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第一章【エンドロールの向こう側】
108『死後の日常』

 中層に上がって、1週間ほどが経過した。

 番人の強さは、低層とは比べ物にならないほど向上していた。

 そして、中二度も馬鹿みたいに上がっていた。


「我が名は漆黒の瞳(アイン・ダークネス)! 此の眼、此の涙! 尽くが呪いと化して受肉せし禁忌! 故に貴様は死ぬ!」

「うげっ! 今回は一層中二臭ぇ野郎だな……!」


 というか、なんだ、故に貴様は死ぬ、って!

 どうやってその状況に至るのか説明しろよ!

 ちょっと省略しすぎて気になっちゃうでしょうが!


 僕は拳を構えて警戒する。

 フードを取払った番人の瞳から、黒い涙が溢れ出す。

 瞬間、目に見えぬ『なにか』が僕へと襲い掛かり、一気に体が重くなる。……そこら辺にいる番人でも異能使ってくるのが厄介だな!


「我が異能は重力を操りし魔術の深淵。原点にして淵源たる最果ての術。我が瞳に魅入られしものは動くこと叶わず、永遠(とこしえ)にその場で磔となる運命(さだめ)と識れ!」

「きっっっッッッッつ! キツイなお前! 色んな意味で!」


 普通の中二セリフなら、まだ鼻で笑える自信があるさ。

 でもコイツら……また絶妙にかっこよく言ってくんだよな。

 それが、低層との1番の違いだろう。

 中層はやばい。

 思わず中二心がくすぐられそうになる。

 こんな場所に長居したらとんでもないことになるよ。

 間違いねぇ。

 というわけで、サクサクと攻略していきたいところなんだが……。


「全員格上ってのがな……!」


 中層に居る番人は、全員がB級中位。

 つまり、僕よりもずっと格上なわけだ。

 あれからレベルも上がって、そろそろC級中位くらいには来ていそうな僕だけど……さすがにまだB級は早い。

 少なくとも、正攻法じゃ勝ち目の欠片も見えやしない。


 だからこそ、僕は策を弄することにしていた。


「フハハハハ! このような袋小路に逃げ込んだが貴様の運の尽き。力なく地面へ平伏せよ。我が拳が貴様に引導をくれてやぶげっ!?」


 ゴキゴキと拳を鳴らし、歩いてくる番人。

 彼は、僕から数メートル離れた場所で、地面へ落っこちて行った。

 番人の視線が外れたことで、僕の体を縛っていた能力が消える。

 僕は立ち上がって【落とし穴】の中を覗こきむと、しりもちをついて僕を見上げる番人の姿があった。


「き、ききき、貴様! 卑怯だぞ! 落とし穴とは……策を弄するにしても1番カッコよくないやつではないか!」

「ひとつ聞きたいんだけど。カッコ悪い前時代的な罠にまんまと引っかかってるお前。傍目にカッコイイと思う?」

「…………~~ッ!」


 僕は嘲笑うと、番人は真っ赤になって押し黙る。

 落とし穴は深さ五メートル、幅は直径二メートル。

 そんな穴へと、僕は笑顔で飛び込んだ。

 こっから先は、超近距離の至近戦。

 番人は引き攣った笑顔をうかべ、僕は言う。



「さぁ、格上。泥仕合と行こうじゃないか」



 十分後。

 僕は血みどろになりながら、勝利した。




 ☆☆☆




 その後。

 僕は、中層に作った拠点へと戻っていた。

 その拠点は、最初に水浴びをした森の中に作られている。

 基礎三形のうち一つ【遮断】の力をふんだんに利用した隠れ家だ。


「遮断……。想力はもちろん、対象を隠す力、か」


 さっきの落とし穴も、遮断の力で隠したものだ。

 この一週間、霧矢に基礎三形について習った僕だったけど、どうやら僕は遮断の能力に適性があるみたいだ。

 表記にすると……こんな感じかな。



 活性[S]

 遮断[A]

 具現[C]



 適性も、だいたいE~Sほどに分かれているらしい。

 正確に図る手段はないんだけれど、自称『大抵の事は知っている』おじさん、霧矢ハチが言うには、僕の適性はこんな感じらしい。

 ちなみに、活性Sは、暴走列車から奪った分だ。

 僕自身の適性は……まぁ、言わないでおこう。哀しくなる。

 というわけで、活性の次に僕が得意とするのが、遮断。

 具現はC。E~Sの中では普通といった評価だ。


 と、そんなことを考えながら、遮断していた範囲内へと足を踏み出す。

 同時に聞こえてきたのは、ギャースカという騒ぎ声。

 僕は思わず苦笑すると、近づくにつれてその声が聞こえてきた。


「ちょっとシオンちゃん! それ今日の晩御飯! なんで1人で食べちゃうのさ!?」

「うるせぇ! 晩飯なら、晩飯って書いとけボケナス! ったく、こまけぇことでゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ。ぐぇっぷ」

「あー! この子いまゲップした! そんなことしたら解くんに軽蔑されるよ! というか、晩御飯ないとか知られたら怒られるって!」

「あ? 解が怒るからなんだってんだよ」


 ぐぇーっと、随分と長くて汚いげっぷが聞こえた。

 霧矢は困ったように顔を顰めて……ふと、シオンの背後へと視線を向けて顔を青く染めあげた。


「あ、あぁ! い、いや! 違うんだよ! 僕は止めて――」

「おい、シオン」


 ガシッと、シオンの頭をアイアンクロー。

 彼女はビクッと肩を跳ね上げる。

 振り返ろうとする頭をがっしり掴み、僕は優しく語り掛ける。


「ねぇ、シオン?」

「お、おい? な、なんだよ、その妙に優しい声やめろよな……?」


 強がってはいるが、声は震えていた。

 ねぇ、シオン。

 確かに僕は負けたわけだし。

 子分だなんだと言われても従うよ?

 だけどさ、全て従うだけの子分なんて、S級のお前には相応しくないだろ?

 S級のお前には、間違ったことをした時にちゃんと正してやれる子分……もっと言えば、いざと言う時に顔面にドロップキックかませるような子分じゃないと、ふさわしくないと思うんだ。


 ……何が言いたいか、分かるかな?


 何を感じ取ったか、シオンは大きく震えて……開き直った。


「……い、いいじゃねぇかよ! 腹減ったんだよ腹ァ! 仕方ねーじゃん! 無くなったんならまた取りに行きゃいいだろうが! なぁキリヤ?」

「いやぁ、俺は解くんの方が怖いから……」

「てめぇ! 裏切んのかこの状況で!」


 霧矢の裏切り(何も裏切ってないけど)に、叫ぶシオン。

 そんな彼女の頭から手を退くと、彼女は恐る恐ると振り返る。

 僕を見つめる少女は、まるで怒られることを恐れる小学生のよう。


「ごめんなさいは?」

「あ、謝らねぇぜ! オレはなんにも――」

「あ?」

「……ご、ごめんなさい」


 本気(マジ)な目で彼女を睨むと、シオンは怯えて頭を下げた。

 僕は彼女の頭をポンポン叩くと、怒りを霧散させて霧矢を見る。


「……しゃーなし、だな。霧矢。近くに手頃な街あったっけ」

「そうだね……」


 霧矢が腕を組み、考える中。

 僕は、シオンの肩に手を乗せ、口を開く。



「それじゃ、シオン。晩飯調達に行くぞ」




 ☆☆☆




 この世界における、食料調達。

 つまるところ、番人への襲撃、強盗である!


「お、オレがリーダーなんだからな! そこんとこしっかりしろよな!」

「そうだな、超絶格好いいリーダー」

「おお! 分かってんじゃねぇか! さすがオレの子分第1号!」


 1週間も一緒にいれば、シオンの扱いにも慣れてくる。

 こいつは【可愛い】【美しい】【綺麗】とか、女の人が言われて喜ぶことよりも、【カッコイイ】と言われたいタイプの人間だ。

 そして、基本的にアホだから、何かあってもすぐ忘れる。

 実を言うと、今回の晩飯騒ぎも今回で二回目。

 二度あることは三度あると言うし、なんなら四度、五度あったとしても不思議じゃない。それがシオン・ライアー。アホの子である。


「というわけでリーダー。ここは慎重に食料を――」

「オラ野郎ども! テメェらの死神がお出ましだ! 食いもん全部置いていけ! じゃねぇと片っ端から皆殺すぞオラぁぁぁぁ!!!」


 ちなみに、アホは良い方向に働かない方が多い。

 基本的には悪い方向へとアホが働く。

 今回だってそうだ。

 シオンは静まり返った街へと叫び、街のいたるとかろから「死神?」「死神だって?」「え、今死神って言った?」「おいおい、カッコイイ台詞吐くじゃねぇぇか」「ククッ、眼が……醒めちまったぜ」と言葉が聞こえてくる。

 僕は、シオンの頭をぶっ叩いた。


「痛てぇ!?」


 ほら見た事かぁ! 起きちゃったじゃんコイツら!

 気をつけてよね!

 コイツら、3時過ぎまで儀式的な何かをやってて、だいたい4時半過ぎたら全員ぐっすりなんだけど、ちょっとでも中二な台詞が聞こえてきたらすぐ起きるんだから!

 まぁ! シオンとこういうことやると、だいたいこういう流れになるから諦めもつくけどね!


「何すんだカイ!」

「すまん。腹が立ったからぶっ叩いた。反省はしていない」

「お、お前……本当にオレの事、親分だって思ってる?」


 シオンが心配そうに問いかけてくる中、僕は拳を鳴らして前に出た。


「で、出たぞ! 衣剥ぎ全裸魔(ヌーディストデビル)赤髪の死神(イカレ・サイコパス)だ!」

「に、逃げろ! 着物を全部奪われるぞ!」


 相も変わらず、失礼な2つ名を叫ぶ番人共。

 彼らを前にして、僕はシオンを振り返る。


「どうだろうな? 親分なら、実力で示してもらわないと」

「なるほど! そりゃ簡単だな! ……あとあの黒いの、今オレのことイカレ・サイコパスとか呼んだか?」


 呼んでたね。

 僕はそう答えると、シオンは僕の隣へ並んだ。


「とりあえず、何人か残しておいてくれよ。レベリングしなきゃ」

「無理だな! 全員オレが倒ォす! 木っ端微塵だぜ!」


 シオンはそう言って影を解き放ち。

 僕は、全身に活性を巡らせて彼女へ拳を向ける。

 彼女は当然のように、僕の拳へと拳を当てた。



「行くぜカイ。晩飯前の運動と洒落こもうじゃねぇか!」


「運動程度で、終わってくれれば助かるんだけどな」



 かくして、僕らは走り出す。




 ☆☆☆




 結果として、僕が倒した番人は13人。

 その他の番人は、全てシオンがなぎ倒して。


 僕のレベルは、4つほど上がった。




日常と書いてレベリングと読む。

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