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第零章【11冊目の黒歴史】
005『レベルアップ』

「こ、ここは……」


 ノートに触った瞬間、声がした。

 そして、気がつけばこんな空間に飛ばされていた。

 周囲には見たことが無い光景が広がっている。

 どこかの……洞窟の中だろうか。

 紫色の煙が漂っていて、息苦しくはないけど、恐怖感は大きい。

 洞窟は通路のように奥の方へと繋がっている。

 両脇には一定間隔で青い炎が灯っている。


「な、なんっ……なん、なんで……!」


 ()()()()()()()()()()()()

 いいや、見るのは初めてなんだ。

 ただ、頭の中で考えていた【設定】と、何から何まで一緒だった。


「嘘だろ……?」


 右手へと視線を下ろす。

 そこには光り輝く黒い本があった。

 その表面には【零】との数字があって。

 本を開けば、新しい文字が浮かび上がっていた。



 《クエストスタート》

 深淵を抜けよ。

 その先に、我が力の一端を与えよう。

 報酬:異能[英智]




「……嘘だろぉぉ……」


 僕は、その場に崩れ落ちそうになった。

 間違いない……これは、僕が中学時代に考えた零巻の設定だ。

 何が……何がどうなってこうなったのかは分からない。

 ただ、どういう原理か、僕の書いた【10冊+1冊】が、本物になった。こんな状況になった以上、そう仮定して動くしか無さそうだ。


「クソ……この深淵、滅茶苦茶な難易度にした記憶があるぞ」


 僕はその場に座り込み、頭を叩いて思い出す。

 たしか……時間制限はなかったはずだ。

 そして、この中でいくら時間をかけても現実世界の時間は止まったままとかいう例の仕様。この設定は使いやすいからね。


 この場所の正式名称は【深淵】。

 未解の王にして純然たる深淵の闇。

 つまりは僕は、この深淵の最奥の玉座に座っているという設定だ。

 まぁ、それでは暇なので、現実世界に分身体を使って紛れて遊んでいる、って設定みたいだったけど。恥ずかしい!


「ってことは……【鑑定】」


 僕は自分へ向けてそう言うと、案の定、ステータスが浮かんだ。



 灰村 解

 Lv.1[Eランク]

 異能[なし]

 技能[鑑定]



「やっぱりかぁ」


 僕の考えていた設定の通りだ。

 あ、ちなみにどうも、灰村(はいむら)(かい)と申します。

 ご紹介が遅れて申し訳ありません。

 ま、僕の名前なんてどうだっていいか。


 この深淵では、レベルアップなる概念がある。

 それは、並の存在では解然の闇の力の一端すら担うことが出来ないためだ。強大すぎて、肉体のレベルアップを重ねなければ使うことも出来ない。

 英智は力の中でも最も【戦闘向き】ではないものの、それでも相応のレベルが要る。このクエストは挑戦者を鍛える目的もあるのだ。


「にしても……Eランク?」


 この設定は、初めて見た。

 もしかして、特異世界クラウディアとやらの設定か。

 それなら頷ける。だって僕のノートが偽物から本物へと変わったの、間違いなく特異世界クラウディアとやらの影響だと思うし。


「ま、いいや。問題はここを抜ける方」


 僕は洞窟の前を見る。

 使える技能は、鑑定のみ。

 その状況で、深淵の魔物がうじゃうじゃとしているこの場所をぬけ、出口の前に待ち構えるボスモンスターを倒さなきゃならん。


 ……うん、無理ゲー。

 コンテニュー不能な時点で絶対に詰む。

 どんなスポーツ選手、どんなゲーマーであってもまず無理だ。

 絶対に死ぬように出来てある。作られてある。

 それはひとえに、僕の力を他人に渡したくなかったから。

 だからこのクエストは、ゲームオーバーが最初から決まっている出来レース。……なんだけど、さ。


 僕は大きく深呼吸をし、前を見据えた。



「――今回の挑戦者は、この【僕】だ」



 このクエストがクリアされる大前提。

 それは、この深淵を熟知していること。

 挑戦者が、僕自身であるということ。


 僕はその場で屈伸、準備運動を始める。


 さて、熟知しているからといって簡単な道のりではないけれど……とりあえず、時間をかけてでも確実に行こうか。

 こめかみを指で叩いて、この先出てくる魔物のデータを思い出す。


「……よし、思い出した」


 必死になって考えた迷宮構造。

 その内容、出てくる魔物、攻略方法。全て思い出した。

 なら、あとは攻略するだけだ。


「さて、行こうか。深淵脱出クエスト!」


 僕は意気揚々と声を上げ、深淵の先へと歩き出した。




 ☆☆☆




 コバルトブルー

 Lv.5[Dランク]


 最初の魔物は、この一種類に尽きる。

 カブトムシのような昆虫型の魔物だ。

 ただし、かなり大きい。馬鹿みたいに大きい。

 体高が僕の身長と同じくらいだ。


「……こいつの特徴としては、群れないこと。大きすぎるため、この迷宮、通路の中で群れることが出来ないこと。そして、火が苦手なこと」


 僕は壁の松明を外し、装備する。

 ゆっくりとコバルトブルーへと向かってゆくと、奴は僕の構える炎を見た瞬間、まるで弾かれるように身体を震わせた。

 そう、コバルトブルーは、誰が見てもあからさまに火が苦手だ。

 戦う時は、絶対に松明のある壁際には近づかない。

 火を見れば過剰な程に身を震わせて、装備した状態なら絶対にコバルトブルーからは襲われない。


 ――だが、これもブラフである。


 コバルトブルーは、火が苦手だ。

 だが、()()()()()()()()()()

 コバルトブルーは火の攻撃に、普通に耐性がある。

 なんなら、他の属性よりも耐性が高いくらいだ。

 だからこそ、火を怖がってる程度でやめておかねばならない。


『よぉーし! コイツは火が弱点だな! 喰らえ!』


 なんて言って、松明を投擲したらそれが運の尽き。

 激昂したコバルトブルーによってなぶり殺しにされる。

 だからといって、松明を盾にしてそのまま先に進めば、今度は別種類の魔物にレベルが足りなくて勝てなくなる。どうやっても詰むというデスゲームである。


「……我ながら、とんでもない設定を考えたもんだ」


 僕は、壁際からもうひとつの松明を手にする。

 ここの松明の火は、基本的に消えない。

 いくら松明を振っても、水をぶっかけても、それでも消えない。ただ、火を消す方法はただ一つだけ。


 僕は地面の土を掴むと、松明の上へと振りかける。

 青い火が赤く変わってゆき、僕は、もう片方の青い松明へと赤くなった方を近づけてゆく。

 すると、赤い火が青い炎の中に溶けてゆく。

 残ったのは、火の勢いが強まった青い炎と、火の消えた松明だけ。

 そして僕は、火の消えた松明をコバルトブルーの方へと投げ捨てた。


「火が消える条件。それは、壁際1m以内の土を松明へと振りかけ、三秒以内にもう別の松明へと火を移すこと」


 そうして残った松明は、毒にも薬にもならないゴミと化す。

 ……あぁ、いや、ことコバルトブルーに関してだけいえば、有毒か。

 コバルトブルーは、目の前に転がってきた松明をじっと見つめる。

 やがて奴は、松明を口に咥えると、もしゃもしゃと松明の木を食べてしまった。


 コバルトブルーの主食は樹液。

 だが、このエリアに樹木はなく、唯一存在する『木』が、炎を宿す松明の棒だ。だから、コバルトブルーは火の消えた松明なら食べる……という謎設定がある。

 そして、松明の棒には、もうひとつの設定があった。


「名前は『虫除けの木』。永遠に燃え続けることから松明として利用される樹木で……その木は、昆虫に対してのみ有効な致死性の毒を持つ」

『ギギュィ!?』


 ようやく毒が効き始めたか。

 コバルトブルーはその場で苦しみだし、僕は安堵に息を吐く。

 良かった、やっぱり設定は生きてるみたいだ。

 ピクピクと痙攣を始めたコバルトブルーは、やがて光となって消えてゆく。

 そして、僕の目の前へとインフォメーションが浮かび上がった。



 《レベルが上がりました》



 これで、Lv.2。

 先程よりも……心無しか体が軽くなった気がするが、まだまだ誤差の範囲内。

 僕は壁際から松明を抜くと、新たなコバルトブルーを目指して歩き出す。



「目標は……Lv.5。そこまで行ってから、次の相手だ」



 そうして、カブトムシ狩りを初めて、2時間程度。

 ようやく、僕のレベルが『5』に到達して。



《レベルが上がりました》

《技能が進化しました》

《新しく技能を習得できます》



 僕は、思わず目を見開いた。

 技能進化に、新たな技能習得の機会。

 そんなもの、元の設定には存在しなかったのだから――。

作者だったら松明をぶん投げて殺されてると思う。

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