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第二章【秘匿の消えた世界】
214『望まぬ再会』

「ほぉーん! スゲーな、幻術系か! つーことはなんだ、あのドラゴンも、ぜんぶお前の幻だったってことか! 先生よォ!」


 べしべしと、カイの頭を叩きながらそう言うシオン。

 彼女はドラゴンに倒された生徒たちの面倒を見るため、カイより先にこちらの世界へと戻ってきていた。


 そのため、ドラゴンと戦っているカイは、今もまだ寝ている状態なのだが、それをいいことにシオンは様々な好き勝手を実行していた。


「コイツめ! 褒める褒めると言っときながら、今まで褒めた事ねーじゃねぇか! あ、でも朝は可愛いって言われたけど、あれ絶対笑ってる顔だった! ムカつくぜコノヤロウ!」

「お、おい。いいのかそんな……あぁっ! や、やめておくんだシオン・ライアー! そんっ、そんなこと……そんな場所まで!」


 シガラミ先生が、顔を真っ赤にしてその光景を見つめている。

 起きてきた生徒たちも顔を赤くして目を背けており、シオンは、カイが起きたら間違いなく怒りそうなことを実行する。

 ……だが。



「…………あぁ?」



 ふと、シオンは想力の高まりを感じて目を見開いた。

 場所は……校舎一階の方だ。

 冥府の中で、初対面のカイを察知できるほど、彼女の想力察知能力は優れていた。

 故に気づけた。その僅かな異変にも。


「……おい、シガラミ先生。今すぐ戦いの準備しとけ。なんか、変なのが学校に入ってきてるぜ。直感だが、こりゃ敵だな」

「敵だと? この学園は正統派の象徴とも呼べる場所だぞ。そんな場所に侵入など……」


 シガラミ先生はそう呟き。

 その直後、ジリリリリ、とアラームが鳴った。


【侵入者発見、侵入者発見。生徒たちは直ちに、教員の指示に従って避難してください。繰り返します。侵入者発見――】


「あるはずも…………あったようだな」


 その放送に、廊下の方が騒がしくなる。

 シオンは咄嗟にカイへと視線を向けたが、彼はまだ幻の中。


(相手の戦力も分からねぇ。……カイたちの幻術を先に解いてもらうべきか)


 ふと、シオンは考えた。

 そして、自分の思考に驚いた。


 ――オレはいつから、こんな弱腰になったんだ、と。


 シオンは大きく頭を振った。

 両手を頬へと打ち付けて、前を見た。

 既に、その時点で意識は切り替わっていた。


「……おい先生。オレが出る。万一S級なんかが出張ってきたら面倒だからよ。アンタはカイたち起こして、避難してろや」

「し、しかし! 君も生徒ならば……!」

「うるせぇ! こんなかじゃオレが1番強ぇ! ならこれが正解だろうが!」


 そう言って、シオン・ライアーは教室を飛び出した。

 そして、飛び出したところで見覚えのある生徒が隣にいた。


「……おっ」

「……また会いましたね、シオン・ライアー」


 そこに立っていたのは、正統派の王にして最強の異能力者と名高い、六紗優。

 彼女は、ちらりとシオンの出てきた教室を見た。

 しかし、今回ばかりは優先順位が逆だった。


「……ご助力、願えますか」

「とーぜん! 侵入者ぶっ潰すんだろ? そーいう簡単な仕事は大の得意だぜ!」


 シオンはそう叫ぶと、六紗は笑った。

 彼女は耳元の通信機から連絡を受け取ると、シオンを一瞥して口を開く。


「では、行きましょう。私も、さっさと終わらせて会わねばならない人が居ますので」

「奇遇だな! オレも、いい加減褒めてもらわないといけねぇカイが居るぜ!」


 かくして、2人は走り出す。

 今回ばかりは、廊下を走るなとは誰も言えなかった。




 ☆☆☆




 目が覚めたら、シオンがいなかった。

 ものすごい不安に襲われた。

 いや、彼女が居なくて、戦力的に心配だなぁ、って話じゃなくて。

 あのアホを放ったらかしにして、どれだけ被害が拡大するのか。そっちが心配だった。


「せ、先生! なんで行かせたんですか! 正気ですか、頭打ちましたか!」

「わ、私も止めたのだが……」


 シガラミ先生は、困ったようにそう言った。

 この学園に侵入者が入ったというのは、既に聞いた。

 というか、目覚める前から放送で流れっぱなしになってたから。普通に知った。

 そして、シオンが居ないことに気がついて、今に至るというわけだ。


「やばい、やばいよ……侵入者たち皆殺しになっちまうよ! 大丈夫かな侵入者たち!」

「そちらの心配か……」


 当然よ!

 シオンの心配して何になるって言うんだ。

 彼女は異能の使える全盛状態。

 常が一切の不調なく、合切が万全の絶好調。

 そんな彼女に加えて……なんか、隣のクラスから聞こえたんだけど、六紗までついて行ったって?


 ご愁傷さま、侵入者さん。

 君たち、死んだわ。間違いない。


「南無阿弥陀仏……」


 僕はクラスで両手を合わせていると、ふと、廊下の外から足音が聞こえた。

 今日は月曜日。

 先程の【強化神狼】の影響がまだ残っているのか、今の僕は常人よりも嗅覚、聴覚ともに秀でている。

 だからこそ、誰も気づかぬようなその足音にも、耳ざとく気づけた。


「……まさか」


 嫌な予感に、席を立つ。

 避難に向けてざわめいていた教室内の視線が、いっせいにこちらへと向かう。

 その中で僕は……なんの躊躇もなく【神狼】技能を行使した。


「皆ッ、伏せろ!」


 僕は机を蹴り、壁へと拳をふりかぶる。

 僕の声を受け、生徒たちは窓際の方へと逃げ出してゆき……それと同時に、壁を突破って巨大な化け物が姿を現した。


 赤黒い肉体。

 暴走列車よりも、まだ大きな体。

 あれほどの威圧感は感じないが、それにしたって、先程のドラゴンよりも遥かに高位。

 ……僕は、その存在を知っていた。


「……オーガ!」


 僕は拳を振り抜いた。

 と同時に、オーガもまた拳を振り抜き、僕らの拳が真正面から直撃する。

 あまりの衝撃にビリビリと空気が揺れ、窓ガラスが弾け飛んでゆく。

 悲鳴が上がり、生徒たちが身を縮める中。


 僕は思い切り拳を振り抜き、オーガの巨体を廊下の外へとはじき返した。


「……っし!」


 以前は、不意にぶん殴られて瀕死になった。

 けど、分かってたら打ち勝てる。

 いいや、打ち勝てるように『なった』んだ。

 2年間の修行の成果! 見たかコラ!

 僕は拳を握りしめ、廊下の外へと視線を向ける。


「……そのオーガが、居るってことは」


 僕の言葉が響いてまもなく。

 廊下から、先程まで聞こえていた足音が響いた。


「……嫌な、偶然だね。君とはもっと別な場所で会いたかったのだが。運命とは、時に僕達の想像を超えて飛躍する」

「……僕は、どーせこんな感じの再会だと思ってたけどな、()()()()


 その先から現れたのは、1人の少年。

 以前はガッチガチにワックスで固めていた髪型は、今では普通のものになっている。

 ふっくらとした体格も、今では少し痩せて、げっそりとしている。

 見る影はあるが、以前とは明らかに雰囲気が違う。


 それでもその姿……出会い頭に先んじてぶん殴ってきたそのイカれた思考。

 僕が、忘れるはずもない。



「S級異能力者【妄言使い(ファントムワード)】」



 その言葉に、男は儚く笑った。


「……そう呼ばれていた、時もあったね」


 彼の言葉に、周囲は困惑気味にしていた。

 ……ここ数ヶ月。

 様々な情報を集めてみたが、僕の死後、妄言使い、ファントムワードの名前は一切と言っていいほどに上がっていなかった。

 無論、S級の中にはその名前は記されていたが、一切の話題に上がらないため、こいつのことを知っているのは、知人か、余程マニアックな異能オタクか、いずれかだ。


「ファントムワード? おい、なんだよそれ」

「タケシ少年。そうやって相手を舐めて痛い目あったばかりだろ。ちょっと黙ってて」

「う、うるせぇな!」


 ドラゴンに潰されかけてたチャラ男、タケシ少年が話しかけてきたため、視線をずらすことなくそう返した。

 タケシ少年は僕の反応を見て怒ったようだが、それと同時に妄言使いに対して警戒をし始めたようだ。

 チャラいけど、頭は普通に良いのだろうか。


「強いのか?」

「もちろん。2年前は相手にもならなかったさ」


 僕は拳を構え、タケシ少年もまた戦闘態勢に入る。

 後ろのクラスメイトたちも、僕らにつられて戦闘態勢へと入り、それらを見渡した妄言使いは、軽く笑った。


「……これは、困ったね。ねぇ、御仁。僕はあまり元気がない。正直、戦うのも面倒だ。出来れば、抵抗せずに投降してほしい」

「うるせぇな。今も昔も、いきなりオーガに特攻させてくるような相手、どこを信用すればいい?」

「……はぁ。交渉決裂、かな」


 妄言使いは、疲れたように息を吐く。

 そして、その目でしかと、僕を捉えた。

 瞬間、自覚したのは殺意の塊。

 2年前にも浴びたソレは、以前よりも遥かに強く、重く、鋭く、濃厚になっていた。

 思わず胸が詰まる。

 周囲のクラスメイトは殺気だけで崩れ落ちており、タケシ少年も机に両手を乗せて苦しそうにしている。


「……あまり、手加減は得意じゃないんだが、御仁。君には死んで欲しくないからね。一生懸命、手加減するよ」


 圧倒的な格上だった、妄言使い。

 僕は奥歯を食いしばり、両の拳を固く握る。

 そして……ふわりと、新たな匂いが鼻腔をついた。


 それは、血の塊のような匂いだった。


「……ッ」

「おい大先生よォ、柄にもなく手間取ってんのか」


 通路から現れたのは、一人の男。

 その男を見た瞬間、理解した。

 間違いない、こいつ、イミガンダと同格。堂々のS級異能力者だ。

 全身の細胞が、その男を警戒しろと言っていた。


 ……まぁ、それ以上に、妄言使いに対して騒いでいるわけだけど。


「……あぁ? おー、なんだ、異能使える奴もいるんじゃねぇか! おい大先生、ちょーど暇してた所なんだ。こいつ、俺が潰すけど、問題ねぇーよな?」

「……し、しかし」


 男の言葉に、妄言使いは反論する。

 しかし、直後に男の表情は一変した。



「あ? 文句あんのかよ」



 それは、とてもシンプルな問いだった。

 あまりに軽く、あまりに短い言葉の羅列。

 されどそれは、鋭く妄言使いに突き刺さったように見えた。……少なくとも、僕にはそう見えてしまった。


「……ッ、わ、かった。好きにすればいい」

「おー、そう来なくちゃなー! おいガキ、俺が練習相手してやるよ。勝利条件は……そーだな。相手をぶっ殺したら勝ち、でどうだ?」


 なにそのイカれたゲーム。

 僕は思わず頬を掻き、それを見た男は楽しげに笑った。

 それは、獲物を前にした狩人の笑顔だった。



「ま! 反対意見は聞かねぇんだけどよ!」



 なら、最初っから聞くなよ。

 そんな僕の言葉を、聞くことも無く。


 その男は、凄まじい勢いで大地を蹴った――!

第1章の鍵となったのが、シオンと霧矢ハチ。

第2章の鍵となるのは、妄言使いともう1人。


次回【人質】

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