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第三章【始まりの因縁】
315『日が昇る』

 金曜日。


「はぁっ、はぁ……はぁっ!」


 深淵最下層。

 僕は、息を荒くして魔物の死体に立っていた。

 既に、遥かなるGは倒してきた。

 その先も、何度も苦戦し、何度も倒れ。

 無限コンテニューを続けて来た。

 最終的には勝ってきた。


 それはひとえに『活性』と『超再生』のおかげだろう。


 どれだけ致命傷を負っても回復する。

 想力が尽きる心配もなく。

 Gとの戦い以降、苦戦はしても【殺されそうだ】と思う戦いはなかったと思う。


 ――今回の魔物を、除いては。



「く、クソっ……し、死にかけた!」



 僕は腹を抑えて、膝から崩れる。

 足場にしていた魔物が消えて、僕の体は地面へと落下する。

 衝撃と、痛み。

 されど、悲鳴をあげるのも億劫だ。


 僕は上を向き、息を整えながらステータスを掲示した。



 灰村 解

 Lv.95[Sランク]

 異能[禁書劫略][暦の七星][超加速]

 技能[神眼][神狼][廻天][復讐][指揮][次元][消滅]

 特異[飛行][毒支配][超回復]

 基礎三形

 活性[S]

 遮断[A]

 具現[S]



 Lv.95。

 それはいい、強くなってきてるんだからな。

 問題は……()()()()1()()()()()()()()()()()()()ということだ。


「耐性……じゃないな、これは」


 間違いない。

 ()()()()()()()()()()()()

 そんな感覚があった。

 そして、誰が妨害しているのか、と考えた。

 ……その答えは、すぐに出てきた。



「……やっぱり、居やがるな。王が」



 僕とはまた別の、なにか。

 この深淵に君臨するもう一人の王。

 未解の王にして純然たる深淵の闇。

 作者を自称する、何者かが。


「……まぁ、察しはついてるが」


 僕以外の誰なら、あの立場に君臨できるのか。

 そう考えたら、僕は一人しか浮かんでこない。


「あー、くそ、相変わらず厄介なことばかりして来やがって……!」


 僕は叫んで、体を起こす。

 前を見る。

 そこには巨大な扉があった。



 ――深淵最下層。


 ()()()()()



 現実世界で、1ヶ月と少し。

 この世界だけで、一年以上。


 今の僕は、シーゴと戦った時とは比べ物にならないほど強くなった。そういう自覚が確かにある。

 今なら、2年前の暴走列車くらいは片手間に倒せると思う。

 それだけの、自信と実感。

 それがある。



 されど、それでも勝てるか分からない。



「最後の敵……【深淵竜ボイド】」



 まぁ、1番強い種族はドラゴンなわけで。

 この先には、作者の僕をして【どうやって勝てばいいか検討もつかない】相手が、よりにもよって強化された上で待ち構えてる。


「…………」


 僕は、立ち上がって扉へと手をかける。

 挑みはしない。勝ち目なんてどこにもないから。


 だから、見るだけ見ておこうと思う。

 これから挑む、頂きを。

 僕の誇る最高傑作を。



 最凶の名に相応しき、化け物の姿を。



 僕は、扉を僅かに開く。





 ――次の瞬間、身体中を殺意の剣が串刺しにした。




「――ぁッ!!?」


 扉を閉ざすことも出来ずに、気圧された。

 後ずさり、情けなくしりもちを着く。


 な、なんだ……い、今のはッ。

 幻覚、錯覚?

 無数の剣で串刺しにされた。

 その痛みが、確かに感じられた。

 だと、言うのに……ッ。


「うそ、だろ……?」


 自分の体へと視線を下ろすが、全くの無傷。

 ただ、尋常ではない汗が溢れ出していた。


 僕は喉を鳴らし、扉の隙間から奥を見る。

 姿は見えない。

 そこにあるのは暗闇だけ。



 ……だけど、居る。



 間違いなく、居る。


 扉を挟んだ、すぐそこに。

 見えない何かが、僕を見下ろしていた。


「………………っ」


 息を飲む。

 一秒が永遠にすら感じるとは、きっと今の状態を言うんだろう。

 殺意だけで、死にそうになった。

 その時点で察した、格の違い。


 今、この瞬間、向こうが殺意を持てば。

 僕はきっと、なんの抵抗も出来ずに殺される。


「…………こ、の……ッ」


 恐怖に膝が震える。

 体は屈した。恐怖に折れた。

 ……だから、心まで折れたら、もうおしまいだ。僕は唇をかみ締め、痛みで恐怖をごまかし、前を向く。



『…………』



 扉の向こうで、気配が揺らいだ。

 緊張感がはしりぬける。

 されど、張り詰めたのは一瞬だけだった。


「…………あ」


 不思議と、去ったのだと理解した。

 視線が僕から外された。

 興味を失われた。


 そう理解した瞬間、僕はその場に倒れていた。


「……は、ははっ」


 気がつけば、扉は閉じている。

 ……これが、最強。

 これこそが規格外。

 設定上、どんなことをしても倒せないと自信満々に胸を張れる、作者【灰村解】としての最高傑作。


 最凶そのもの。


 ――深淵竜ボイド。


 僕は仰向けに倒れ、頭を押さえる。




「くっそ、こいつに勝つのに……何百年生きればいいんだか」




 僕はそう言って、その場から帰還した。

 どうやら、こいつに挑むのはずっと先のことになりそうだった。




 ☆☆☆




 土曜日の朝。

 僕は自分で髪を切っていた。


 深淵で過ごした、一年以上。

 まぁ、学校と行き来していたこともあり、冥府で過ごした二年と比べると……なんというか、薄っぺらい一年間ではあったが、学ぶことは非常に多かった。


 そして、そのうちひとつが自分の体について。


「……背は、伸びてない、か」


 肉体的には高校2年生。

 成長期も成長期。

 身長の一つや二つ、伸びてないとおかしいはず。……にも関わらず、僕は毛髪や筋肉などの成長はあれど、身長の変化はほとんど無いに等しかった。

 どころか、1年前とほとんど顔も変わってない。


「……成長が、止まってる」


 僕は背後を振り返る。

 そこには、申し訳なさそうにする阿久津さんの姿があった。


「……すまない。御仁の死後、遺体を劣化させないために付与した保存技術。それが体内に残留し、何らかの影響を与えているのだと思う」

「実質的な、不老ってわけか」


 肌を触って、鏡を見る。

 後ろの阿久津さんは、頭を下げていた。

 なので、僕は振り返って頭を振った。


「気にしないでくれよ。生き返った時、骨になってるか不老になってるか。どっちかと聞かれれば不老で良かったと思ってる」

「いや、言葉の端々から嫌々感が伝わってくるのだが」


 そりゃ……ねぇ。

 だって人間やめてますし。

 これからどうやって生きろと?

 一般人に戻って、彼女も作って。結婚して。

 それでも一向に歳を取らなかったらどうすればいいの? 奥さんとの気まずい雰囲気、責任取ってどーにかしてくれるんですか?


 ……まぁ、阿久津さんには、僕の体を守ってくれた手前、すごい感謝してるんだけどさ。


「あ、安心してくれ! もしもその体のせいで貰い手がいなければ、全ての責任を取って私が貰う!」

「それはちょっと」

「何故だ御仁!?」


 阿久津さんと結婚……ねぇ。

 別に嫌いじゃないんだけどね。

 美人だし、家事全般万能だし、料理美味しいし、性格もいいし。悪い所が悪魔王以外に見当たらない。

 でもって、その悪い所が問題なんだ。


 僕は立ち上がると、窓の外へと視線を向ける。


 空も明るくなってきた。

 今日はいよいよ、地下格闘技へと殴り込みの日。

 場所と時間は聞き出した。

 ならばあとは、万難排して向かうだけ。


「ま、まぁ、それはそれとして……大丈夫なのだろうか。御仁よ、情報を聞き出した輩は逃がしてやったのだろう? ならば、ここぞとばかりに罠を張っていても……」

「おかしくない。というか、張ってるだろうね」


 異能者殺し。

 一定範囲内において、異能全てを封じる化け物……と、調べたところそんな情報がでてきた。

 間違いなく、シオンたちと同格。

 冥府の王や、シーゴとは別格と見るべきだろう。


 ただ………いいや、この先はやめておくか。

 良くも悪くも、フラグってのがあるからな。


「まぁ、それでも。真正面から打ち破るだけ、だろ?」


 僕がそう言うと、阿久津さんは口元を歪める。

 ――自分もついて行きたい。

 明らかにそんな顔だが、それは許さない。


「先に言っとく。指名手配犯を連れて歩くなんてこと、絶対にしないからな」

「うぐっ!?」


 世界中の女子トイレを使えなくしたり。

 世界中のスマホを【Now Loading】から動かなくしたり……色々と大罪を犯してきた阿久津さんだ。

 もしも万が一、一緒にいるところを見られてしまったら……。

 そう考えると嫌な予感が止まらない。

 それに。


「今回は、僕とシオン、それと……あと二人。助っ人を頼んである。心配しなくても大丈夫だよ」

「……助っ人、とな」


 あぁ。

 僕より強くて。

 そんでもって、暇を持て余してる野郎共だ。


 僕は笑って、そいつらの顔を思い浮かべる。


 一人の妄言野郎と。

 一匹のペット。


 それに加えて、僕とシオン。

 戦力としては、過剰な程に整っている。

 そして、異能者殺し。

 お前に対する策もある。


「万難を排する準備は、万端」


 僕はそう言って、拳を握る。



 さぁ、もうすぐ日が昇る。


 第伍巻を、取り戻しに行こう。



深淵攻略は、一旦打ち切り。

ここからは今回の章のメインデッシュ、第伍巻の争奪戦へと進んでいきます。

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