瞬殺劇。
劇というだけあって、その後の変化は劇的だった。
「「「…………っ」」」
僕が歩けば、自ずと道が開いた。
僕の視線から、野次馬たちが逃げていく。
その多くは、さっきまで僕に悪感情を持ってたやつらだろう。
ざまあみろ、ってんだ。
僕はシオンの方へと歩いていたが……ふと、足を止めて隣を見た。
「おい、今度は、出さなくていいのか?」
「ひいっ!? す、すんません!」
そこには、さっき僕へと足をかけてきた男子生徒たち。
彼らは僕の視線を受けて怯えたような悲鳴を漏らす。
が、同情の余地なし。
気を付けてよね。ああいう陰口って結構心に刺さるのよ。
いじめ、だめ。ぜったいに。
さもなくばぶん殴るぞ?
僕は、『次からは気をつけようね』と彼らへと手を伸ばす。
だが。
「ひっ、ひいいいいいいっ!? ば、化け物っ!」
少年たちは、絶叫しながら逃げだした。
その光景に、僕は手を伸ばしたまま硬直。
そして……ズキリと、胸が痛んだ。
「ぐっ!」
ばっ、化け物だなんて!
そんなの普通の人が言われたら、普通に傷つくからね!
僕は辛うじて『化け物って呼ばれるのがうれしい』時代があったから耐えられたものの、アンタら、間違っても普通の人に化け物だなんて言うんじゃないよ? 傷つくんだから。
ちなみに化け物と呼ばれて嬉しいそこのあなた。
お前は中二病だ。間違いない。
僕は胸を押さえつけ、大きく息を吐く。
落ち着け……化け物と呼ばれて蘇りそうになってる中二の僕。
お前は死んだ。二度と出てくるんじゃない。
「あっ、あの……ひとつお聞きしてもいいでしょうか?」
ふと、全然知らない声がした。
そちらを見ると、小柄な少女が立っている。
彼女は僕の視線を受けてびくっとしたが、深呼吸して僕を見据えた。
「あの……先ほどのは、どうやったのでしょう?」
先ほどの。
つまり、大学生をどうやって倒したか、ってことかな。
まあ、答える義理もないことだし、テキトーにはぐらかして済まそうか。
そう考えていると……ふと、後方から足音がして振り返る。
いつの間にか、他の試験も一通り終わっていたらしい。
周囲に戦っている者は居らず、さて、次の一巡かな? なんて思っていたのもつかの間。
僕は、ぞろぞろと歩いてくる試験官たちを見て……嫌な予感がした。
「それについて、私たちにも説明頂きたいところですね」
先頭を歩く、女性の試験官がそう言った。
なので、僕は笑って即答した。
「いやですよ。こんな公衆の面前で言えと?」
「ならば、公衆の面前でなければよいと?」
わるいねぇ。少なくとも良くはない。
僕の事情を知るのは、僕と……霧矢ハチ。あの男だけでいい。
阿久津さんやシオンにも明かしてないことを、なんでったってこんな見ず知らずの人に明かさなきゃならんのか。信用できない。
そうこう考えていると、試験官は口を開いた。
「正直、私たち教師陣、貴方を測りかねている部分があります。……事前の調査で、基礎三形の『遮断』に長けているとの結果は出ましたが。それだけ。それ以外の部分について、貴方は先ほどまで『受験者の中の内一人』でしかなかった」
今は違うけど、って話かな?
僕が黙っていると、彼女は続けた。
「……貴方は間違いなく合格となるでしょう。……ただ、その実力を知りたい。それこそ、目で追えぬ一瞬ではなく、最低でも数分間。貴方の実力を見て、それから合格させたい」
……無茶言いやがる。
今の僕に数分も戦えと?
一分も戦えるかどうか怪しいってのに。
僕はため息を漏らすと、問いかける。
「で、僕のメリットは?」
「……そうですね。入学後に様々な便宜を図る、というのでどうでしょう? あまり他の生徒に対する差別はできませんが、……最低限、学園生活において掛かる全金額の補償。学食での特別メニューの解放。その他諸々、極力あなたの希望には応えるつもりです」
そう告げる、女性試験官。
僕はその言葉に、目を見開いた。
金銭の補償……は、うれしいけれど、今重要なのはそこじゃない。
僕は恐る恐ると背後を振り返る。
されど、振り向くより先に、肩を掴まれた。
赤髪がちらりと視界の端に映り込み……僕はすべてをあきらめた。
「いいじゃねぇか! とくべつメニュー! 超喰いてぇ!」
僕は考える。
試験官の提案を断り、シオンと長々ぐだぐだと言い争いをする未来と。
一分だけ我慢して、あとはすべて円滑に進む未来と。
どちらがいいかを考えて……やっぱり答えはすぐに出た。
「…………わかりました。それでいいです」
「さすがカイだぜ! 今度オレの頭を撫でさせてやるぜ!」
「それは要らん」
「うるせぇ! たまにはオレを褒めろ!」
襲い掛かってきたシオンを押さえていると、試験官たちはどこか安心したように、ほっと胸をなでおろしていた。
不思議に思って首をかしげるが……すぐにその理由は察せられた。
だって、片や異能者潰しで有名な『死地の紅神』。
もう片方は、全てが謎に包まれたイレギュラー、この僕。
こんなのを前にして、緊張するなってのがおかしい話。
僕らがバカみたいな会話を始めたことで、多少、その緊張が解れたのだろう。
「で、どうするんですか? 正直、本気出して『戦える』ような相手、受験者の中にはいないように思えますけど。……六紗でも呼び戻しますか?」
「……いいえ。その必要には及びません」
先ほどより、少しだけ柔和な表情を浮かべる女性試験官。
彼女は僕の隣を指さすと、当然のようにこう告げた。
「今回の受験者。計り知れない【S級】が、もう一人いるんです」
「「…………あ?」」
僕とシオンの、声が重なった。
☆☆☆
「……いつか、こうなるだろうとは思っていたぜ」
最終決戦。
親友とも恋人とも、相棒とも呼べる相手と。
愛憎の限りを込めて、戦うことになった。
的な雰囲気を込めて、シオンは言った。
「何馬鹿なこと言ってんだ。冥府で何度戦ったと思ってる」
「忘れた! 細けぇこと気にしてたらアレだぜ! 負けだぜ!」
彼女の発言に大きなため息を漏らす。
僕らの間に立っている女性の試験官は、僕らを交互に見て口を開く。
「それでは、両者ともに準備はいいですか」
彼女の提案は、とても簡単なものだった。
『彼女と一般人を戦わせるのはアレなんで、せっかくですし化け物同士で戦ったらどうですか?』と。包まれていたオブラートを開けばそんな感じになるだろう。
……まあ、シオンを普通の受験者と戦わせたら、たぶん相手の方が大変なことになっちゃうし。
僕も彼女の力を見たい半分、相手の心配半分だったわけだし、今回の試験官の提案には乗っかるべきなのだと判断した。
僕は、シオンへと視線を向ける。
僕の視線を受けて、シオンは笑った。
それは、獰猛な、獣のような笑顔だった。
「先に言っとくぜ、カイ。冥府でのオレと一緒にしてたら……怪我すんぜ」
瞬間、彼女の全身から想力が吹き上がる。
あまりの量に、圧に、全身が粟立った。
彼女から、久方ぶりに感じた【殺意】。
シオン・ライアーが本気であると、今ここに来て、理解した。
彼女の体から、光が瞬き。
そして、異能が顕現する。
「………それが、お前の異能か」
光が瞬き、その後の姿。
それを見て、僕はようやく彼女の力に理解が及んだ。
「【
今の彼女は、全身凶器。
右腕からは血濡れた剣を。
左腕は銃へと換わり、背中からは婉曲した砲台が伸びている。
両足の踵にはタイヤが生まれ、腰の両脇にはジェットエンジン。
彼女は、バイクを召喚していたわけではない。
自分の体を、乗り物へと【変換】していたのだ。
ここに来て、ようやくその事実に気がついた。
彼女の異能は、自分の体をあらゆる【
……異能力が蔓延るこの世界において、鉄臭蔓延る銃火器は、魔法やなんだと新しいものに対して古く感じるかもしれない。
だが、あの威力を、想力で強化することが出来たのならば。
それはきっと、常軌を逸した兵器と化すだろう。
僕は両腕を構えて、彼女は叫ぶ。
「さぁ、始めようか! 1年半越しの、オレらの喧嘩を!」
彼女は大地を踏みしめ、駆け出した。
僕は拳を握りしめ、彼女を迎え撃つ。
「あぁ、そうだな。お前もせいぜい、怪我しないよう気ィつけろ」
僕はここに来て、初めて遮断を全解除した。
途端、溢れ出したのは膨大極まる僕の想力。
常軌を逸したシオンの想力量が、赤子に思える程の量。
それはまさしく、力の濁流。
彼女は大きく目を見開いて、僕のつけている耳飾りへと視線を向けた。
「ま、さか、てめぇ!」
「使わせてもらうよ、第二の異能」
冥府から持ち帰った、深淵剣の残骸。
僕は阿久津さんに依頼し、あの灰を加工し、小さな耳飾りへと作り直すことに成功していた。
さっきの大学生と鍵が被っていたのは少し癪だが、気ィつけろよシオン。
さっきの筋肉バカとは、別格だぜ、僕は。
「【
この入試は、土曜日開催。
でもって、本日強化されるのは【次元】の異能。
僕の変化に気がついたシオンは、楽しげに笑う。
「カッケーな! 髪、逆立ってるし、目の色変わってんぜ!」
「え、マジで? 後で鏡見よう」
彼女は全身全霊、ただの拳を振り下ろす。
その場所、その瞬間、ピンポイントで【穴】を発生させ、その拳を彼女の顔面すぐ隣へと転移させる。
それは威力そのまま、彼女の横っ面へと突き刺さった。
……かのように、思えた。
「……く、はっ! はははは! すげぇすげぇ! 今のは危なかったぜ!」
「……今のを防ぐか。化け物だな」
彼女は拳が当たるその直前で、逆手で拳を受け止めていた。
……さっきの少年たち、見てるかい?
こういうのを、化け物と呼ぶんだよ。
一拍遅れて衝撃波が突き抜ける。
あまりの風圧にシオンの前髪が吹き上がる。
紫色の瞳に、闇のような黒い眼帯。
僕は彼女の目を見て、嫌な予感に突き動かされた。
咄嗟に僕は転移して、直後、それが正解だったと理解した。
僕のいた場所を、シオンの【目からビーム】が撃ち抜いたから。
「なは! これを躱すか! 初見殺しだったのにな!」
こっ、殺す気でぶっぱなしやがったな、こいつ!
僕は頬を引き攣らせ、再び彼女へ拳を構える。
……さて、あと僕はどれくらい戦っていられるか。
詳しいことは分からないけど……最低限、一矢報いてやりたいところだ。
僕は大地を蹴って走り出し。
シオンは、銃火器の限りを背負って笑っていた。
「Go Ahead! 安心しな、手加減くらいはしてやるからよ!」
Go Ahead。
先に逝け。
少なくとも、安心できるような英単語ではなかった。
――1年半。
少女は生きていた。少年は死んでいた。
さぁ、どちらがより、強くなったのか。
答え合わせを始めよう。
次回【カイVSシオン】
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。