零章含め、全6章構成(予定)のこの作品。
そろそろ、折り返し地点突入です。
その言葉に、背中を押された。
彼の姿に、心が燃えた。
心の底から尊敬する。
この気持ちは……きっと尊敬だ。
僕は胸の内に沸いた想力を集めて、歩き出す。
ふと、視界の端に校舎が映る。
そこには、全員なぎ倒された侵入者たちと。
謎の生物を抱いて、こちらを見る少女の姿があった。
「……ありがとう、灰村解」
僕は、君に感謝する。
ありがとう、エニグマを助けてくれて。
そして、ごめん。
君を信じることが、できなくて。
きっと僕が、最初から君を信じていれば、こんなことにはなってない。
だから、こうなっているのは僕の落ち度だ。
僕のせいで、こんな現実が広がっている。
なればこそ。
僕はこの現実を、僕の妄想で塗り潰す。
現実が憎くて、忌々しくて。
僕は霧矢ハチに、この異能を教わった。
鍵は【現実への嫌悪感】そのもの。
この力は、現実をより良いモノへと変えるため。
きっと、今日、この瞬間のために在ったのだと思う。
「さぁ、妄言を此処に、極め尽くそう」
過去はもう、後ろに置いてきた。
さあ、未来へと駆けよう。精一杯に。
☆☆☆
侵入者の男、シーゴは強かった。
異能を奪われ、一切の力を使うことができず。
それでも、なお強かった。
それはひとえに、願望器の力。
黒歴史ノート、第参巻。
その一冊が彼へと与えた力は【
世にも珍しい、常時発動型の異能。
その力は単純なもの。
――その保有者を、ただ破壊するだけの兵器に変える。
壊したい。
何もかも。
そう願ったシーゴの想いを、忠実にかなえた異能。
だが、それでもシーゴの意識が消えることはなく。
ゆえにこそ、彼は非常に焦っていた。
(なんだ……なんなんだこいつら! この強さ!)
目の前の二人に、シーゴは劣勢に立たされていた。
妙な赤髪と、正統派の王。
彼女らは鬼気迫る姿でシーゴを追撃し、追い詰める。
赤髪――シオン・ライアーはこの世界きっての天才児。
史上最年少でA級へと上がり、S級に上がる速度だけで見れば、おそらくこの世界にも類を見ないほど。
そんな彼女は、彼の破壊兵装に、己が兵器で挑んだ。
その結果は、火を見るよりも明らかだった。
「【毒素・パラライズ】」
彼女の肩から突き出した銃口から、黄色い煙幕が吹き付けられる。
それはシーゴの体中を包み込み、彼は手足のしびれを感じて舌打ちする。
『チッ、麻痺毒か!』
彼は咄嗟に、その空間から退避する。
煙幕の中から脱出して――次の瞬間、再び彼は煙幕の中にいた。
『……ッ、これは……クソが! 正統派の王! テメぇか!』
「うるさいわね。そろそろ死んだらどう?」
声が聞こえて、次の瞬間には串刺しにされていた。
目の前には、ガスマスクをした六紗優の姿があり、シーゴは咄嗟に拳を振るうが、それも届かない。
振るった右腕が八つ裂きになっていて、六紗の姿は消えている。
『時間停止……ッ!』
なんたる反則。
シーゴは歯を砕けるほどに噛みしめると、思い切り、その場で両腕を振り払った。
瞬間、凄まじい衝撃波が突き抜け、煙幕がすべて掻き消える。
彼は笑った。
時間停止、無限の兵装?
反則だらけだ。
『だから、何だ? 俺ァ難しいことを考える必要は何もねぇ! そうさ、最初から力でごり押しすりゃ、それで勝てる! 俺は絶対に死なねぇんだからよ! ぎゃはははは!』
下品な笑い声に、六紗とシオンは顔をしかめる。
そして、二人の背後から足音がした。
シーゴは驚きに目を細め、二人は思わず振り返る。
そこに望んでいたのは、一人の少年の姿だった。
だけど、そこに彼の姿はない。
そこにいるのは、敵対していた男の姿。
「てめぇ……!」
「妄言使い……成志川景」
二人は、咄嗟に彼へと拳を構える。
その姿にシーゴは一時、傍観した。
これで潰しあってくれるなら、それでいい。
そう思っての彼の傍観は、悪手以外の何物でもなかった。
「【
即座に、周囲を彼の空間が包み込む。
六紗とシオンは、成志川の空間浸食速度に目を見開いて――次の瞬間、彼はたった一言呟いた。
「シーゴ。【君の足元は溶岩の沼だ】」
それは、瞬間的な変化。
瞬きをするよりも、わずかな間ですべてが変わる。
肌が照りつくような熱気。
それを感じた瞬間には、シーゴの足元は変化を終えていた。
『……ッ!? な、なんだこりゃぁ!』
「次いで告ぐ。シーゴ、【君は溶岩の腕に縛られるだろう】」
足元、数メートルに渡って広がった溶岩の沼。
そこから無数の手が伸びて、彼の体を溶岩地獄へと固定する。
彼は絶叫し、その光景を見てシオンは言った。
「……てめぇ、どーいう風の吹き回しだ? 先に言っとくが、オレはてめぇを許さねぇぜ。人質なんざ関係ねぇ。お前がカイに手ぇ出した時点で、てめぇはオレの敵だ」
「……だろうね。安心してくれていいよ。君の敵対から逃げるつもりはない」
嫌悪、敵対。
そういった感情に、少年は慣れていた。
だけど胸が苦しむのは……きっと、憧れた少年の友達に、受け入れてもらえなかったから、だろうか。
少年は胸へと手を当てる。
痛い、苦しい、逃げ出してしまいたい。
そんな感情は、全てのみ込み、前を向く。
「だけど。信じると言われたんだ。僕はもう、引き下がれない」
少年、成志川景は、笑った。
信じる。
たったの一言が、燃えるくらいに熱かった。
エニグマの、優しい炎とはまるで別種。
一種の脅迫にすら近い、強烈な炎。
それが、胸の内で強く燃え滾っているのを自覚していた。
「……それは、あの男……の、ことなんでしょうね」
六紗は呆れたようにそう言って、前を向く。
前方で、侵入者シーゴは溶岩の腕を振り払う。
『ゼァ、ハァ……はは! ひひひひひひひひ! おいオイ先生ェ! こんなもんかよ! 弱いな弱すぎるよ! あぁ、俺が強すぎるだけって話かぁ? 最高だなオイ、現実サイコー!』
「精神汚染が始まっているな。あの本を丸ごと飲み込んだのならば……そうなるのは道理か」
そう呟いて、成志川は拳を握る。
その姿に、六紗優は口を開く。
「……正直、アンタを信用するに足る実績は、ないわ」
二年前から、彼は灰村解の敵対者だった。
襲撃に次ぐ、襲撃。
先ほどは灰村解へと直接手も加えた。
正直、信用できるだけの材料は、無いに等しい。
それでも。
六紗優は、何か思い出すように微笑んだ。
「ほんの、二日にも満たない時間。一緒に話して、喧嘩して。たったそれだけなのに……なんでかしらね。あいつが信じるというのなら、今この瞬間だけは信じてもいいわ」
その言葉に、成志川は目を見開く。
そんな彼へと、シオン・ライアーは背中を叩いた。
大きな炸裂音がして、彼の顔が苦渋にゆがむ。
そんな表情を見て、シオンは頬をゆがませた。
「そーだぜ。カイが許してなきゃ、とっくの昔にぶっ殺してる。あいつが起きたら、メシの一つでもおごってやるんだな。ちなみにオレはすてーき! 特上のやつおごれ!」
「あら、それじゃあ私もステーキ一つ。あいつ、ケチだからおごってくれないのよね」
二人が、彼の隣へと並ぶ。
その光景に彼は目を見開いて。
溢れ出そうな涙を、必死にこらえた。
前を向き、必死に笑ってこう言った。
「ああ……最高級のやつを、おごってやるとも!」
三人は、並び立つ。
前方には、侵入者シーゴ。
彼の体は徐々に変貌を遂げていく。
負った傷は消失し、体は体積を無視して無制限に広がってゆく。
2メートルほどの身長が、今では空を見上げるほど。
筋骨隆々にして、悪魔のような翼をもつ、正真正銘の化け物。
それを前にすれば、だれしも恐れを抱くだろう。
だけど、それでも。
三人は、臆することなく走り出した。
「行くぜぇぇぇ! これが最後の戦いだろ!? なら、もう想力を抑える必要もねぇってこったな、カイ!」
最先手は、シオン・ライアー。
彼女は両腕をマシンガンへと変えると、走りながらすさまじい速度で弾丸の限りをシーゴへ喰らわす。
一撃一撃が、A級クラスの超連打。
それが、毎秒500を超える数、飛来する。
それは何という名の悪夢か。
とてつもない数量に、シーゴの体が揺れる。
その瞬間を逃すことなく、成志川が告げる。
「
シーゴの足元へ、地獄の門が開く。
それは、禍々しいという言葉を体現するようなものだった。
漆黒の扉に、銀の蝶番。
その中に広がるのは、ただ、暗闇。
シーゴは思わずその門へと目を下ろし。
次の瞬間、暗闇の中の【六つの瞳】と目が合った。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
闇の中より、首の三首の番犬が現れた。
その怪物は吠え、シーゴの脚へとかみついた。
『ぎいいいいいいいい!? 痛ぇ! 痛ぇええええ! お前かぁ! お前か、妄言使いぃぃいいいいい!』
「そんな姿になっても、僕の想力は覚えているんだな」
成志川は、前方に掲げた右手を、握りしめる。
瞬間、三つ首のケルベロスはシーゴの脚を噛み砕く。
バランスを崩したシーゴは、まるで手をつくように、学校の本校舎へと右手を伸ばす。
避難しきれていなかった生徒たちが、思わず叫び。
次の瞬間には、遠方の校庭に立っていた。
「はぁ……もう、やりたい放題ね、あいつら」
近くには、すっかり元の口調へと戻った少女が立っている。
次の瞬間、シーゴは本校舎へと倒れ、校舎が崩壊。
その光景に悲鳴を上げるころには、既に六紗の姿は消えていた。
彼女は瞬く間に、戦場へと戻っていた。
「ちょっとアンタら! 避難させる私の苦労も考えなさい!」
「うるせぇ! 考えるのはカイの仕事だァ!」
「そいつがぶっ倒れてんでしょうが!」
二人は叫び、成志川は苦笑する。
そんな姿に業を煮やしたのは、侵入者シーゴ。
彼は苛立ちに歯を食いしばる。
どうすれば、どうすればこいつらに絶望を見せられる。
この反則野郎どもを、絶望させられる?
そう考えれば、自ずと答えは出てきた。
『そうだ、お前らの大切なモノを壊せばいいんだ』
その結論に達するまで、一秒もかからなかった。
彼は視線を巡らせる。
崩れ去った本校舎から、数十メートル。
そこには満身創痍で倒れ伏す少年の姿があり、それを見たシーゴは獰猛に笑った。
それは、とても嬉しそうな、歪んだ笑顔だった。
『こいつを、壊せば』
気が付いた時、既にシーゴは手を伸ばしていた。
その光景に焦る三人。
シオンは銃口を構え、成志川は咄嗟に言葉を発そうとする。
六紗は異能の連続使用に脂汗を流しながら、想力を高めて。
三人のすぐ横を、黒い影がすり抜けた。
「――まったく、メール一つで呼び出すとは」
その声に、その姿に。
六紗優は、限界まで目を見開いた。
「あ、アンタ……!」
その女性は、腕の前へと割り込んだ。
赤い瞳が、金色へと変わる。
幾たびも見て、体感して。
悔しいほどに認めてしまった、最強の盾。
――すべてを無条件に反射する、最凶の反則能力。
その目を保有するものは。
きっと、全世界を見渡したって一人きり。
「【臨界天魔眼】」
金色の魔法陣が、完成する。
シーゴは気にせず、少年へと手を伸ばし。
その右手が、その魔方陣へと触れた、その瞬間。
――その衝撃が、
『が……!?』
たったの一撃。
それだけで、右腕が肩まで弾け飛んだ。
それは一瞬の出来事だった。ゆえに、痛みが遅れてやってきて、シーゴは暴れ狂うように絶叫した。
『あ、ああ、あああ、ああああああああああああ! なんでぁ、どうしてぉ! 痛いよ! 痛い痛い痛いいたいいたい痛い痛いぃ、痛いいいいいい!』
その光景を一瞥し、女性は六紗へと視線を向ける。
金色の瞳は、いつの間にか元の赤色へと戻っていた。
その表情は、どこか優しげで。
六紗優は、天敵の姿を前にして、呆れたように息を吐く。
「……わかってるわよ。アンタの姿が見られると、いろいろと面倒だからね」
そう言って、少女は笑う。
「あとは私たちに任せときなさい。
「……フッ、ならば任せるとしようか、
次の瞬間には、女は霞のように消えていた。
一周回って呆れるほどの、遮断性能。
六紗優は苦笑して、暴れ狂うソレを見た。
既にシーゴは、人間の形を留めてもいなかった。
『殺スゥ……もう、いい、全テ、目につくモノ、全て、破壊スル……』
まるで、歪な絵画からそのまま飛び出してきたような。
一個の生命として既に成立していない姿が、そこにはあった。
それを前に、シオンは両腕を変形させ。
成志川景は、体の底から力を汲み上げた。
「……超回復能力。あれは異能を超えた、奇跡の類だろう」
成志川景は呟いて。
それを、シオン・ライアーは嘲笑った。
「アホこけ! 奇跡は物理に劣るんだよ!」
そうして、2人は共に走り出す。
その速度は、音速にすら近いだろう。
S級きっての超火力組。
その2人の背を見送って、六紗は苦笑する。
その後ろには、一人の少女に抱えられた、謎生物ポンタの姿があった。
「な、成志川……! つーかカイ! あんた、なんでこんなにボロボロになってる訳!?」
少女は叫び、六紗は振り返る。
「さ、ポンタ。もちろん、拳1発分くらいの余力は残ってんでしょうね?」
「……酷い子ぽよ」
ポンタは、金髪の少女の手から地面へ降りる。
その姿を見て笑った六紗は。
次の瞬間、ポンタと共にシーゴの頭上へ移動していた。
時間停止による、瞬間移動。
されど、この距離を1回の停止で動くのは、異能を連発していた六紗にとっては……かなりの荒業。
彼女は大粒の汗を流し。
その手に抱えた謎生物へと、叫んだ。
「【
そして、光が瞬く。
光の中でポンタの体は征服王への成りかわる。
彼は静かに、下方を見つめ。
拳を握り、口を開いた。
「【
シーゴは強烈な殺気を感じて、頭上へと視線を向ける。
そこには、拳を構える一人の男。
その男は、時間制限はあるにせよ。
こと、物理戦において、負けることを知らぬ猛者。
彼が放つ、全てを賭した、ただの一撃。
それは、未だ人類が体感したことの無い力を誇る。
「【
それは、たったの一撃。
それだけで、巨大な肉塊を、一瞬で押し潰す。
あまりの一撃に、余波だけで周囲を破壊し尽くす。
上空のポンタは六紗を抱えて、離脱する。
その光景を見送って、シオンは笑った。
「すげぇすげぇ! 強ぇ奴らがいっぱいだぜ! なら、オレもここらで全力見せとかねーとやべーよな!」
彼女は両腕を前へと構える。
シオンは止めた。
彼女が産み落としたのは、巨大な銃砲。
歪な程に長い銃身に、黒一色のその姿。
それを前に寒気を感じたのは、シーゴだけではなかったろう。
「なんと、いう……」
――想力量。
成志川景でさえ、戦慄を示し。
シオン・ライアーは、楽しげに笑った。
「さぁ、生まれて初めてぶっぱなす、全開だ」
かくして彼女は、その一撃を叩き込む。
「【
それは、地上から放たれる隕石だった。
その一撃はシーゴの体を崩壊させ、それでも止まらず天へと昇る。
その姿は、まるで龍だった。
誰もが唖然と空を見上げる中。
たったの二撃でズタボロにされたシーゴは、歯ぎしりをして周囲を見渡す。
『な、何故ェ……、どう、してェ!』
何故、自分が負けている。
どうして、この本が劣ることは無いはずなのに。
彼は叫び、そして、聞いた。
「知ってたかい。その本は、1度使われている」
『……ッ!?』
彼は目を剥き、声の方向へと視線を向ける。
そして、見た。
紅蓮の太陽を頭上に灯す、一人の男を。
「その本が……1度も、使われていなければ。些細な奇跡を叶えていなかったら。きっと、僕らは君に勝てなかった」
彼は頭上へと手を掲げる。
『お前ェ、お前かァ! 妄言使いィィ! ナゼ、何故なぜナゼ! 何故俺の邪魔ヲする!?』
シーゴは顔をゆがめ、少年は瞼をとざす。
邪魔をするつもりは、毛頭ない。
ただ、逆だった。
(逆だったんだよ、シーゴ)
自分たちが、シーゴの邪魔をしてるんじゃない。
「お前が、僕らの邪魔だっただけだ」
かくして、少年は彼を見上げて。
想力の限りを、
紅蓮の太陽が激しく燃え盛り。
顔を引き攣らせるシーゴへ。
少年は痛いほど優しい笑顔を浮かべて、言葉を贈る。
『この声を、この力を、我が太陽たちに捧ぐ』
それは、妄言使いの本気の一撃。
想力全てを費やして、現実を妄想へと塗りつぶす為の、眩き太陽。
成志川景の、大切なものを冠した一撃。
「【
紅蓮の太陽が、堕ちる。
瞬間、シーゴは察する。
回避も防御も、間に合わない。
体はへしゃげ、風穴が空いている。
これを耐えることも、不可能と理解した。
『――あぁ、もっと、壊したかっ』
言葉が最後まで、続くことは無かった。
紅蓮の煌めきがその巨体を飲み込んで。
その巨体を、一部も残さず消滅させた。
それは、再生のやりようがないほどに。
寸分違わぬ、消滅だった。
次回は、後日談。
成志川景がメインとなった第三章、終幕です。
余談ですが。
改めて零章を読み返すと、阿久津さんの【信用できるものか】という単語に、確かに反応している成志川の姿がありました。
完全な偶然ですが……キャラクターって生きてるんですねぇ。
改めてそう思いました。
+注意+
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