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①中二病を見ると怖気が走る主人公。

②自称一般人を名乗る明らかに一般でないおっさん。

第一章【エンドロールの向こう側】
102『霧矢ハチ』

 おっさんは、自分を霧矢ハチと名乗った。

 彼いわく、自称一般人との事だったが……。


「自称○○、って輩は信用出来ないな」


 僕はその場に座り込み、断固拒否した。

 あっ、ちなみに、死んだせいか服は着ていなかった。

 全裸だ。

 心底、ここに阿久津さんや六紗がいなくて良かったと思う。

 全裸的な意味合いでも、死んでなくて良かった的な意味合いでも。


「おやっ、理由(ワケ)を聴いてもいいかな?」


 理由? んなもん決まってんだろ。

 明らかに中二臭いからだよ、このおっさん野郎。

 自分を『自称○○』とか、えっ、何それふざけてんの?

 自分を他の何者かだと思い込んだり、自分で自分が一般人でないと分かっているのに、あえて『自称一般人』とか言っちゃったり……もうね、聞いてるだけで寒気がするよ。


「特に、おいお前。今、理由と書いて『ワケ』と読み、聞くと普通にいえばいい所を、意味がちょっとおかしくなるのに格好つけのためだけに『聴く』と言っただろ。そういう輩は中二病、つまりは関わらないようにしようと決めているんだ」

「……君は、何かの能力者なのかな?」

「ハッ、痛いオーラなんざ目を瞑っていても分かるさ」


 僕を舐めてもらっては困るぞ、おっさん。

 この僕は、元中二病としてはプロもプロ。

 中二病への危機察知能力はピカイチさ。

 無論、完璧ではない。

 いくら気をつけていようと不意の遭遇(バッティング)は回避できないし、ついさっきみたいに暴走列車に跳ねられもする。僕の能力を超える範囲内では通用しない察知能力だ。


「つまり、なんだ。君は中二病に対して嫌な感情を持ちえていると? ……えっ、よく異能みたいなもんに手ぇ出そうと思ったね。あんなもん、傍から見てたら中二病以外の何物でもないでしょ」

「そうなんだよ……!」


 本当だよもう!

 黒歴史ノートが出回ってなければこんな世界来てないよ!

 なんなのもう! お母さん!

 なんで僕の黒歴史を売り払ったのよ!

 黒歴史は封印しておくって言ったじゃん!

 何度も言ったよね!

 せっかく書いたものだし、捨てるのはちょっとアレだから、封印しておくね? あ、でも絶対に触らないでよ、いやマジで。って言ったじゃん! 人の話ちゃんと聞いておいてよもぉ!


「ま、俺としてはラッキーだったけどなー。お前さんが死んでくれてマジで助かったぜ。ほんと、死んでくれなかったらどうしようかと思ってた」

「は? ぶんなぐるぞお前?」


 僕は青筋を浮かべ、腕を影狼へと変化させようと力を込めた。

 ……しかし、ここに来て僕は、異変に気がついた。


「……ん? えっ、あれっ?」

「どうやら、気付いたみたいだな、少年」


 ――影狼技能が、使えない。

 それだけじゃない、禁書劫略も似たようなもんだ。

 腕に力を込めても能力が一切発動しない。

 唯一使えそうなのは……右手の甲へと浮かんでいた【活】という文字。

 禁書劫略で、奪った能力。

 その文字は皮膚の下へと沈んでゆき、僕は拳を握った。


 暴走列車、ナムダ・コルタナが保有していた【活性】の力。


 禁書劫略は、元々の保有者が死んだ場合、その人物から奪った能力は永遠に自分のものになる……という設定をしていたはず。

 その逆は考えていなかったが……みたところ、似たような現象が起きるらしいな。僕が死んでも、奪った能力は戻らない。

 僕が暴走列車から奪った能力は、もう動かない。

 完全に、僕のものへと昇華されたわけだ。


「この世界に来るにあたって、所有物の全ては失われているからね。正確に言うと、現世においてきている。君の場合は……想力使用の源……そう、鍵。アレをここには持ち込んでいないわけだろう? 使えないよ、異能そのものは」


 活性の力を使えるのは、既に体へ定着しているからか。

 よく分からないけれど、鍵である零巻が無いと技能も使えないってことは分かった。今度からは気をつけるとしよう。

 それに……この男も。

 へらへら笑って信頼できそうな雰囲気の欠片もない。

 けど……話してみて分かった。こいつ、中二じゃねぇわ。

 中二じゃないってことは、多少は信じてもいいかもしれない。

 と、そう考えてると、おっさんは言った。


「ま、兎にも角にも、まず1番にすべきことがあるね」

「……1番にすべきこと? ……あぁ、なるほど」


 僕は自分の体を見下ろしそういった。

 霧矢は大きく頷くと、自分の服を指して口を開いた。



「レッツ劫略! 冥府の人達から服を強奪してみよう!」




 ☆☆☆




 冥府には、そこに棲む者が居る。

 人間のようで、人間とは全く別種な何か。

 姿形から、言葉、倫理観まで全てが一緒。

 なのに、決定的に違う。

 それが何かと問うてみれば、霧矢は『強さ』だと答えた。


「彼ら……そうだね、『番人』と呼ぼうか。彼らはあからさまに人間なのに、人間じゃないんだ。まぁ、見たらわかるよ。彼らは少々強すぎる」

「……そんなのに、勝って服を奪えてか」


 何たる無茶ぶり。

 馬鹿なんじゃないのこのおっさん。

 そうは思ったが、コイツが服を着ていることが、何とかなるという証拠だろう。


「お前のも、奪ったやつか」


 おっさんは、黒一色のローブを着ていた。

 僕がおっさんに対して『中二病かもしれない』と考えた、1番の要因。

 フード付きの黒いローブは、まるでカラスのような様相だ。偏見100%言ってしまえば『普段は一般人だが、実は裏組織の幹部』的な人が、幹部状態の時に身につけるみたいな服装だ。

 言っていることが分かるだろうか?

 僕の妄想力についてこれてる?


「というか、強いだけならただの人間だろ。そんなヤツらから身ぐるみ剥がないと行けないのは……ちょっとな」

「いやいやいや、見ればわかる。あれは人間じゃないよ。人間やめてるとしか思えないもん」


 霧矢は執拗にそう言ってくる。


「ほら、あの先……番人の休憩室になってるんだ。覗いてご覧」

「……大丈夫なのか?」


 番人が強いって、今言ったばかりだろうに。

 僕は足音を消して、抜き足差し足で曲がり角の向こうへ視線を向けた。



 ――そうして僕は、理解した。




「我が(かいな)、其れは闇が如き漆黒!」

「ふっ、くくく、ははははは! 何たる脆弱、愚鈍な思考か!」

「我が、ここで膝を屈すると思うたか? 甘いわッ! 貴様が油断するこの時、この瞬間を――待っていた。必殺【大漆黒紅蓮概念爆波(凍てつく雷鳴が如く)】ッ!」

「ふん、下らん。このような児戯……一体何が面白いのか」

「とでも考えていたのだろう? その思考すら我が掌の上だと……なぜ分からん?」

「我、理を統べる者。此度の勝者を予期しよう。そう、此度の勝者はこの我よ」

「やれやれまったく、なぜ我に勝てるとでも思ったのか。理解に苦しむな」

「おいおい、我を誰と心得る。前世は聖剣王アルフレッ――」



 僕は見るのをやめた。


 無言で、後方の霧矢のもとへと戻ってきた。

 そして一言。


「よし、帰ろう」

「いやだめでしょ」


 霧矢は言った。

 僕は発狂しそうになった。


「ふざけんなよ!? なんだあれ、もはや人間じゃねえよ、黒歴史製造機だよもはや! 馬鹿じゃねえの、バカじゃねえの!? あんなこと年中やってんの? 僕の心を殺しに来てんのか!?(小声)」


 僕が見たのは、黒づくめの集団による闇の宴であった。

 やってることはとてもシンプル。ただのカードゲームに見えた。

 が、言ってることと、カードゲームのやり方が常軌を逸していた。


 まず第一に、言ってること。

 まあ、お聞きになった通りイカレてるよね。

 頭が沸いてるとしか思えねぇわ。

 イタさがもはや天元突破してるもの。

 あまりにもイタすぎるあまり、逆にダメージが少ないくらいだ。


 そして、ゲームのやり方。

 あるものは玉座で足を組み、あるものは壁に背を預けて手札を開き、あるものは我関せずと後ろを向きながら、それでもカードゲームに参加している。

 極めつけは、理を統べる者(笑)、見た目主人公(苦笑)、前世が聖剣王(痛)だ。

 なんなの? 中二病って本当になんなの。

 なんで『統べる者』に憧れるの? なんで『やれやれまったく=主人公』みたいに思ってるの? ポンタの時も言ったけど、前世って何、お前らなんで決まって有名な人の生まれ変わりなわけ? 世の中に聖剣王の生まれ変わり何人いると思ってんだ。僕の中学時代の知り合いにも一人いたよ?


「ね。言ったしょ? 彼らは人間じゃないんだよ」


 霧矢の言う通りだった。

 あいつら人間じゃねえよ。

 黒いって時点で僕にとってはゴキブリ同然。

 阿久津さん、六紗、ポンタもなかなかにキツくてイタかったけど、こいつらはその上を行ったぜ。あの光景を見た今なら、なんなら六紗に告白しろって言われてもできる気がする。


「えっ、もしかして僕、中二病の着た服を着るわけ? 中二菌が移るよ」

「すごい憎悪。徹底してるね~」


 霧矢はそう言いつつ、帰りそうな気配はなかった。

 僕は頬を引き攣らせると、霧矢は言った。


「でもさ、フルチンで生活するわけにはいかないしょ? 必要経費と割り切ろうよ」

「……………………まあ、そう、だな」


 フルチンと中二病。

 どちらをとるかと聞かれればフルチンだ。

 だが……中二病の着ていた服を着る、程度なら、まだ辛うじて中二がフルチンに勝る。

 ……えっ、番人から服を奪い取ることに対しての抵抗?

 んなもんないよ。だって、相手は中二病だもの。


「わかった。それで、僕はどうすればいい。……真正面から勝てるとは思ってないが」


 僕の問いかけに、霧矢はとってもいい笑顔を浮かべた。

 とってもいい笑顔で、サムズアップし。

 親指で、首を掻き切るようなしぐさを放った。



「うん! 寝込みを襲おう! ついでに備蓄も奪っとこうか!」



 僕も僕とてかなりアレだとは思うけど。

 コイツはそれ以上だ。


 霧矢ハチ。

 コイツ、超絶ド級のクズ野郎だ。

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