第二章、最終話!
結果から言って。
シーゴ率いる『黒き解放』による襲撃事件は、正統派の手によって揉み消されることになった。
そりゃそうだ。
正統派、それも六紗優の在学するハイライトスクールが、よりにもよって開始初日からテロリスト集団に襲われる……だなんて、そんなの正統派の信用に関わってくる。
というわけで、全生徒へと与えられた金一封。
一封なんて厚さじゃない封筒を、なんかよく分からない黒スーツのお兄さんが、僕らのマンションにまで持ってきてくれた。
僕は思わず緊張気味に喉を鳴らした。
「こ、これは……」
「口止め料です。もしも口外した場合は正統派を敵に回すと思ってください」
無論、なんの口答えも出来なかった。
黒スーツのお兄さんはそう言って帰ってゆき。
居間に繋がる扉の奥から、シオンと阿久津さんがひょこりと顔を出した。
「行ったか、御仁」
「……行った、みたいだな。そしてシオン、お前までなんで隠れてんだ」
「面白そうだから隠れてみた!」
でしょうね、聞く前からだいたい察してました。だってものすごく楽しそうなんですもん。
僕は封筒を開くと、その中から数万円だけだして、ポケットに突っ込む。
残りの分厚い札束は、封筒ごと阿久津さんへと放り渡した。
「はい、それ、死んでた二年間の生活費」
「な……! お、おい御仁! これ……とんでもない額だぞ! こんなに貰えるか……!」
とは言うが、2年間も僕の死体を守っててくれたんだ。
それっぽっちの金銭じゃ、全然足りやしないだろう。
「それと、ほらシオン。お前の分」
「金か! ならカイが持ってやがれ! オレは金の使い方なんて分からねぇからな! お前に託すぜ、オレの全てをな!」
無駄にかっこいいセリフだった。
もっと別のシーンで聞きたかった。
僕は苦情混じりに、時空の穴へと金を放り込む。【次元】技能を使った擬似アイテムボックス、ってやつだ。
その際に、僕はなんとなく、アイテムボックスへと手を突っ込んだ。
手を入れてすぐ、その本は見つかった。
僕が七つの技能とひとつの異能を使うための鍵、黒歴史ノート第零巻。
そして、もう1冊。
「……ったく、あの野郎、どこ行ったんだか」
僕が目が覚めた時。
僕の目の前には、第参巻が転がっていて。
妄言使い、成志川景は僕らの前から消えていた。
☆☆☆
あの事件は、事故として処理されている。
僕は、一時休校となったハイライトスクールの前へと足を運んでいた。
傷は、目が覚めた時には消えていた。
大方、成志川の野郎が治してったんだろう。
あいつ……ほんと、なんでもありだよな。
なんなら9つの能力を持ってる僕よりもできることが多いと思う。
「あ、そういや、10個になってたっけ」
目が覚めたら、全部終わって。
シーゴは死んでいたからな。
どうやら、第参巻だけはよく分からない不思議な原理で無事だったらしいが、彼自体は消滅し、消えた。
故に、彼から奪ったものは、僕のものになっていた。
ふと、その場で拳を繰り出す。
感覚的には、とても緩い拳だったと思う。
だけど、その拳は凄まじいキレと速度で繰り出され、ヒラヒラと舞い落ちる桜の葉をいとも簡単に撃ち抜いた。
ポスッ、と小さな音。
殴ったはずの桜の葉は、残骸となって地面に落ちる。
その光景に苦笑して、僕は最新のステータスを開示した。
『【神眼】』
灰村 解
Lv.78[Sランク]
異能[
技能[神眼][神狼][廻天][復讐][指揮][次元][消滅]
基礎三形
活性[S]
遮断[A]
具現[S]
ここ数ヶ月で、レベルは71から78へ。
そして、シーゴのS級異能【
「あの……殺人鬼の異能」
あの後、シーゴについて少し調べた。
テロリスト集団、黒き解放。
異能は自由のための翼であると公言し、好き勝手に異能を使って破壊の限りを楽しむ、という超危険集団。
そんな集団の、トップが使っていた力。
……正直、心情的には遠慮したい。
きっとあの男は、この力で何十人も、何百人も殺してきたのだろうから。
だけど。
「……好き嫌い、言ってられる立場じゃねぇか」
僕はステータスを閉じて、拳を握る。
僕は弱い。
先の戦いでよく分かった。
シオンに劣り、六紗に劣り。
成志川には手加減された。
何たる弱さ、低弱さ。
こんな程度で……誰に勝てるというのか。
「……ッ」
きっと、僕は誰にも勝てやしない。
この程度で満足してたら、いつまで経っても上には勝てない。S級の上位陣には手が届かない。絶対に。
僕は大きく息を吐き、歩き出す。
やるべきこと。すべきこと。
それはきっと、一切の妥協を捨てること。
体を鍛え、異能を鍛え、奪い、強くなる。
そのことに、一切の妥協をしてはならない。
「敗北を……ただの敗北では終わらせない」
壊れた校舎は、再生の異能力者が急ピッチで直している最中だ。
今再びの開校まで……まだ、しばしかかるだろう。
大きく息を吐く。
背負い直したバックには、大量の食料が入ってる。
僕はアイテムボックスへと手を突っ込み。
そして、取り出したるは第零巻。
「……負けられねぇ、よな」
僕は、第零巻を開く。
その瞬間、感じたのは異常なまでの想力量。
かつて、未熟だった頃は感じなかった。
黒歴史ノートが保有する、本来の力。
【使用者を確認。これより試練を開始します】
気がついた時、僕はその場に立っていた。
壁際には、青い炎が灯っている。
前方には、どこまでも続く洞窟がある。
僕が、力を手にした最原点。
一般人を止めた、僕の分岐点。
「【深淵】」
前方から、カサカサと音がする。
姿を現したのは、青いカブトムシ。
奴は僕の姿を見るや否や、凄まじい勢いで駆け出し、襲いかかってくる。
かつては恐ろしかったその姿も。
今では、さほど脅威足りえない。
特に、異能を使うことは無かった。
ただ、一息で近づいて。
活性の力だけで、ぶん殴る。
それだけでその魔物――コバルトブルーは命を落とし、痙攣した末に消えてゆく。
「……この深淵は、あくまでも浅瀬。今の僕が攻略して、何か、得られるものがあるわけじゃない」
強いて言うなら、攻略特典の【英智】の異能だろうか?
確かにあれは欲しいと思うが、別に、今すぐ欲しいという訳でもない。
欲しくなった時に取りに行っても、遅くはないと思う。
だから、今は取らない。
今は、別のクエストを開拓する。
僕は、背後を振り返る。
スタート地点の、すぐ後ろ。
そこには、一枚の扉が立っていた。
その扉は、低レベルの内は視認できないし、使うことも出来ない。
これを使うことが出来るのは、Lv.70を超えてから。つまり、S級へと上がってから。
僕は、扉へと手をかける。
緊張に喉を鳴らし。
それでも、躊躇することは無かった。
扉を開ける。
その先には、もうひとつの深淵が広がっていた。
「深淵【最下層】、解然の闇のお膝元だ」
僕は息を吸い、その中へと足を踏み出す。
振り返った時には、既に扉は消えていた。
後戻りは、出来ない。
まぁ、技能で帰還すれば戻れるけれど、当時の僕はそこまで考えてなかったんだろうね。野暮なことは言いっこなしだ。
僕はそう言って、零巻を開く。
そこには、見覚えのある言葉が浮かんでいた。
《クエストスタート》
深淵を抜け、我が元へ来るがいい。
我が力の一端、貴様に与えよう。
もう、力を得ることに遠慮はない。
たとえ、忌み嫌う存在の力であっても、僕はなんの躊躇もなく手に入れられる。
そうでもしなきゃ、過去の改変には届かない。
僕は拳を握りしめ、歩き始める。
「開校前には、攻略出来ればいいんだが」
たぶん、そうはいかないだろうなぁ。
だって、ここは深淵の最下層。
攻略させるつもりは、微塵もない。
他でもない僕が作った、無理ゲーの世界だ。
以上、第二章【秘匿の消えた世界】でした。
そして、物語は原点へ。
次回、第三章、開幕。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。