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第四章【禁忌の劫略者】
403『真眼』

 逃げた全員が、半殺しにされて投降してきた。

 彼らはみな、口をそろえて『黒い悪魔』がどうのこうの言っていて、おいボイド。おまえどんな酷いことやったんだ、と思わなくもない。


「さて、これで全員ね! なんでこんなことになっているのかはイマイチよく分かってないけれど! さあカイ! デートの続きと行くわよ!」


 六紗は元気いっぱいにそう叫ぶ。

 おそらく、ここに来ている正統派の連中は、かなり位が高い者たちなのだろう。六紗優が素の口調を隠していないことからもそれは分かるし……六紗自身へと向けられる生暖かい目からもいろいろと察せられる。


「六紗様……」

「やっとお友達が……」

「いや待ちなさい、あれ、どう見ても彼氏でしょ」

「「「彼氏だと!?」」」


 瞬間、僕へと向けられた鋭い殺気。

 まるで、友達のいない娘が初めて連れてきたのが彼氏でした、みたいな反応だな。殺気が生々しくて恐ろしい。

 僕は思わず苦笑していると……六紗の護衛、シーラが、捕らえられた反正統派の面々を見て難しい顔を浮かべている。


「……どうしたんです?」

「あ、灰村解。……それに六紗様。お楽しみのところ申し訳ありませんが……黒の解放の残党は、これですべてではないようです」


 ぴくっと、六紗の笑顔が硬直した。

 そのまま彼女は能面のような無表情になる。

 先ほどまで僕を睨んでいた人たちですら顔をそむける恐ろしさ。

 僕はそんな六紗へ、特にためらいもなくチョップした。


「あいたっ!?」

「おいこら、拗ねる暇があるなら探しに行くぞ」


 僕だって、好き好んで反正統派の相手なんかしたくない。

 それなら、友人とふらっと出かけたほうがずっと有意義だ。

 まだ残っていて、それに僕も同伴しなきゃならんというなら、さっさと終わらせて、なんか飯でも食いに行こう。


「まあ、今日はお前のための一日だが。お前が、一日中反正統派の相手をしていたい、っていうなら話は別だが」

「あんたね……!」


 頭を押さえてしゃがみ込んだ六紗はぎろりと睨んでくるが……二年前まで魔法少女の格好してたやつだしな。なんにも怖くないね。

 僕は彼女へと手を差し伸べると、彼女は頬を膨らませて手を取った。


「分かってるわよそんな事! ほらシーラ! その、残った数人か何人か知らないけど、さっさと探しに行くわよ!」

「承りました。現在、行方を調査中で――」


シーラは、後方にいる調査系と思しき異能力者を見てそう言った。

調査系の異能力者は難しそうな顔を浮かべていて。

それを見たシーラは、何かを言おうと口を開き――。


調査系異能力者が目を見開くのと。

僕が【ソレ】に気が付いたのは、ほぼ同時のことだった。






「その必要には及ばんよ。先ほど全員捕えておいた」





 

 その時、その瞬間。

 全身の肌が、粟立った。


 シーラの言葉をかき消すような、()()()()()()


 以前は感じられなかった第六感……とでもいうのだろうか?

 肌が、本能が、全てが『ヤバい』と告げている。


 咄嗟にその場を回避する。

 直後、僕のいた場所へと斬撃の跡が刻まれて、上空から「ほう」と感心したような声が降ってきた。


「この野郎…………ッ!?」


 僕は青筋交じりに頭上を見上げ――そして、目を剥いた。


 そこに居たのは、一人の老年男性。

 黒いスーツに身を包み、白髪をワックスで後ろに固めた老紳士。

 その全身からあふれ出す嫌な予感は……下手をすれば鮮やか万死にすら匹敵する。

 そして、何より。

 その手に持っているモノを見て、僕の本能が大きく揺れた。



「【第陸巻】……だと?」



 表紙に陸の数字が刻まれた、忌々しくも懐かしい一冊。

 しかし……なんだ、この感覚は。

 忌々しいことこの上ない――が、同時に困惑した。

 今までは、ノートを見れば底の見えない憎悪が汲みあがってきた。

 ……それが、今回はどういうわけか、ない。


 まさか……これも凱旋の影響か?


 僕の反応を見て、男は笑う。

 その姿は空中に浮かんでいたが……目を凝らさずとも、その正体に察しがついていた。


「……()使()()。それも、かなり高位の異能力者」


 間違いなくS級格。

 下手をすればそれ以上もあり得る。

 そう理解した。即座に勝てないと判断した。


 が、後に引くことは絶対にない。


 目の前にぶら下げられた、最悪の餌。

 黒歴史ノート。

 それを燃やすこと以上に、僕が優先すべきことはない!



「攻撃してきた……ってことは、敵だな、お前」



 僕は戦闘態勢に入ると、六紗が焦ったように声を上げる。


「ちょ! ま、待ちなさ――」

「おっと、随分おしゃべりなお嬢さんだ」


 瞬間、上空の男は軽く右手を振るう。

 と同時に、常軌を逸した速度で糸が迫りくる。

 目で見ることはかなわない。

 ただ、肌で、全身で感じることはできる。


「ナムダ!」


 僕が叫ぶと、時を同じくして。

 凄まじい速度で飛来した彼は、六紗の前へと立ちふさがる。

 そして、拳一閃。

 真正面から糸をはねのけた彼は、頭上を見上げて敵意を向ける。

 それは、SS級異能力者の放つ、超一級の威圧だった。

 それを前に、さしもの男も頬を引き攣らせる。


「これは、また――」

「また、なんだって?」


「――ッ!?」


 背後から話しかけると、男は目に見えて動揺する。

 その瞬間、その隙に。

 僕は、奴の手から第陸巻を奪い取った。


「よし!」

「お見事です、我らが王よ!」


 僕を抱えていたボイドがそう言って、男から大きく距離をとる。

 ……今の今まで気配に気づけなかったんだろう。

 奴は目を見開いて僕らを見下ろしており、その姿を見て僕は笑った。

 悪いな、名前も知らない爺さん。


 ウチの深淵竜は【なんでもあり】ってやつなんだ。



「さあ、本は奪った。次はどうする?」



 僕は立ち上がり、そう笑う。

 爺さんは僕の言葉を受けて目を丸くしたが。

 やがて、堪え切れなくなったように噴き出した。


 の、だが。


「くく……ふあっはっはっは! なるほどなるほど! これはすさまじい男を紹介しようと来たものだ! なあ、正統派の王!」

「……………………はぁ?」


 一瞬、その言葉に理解が及ばず。

 全てを理解した瞬間。僕は六紗を睨んでいた。

 彼女は僕の目を受け、少し怯んだ様子だったが、すぐに立て直して叫んだ。


「い、言っとくけど私は悪くないわよ! だって言おうとしたもの!」

「……なるほど。悪いのはこの爺さんか」


 僕は上空の爺さんへと視線を向ける。

 ……そういえば、終始【殺気】は一度も感じなかったな。

 僕は爺さんから奪った本へと視線を向ける。

 一目見た瞬間から違和感は覚えていたが……やっぱりな。


「これも、偽物か」

「ご明察」


 僕の奪った本が、無数の糸束になって崩れてゆく。

 ……少し考えればわかることだ。

 この僕が……中二嫌いの灰村解が、黒歴史ノートを嫌わない?


 はっ、そんなことがあってたまるか!


 僕はあのノートが大嫌いだ!

 見ているだけで反吐が出る!

 ああ、もう嫌! 考えてるだけで心が痛い!

 この嫌悪感が緩和されるなんてことなんて一生ねぇよ!

 

僕は一通り吐き捨ててから、爺さんへと視線を向ける。

 彼は糸を操って地上へと降りてくると、威厳ある笑顔で名を名乗る。



「私は()()()()()()、九法院善治。二つ名としては【老巧蜘蛛】と呼ばれていてな」



 よろしく頼むよ、期待の新人。

 そう言って、その男は僕へと手を差し出した。




 ☆☆☆




 九法院善治。

 王級……つまりは、陰陽師最強格の一角。

 場所を移し、今は街中の小さなカフェ。

 ブラックコーヒーを飲む九法院の爺ちゃんと、不満そうに頬をふくらませる六紗。


「……せっかく2人きりになれると思ったのに」

「悪いな六紗。埋め合わせはまた今度」

「言ったわね! 覚えときなさいよ!」


 下手に言質を取られた僕は苦笑しながら、対面に座る爺ちゃんへと視線を向ける。


「えっと」

「事情は聞き及んでいるよ。軽く手を合わせて見てみた感覚からも、現状の詳細について、だいたいは理解しているつもりだ。いきなり襲ってしまって悪かったね」


 なるほどなぁ。

 いきなりの襲撃に、そんな意味があっただなんて! びっくり!

 ……じゃ、済まねぇんだよなぁ!


 僕は机を殴ると、爺ちゃん相手にメンチを切った。


「お? 悪いと思っているなら……ほら、差し出すものがあるじゃないのかなぁ? えぇ? ほら黒いブツを出してもらおうか」


「あ、アンタ……ヤクザみたいね」

「うるせぇ!」


 そう言って六紗を黙らせ、僕は爺ちゃんを見る。

 そこには、全く悪びれもせずに僕を見る九法院が居て、その姿に思わず目を細める。


「くっ……」

「悪いと思っているが、さほどとは思っていない。それに、君を試すのは致し方ない事として理解して欲しい」


 彼の目は、真っ直ぐに僕を見つめている。

 それは、直視しているだけで緊張してしまいそうな、真っ直ぐな瞳だった。


「端的に言えば、君は私に教えを乞いたい。私は資格なき者に教えたくない。つまり、私は君を試験する立場にあるわけだ」


 そう言って、九法院は指を鳴らす。

 瞬間、僕の四肢へと見えない糸が迫り来る。

 僕は咄嗟に顔を顰めると、それを見た爺ちゃんは糸を止めて、僕へと問うた。




「一つ聞こう。君は()()()()()()()()()?」




 その言葉に、六紗が小さく反応する。

 僕はしばし、爺ちゃんの目を見ていたが……まぁ、陰陽師になるって手前、この人に嘘のことを言っても仕方ないか。


 僕は、自分の目へと手を伸ばす。

 焦った様子の六紗を前に。


 僕は、黒色のカラーコンタクトを外して見せた。



「な……!?」



 六紗が驚く。

 僕はお冷を覗き込めば、そこには、青い瞳をした灰村解の姿があった。


「……その目は」

「……想力を失った当初は、なんの問題もなかったんだがな。寝て起きたら、こうなってた」


 正確には、【王の凱旋】の影響だとは思うんだけれど。

 シオン曰く「なんだそれ、かっけぇ!」で。

 阿久津さん曰く「病気ではないか!?」だった。

 まぁ、僕も寝て起きたら目の色が変わってた、なんて事は初体験だし、めちゃくちゃ心配ではあった。


 だけど、この目の力を知って。

 僕は、心配を上回る有用性を理解した。


 僕は、世界へと目を向ける。

 かつて見ていた世界と、今見ている世界は……まるで異なる。


 上空から迫る爆撃に気がつけたのも。

 暗闇の中で襲撃者に対処出来たのも。

 まるで達人のように、相手を無効化できたのも。


 ひとえに、この瞳の力のおかげだ。




「この目は、()()()()が全て見える」




 その言葉の意味を、二人は直ぐに理解したようだ。

 六紗は肩を震わせてわななく。


「そ、それって……!」

「あぁ。体の力の流れから、想力……陰陽師はまた別種の力を使っているのかもしれないが、その力も目に見える」


 加えて、凱旋の余波で強化された第六感。

 目に見えない範囲においても、ある程度の流れは把握できるようになっている。


 無論、それだけで最強という訳でもないが。

 今の僕は、かつての僕より勝る武器を手に入れていた。



「テキトーに、命名【真眼】」



 力の流れが見えるということは。

 簡易的に、それでいて具体的に。

 相手の行動の、先読みができるということ。


 ……仮に、異能無しの殴り合いだったら。


 今の僕は、誰より強い自信があるよ。


 その言葉に、王級の陰陽師、九法院善治は笑って言った。



「面白い。とりあえず、合格としておこうか」



 かくして僕は、九法院の爺ちゃんから陰陽を習うことになった。



弱くてニューゲーム。

ただし特殊能力つき。

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