ヨーテリアの部屋で彼女の嘆きを聞いた後日、一日の授業が終わり、アルバス・ダンブルドアは教室でマクゴナガルの補習をしつつ、悩んでいた。
今日一日、一度も授業に出ていないと報告された、彼の愛するヨーテリアの事でだ。
ピーブズに促され半ば衝動的に行動を起こした、彼女の部屋に赴き、闇雲に父との関連を否定しその挙げ句、思いを受け止めてやるなどと、親でも無い癖に何たる軽率、彼はそう思った。
彼女を励ます事が出来たのかは分からない、仮に出来たとしても。問題の解決にはならない。
ーーやはり、迷惑でしか無いんじゃろうか。
静かに目を閉じて、ダンブルドアは思考する、彼女の親代わりとなって支えたとして、果たして彼女は救われるのだろうか。
己の後先考えない行いのせいで、むしろ彼女はより一層、苦しむ事になってしまったのでは?大体、根本的な解決は何も出来ていないのだ。
「先生、お顔色が優れませんが」
「ああ、大丈夫じゃ、ただの胃もたれじゃよ」
自分を心配して声をかけてきたマクゴナガルに優しく微笑んで、首を横に振ってみせる。
マクゴナガルは少し難しそうな顔をしたが、すぐに失礼とだけ言ってため息をついた。
「しかし先生、ヨーテリアの事なのですが」
「ヨーテリアが、どうかしたのかね?」
「いえ、昨日の騒ぎに関連して、嫌な噂が。
彼女の友人は退学してしまい、彼女自身も今日アズカバンに送られた、と・・・」
不安げに目を伏せマクゴナガルは語る、ダンブルドアは息が詰まる思いであった。
噂など信用ならない、しかし状況が状況だ、もしや、過程を飛ばされて無理矢理アズカバンに?彼は、校長室に姿表しして殴り込もうとしたが、彼が立ち上がったのと同時に教室の扉が開き、生徒が一人、ヒュゥと口笛を鳴らして入室する。
「そりゃ驚いたな。じゃあ、私は誰だ?」
ダンブルドアは聞き慣れたハスキーな声を聞き、目を見開いて声の主を見た瞬間、息を詰まらせた。
「ヨーテリアや・・・ふはっ、そうであろうな」
思わず涙腺が緩み、自然と笑顔が出来上がる。
そこに居たのは、金色の髪を肩まで伸ばした、アメジスト色の綺麗な瞳と少女と言うにはいささか高すぎる身長を持つ見慣れた少女。
ヨーテリア・グリンデルバルドその人であった。
「勝手にアズカバンに送るな、入院してたんだ」
口を(への字)に曲げて、不愉快そうに呟く彼女、もはや錫杖など支えにはしない、その歩みは実に堂々と力強く、皮肉にも父親と酷似していた。
「腕と肋がイカれたままなのが苛立ってな、医務室で骨生え薬を何本か強奪したんだが、死ぬ程痛い思いしてまた入院するハメになった。まあ、そのおかげで、〈エンゴージオ〉」
彼女が何を思ったか、ギブスをつけたままのグチャグチャな筈の右腕にエンゴージオを付与、そのまま力を込めつつ、腕を前へと伸ばした。
すると、あろう事かギブス全体にヒビが走り彼女が右腕に一層力を込めた瞬間
「ふんッッ!」
まるで破裂でもするように、内側から崩壊した。
二人が呆然とする中、彼女は右腕を見せびらかし、にぃ、と歯を剥いて笑って二人に言い放った。
「ヨーテリア・グリンデルバルド復活、て所かな」
「なんて、胃が痛い事をするんですか・・・」
腕が直ったのでギブスを筋力で破壊しました、元リーマン現魔法少女、ヨーテリアさんです。
完治と元気アッピルの為だ、他意はありません、だからにゃんこ先生、腹を押さえるのはやめるんだ。
「ヨーテリアや・・・もう、大丈夫なのかね」
ジジイが暖かい笑顔を浮かべながら尋ねてきた、どの口と顔で言うのやら、見れば分かるだろうに。
「辛けりゃあんたに頼ってもいいんだろ?なら私は大丈夫だよ、アルバス」
ずっと一人ぼっちだと思ってた、自分の中で全部完結させて、無理に納得して押し殺して来た。
実際、フィルチもリドルもまだ引き摺ってる、でも、もう俺は吐き出していいんだろ?あんたを親父と思って、頼っていいんだろ?
「そうか・・・そうかね、ヨーテリアや」
「ああ、昨日はありがとうな」
最後にダンブルドアににへらと笑った後に置いてけぼりのマクゴナガル先生を見る、先生は長く黙りこんでいたがやがて額を押さえ、俺の肩を叩いて深くため息をついてみせた。
「ほんッ、とうにッ、心配させて、あなたは」
「ミネルバ、心配は嬉しいけど、いいのか?
私が襲撃事件の犯人かもしれないって噂も、昨日大騒ぎ起こしたってのも知ってるよな?」
俺が目を細めてそう言って見せると先生は苛立ったように何度も俺の名前を呼んで、終いには俺の額に見事なチョップを叩き込む。
「襲撃?あなたに出来れば苦労しませんよ!
昨日だって、聞けば正当防衛ではないですか。
むしろ、友達を守ろうとしたのでしょうにッ」
俺の頭をガシガシと乱暴に撫で回すにゃんこ。
先生は、ここまでやらかした問題児の俺をあいも変わらず、変な話だが可愛がってくれてる。
何でそこまで俺を信用してくれてるかは分からんが何だろう、ちょっと、嬉しいかもしれない。
「ミネルバ、信用してくれるのは嬉しいけど、もう、親しくするのはこれっきりにしよう。
今はまだだけど、私には監視がつくらしい、ミネルバまで白い目で見られちまうよ」
「はんッ、何の冗談ですか?面白くもない。
だったらこうしましょうか?」
マクゴナガル先生はスッ、と俺に近寄った、途端に身体が急激に縮んで何か小さい物になる。
先生だった小さなそれは俺の肩に飛び乗って、困惑している俺にパンチを見舞い、にゃぁと鳴いた。
これは、猫になった、とでも言うのか!?先生、完全にアニメーガスになれたのかよ!
驚く俺からマクゴナガル猫は飛び降りて、俺の目の前で元のミネルバに戻って素晴らしいドヤ顔を披露し、一回転してみせた。
「猫と関わって目くじらを立てる者はいません。
あなたがこの教室で一緒に居るのはただの猫、私が目をつけられる事は無い、いいですね?」
優しく微笑みながら先生は猫になってみせた、ああ、涙が出てくる、思わずにゃんこに抱き付いた。
「ミネルバぁぁーーっ・・・」
ふかふかのマクゴナガル猫に顔を埋め思う存分モフり倒す。涙が止まらない、もう大好きだにゃんこ先生、愛してる。
「ダンブルドア?ミス・グリンデルバルド?ああ良かった、やはりここに居たか」
教室に誰か丸々太った教師が入ってきた、立派な髭を生やした彼は間違いなくスラグホーン、なんだか頬がやつれて、疲れているように見えるが俺はそんな事は知らん、にゃんこをモフるのみ。
「ホラス、どうしたのかね」
「いやね、この子の監視員と罰則についてだが」
「空気読みやがれよお主」
「あのなぁ・・・まあいい」
ああ、忘れてた。俺罰則もあるんだったな。
スラグホーン先生はダンブルドアに罵倒されてぐらりと体を揺らして額を押さえたが、すぐに死んだ魚のような目で、俺を見た。
「まず監視員なんだが、血みどろ男爵をつける。
何か問題が起これば伝達しやすいし、ゴーストなら監視には最適だからな」
「ぐお″ぉ″ぉ″・・・ッ」
思わずお腹を押さえて呻く俺、血みどろ男爵、スリザリンお付きの生真面目野郎、またの名をホグワーツ最恐のゴースト。
鎖に巻かれた、血だらけのこのゴーストははっきり言ってあらゆる意味で俺の天敵である、だってアイツ、洒落にならない位怖いんだもの。
「まあ男爵ならまだ有情、と言うべきかの?」
「校長は教員が直接、などと言っていたがそんな暇は無いし、男爵なら適任だろう」
「して、罰則の方はどうするのかね」
ダンブルドアがスラグホーン先生に真顔で尋ねると、スラグホーン先生は苦しげに唸った後、額を押さえながら投げやりに一言呟いた。
「何でも、毎日森番の仕事を手伝わせるそうだ」
「は?」
「やめろ呪うな、仕方無いだろう罰則なんだから。
腕が治りたての所悪いんだが、校長が・・・」
「や、やります!やらせてください!」
スラグホーン先生の弁明に割り込んで叫んだ、森番の仕事、つまり心配事が一つ減ったのだ。
監視付きでどうやってハグリッドに会おうか割と深刻なレベルで悩んではいたが!これなら堂々と会えるし関われるじゃあないか!
「ホラス。ようやった、ようやった・・・」
ダンブルドアがスラグホーン先生の肩を叩いて凄まじくイイ笑顔を浮かべて語りかける。
先生は呆然とダンブルドアを見つめ、俺を見て余計に訳が分からない様子で、首をかしげていた。
オッグは、責任感のある優秀な森番だ、このホグワーツ魔法魔術学校に存在する危険極まりない圧倒的人外魔境たる森、すなわち禁じられた森の管理を任され、その仕事に誇りを持ち、学校への忠誠心も他の誰よりも高く、愛情も深かった。
「よろしくお願いします」
だが、目の前で頭を下げる金髪の少女を見て、少し学校に抗議しても良いんじゃないかと、感じた。
ーー絶対にただの厄介払いだ、許さんぞマジで
こめかみを押さえながら、オッグはそう思った。
このヨーテリア・グリンデルバルドという少女、間違いなく悪人では無いのだろうが何をしでかすか分からない感じがする。
襲撃事件の犯人だとすれば、この少女は二度に渡って廊下を大規模に破壊した事になる、何故そんな爆弾を取り扱わねばならないのだ。
何より、だ。罰則なのに何故ご機嫌なのか理解に苦しむ。
「・・・じゃあ、薪割りでもしてもらうか」
「えっ、森の見回りとかは、いいのか?」
「薪割りも十分すぎる罰則だと思うんだがな。
ハグリッドの在庫整理が終わったら戻る、それまでは一人で薪を割っててもらうぞ」
「合点。〈エンゴージオ〉」
斧を渡して小屋の中に入るオッグ、中ではハグリッドが大量の資材や材料をそれはそれは丁寧に、素早く整頓していた。
「相変わらず早いな、ハグリッド」
「いやいや、オッグ先生に比べりゃ、まだまだだ」
彼は朗らかに笑って、束ねていたユニコーンの毛を割と大雑把に天井の針金に通し、ぶら下げる。
その作業とは裏腹の大雑把さに苦笑しながらオッグも椅子に座り、資料を整理する。
「今日、一人罰則があってな、外で薪割りしてる」
「へぇ、どんな奴なんで?」
ハグリッドが興味深そうにオッグに尋ねる。
オッグは頭を掻いてから、資料を置いた。
「ヨーテリア・グリンデルバルドだ。
お前と親しい生徒、だったっけか?」
「ヨーテが、ですかい!?こうしちゃいられねぇ、さっさと済まさなけりゃぁっ!」
ハグリッドが大急ぎで作業を再開するが急ぐあまり、余計に大雑把になってしまっている。オッグはそれを見て苦笑いし作業の手を早めた。
仮にもヨーテリアは女の子、つまり非力だ。薪割りをさせてはいるが正直期待していない、結局自分達がやる事になる、なら早い方が良い。
重労働させ過ぎれば、ダンブルドアが怒るだろう。
「よぅし、おしまいだ!」
「こっちもだ。お嬢さんの様子を見に行くか」
ハグリッドが勢いよく、オッグは気だるげに席を立ち、森番の小屋を出て薪割り場を見た。しかし何故かヨーテリアはそこに居ない。
「あのガキ、まさか逃げたか!?」
オッグが憤怒の表情を浮かべて周囲を見回した、罰則から逃げられたとあっては責任問題になる。
何より、自分から逃げるとはいい度胸だ!望み通り禁じられた森に放り込んで泣くまで森をさ迷わせてやろう!
「どこだ、どこへ行ったあのガキ!」
オッグが周囲360度を怒りを籠めて見渡す、ヨーテリアは見当たらない、校内か?そう思った瞬間、森から大きな音がした。
何事かと思って耳をすませると、その音は斧か何かで、木を切り倒している音であった。
「うおぉっ!?」
数回ソレが聞こえたと思えば、音は木が倒れ、地面に派手に転がる音へと変化した。
そして、森の奥から誰かがこちらへ歩いてくる。
「な、なんだぁ・・・?」
ハグリッドは怪訝な声を上げた後、絶句した、森の奥から歩いてくるのは見慣れた少女だ、制服に木屑を付けて涼しい顔をして運んでいた。
木を切り倒して作ったであろう、丸太を。
「何をしてるんだ、グリンデルバルド」
オッグは気絶しそうになりながら呟く、すると彼女は丸太を薪割り場に置いてから、ふぅ、と息をついてオッグ達に向き直った。
「割る薪が無くなったので、補給を。
〈エンゴージオ〉」
確かに、見てみれば小屋の裏には見事に割られた薪が大量に積み重なっていた、呆然とオッグはそれを見つめ額を押さえて呻き、ハグリッドは大笑いして、斧を探しに倉庫へ向かう。
それを見届けたヨーテリアは斧を振りかぶり、横に寝かせた丸太に思いきり降り下ろした。
「・・・ぐおお」
見事にぶつ切りにされる丸太を見てオッグは、彼女が事件の犯人で(あって欲しい)と願いながら、腹を押さえて呻き、うずくまる。
あれを医務室送りに出来る化け物が居てたまるか、そんな化け物がホグワーツに居たと思いたくない。
「ダームストラング行こう、絶対行こう」
ふらふらと斧を探しながら、オッグはそう呟いた。
空腹が辛い、渇く、白い守護霊が忌々しい。
アズカバンに居れば良かった、ひもじい。
目の前に大きな城がある、きっと人が沢山だ。
「メリィソート先生、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだねマクスウェル、2年ぶりだ。
君が担当の闇払いか。ならば安心出来る」
老人が居る、何も感じない、まずそうだ。
「で、コレが今回校外に配置する?」
「ええ、上層部直々のご指名だとか。
アズカバンでも優秀なんでしょうな、ハハ」
何だろう、城壁内から、何か気配がする。
飛び抜けて悲惨な匂いだ、ここからでも分かる。
適度に幸せもある、なんて素晴らしい食材だ。
「で、問題の生徒はどんな子なんです?」
「ここまでしなくてはならない子では無い、魔法省の命令だそうだが、私は反対だ。
ヨーテリア・グリンデルバルド、彼女はな、友人想いのただの女の子だ、そうだとも」
ヨーテリア・グリンデルバルド、知っている。
引き渡される奴、問題のある奴、邪魔な奴。
そう教えられた、許可も下った、こう言われた。
「何事も無しなら、私はくたびれ儲けですな」
「そうなったら、私と酒場にでも行こうか」
グリンデルバルドは、吸ってもいいって。