これまで通りに物が届かなくなる? 物流の2024年問題とは #生活危機 #生活危機

今年4月からのトラック運転手の時間外労働時間の上限規制(年間960時間)に
起因する「物流の2024年問題」。実際に私たちの生活にどのような影響があるのか。

過疎地での買い物難民、輸送コストの上昇など「物が届かなくなる」ことで
日常生活に支障をきたす懸念がある。
また、問題の背景として配送業者の窮状も叫ばれている。
業界でとられている対策や、私たちにできることはあるのだろうか。
専門家に聞いた。
掲載日:2024年3月6日
Yahoo!ニュース オリジナル
1949年生まれ。流通や物流の業界誌の記者、編集者を経て1997年にフリーの物流ジャーナリストとして独立。同年から物流分野の会員制情報誌「M Report」を毎月発行しているほか、新聞や雑誌などでも執筆を行っている。日本物流学会会員。

CHAPTER
01
物が届かない社会

「物流の2024年問題」は私たちの生活にどのような影響があるのか。Yahoo!ニュースのコメント欄(2023年12月12~18日、計521件)には、遠方からの食品が届かなくなる懸念や、不在配達時における配送業者の苦況を訴える意見が寄せられた。
宅配
スーパーマーケット コンビニ
引っ越し

CHAPTER
01
物が届かない社会

「物流の2024年問題」は私たちの生活にどのような影響があるのか。Yahoo!ニュースのコメント欄(2023年12月12~18日、計521件)には、遠方からの食品が届かなくなる懸念や、不在配達時における配送業者の苦況を訴える意見が寄せられた。

宅配

2022年度の宅配便の取り扱い個数は初めて50億個を超えた。不在配達の問題も深刻化している。翌日配送をとりやめる地域も出始め、拡大が予想される。

こんな声も…

宅配時に不在だった場合は配送料が発生しない。当然、燃料費や輸送時間は全て無駄になる。配送業のこうした実態ももっと知られてほしい。

専門家による解説

人口密度が低い過疎地では売り上げが減るため、小売店の撤退が起きる。その結果、買い物代行や移動販売が活用されるが、日常生活が維持できなかったり、買い物難民が出てきたりするだろう。

スーパーマーケット、コンビニ

食材の調達に欠かせないスーパー、いまや社会インフラとなったコンビニ。配達回数の減少や品切れなどが懸念される。

こんな声も…

最も大きな影響を受けるのは生鮮食料品の長距離輸送に頼っている地域。特に九州など遠方からの食品が届きにくくなり、輸送コストも上がるだろう。

専門家による解説

流通・小売業界には「食品の小売店への納入期限を賞味期限の3分の1以内とする」特有の商慣行があり、大量返品と廃棄の原因となっている。余分な在庫を抱えたくない小売店が翌日納品を求め、ドライバーのプレッシャーにつながっている。

引っ越し

運転に加え家財の運搬スキルが求められるため、引っ越しドライバーの数は限られる。受注件数を減らしたり、長距離の対応を取りやめたりする業者も出始めている。

専門家による解説

引っ越しのピークは3月中旬~4月上旬で、年間の3分の1が集中する。また、土日祝日に集中しており、業者側も受注を断らざるを得ない状況にある。

クイズ&コラム 「送料無料の真実」

Q 問題

オンラインショッピングモールで「送料無料」の商品が最も購入されている
商品カテゴリは以下の4つのなかでどれだろうか
(2022年1月~12月のYahoo!ショッピングのデータに基づく)。
  • A 本、雑誌、コミック
  • B DIY、工具
  • C 家電
  • D 花、ガーデニング
解説
最も多いのは「家電」カテゴリ。一番少ない「花、ガーデニング」カテゴリと1.5倍の差があった。
Yahoo!ショッピング利用者の半数以上が選択している送料無料。実は海外で見かけることは少ない。なぜか。その理由は価格内に輸送コストも含める商習慣「店着価格制度」が日本だけで定着しているからだ。しかし、商品の中に輸送コストが含まれているため、本来払うべき輸送費が支払われない。さらに陳列業務等まで輸送社側が負担している点が問題となっている。トラック運転手の労働環境が厳しくなる一因となっており、見直しを求める声も上がっている。

CHAPTER
02
物流の2024年問題とは

今年4月からのトラック運転手の時間外労働時間の上限規制(年間960時間)に起因する諸問題の総称を「物流の2024年問題」と呼ぶ。上限規制はトラック運転手の過酷な労働環境の是正を目的としたものである一方、輸送量の減少によって、これまで通りに物が届かなくなる問題もはらんでいる。リアルの生活を支える物流の機能不全は、私たちの日常生活に深刻な影響を与える。

ドライバー時間外労働時間上限規制

現在
4月から

配送で終わらず検品まで。拒否すればクレームも

当事者であるトラック運転手の置かれた立場には同情的な意見が集まっている。Yahoo!ニュースのコメント欄には、荷主側の行き過ぎた要求を問題視する声や、収入減少によるトラック運転手の離職を心配する声が多くみられた。
  • 荷物の積み下ろしは荷主がすればいい。検品までトラック運転手の仕事じゃないと思う。
  • 商品は軒先渡しがルールなのに、棚への陳列や2階まで運ばせるような荷受人が問題。拒否するとクレームの電話をいれるところも。
  • 走れる距離が減れば、運賃も減ります。2024年問題で給料が減るようだと、辞める人が出てくるのでは。

専門家による解説

法改正で時間外労働は年960時間の上限が設けられたが、12カ月で割ると、ひと月当たり80時間となる。月80時間を超える時間外労働は過労死ラインとして認定される時間だが、それを超えないことすら難しいのが現状だ。逆に言えばそれほどの過酷な労働環境で今の物流や社会の仕組みは成り立っているといえる。時間外労働を減らすのを当たり前にしないとトラック運転手はますますいなくなってしまうだろう。

CHAPTER
03
規制前後で配送はどう変わる?

時間外労働の上限規制に加え、厚生労働省の改正「改善基準告示」によってトラック運転手の拘束時間や休息期間も見直される。その結果、どれだけ遅れが生じるのか。東北、関西、九州3つのルートでシミュレーションする。
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東北〜東京間
東京〜関西間
九州〜東京間
0時間経過

目標

2024年の規制前後でどう変わるのか?

スタート

結果

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* 一般車両通行ルートでのシミュレーションのため、
実際の大型車両のルートと異なる場合があります。

取材協力:秋印株式会社、株式会社NTSロジ、ほか
  • 東北〜東京間

    1日の休息期間が8時間→11時間に改正された分3時間の遅れが生じる。
  • 東京~関西間

    1日の拘束時間の延長時上限(週2回までが目安)が16時間まで→15時間までに改正されたため、現行が15時間以上のルートの場合、拘束時間超過となってしまう。
    走行を続けるためには11時間の休息、もしくは運転手の交替をする必要がある。
  • 九州〜東京間

    1日8~9時間の休息期間が、改正で11時間に延長。「宿泊を伴う長距離貨物運送」の例外適用をすれば現行と変わらない休息期間での運送が可能となるが、1往復で「週2回まで」の上限に達するため、2往復目が開始できなくなる。

専門家による解説

大都市圏から遠い地方の事業者は長距離輸送にならざるを得ない。全体をみると、時間外労働上限規制や改正改善基準告示への対応に苦慮している多くが地方の運送業者だ。

CHAPTER
04
離職、廃業によってトラック運転手不足が加速する恐れ

これまでも過酷な労働環境や給与水準の低さからトラック運転手不足が叫ばれていた。時間外労働の上限規制による影響は、ドライバーの離職や、運送会社の廃業を引き起こし、人手不足に拍車をかける。トラック物流の9割を企業間輸送が占める現状において、今以上のドライバー不足は国内の経済活動に重大な支障をきたす恐れがある。

専門家による解説

消費者にとって2024年問題は、買いたい物が買えない、品切れになるという影響がある。さらにトラック運転手不足や運送会社の経営悪化が深刻化すれば、輸送コストの増加分が商品価格に転嫁され、消費者の負担が増えるのは避けられないだろう。

CHAPTER
05
業種の垣根を越えて対策に取り組む「共同配送」

問題解消に向けた取り組みは各方面ですでに始まっている。その一つが「共同配送」という仕組みだ。共同配送とは複数の荷主が同じ届け先に荷物を運ぶ際に、共同で配送して効率化をはかること。同業種競合同士や異業種での連携が進んでいる。

個別配送

配送センター
多くの台数が必要となる

共同配送

配送センター
収集センター
少ない台数で配送できる
出典:物流政策の主な取組について(国土交通省)

専門家による解説

例えば、ドラッグストアへの配送において、トイレットペーパーなど体積の大きい商品は輸送効率が悪くコストが上がってしまう。販売価格に転嫁しなくて済むように、仕組みで解決しようと各社必死だ。また、部数減少にあえぐ新聞社では販売網維持のため、朝刊から夕刊までのスキマ時間に宅配業務を請け負うなど、「運ぶ仕組み」の有効活用も進みつつある。

全体で28%の物流不足。共同配送の効果は

野村総合研究所によると、2025年には全国的な物流の需給ギャップ(* )が28%にのぼると試算している。だが、共同配送の取り組みが拡大した場合、悪化を遅らせ、都市部ではプラスに転じるとも期待されている。

* 将来の就業ドライバー数(供給)と将来の荷物量を運ぶのに必要なドライバー数(需要)の差

  • 2024年問題加味シナリオ

    物流の需給ギャップの2025年予測に2024年問題(残業時間の上限規制)を加味したもの
  • 共同配送拡大シナリオ

    2024年問題加味シナリオに共同配送の効果試算を反映したもの

CHAPTER
06
物流を守るため私たちができること

私たち一人ひとりにできる対策はどのようなものがあるのか。厚生労働省が解説した「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」では宅配便の受け取り、引っ越し、車の運転時のポイントを掲載している。その一部を紹介する。
置き配指定、
宅配ボックスの設置​
コンビニ、営業所受け取り​
土日祝日を避け平日利用

専門家による解説

一般の人でも身近にできることの一つは、スーパーなどで賞味期限が長い奥の商品から取るのをやめることだ。商品管理の無駄な時間や作業の煩雑さが積もり積もって物流に影響を与えるからだ。また、年度末や年末年始など物流の繁忙期を避けるのも有効策だ。特に引っ越しは土日を避けるだけでも違ってくる。また、母の日やクリスマスなどのギフトも遅配が起きているため、贈るほうも受け取るほうも考える必要があるだろう。

物流の2024年問題、気をつけていることはありますか

トラック運転手の労働時間規制が4月から規制されます。「物流の2024年問題」とも言われており、近い将来、一部の地域では荷物が届かない、届くのが遅れる可能性も出てきています。2024年問題に関連して何か気をつけていることはありますか?
#生活危機」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。急速な円安の進展、相次ぐ値上げ、光熱費の高騰――私たちの生活は今後どうなるのか、危機に陥った生活をどのようにして立て直すのか。Yahoo!ニュースと一緒に考えてみませんか。