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第一章【エンドロールの向こう側】
103『盗人はじめました』

 この冥府は、円錐形になっているらしい。

 今いる場所は、円錐を横に切って3等分した内の、一番下の部分。

 番人も比較的弱く、最も攻略しやすい場所らしい。


 低層は、空が岩肌に囲われたエリアだ。

 だが、そんな世界にも夜はやってくる。

 番人が寝静まった頃。

 僕は単身、番人たちの集落への侵入していた。


『低層の番人は、せいぜいゴリラに毛が生えた程度だから大丈夫! 暴走列車、だっけ? 彼の『活性化』を奪ったんなら問題ないさ! 身体能力だけでも十分に勝てると思うよ!』


 とは、霧矢の言。

 なんだよ毛の生えたゴリラって。

 それ、ただのゴリラだろ。

 というか、一般人にゴリラと戦えってどういうこと?

 ほんと、暴走列車から活性の力奪ってなかったら大変だよ?

 そう考えながら、僕は、阿久津さんの言葉を思い出していた。




『御仁。異能を教えるにあたり……確認をしておこうと思う。想力には、基礎三形と呼ばれる運用方法がある』


 それは、深淵で異能を教えて貰っていたときの話。

 彼女は僕の前で腕を組み、基礎三形について語っていた。


『基礎三形。それは【活性】【遮断】【具現】を指して、三形と呼ばれている』

『活性が、さっきの暴走列車が見せた回復能力ぽよ。優が言ってた通り、普通は切り傷を治したり、身体能力を普通より向上させるくらいの力ぽよ。まぁ、骨折とかも時間をかければ治るぽよ』


 ポンタが言った通り、活性は強化の力だ。

 現に、暴走列車から奪った活性の力が作用しているのか、いつになく体が軽い。なんなら影狼発動時よりもふわふわしてる。

 これはひとえに、この能力の元保持者が暴走列車だから、なんだろうな。

 これを通常仕様と思ってたら、多分六紗あたりにぶっ叩かれる。


『遮断はその名の通り、気配や想力を遮断して気づかれないようにする力。具現は想力を固めて、好きなものを生み出す力よ。ま、物質具現化能力、とでも言うのかしら?』

『具現か……。なんか凄そうな力だな』


 そんな感想を漏らしたのを覚えている。

 対して、六紗が呆れたように笑った姿も。


『ま、そうね。実際に使いこなせたら強いわよ。特異世界クラウディアには、具現の力で炎を現実世界に呼び出して、思うがままに操っていたヤツもいたもの。具現って作り出したものは思うがままに操れるから強いのよね』

『……その分、使いこなすのは他二つよりも遥かに難しいがな』

『それに、相性があるから生み出せるものはその人によって限られるぽよ』


 強いが、扱いづらい。

 それが具現という力。


 以上、活性、遮断、具現。

 三つを合わせて基礎三形と呼び、これらの三つを高水準で修めていれば、それだけ異能の出力もあがるとかなんとか。

 基礎こそ奥義、とでも呼ばべいいのか。

 これらの基礎が出来ている奴こそ、強いのだと言う。

 ……確かに、活性の力を極限まで高めていた暴走列車は強かったからな。


「っと、脱線したな」


 今問題なのは、その活性だけで、番人に勝てるのかどうか。


 ……まぁ、今回はコソッと行って服と食料奪うだけだし?

 そう簡単には気づかれないと思うから大丈夫だと思うけど。


 僕はそう考えながら、目に付いた近くの家へと侵入した。



 ――そして、家の中の住人と目が合った。



「あっ」

「えっ」


 僕と住人が、互いに硬直すること数秒。

 やがて、番人は僕の下半身へと視線を向ける。

 そして数秒固まり。

 全てを理解した番人は、絶叫した。


「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああ!? へ、変態だぁぁぁぁぁ!?」

「だ、誰が変態だ……!」


 番人は、両目を手で隠して叫んでいる。

 しかし、その指の隙間は結構開いていて、指の隙間からチラチラチラチラ僕の股間を見つめている。変態はどっちだ! 声からして女っぽいけど、男だったらこっちが絶叫する反応だぞお前!


「オラむっつりスケベ! 服と食料を出せ!」

「む、むっつりとはなんだ! 我は破壊神の生まれ変わりにして――」

「いいからさっさと服出せやゴラァ!」

「ひぃいいいい!?」


 中二病発言を予期し、思わず声が荒くなった。

 知ってんだからな、お前!

 番人が、なんか『性別不明の謎集団の方が、なんかカッコよくね?』というふざけた理由で、男女共にかなり大きな服を着てるってこと!

 男だろうが女だろうが関係ない!

 着れるなら寄越せ! 僕には服が必要なんだよ!

 いつまで全裸で居ろっちゅうねん!


 番人は僕の声に悲鳴をあげると、僕らの声を聞き付けたらしい足音が、家の外から…………めちゃくちゃ聞こえてきた。

 ねぇちょっと! 番人の人達、もう深夜の2時ですよ!?

 なんでこんなに起きてるんですかね!


 とか思っていたら、この部屋のインテリアが目に付いた。

 壁に描かれた巨大な魔法陣。

 生贄らしい、鶏肉の脚。

 依代っぽい感じで鎮座する熊のぬいぐるみ。


 ……ま、間違いねぇ!

 こ、こいつら、こんな時間まで悪魔召喚的な何かをやってやがったな!

 この……クソッタレが!

 寝てよ! 深夜の2時には寝てようよ!

 悪魔召喚なんてしてんじゃねぇよ!


「な、何事だ……! って、き、貴様は……何故全裸なのだ!?」

「へ、変態が居るぞ! 囲え囲え! 変態を逃がすなァ!」

「我らが前に全裸で現れるなど……自殺行為という言葉を知らんのか!」

「あ、頭が沸いてやがる……、なんなんだあの全裸野郎は!」


 こいつらに頭が湧いていると言われたくない。

 というか、何人来てるんだよコイツら……!

 毛の生えたゴリラが…………見渡すだけで何人いるんだ?

 もしかして、集落中のほとんど全員来てるんじゃなかろうか?

 そう考えると寒気がした。

 どうする? どうすればこの状況から逃げられる?

 僕は拳を握りしめてプルプル震えると、逃げ出そうと立ち上がった番人を見て、咄嗟に首根っこを掴んだ。


 思わず首根っこを掴んでから、数秒考えて。


 そして、思いっきり人質にした。



「動くなぁ! 動けばこの女の命はねぇぞ!」



 そうだ! この方法があった!

 人質!

 なんて最善手!

 これで何とか生き延びれる、はずだ!

 僕と人質を見た番人共は、思いっきりたじろいだ。


「ひ、卑劣な……! それでも男か、貴様は!」

「う、うるせー! 人質が惜しくば服を寄越せ!」

「ひ、ひいいいいい! た、助けてぇ! 犯されるううう!」


 少女の絶叫が響いて。

 番人たちから怨嗟の声があがる。

 それらの声、それらの視線を一身に受けて。


 僕は、泣いた。


 ……なんで僕、こんなことしてんだろう。




 ☆☆☆




「僕の心は穢れちまったよ」


 朝。

 無傷で服を強奪してきた僕は、膝を抱えて沈んでいた。

 そんな僕を見て、霧矢は腹を抱えて笑っていた。


「ねぇみて! 今日の新聞! 『低層の集落に【衣剥ぎ全裸魔(ヌーディストデビル)】現る』って! ぶはは、ひーっひっひ! 傑作だこりゃ!」

「ぶっころ」


 僕は拳を固めて立ち上がると、それを見た霧矢は焦って両手を振った。


「じょ、冗談冗談! マジにしないでよ!」

「おいおい、こっちも冗談だって。……マジにすんなよ」

「目が本気(マジ)すぎる……」


 霧矢は戦慄し、僕は大きく息を吐く。

 不名誉な2つ名と引き換えに、衣服と食料は手に入った。

 水はそこらじゅうから湧き出ているから問題ないらしいが、これで、しばらくの間は冥府の攻略に専念できるだろう。


「で、これからどうする。もちろん案があるんだろ?」

「そうだね……。とりあえず、君と俺とで、低層を抜けようかと思ってるよ。中層への入口は結構近いからね。中層に上がってからは……うん。まぁ、その時になってから話すことにしよう」


 また隠し事か……。

 まぁ、いいけどさ。

 僕とお前は互いに利用し合うだけの関係だし。

 それに、もしも裏切るような気配があれば、こっちから切らせてもらう。もう二度と死ぬのは御免だし……生きてここから出なけりゃ、黒歴史を抹消することが出来なくなる。それはいけない。


「ま、色々と思うところはあるだろうけど、安心してよ。少なくとも、冥府にいる間は、俺は君の味方だよ、灰村解」

「だといいがな」


 僕はそう返し、男は薄っぺらく笑うのだった。



「そうだよ、俺は嘘をつかないことで有名なんだ」



 早速男は、嘘をついた。


【冥府】

円錐状の世界。

低層、中層、高層と分かれている。

それぞれの層で、番人の住む街が繁栄している。

基本的には人間界と同じ生活観を持っているが、番人は全員が中二病の性質を持つ。

中には本物の異能を操る者も居るらしい。

低層はD~C級の番人しか住んでいないが、中層はB級、高層はA級の番人が生息している。



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