我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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ハリーは親が死ぬ様を思い出す。
ではヨーテ嬢は、どの思い出を思い出すのでしょうか?


26話 5年次修了式

 ホグワーツも夏、熱さが際立つこの頃、ペットの餌の催促に起こされ俺は起床する。

 大欠伸をしながら全身の関節を鳴らし、気だるさ全開の状態でベッドから降りて眠そうに目を擦りつつ、ピーちゃんに餌をやる。

 もはや大人と言えるサイズ、このカピバラは相も変わらずチュウのチの字も鳴きません。

 

「ほぅふ」

 

 キャベツをカリカリと食べるのを見届けてから、顔を洗うためにふらふらと洗面所へ向かう。

 二、三回水で大雑把に洗ってから鏡に映ったいつも通りに目が死んでる自分の顔を確認する。

 この前は顔面に魔法を受けたせいで鼻を折り二週間程またギプスをつけるハメになったが、ギプスを外した現在、俺の鼻は問題なく完璧に元通りになっている。本当に良かった。

 

「グリンデルバルド、起きてい、ぬぅっお!?」

 

 突然背後から聞こえた地獄ボイスに飛び上がり後ろを振り返って見るとそこには思った通り、俺、ヨーテリアさんの天敵である血みどろ男爵が目元を隠しながら壁から上半身を出していた。

 はて、何故目元を隠してらっしゃる?

 

「英国淑女ともあろう者が、なんと破廉恥な!服を着ぬか、服をッ!」

 

 俺の首から下を指差して大慌てで喚く男爵、自分を見下ろしてみれば成る程、下着だったわ。暑いから寝る前に服を脱ぎ捨てたの忘れてた。

 しかし男爵。随分とまあウブな反応ですなぁ、意外と面白いと言うか、かわいいトコあるじゃん。

 どれ、存分にからからかってやるとしよう。

 

「んふふ、どうした、血みどろ男爵。

 どうして私から目を逸らすんだ?ん?」

「こっちに来るな、さっさと服を着なさい!神聖な修了式の日に、穢らわしい!」

 

 15歳そこいらの女の子に穢らわしいとか言うなよ、普通泣くよ?普通の子だったら間違いなく号泣よ?

 しばらく男爵をからかった後、制服を着こんでぼんやりと机に重なった手紙や本を見つめる。

 修了式か。あの騒動から、もう一ヶ月も経つのか。

 男爵が居たから襲撃なんてされなかったし、ダンブルドアの所に遊びに行ったり、罰則だけどハグリッドと森番の仕事しながら話だって出来た。

 何よりフィルチおじさんがたまに手紙くれたし、俺からも手紙送ったりして、寂しくは無かったな。

 ・・・幸福だったとは言い難いけど。

 

「行くかぁ・・・」

 

 変にいちゃもんを付ける口実を与えてはならない。

 裏地が緑のローブ、つまりホグワーツの正装、それを制服の上から羽織り準備完了さあ指導できるもんなら指導してみやがれ。

 そう思いながら自室を出て鍵を閉め談話室へとゆらゆらと歩いていく。

 談話室は生徒でごった返していたが、賢いお子様方はいつも通り俺の姿を見るや否やお通夜みたいに静かになって、目を逸らしてゆく。

 もはや慣れたモンだが、ふと引率の監督生、つまり俺が自分で引き剥がした英雄様、トム・リドル坊やと目が合って思わず固まった。

 

「・・・下級生の子達!僕に付いて来なさい」

 

 リドルはすぐに目を逸らし、下級生を率いて大広間へと歩いていってしまった。

 分かっていた事だ、俺がこうしたんだよ。俺が自分であの子を引き剥がした、そうだろうが。

 思考を振り払い、談話室の出口へと向かう。

 スリザリン生はどいつもこいつも俺から離れ、自然と出口まで一本道が出来上がる。人混みを掻き分ける手間が省けたと思っておくか。

 嬉しいか?まさか、胃が痛いだけですよ、畜生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、一年が過ぎた。尊い一年がのう」

 

 大広間にて、ディペット校長は校長席から、厳粛に大広間を見回しながらそう言った。

 生徒達は偉大な校長様の言葉を聞いたと思えば全員が静まり返り、校長席へと注目する。

 俺、ヨーテリアさんは眠ってしまおうとしたが、男爵に睨まれたので仕方無く校長の方へ顔を向ける。

 

「今年は申し訳無いが、寮対抗杯は短縮じゃ。スリザリンの首位を祝えんのは残念じゃが、わしは悲しい話をせねばならん」

 

 ディペット校長は手元のゴブレッドを掲げ、しめやかかつ厳かに、そう宣言した。

 

「わしらは、今年恐ろしい悪夢に襲われた」

 

 ズキン、と胃が痛んだ。

 頭痛と吐き気もする、なんだ、この圧迫感は。

 校長が明らかに俺を睨み付けているのもある、でも一人に睨まれただけでこんなに重圧が果たしてかかる物だろうか、いや、ありえない。

 

「トム・リドル、我らが友にして英雄。彼は知っての通り、諸君らを脅かした唾棄すべき、残忍な襲撃者を捕まえてくれた。彼に賛美と拍手を送りたい、しかし」

 

 誇らしげな口調から一変し、ディペット校長は血返吐を吐きそうな、苦しげな声で語り始める。

 

「わしらにはもう一人、仲間が居た」

 

 ゴブレッドを下ろし、校長は額を押さえた。

 

「ここには居ない、もう一人の友が居た。

 彼女は、滅多にない、忌むべき事故によってこの修了式に出る事が叶わなくなった。

 純朴で真面目だった彼女を知る子は、きっと悲しみに暮れているじゃろう。

 わしは、彼女の為に黙祷を捧げたいと思う。

 生徒諸君、しばしの黙祷を、願い申す」

 

 トイレで死んじまった、マートルの事、だよな。

 最後にあの子に会ったのは、多分俺だろう。

 あそこで適当な理由をつけて呼び止めてたら、あの子は死なずに済んだかもしれない。

 そう思いマートルへ黙祷をしようとして、気付いた。そりゃ、そうだよな、これなら圧迫されるよ。

 周囲の奴等の半分もが、俺を見てりゃ、な!

 どいつもこいつも、俺を横目で見ている、目で語っている。お前の仕業だな、って。

 俺は何もしてない、決めつけるなよ、ド畜生。

 

「ありがとう生徒諸君、夏休み後、誰一人として欠けること無く再び、この大広間に集まっておくれ。

 これにて解散とする、また会おう、諸君」

 

 校長の号令と共に、各寮の監督生や首席が生徒を率いて、それぞれの寮へと戻っていく。

 俺も寮に戻ろうとしたが、男爵に呼び止められた。

 

「グリンデルバルド、夏休みの件で校長とダンブルドア先生が話があるそうだ」

 

 そのまま男爵に先導され、大広間の奥にある広い部屋へと連れていかれる。

 部屋の中では校長が椅子に座っており、ダンブルドアがその隣でキツい顔をしながら、俺の事をブルーの綺麗な目でじっと見つめていた。

 

「呼びつけてすまないね、ミス・グリンデルバルド」

 

 口では謝っていても、親の仇でも見るみたいに俺を真顔で睨み付けては全く説得力が無い。

 

「君の夏休みじゃが、普通に帰宅してもらうが、闇祓いと吸魂鬼が継続して警備するそうじゃ。

 君は家に軟禁状態になるが、我慢しておくれ」

 

 全身から敵意を発散させながら校長が言った言葉を聞いて、俺は頭が真っ白になった。

 あの家に、闇祓いはともかく吸魂鬼だと?しかも、軟禁って、家から出るなって事か?

 

「じょ、冗談じゃ・・・」

「魔法省の意向じゃ、君を管理する必要がある。

 どうか理解して、受け入れてほしい」

 

 絶望しか無かった。洒落にならないぞ、これ。

 助けを求めてダンブルドアへ視線を移したが、怒りと失望に顔を歪めながらも俺を見つめて、ただ一言、「すまない」と悔しそうに呟いた。

 ・・・どうにもならないのか、分かったよ。

 

「ヨーテリアや、わしも定期的に帰宅する、お主を一人にはしない、約束しよう」

「・・・ありがとう、アルバス」

「了解してくれたと見ていいね?助かるよ。

 寮で支度をしなさい。始業式にまた会おう」

 

 校長に促され無人の大広間に戻ると、出口前には血みどろ男爵とハグリッドが居て、何やら話し込んでいたが、ハグリッドが歩いてくる俺に気付いて大きく手を振り始める。

 

「待ってたぞ、ヨーテ!しばらく会えねぇから、最後に挨拶ぐれぇはしてえと思ってな!」

 

 近くに寄るなり俺の肩を力強く叩きながら笑顔でそんな事を言うハグリッドだったが、俺の表情が真顔のまま変わらないのに気付き、すぐに心配そうな顔になり顔を覗きこんでくる。

 

「どうした、ヨーテよう?先生方に、なんか言われたのか?」

「なんでもないよ、大丈夫」

「大丈夫じゃねぇ、そんなに暗い顔しちまってよ。

 俺に話してくれやヨーテ、友達だろうが?」

 

 俺の事を真剣な顔で真っ直ぐ見つめてそんな事を言い始めるハグリッド。

 思わず涙腺が緩む。その言葉はズルいだろう、(友達だろう)だなんて、泣かせようとしてるのか?

 なんとか涙を抑え込み、ハグリッドを見る。

 少しなら、吐き出しても、いいだろうか。

 

「闇祓いと、吸魂鬼が家を警備する。

 私は、夏休みに家から一歩も出れないらしい」

「な、なんだそりゃ!?なんだってそんなッ、そんなのあんまりじゃねえか!ええ!?

 先生は、ダンブルドア先生はなんにも?」

「アルバスでも、どうにもならない」

 

 俺がそう言うと、ハグリッドは頭を抱えてあんまりだ、と唸るように呟き続けた。

 男爵は、さっきまで俺の居た部屋を睨みつけた後、深くため息をついて苛立たしそうに腕を組んだ。

 ・・・もしかして、怒ってくれてるのかな?

 

「なあ、俺が行ったら、取り消してくれっか?」

「聞く耳持たないだろうし、いいよ。

 心配してくれて、ありがとうな」

 

 最後にハグリッドに笑いかけ、寮に戻る。

 ハグリッドは名残惜しそうに手を振りながら、男爵に張り付かれ歩いて行く俺を見送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドロホフ、ご苦労だったな」

「本当にな、優等生様」

 

 トム・リドルは、下級生の引率を終えた後、自室でここ一ヶ月間、ヨーテリアの監視を任せたドロホフに労いの言葉をかける。

 

「この一ヶ月、本当によくやってくれたな」

「そうだな。あの女がどれだけ恐れられてるか身をもって実感した。話すだけで、これだ」

 

 二の腕についた火傷を見せるドロホフ。

 彼女と関わったからと、他寮生に襲われた時、慢心故に不覚をとったせいで付いた傷だ。

 

「ふん、お前らしくもない。休み明けも頼むぞ。

 絶対に、グリンデルバルドから目を離すな」

 

 火傷を杖の一振りで治して見せたリドル。

 二の腕をさすり、完治したのを確認しながら、ドロホフは呆れるやら、珍しいやらで半眼になりながらリドルを見つめた。

 この前から思っていたが、この執着具合は異常だ。

 いくら相手が、一番のお気に入りだとしても、ここまでリドルが他人に執着し気にかけるなど、普段の振る舞いを見ているドロホフからすれば病気か何かにかかったようにしか見えなかった。

 例えば、胸が苦しくなるような、(アレ)とか。

 

「リドルお前、あの女を愛してるのか?」

 

 からかうついでに、ドロホフがそう尋ねた。

 慌てるか激怒するか、反応を楽しみにしながら目の前の優等生の顔を眺め、笑って見せたが、リドルは口を(への字)に曲げ、不機嫌そうに言った。

 

「いいや、全然?」

 

 ドロホフは口をあんぐりと開け、リドルを見つめる。

 リドルは肩をすくめながら、饒舌に語り出す。

 

「あの女は、全然思い通りにならないし、僕の所有物の分際で簡単に反逆する癖に、考えなしに衝動か思い付きだけで動くから危なっかしくて目が離せない所もある。

 信じられるか?あの馬鹿、一年の頃に半月も不眠不休の朝食抜きで研究に没頭してたんだぞ?

 それだけじゃない、実力はある癖に抜けてて、その上うざったい程の蜘蛛嫌いときたものだ。

 本当に苛立たしい、嫌な女だよ、アイツは。

 僕がアレを愛すだと?ありえないな、絶対」

「・・・そ、そう、か?」

「そうだとも、変な事を聞くんじゃない。

 まあいい、スラグホーン先生の所に行く。生徒の人数を報告しないと」

「・・・俺も、トイレ行ってくる」

 

 二人が部屋から出てリドルは談話室の出口、ドロホフは談話室内のトイレへと歩いていく。

 リドルが出口の扉を開けようとした瞬間、向こう側で生徒が合言葉を言ったらしく扉が開き、目の前に一人の生徒が現れる。

 

「「えっ」」

 

 リドルともう一人のあげた素っ頓狂な声に気付き怪訝な顔をしながらドロホフが出口を見ると、立ち尽くしているリドルの目の前に目を見開いたヨーテリアが居て、二人共固まり蛇に睨まれた蛙の如く棒立ちになっていた。

 しばらくして、リドルが出口の左側へと寄るが、ヨーテリアも同じ側に寄ったのでお互いぶつかりそうになり、慌てて右に移動するが両者共、同じタイミングに、同じ方向に寄った為、再び互いの進路を妨害する結果となる。

 二度その流れを繰り返すと、ヨーテリアが舌打ちし顔を怒りに歪めながら、リドルを睨みつけた。

 

「テメェこのッ、リドルッ!」

「グリンデルバルド!貴様ァッ!」

 

 ヨーテリアが怒鳴り付けるのと同時に、リドルも激怒して声を荒げ、彼女に食って掛かる。

 彼らはしばらく睨みあった後に、同時に我に返り、互いに視線を逸らしてヨーテリアは右側を、リドルは左側を通り抜け無言ですれ違った。

 

「ブフッ、クククッ・・・」

 

 二人がほぼ同時にため息をついたのを見て、ドロホフは笑いを堪えながら個室に逃げ込んだ。

 

ーー(アレを愛すなどありえない)だと?

 まったく、どの面下げて言うのやら。

 

 笑いを抑え込みながら事を済ませたドロホフは、澄ました顔で個室を出て、支度の為自室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〈エンゴージオ〉」

 

 荷物で一杯になった・・・中身は主に本だが、旅行鞄二つを強化した腕で楽々担ぎ、部屋を見回す。忘れ物は何もない、部屋の私物は全部入れた。

 最後にピーちゃんを頭に乗せ、準備万端、船着き場に向かう為に、部屋を後にする。

 これから二ヶ月、軟禁生活に耐えなくてはならない。

 外に出れないのは気が滅入るが、研究してれば良い。せいぜい二ヶ月のんびり過ごしますかね。

 玄関ホールを抜けて、学校の正門に出ると、ダンブルドアが生徒に手を振っているのが見えた。

 生徒の見送りだろうか?そう思いながら近付くと、ダンブルドアはこちらに気付き手招きしてくる。

 近くに寄るなりダンブルドアは心配そうな顔をして俺の肩に手を置きながら、重々しく口を開いた。

 

「ヨーテリアや、夏休みの件じゃが・・・」

「心配するなよアルバス、大丈夫だから」

「そうかね・・・船着き場まで送らせておくれ。

 闇祓いが居る筈じゃ、話をせねば」

 

 ダンブルドアに連れられ船着き場へと向かう、確か夏休み中に定期的に会いに来るんだっけ、忙しいだろうに、お優しい事だなダンブルドアよう。

 休みの間、料理でも振る舞ってやろうか?焼きそば位ならよく自炊してたモンだし。

 

「ダンブルドア先生、お久しぶりです」

 

 船着き場に着くと、若い片眼鏡の魔法使いがダンブルドアに笑顔で手を振ってきた。立派な制服だ、闇祓いだろうか?

 

「おお、マクスウェル君か、久しぶりじゃ。

 君が闇祓いであったか、ならば安心じゃ」

「先生、この子が件の?」

 

 闇祓いが、俺をじっと見つめながら尋ねる。

 真面目そうだが、怖そうな人でなくて良かった。

 

「左様、彼女がヨーテリア・グリンデルバルドじゃ。

 マクスウェル君、この子は悪人では無い、どうか優しくしてやっておくれ」

「先生の養子と聞いています、大丈夫ですよ。

 ヨーテリアちゃん、二ヶ月の間よろしくね?」

 

 闇祓いがにこやかに手を差し伸べてきた。

 ・・・夏休み、意外と快適に過ごせるかな。

 そう思いながら、闇祓いの手を取ろうとした

 

「ひ・・・ィッ!?」

 

 取ろうとした瞬間、凄まじい悪寒が俺を襲った。いや違う、これは悪寒じゃない、寒気だ。

 思わず目を見張ったその瞬間、闇祓いの背後、船着き場近くの水面の上に、真っ黒い何かが居るのが見えた。

 全身をボロボロのローブで隠した、不気味な黒い影。

 不自然なまでに痩せ細った背の高いそいつは、じっと俺の事を見つめているように見えた。

 

「ディメン・・・タ・・・ッ」

 

 そいつが吸魂鬼だと悟ったのと同時に視界に霧がかかり、耳に氷水を流されるような、明らかに異常で不快な寒気に襲われる。

 

「ど、どうしたんだい?」

 

 意識が飛びそうだ、目が何故かチカチカする。なんだこの、ブォーという、大きな音は。

 目の前に焦った男の顔を幻視する。吸魂鬼がじっと俺を見る、視界が真っ暗になる。

 ノイズみたいなザーザーという吐息が聞こえる、何かが迫ってくる幻覚が見える、白いアレは何?

 

「が・・・ィッ、ぎィィぁあ″あ″・・・ッ?」

「ヨーテリア!どうした、しっかりするのじゃ!」

「アイツだ、吸魂鬼だ!

 〈エクスペクト・パトローナム!〉」

 

ーー死にたくなッ

 

 目の前に、アクセル全開のトラックが迫ってくる。

 こっちに来るな、嫌だ、もう死ぬのは嫌だ・・・ッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パトローナスは間に合わずヨーテリアは倒れ、ダンブルドアが鬼気迫る様相で支えるも、彼女は既に意識を完全に失ってしまっていた。

 

「ヨーテリアッ、ヨーテリアや!

 わしの声が聞こえるかね!ヨーテリアや!」

「馬鹿な、こんな距離から・・・?」

 

 闇祓い、マクスウェルは今起きている事が信じられない、信じるべきで無いと思った。

 吸魂鬼は人の幸福の感情を吸い、糧にする。

 その影響力はすさまじく、周囲にいるだけで周りの人間の活力を奪い、大幅に衰弱させてしまう。

 悲惨な過去を背負う者ほど影響を受けやすいが、物には限度という物がある!

 この少女は一瞬で気絶する程に強い影響を受けた、吸魂鬼の放つ独特の冷気すら届かぬこの距離でだ!

 その距離、少なく見積もっても10メートル!こんな距離でこれほどの影響を受けた前例は無い!

 

「一体、どんな経験をすれば、こんな」

「マクスウェル君、わしは先に家に行く、この子を一刻も早く、看病せねば!」

 

 ダンブルドアは気絶した彼女を抱え、姿表しをした。

 マクスウェルはそれを見届けパトローナスを解き、問題の吸魂鬼を見て、心底ゾッとした。

 理性など残っていない筈の吸魂鬼が震えている。何故かは分からない、そう見えただけに違いない。

 しかしマクスウェルはこの忌まわしい化け物が、大笑いして歓喜に身を震わせているように見えた。




2016年5月21日、夏休みの期間のミスと吸魂鬼の射程を修正。

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