五箇山相倉

 

バルセロナのアパートでモニがテレビを観ておる。

さっきまでわっしがスペイン語版の「金田一少年の事件簿」を観ておもしろがっていたのにコントロールを奪い取って、さっさとフランス語チャンネルに変えてしもーた。

昨日の矢張りスペイン語の「クレヨンしんちゃん」も、そうやって途中でチャンネルを変えられた。

専制君主のようなひとです。

ひどい。

 

わっしは寝転がってのんびりしておった寝椅子をしょんぼり立って寝室でしょぼしょぼと着替えておった。

 

モニの呼ぶ声が聞こえてきます。

「ガメ、ガメ! ご覧なさい、すごい!」

わっしがラウンジに走っていってみると、モニがカウチを指さして、「座りなさい」と言う。お座り、わしは飼い犬か。ついでに迎合して「お手」 もしちゃおうかしら。

画面には合掌作りの家が並んでおってフランス人のおっちゃんが囲炉裏端で漫画を描いておる。むちゃくちゃカッチョイイ集落であって「アイノクラ」ちゅうところだと言ってます。

森が有って滝があって、セーヒツである。

モニが行ってみよう、という。

日本に行くのは、わっしも異議はない。

今年は皇紀2669年だしな。

新潟のとんかつの政ちゃんの中入れかつ丼も食べなくてはならないことになっておるし。

でも、アイノクラって、どこだ?

あのでかいサッチドルーフの家って、シラカワじゃねーの?

広尾から400キロ。

クルマで怒濤のように関越長野と自動車道を駆け上がって北陸道を西へ行きます。

立山はまだ雪で真っ白。

立山のほうをちらちらと見ると曼荼羅にあるとおり、虚空に死人(しびと)が長大な列をなして雪壁に吸い込まれてゆくのが見える。(ウソです)

「蜃気楼の町」魚津を通りかかると、海の向こうに山が見えます。

運転しながら「あっ、蜃気楼だ! モニ、ほら、あそこ、陸地が見えるでしょう?

あれ蜃気楼。魚津って、これでユーメイなんです」

コーフンするわっし。

助手席(助手席、ってすごい日本語だすな)でL-02Aを使ってインターネットを見ていたモニが、ガメ、あれって、ノトじゃない?と言う。

えっ? おー、そー言えば、そーゆー見方もできるな。

どーりで、映像が妙にクリアだと思った。

でもモニさん、蜃気楼が見えるのはほんとーなのよ。

晴れた日には、遠い火星で火星人たちが畑を耕しているのが見えるという。

砺波が近づくと、チューリップ畑が見えます。

綺麗である。

イスタンブルの郊外のようです。

町並みが他の日本の町に較べて圧倒的に綺麗なのは陽光に輝く釉薬を塗った瓦屋根がどの家も同じだからでしょう。

見た感じがスラムのように見えない日本の町は珍しいのでモニが感心してます。

わっしも砺波はカッチョイイと思った。

巨大な屋根が蹲っているように見える大きな建物は、あれは一向宗の寺である。

戦闘時に要塞として使えるように工夫した有名な建築様式です。

 

相倉は小さな集落だが、モニとわっしはすっかり好きになってしまった。

欧州人たちが飛行機を乗り継いで1万キロ以上を旅してやってくるわけです。

周りを歩き回って、池のほとりでピクニックをした。

ベーコンエッグサンドイッチにコーヒー。

美しい「水公園」にも立ち寄って、水面(みずも)の色に見とれた。

夕方までさんざんほっつき歩いて富山に泊まりました。

最近どーゆーわけか、あれほど嫌いだった魚を食べるようになったと思ったら、あっというまにわっしよりも魚の味に煩くなったモニが富山の鮨のおいしさにびっくりしてます。

酒もうまい。

ふたりで「立山」 を一升飲んで幸せになりました。

ガセエビ、シロエビのような富山湾固有の鮨ネタも含めて、おもいきり食べても結局2万円であって、銀座のモニとわしが好きな鮨屋の三分の一くらいの値段です。

 

日本は料理店も高速道路もガラガラで旅行者にとっては天国のようである。

次の日の朝、起きるとソーカイであった。

わしらしかいない広大な食堂でベーコンとポーチドエッグとクロワッサンの朝食を食べました。

長野県の「山の家」 を家開きしてもらって、東京までもどらずに、ひさしぶりに長野の山のなかで寝た。

暖炉の火を見ながら、カバを飲んだ。

 

うー、日本は、いいところですのい。

小原庄助さんが身上をつぶすわけであります。

 

(この記事は2009年4月19日に「ガメ・オベールの日本語練習帳 ver.5」に掲載された記事の再録です)



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