって来たのでは無い、さっさとマールヴォロを出せと言わんばかりに祖父の所在を尋ねたリドルは、男の吐いた言葉にぐらりと脳を揺さぶられた。

 

『死んだ、親父は何年も前に死んじまったんだろうが。

 ・・・何を呆けた顔してやがる、えぇ?』

 

 リドルは祖父が死んだ事もそうだが、何よりも(自分が動揺している)という事実に驚いた。

 顔も知らない、会った事もない祖父が死んでいたぐらいで自分は何を狼狽えているのか、と自力で正気に戻った彼は男に再び目を向けた。

 

『ならお前は誰だ?』

『モーフィン、マールヴォロの息子だ、違うのか、え?

 そんな事よりだ、オメェはあのマグルにそっくりだ、妹が惚れやがったマグルに・・・』

『そっくり?どのマグルの事を言っている?』

『リドルだ、オメェにもっと年を食わせたみてぇで、向こうのでっかい屋敷に住んでやがる、戻ってきやがったんだ』

 

 リドル、間違いなく自分の父親の名だろうが、今この男は戻って来たと言ったのか?

 

『あの男は妹を、メローピーを捨てやがったのよ!

 ド腐れと結婚して良い気味ってモンだが、盗みやがった、スリザリンのロケットをよ・・・』

 

ーー捨て、捨てただと!?

 

『泥ォ塗りやがった!あのクソッタレのアマ、マグルなんぞと結婚しやがって・・・ッ!

 それでェ?そォォんな事を聞きやがる奴ァァだァァァれだァァ???おしめぇだぞ、オメェはおしめぇだッ!』

 

 モーフィンは足を縺れさせながらも杖と小刀を構え、動揺しているリドルへ襲い掛かった。

 普段のリドルならば簡単に反応できる鈍い動きだ、だが彼は反応出来なかった、呆然としていて倒れかかってきたモーフィンにそのまま押し倒されてしまった。

 

「チィッ、〈ルーデレ!〉」

『おしまいだ、そうしてやゴホァッ!?』

 

 彼の考える中で最も発動の早い呪文、咄嗟に放った〈ルーデレ〉が功をなし、目の前に迫った小刀をモーフィンごと吹き飛ばした。

 

「〈ステューピファイ!〉」

 

 吹き飛ばされて尚向かって来ようとしたモーフィンへ呪文を放つ。失神呪文の直撃した狂人はいとも簡単に意識を刈り取られ酷く汚れた床の上に転がることになった。恐らく目を覚ますのは次の日だろう。

 愚か者を排除したリドルは、歯向かってきた事への怒りすら感じず、ただただ虚しく気絶した親戚を見つめていた。

 

「・・・なんだ、これは」

 

 額を押さえながらリドルは力無く呟いた。

 何故自分がここまで参ってしまっているのか、彼にはまったく理解できなかったが、それは彼が自分の状態を自覚していなかったからだ。

 何年も連れ合った友人と呼ぶべき所有物を全て失い、彼は自分の想像以上に、精神的に追い詰められていたのだ。

 失った事もそうだが、何よりも失った後の孤独感に苛まれ、何かにすがり付きたくて仕方が無かった。

 プライドの高い彼はその事実を無意識に否定していたが、己の血筋を確かめるとマールヴォロを探してここまで来たのも、結局は身内に会って孤独を癒したかっただけだ。

 だのに、この状況は一体なんだ。

 己の誇る血筋は落ちぶれ、音沙汰の無かった父は自分と母を捨てていた事が確定し、挙げ句すがろうとした身内に殺されかけた、癒す所かさらに追い詰められているではないか!

 

「・・・向こうの屋敷か」

 

 リドルはモーフィンから杖を奪い、指にはめていた指輪も略奪し己の指にはめた。

 モーフィンが本当にマールヴォロの息子なら、恐らくこれはゴーント家の財産の一つなのだろう。

 だが、もうこの男には必要ない。

 最後にモーフィンに呪文をかけ、とある記憶を埋め込んだリドルは幽鬼か何かのようにゴーント宅を出て、モーフィンの言う大きな屋敷へと向かう。

 その最中、彼は持ってきていた道具の中から、綿密に蝋で封をなされ、さらに保存が効くよう魔法で保護された小瓶を取り出した。

 フェリックス・フェリシス、本当ならば彼のとある研究で行き詰まった時使いたかった、幸運を呼ぶ魔法薬。

 プライドの高いリドルが、秘密の部屋を開けるときも己の働きにこだわったあのトム・リドルが。

 

 ずっと軽蔑していた幸運薬を、飲んだ。

 

 

「すいません、トム・リドルさんのお宅はこちらでしょうか?」

 

 大きな屋敷に辿り着き、戸口をノックしたリドルは不機嫌そうな顔をして出てきた老紳士にそう尋ねた。

 

「息子がどうかしたかね・・・?それより君、息子とよく似ているような気がするが」

「気のせいですとも。息子さんにお招きされたのですが」

 

 でっちあげだった。無表情のままリドルの言葉に、彼の祖父と思われる老紳士はまんまと騙され、彼を居間へと通して息子を呼びに行ってしまった。

 着飾った高飛車な婦人・・・恐らくは祖母なのだろうが、彼女に睨まれながらも、リドルは静かに父親を待っていた。

 

「父さん、私は客なんか招いていませんよ、本当ですってば」

 

 老紳士と口論しながら居間に入ってきたのは、リドルにそっくりのハンサムな男性であった。

 男性は自分と瓜二つな少年を見た瞬間サッと青ざめ、その顔を眺めながらリドルは抑揚の無い声でこう言った。

 

「はじめまして、トム・リドルさん」

「なんだ君は、君なんか知らないし呼んでない、今すぐ帰ってくれ」

「メローピー・ゴーント、知らないとは言わせません。

 僕はトム・マールヴォロ・リドル。あなたとメローピーの息子です」

 

 狼狽える父親に、リドルは容赦なく言葉を浴びせた。

 その言葉を聞いた瞬間、老紳士は怒り狂って土気色になった息子へと食って掛かり、婦人はヒステリックにリドルを罵倒し始めた。

 

「トム、一体どういう事かね!?あの忌々しい女にたぶらかされた挙げ句、子供までだと!?」

「違うんだ父さん、何かの間違いなんだ、私は決してそんな事はッ」

「あの薄汚い泥棒猫の息子ですって!?なんて汚らわしいッ、一体どういう了見で我が家に居るのかしら!」

 

 婦人に投げ付けられたカップが額を直撃し、入っていた紅茶がリドルの頭にぶちまけられる。

 普通ならばここで親が出る、しかしその親はあろう事か、母親に同調しリドルに当たり散らし始めた。

 

「帰れ!お前は私の息子じゃない、我が家から出ていけ!」

 

ーーなにが幸運薬だ、散々じゃないか?

 

 額から伝う紅茶以外の液体を拭いながら、リドルはぼんやりと怒鳴る父親を見つめていた。

 この際下等なマグルでも構わない、もしかしたら全部何かの間違いで、自分を迎えてくれるかもしれない・・・そんな血迷った考えも、追い詰められた彼にはあったかもしれない。

 だが父親はやはり自分と母を捨てていた、愛情なんてこれっぽっちも存在していなかった。

 あまりに徹底的すぎて笑いすらこみ上げてくる。濁りきった目で父親を見つめながら、ある意味幸運かもしれないと、リドルはモーフィンの杖を取り出した。

 

ーーこれから殺すのに、迷いがなくて済む。

 

「〈アバダ・ケダブラッ!〉」

 

 まずはカップを投げ付けた母親、モーフィンの杖を向け呪文を唱える。

 放たれた緑の閃光は、寸分の狂いも無く婦人の胸に直撃した、しかし婦人は何の外傷も負った様子もなく、何かしらの呪いや毒に蝕まれた形跡も無い、至って健康体のままであった。

 

「かっ、母さんッッッ!?」

 

 死 ん で い る 事 以 外 は 。

 

「小僧ッ、貴様妻に何をしたァッ!?」

「〈アバダ・ケダブラッ!〉」

 

 伴侶が糸が切れたように床に倒れ付すのを見た老紳士は、妻に(何か)をした少年へと突進する。

 しかし再び呪文が放たれ、怒り狂った老紳士を妻と同じように物言わぬ死体へと変えた。

 これが、(アバダ・ケダブラ)。人に向けて放つだけで、魔法使いの牢獄であるアズカバンに放り込まれ、残りの人生と命を、吸魂鬼に貪られ続ける事が確定する禁じられた呪文。

 反対呪文など無い、ただただ対象を確実に絶命させる為だけの、強力かつ無慈悲な闇の魔法だ。

 

「なんだこれは、お前ッ!一体何をッ」

「何故捨てた」

 

 腰を抜かした実の父親に杖を向けながら、リドルは静かにそう呟いた。

 

「何故メローピー・ゴーントを捨てた?」

「な、何を言って・・・?」

「なんでッ!僕とッ、母さんを捨てたッッ!?」

 

 リドルは叫んだ、溜まりに溜まったあらゆる激情を、目の前の父親に衝動のままにぶちまけた。

 母は特別だった、スリザリンの血統を受け継ぐ特別な魔法使いだった、自分だってそうだ、幼い頃から魔法も使えた、何人もの人間を支配し思うがままに動かせた、そんな特別な自分達をよりによって下等なマグルのお前が、何故捨てた!

 

「どうしてッ、捨てたりしたんだよォォッッ!?」

「・・・うるさい、うるさいうるさいッ、このイカれた異常者がッ、お前達みたいな人種をこの私がッ!愛する訳が無いだろうッッ!?」

「〈アバダッッ・ケダブラァァァァッッッ!〉」

 

 父親へ向けた詠唱は、もはや悲鳴に他ならなかった。

 込められた過剰な魔力の余波で吹き飛ばされたトム・リドル・シニアは、両親共々魂の抜けた骸となって屋敷の床で眠ることとなった。もう屋敷で生きている者は、リドルだけだ。

 

「・・・ハハッ、ハ・・・」

 

 トム・リドルは生まれて初めて、自らの手で人を殺した。

 だが何も感じなかった。人を殺めた罪悪感も、母の無念を晴らした喜びも、自分達を捨てた父親への侮蔑も。

 何もない、今のリドルには、何もない。

 鉛のように重く感じる身体を引きずり、彼は屋敷を出て、ゴーントの家へと戻り気絶したモーフィンへ杖を投げ付けた。

 アバダ・ケダブラは彼の杖で唱えた、取り調べれば彼の杖から証拠が出るだろう、しかもリドルは、自分があの一家を殺したとモーフィンに嘘の記憶を埋め込んだ。

 前科持ちのマグル嫌いだ、魔法省は彼を真っ先に疑い、モーフィンも自分が殺してやったと大笑いするだろう。

 リドルが捕らえられる事は無い。

 

「・・・はは、我ながら酷い顔だな」

 

 グレート・ハングルトンに向かおうとしたリドルは、ゴーント宅の廃品同然な鏡が目に留まり、どこかで見たような、真っ暗な目をした自分の顔を見て苦笑いした。

 何を感じているのか分からない、真っ暗な無感情な目だ、これではまるで、あの時のアイツのようでは無いか。

 

「貴様も、こんな気分だったのか・・・?」

 

 ぼんやりと呟いた後、リドルは自分の醜態を映し続ける鏡を、何故か部屋にあった杭で叩き割った。




2016年5月26日、リドルの発言のミスを修正。
どうして地の文じゃないのにパパリドルの後ろにシニアって付けちゃったんだか・・・。

2017年7月10日、リドルの名前のミスを修正。

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