全然ほどよくない『超小型衛星』

宇宙ネタを乱発する以上、いつか書いておかなければならないと思っていたネタがあります。

それは、昨今の『小型/超小型衛星ブーム』について!
(ブームと言えるかは良く分かりませんが…)


ここ数年、国(JAXA)には任せておけん!って感じで大学や経産省の主導で始まった小型/超小型衛星開発ラッシュですが、個人的には「こっちも任せておけん!」と思っています。


宇宙業界では、大体100kg以下の衛星を指して『超小型衛星』といい、特に10kg以下の物を『ナノサット』や『ピコサット』、逆に1ランク上(100kg〜500kgくらい)の衛星を『小型衛星』と言います。
ここでは、上記の表現に準拠するものとします。


2002年に千葉工業大学のWEOS(50kg, これは事実上ISASの技術で開発)、2003年にCUTE-1(東工大, 1kg)、XI-IV(東大、1kg)が打ち上げられ、俄かに大学衛星が注目を集め出しました。

その後も、Cute-1.7、HIT-SAT、SEEDS2、PRISM、SPRITE-SAT、KKS-1、WASEDA-SAT、KSAT、Negai☆など、順調に数を増やしています。

東大のN教授がNHKの爆問学問に出演してガ○ダムのテーマソングを歌ったり、2009年度に内閣府の『最先端研究開発支援プログラム』で40億円くらいの予算を獲得したり、2009・2010年度連続で文科省の公募が出て幾つかの大学が予算を獲得していったり。

他にも、経産省も小型科学衛星バスをベースに地球観測衛星『ASNARO』を開発して積極的に海外にトップセールスしたりと、ここ数年、小型・超小型衛星ネタは私の様な宇宙ニュースウォッチャーを飽きさせません。



ただねぇ、オールJAPANレベルの戦略が無いんですよねー。みんなバラバラに動いていて、全部のベクトルを合成すると全然大きなドライビングフォースにならないんです。



 たとえばASNARO。大体300〜500kgぐらいの小型衛星で、光学センサタイプとレーダータイプがあります。ところが、なんとレーダーの方は開発中のロケット『イプシロン』に搭載できない重量なんですよね。でも、H-IIAで上げるには軽すぎて能力過剰。最初から、ドニエプルやファルコンといった海外の中型ロケットで打上げるしかないんですよ。
 一方、光学センサタイプはというと、打上げ時期がイプシロン完成とずれ過ぎなので、やっぱり海外ロケットに頼らざるを得ない状況。多分、ドニエプル辺りを使うんじゃないですかね?

 普通は、衛星ってロケットの諸条件を制約条件として設計されるものです。それがなってないということは、JAXAとマトモな連携が取れていない証拠ですよ。(そーいえば、ASNARO光学1号は、昨年度末に完成予定だった筈ですが、今どうしてるんですかね?最近情報が入ってこないです。)

 ASNAROといえば、商売もへたくそですねー。視野の広さとか、スペクトルとか、ターンアラウンドタイムとか、地上局設備とか、買う側が衛星技術をどの程度学べるかとか、最終画像プロダクトがどういうフォーマットかとか、衛星には色んな要素がある筈なのに、地上分解能しか頭に無く、そのほかのスペックは平均的なものを選んだだけなのですから。ボリュームゾーンを選んだんだ!とか胸はって言われそうだから怖いですね。

 また競合相手は、衛星メーカだけじゃなく画像プロダクト販売企業だってあるのに、その辺も考慮にない。大体から、ALOS(だいち)がタダで画像配りまくっていた先の国が、同じ国から新たに自分の金で衛星を調達するんですか??
 100億円切りつつ地上分解能50cm以下を達成すれば、世界の地球観測商用衛星と価格勝負できる!って啖呵切ったわりに、全然売れてないのは、この辺が理由では?

 唯一の例外は、ベトナムODA衛星ですが、これは、ベトナムチャイナリスク対策ではないかと邪推しています。
 ベトナムは、一人当たりのGDPでも中国の半分くらいですし、日本と違って中国と地続きで、しかも南沙諸島という領土問題を抱えています。ベトナムが感じている中国に対する脅威は、日本のそれとは比じゃ無い筈なんですよ。
 そこで、地政学的に中国の向こう側にいて、中国との間に尖閣問題なんかを抱える大国日本に、衛星という安全保障に繋がる分野で連携を強めようと考えて、ODA円借款で衛星を買ったり、ホアラックに宇宙センターを作って貰ったりしてるんではないでしょうか。残念ながら、商売の成功例としてはカウントできませんね。
(ちなみに、このベトナムODA衛星は、イプシロンでは打上げられないレーダー衛星の方w)

個人的には、もうASNAROにはダメダメ衛星の烙印を押しちゃっています。



また、文科省の公募予算衛星も、やっていることがてんでんバラバラですね。

 2009年度公募については、東工大TSUBAME(ガンマ線バースト観測)・北大&東北大RAISING-2(雷神1の焼き直し)・九大QSAT-EOS(衛星上で高電圧技術)・北工大ハイパースペクトルセンサ・北大マルチスペクトルセンサ・光なんちゃら浜ホト大の光観測機器ユニット化・阪大のCCDってな具合です。

 統一性や戦略性が感じられませんねー。ハイパースペクトルとマルチスペクトルを同時進行でやる必要ってあります?光観測機器のユニット化って、CCD開発と別に行けるものですか?望遠鏡の設計って受光面サイズとかモロに影響するはずですが。
 大体から、なんで光学方面ばっかりなんですか?レーダーの需要の方が大きいですよね?千葉大みたいに超小型衛星に合成開口レーダーを搭載する研究をやっているところがあるのに、何故そちらには投資しないんですか?
 などなど、問題を挙げればキリがありません。

 2010年度公募については、新興国への衛星技術教育(国際貢献)なんて外交マターが含まれているのに、外務省と協力している雰囲気の欠片もありません。(そもそもAPRSAFなんてものを文科省が独自にやってること自体がおかしい)
 それに、採択された和歌山大・東大は、まだ20kg以上の衛星を1つも成功させていません。なのに、50kg級の衛星を外国に「教えてやる」なんて計画内容になっています。いくらなんでも無理があると思いますよ。
 大体から、JAXAが元々似たようなことやってた筈なのに、なんで焼き直ししてるんですか?同じ文科省なのに、これじゃ予算の二重執行です。



最先端研究開発支援プログラムの『ほどよし信頼性工学〜〜』に至っては、言っていることが破綻しています。

このプログラムに応募&採択された東大の主張は、主に下記の通り。
1.近年は、小型化技術が進歩して超小型衛星でも一昔前の大型衛星と同様の機能・性能が実現できるようになった。
2.衛星が小さくなれば、これまで数百億円だった衛星が数億円で出来る。
3.衛星価格が2億円まで下がれば、民間企業でも手が届き市場が広がり、新しい産業を創出できる。

で、どこが破綻しているかというと…

  • まず、1.について。

 衛星要素技術のうち、小型化したのは主にセンサや半導体、つまり元々そんなに大きくなかった部分。太陽電池も14%→27%くらいに光電気変換効率が高効率化したから、多少小型化したと言えるかな?バッテリもNi-CdからLi-ionに進化したくらいで、エネルギー密度は2〜3倍になった程度。でもどれをとっても、そこまでダイナミックな進化ではありません。
 また、リアクションホイールや磁気トルカなどの姿勢制御アクチュエータは、サイズに正相関で能力が向上するという拡大則を持っているので、原理的に大型衛星に有利です。
 光学センサだって分解能の限界は光の回折限界(望遠鏡の口径に依存)で決まるから、原理的に小さく出来ないです。
 また、通信のための周波数や地上局設備などのリソースは、超小型衛星と言えど大型衛星と同じ量を消費します。こういった衛星サイズ無依存のリソース面では、数が出やすい超小型衛星の方がむしろ不利なんですよ。
 『超小型衛星で一昔前の大型衛星と同じことが出来る!』なんてのは、明らかに過大評価です。

  • 続いて、2.について。

 打ち上げ費用が入っていませんよー(笑)。大型衛星が居るから、今のところは余剰打ち上げ能力でタダで打上げれているのに、小型衛星でその大型衛星を駆逐したら、今度は誰がロケットを打上げるのですか?放っておいても大型衛星の数は減少傾向だというのに。

  • 最後に、3.について。

 一般の民間企業が、一体何に人工衛星を使うと??某教授は、このプロジェクトで『キラーアプリ』なるものを探すと豪語しているようですが、順序が逆ですよ。ミッションが決まっていないのに衛星だけどんどん作ってしまうのでは、昔のNASDAと同じ病気です。
 今のままでは、衛星はできたけどミッションが無くて宝の持ち腐れ状態→衛星売れず終い(で、打上機枯渇や周波数枯渇という問題は顕在化しないまま)、というのが私の予想です。



↓せめて、こんな感じに改革しましょうよ。

  • 小型/超小型衛星だけ見ても、内閣府文科省経産省と旗振り役が多すぎ。宇宙庁でも戦略本部でも良いので、早急に意思決定プロセスをALL-JAPANレベルで一本化するべき。

 ちなみに、文科省からも経産省からも2〜3割だけ宇宙関連予算を吸い取って、”宇宙局”みたいな内閣府の内部組織を作るのが、意思決定プロセス一本化の観点からは一番中途半端で最悪のパターン。それだけは絶対避けるべき。(本当にありそうで怖い。)

  • 超小型衛星を開発している大学には『JAXAと一線を隔す!』という精神でやっているところが多いようだが、それはNG。

 GOSAT相乗り非JAXA系ピギーバック衛星のうち、生き残った衛星は5基中STARS・PRISMの2基のみ。PLANET-C相乗り非JAXA系ピギーバック衛星では、4基中Negai☆の1基のみ。成功率1/3では、まだまだ未熟と言わざるを得ない。素直にJAXAから技術を学ぶべき。
 また、海外とのチャンネルを持ち、海外宇宙機関のカウンターパートになれるのもJAXA(独自に海外にセールス行っても怪しまれて終わり)、打上げるのもJAXA。一線を隔すなんてのは、最初から無理がある。

  • 一方、JAXAも超小型衛星なんて所詮学生のオモチャとバカにしている節があるが、それもNG。国家予算で衛星を作る時代が終わりつつある以上、衛星市場開拓は必須のはず。かといって国内に有望な市場が無い以上、新興国への衛星市場展開が有力候補であることは疑いようが無い。その売り込み尖兵として、超小型衛星ほど打ってつけのものは無い。大いに利用すべき。

要は、みんな良い大人なんだから仲良くしなさいよ、で、ちゃんと効率的な作戦を立てて行動しなさいよ、ってことです。

  • nni

    九大(EOS)と九工大(鳳龍)がゴッチャになってますが、大筋では良いこと書けていると思います。私は電子工学は守備範囲外ですが、「科技オタ」氏とほぼ同じ立場からガンダム教授や技研にご意見メールを送ったことがあります。(続く)

  • 科技オタ (id:kagiota)

    そうか、高電圧実験は鳳龍でしたね。QSAT-EOSって、プラズマ観測か何かでしたっけ?すいません、なんだかんだで結局外野なもので。(今見たら、QSAT-EOSのHPが何故か落ちてました。。。)

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