DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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過去一番、頭おかしいです
それだけ注意


I Want to Make Love to You

 後部座席で暴れるチェリオスと嫁。その煽りをくらって下敷きになる景山。

 ミラーでそれを確認したチャカは、三度見した後に当惑の声をあげた。

 

 

「何やってんだお前!?」

 

「見りゃ分かるだろッ! 他人の嫁今から寝取んだよッ!」

 

「だからなんでッ!?」

 

 

 嫁のポケットからアンナカを取り出し、それを吸いながらフレンチなキス。

 抵抗していたのに、もう嫁はスイッチが入ったようだ。チェリオスの首に腕を回して受け入れていた。

 

 

「いや受け入れるの早いなッ!?」

 

 

 嫁のキスはエグく、チェリオスの舌を吸い取らんとせん勢いだ。

 

 

「イデデデデデッ!? 掃除機か!」

 

 

 二人が組みつ解れつな状態になっているその真下で足掻く景山。

 涎だか汗だかが着ている高級スーツに垂れてくるので、たまったもんじゃない。

 

 

「うわ、やめんか汚らしい! 銀座で卸したばかりのオーダーメイドなんだぞッ!?!?」

 

「うるせぇッ!! お前も付き合えこの野郎ッ!!」

 

「もう許してくれぇ! 金なら出すッ!! 岡島君にも慰謝料は出すッ!! だからもう解放してくれッ!!」

 

「オカジマなんざ知るかッ!! ほら来やがれッ!! 俺から離れたら撃つからなぁ!?」

 

 

 嫁と景山を引き上げ、ドアが外れて解放されたままの出入り口まで引っ張る。

 その様を確認したチャカはまた、三度見。

 

 

「おめ……!? 何して……え!? 見せ付けんの!?」

 

「当たり前だろッ!! なに常識人ぶってんだ! 寝取りなんざおめぇもやった事あんだろ!?」

 

「それを全国放送した事はねぇよッ!? テレビのヘリ飛んでんだぞお前!?」

 

 

 報道ヘリはバッチリ、彼らの車をカメラで捉えていた。

 そして既にこの非常事態は、速報となって全国のお茶の間に伝えられている。

 

 

 

 

『新宿センタービル前で発生したカージャック事件ですが、速報です。現在犯人グループは人質を取り、都内を南下中との事です』

 

『目的などは不明。主犯格はこの、外国籍の男と見られています』

 

 

 

 

 通り過ぎた家電品店の前。

 陳列されているテレビは一斉に、その事を報道するニュースを放送していた。

 きっちりとヘリからの空撮映像も使用されている。

 

 

「AV撮影と勘違いしてねぇか!? てか今寝取る必要なくね!?」

 

「死にそうなんだッ!! 仕方ねぇだろッ!?」

 

 

 そう言ってキスしながら嫁の服を脱がす。

 チャカはぐっと目抜き帽を深々と下げながら、首を左右に振る。

 

 

「イカれてる……脳梅かなんかで頭ヤラれてんだろ……!」

 

「アニキやっぱ凄え男っす!」

 

「てか、あいつはともかくテメェは誰なん…………あ? な、なんか、聞き覚えある声だな?」

 

 

 目をキラキラさせながら二人の破廉恥を見学するツギオン君。

 止める事はもう諦め、チャカは運転に徹して見ないふりを決め込む。

 

 

 チェリオスは嫁をひっくり返してバックの体位を取らせ、履いていたズボンを下ろす。

 

 

「よーしッ!! 本番だぁッ!!」

 

「……!!……!!」

 

「あ!? なんだ!? 前は駄目だと!? 生理か!? ならケツ使わせろッ!!」

 

 

 そして自らのズボンも下ろす。

 露になったアレが屹立。その影が景山の顔を覆うほどの、巨きい根っこ。

 

 

「お……降ろしてくれッ!? 速度を落とさずとも、車も停めなくとも良い! せめて降ろしてくれッ!!」

 

「黙って見届けろ俺のッ!! セックスッ!!」

 

「やめろぉーーーーッ!!」

 

「見てろ日本人どもぉーーッ!!」

 

「やめろぉーーーーッ!!!!」

 

 

 チェリオスは車から顔を出し、報道ヘリを睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 依然、彼らを追跡する警察官コンビ。

 危険運転を繰り返すチェリオスらに、何とか食らい付いていた。

 

 

「公道を時速百キロで走りやがってなぁ〜? 絶対捕まえてやるからなぁ〜?」

 

「射殺だこの野郎ッ!! 射殺してやるぅーッ!!」

 

「だから落ち着けて! 俺たちは日本のポリスなの! アメポリじゃないんだよ!」

 

「じゃあ何すか!? アメリカから来た狂人のケツばっか見てるのが日本の警察って言うんすか!? そのケツにぶち込んでやるのが正義ってもんじゃないんですか!?」

 

「俺はお前が怖いよ」

 

 

 ヒートアップする後輩を宥めながら、先輩は無線で呼び掛けを続ける。

 途端に車は、突然スピードを落とした。

 

 

「ん?……はは! ほら、見ろ! スピードが落ちたぞ! 言えば分かり合えるんだよ!」

 

「言って分かり合えるんなら最初からこんな悲劇は起きなかったんだッ!! 愚かな人間め粛清してやるッ!!」

 

「神かお前は……ん? なんだあれ?」

 

 

 チェリオスが車内から、身体を出した。

 投降するのかと期待する先輩だったが、彼が下半身を露出している事に気付き目を点にする。

 

 

「え? 何やってんのアレ? ケツ?」

 

 

 彼がいる側へパトカーを向け、全貌を確認してみる。

 

 あまりにも衝撃的過ぎる光景だった為、ハンドル操作を誤りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車の進路の先にある十字路。

 信号が変わるまで待つトラックの運転手は、あるものを見つけた。

 

 

 前方の車線から迫る車だ。

 横から身体を出している男が、腰を振っている。

 

 

「カーセックスか?」

 

 

 車は、運転手にとって見えやすい距離まで近付き、通り過ぎて行った。

 全容を確認した彼は、生唾を飲む。

 

 

 

 

 

「……カーセックスだ」

 

 

 青信号になっても、トラックは動かなかった。

 キレた後続のドライバーが、ズボンのチャックを開けていた彼を引き摺り降ろした。そのままリンチ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上半身を車から出し、車内で這い蹲る嫁に「ゆっくり腰を振る」チェリオス。

 そのままは尻で「のの字」を描きながら、最低な台詞をヘリに向かって叫んだ。

 

 

 

「寝取りファック全国放送だコノヤローーッ!! どぉおーーだ日本人どもぉーーッ!! 観てるかフラットジャアーーックッ!!!!」

 

「イヤぁあーーーーッ!!」

 

 

 快感に耐える嫁に組み付かれている景山は、情けない顔で悲鳴をあげる。

 チェリオスは嫁のケツを叩き、延々と腰振りダンス。

 

 

「なんだまだ足りねぇか!? 俺もまだ足りねぇぞッ!!」

 

 

 彼はハッとなって、辺りを見渡した。

 

 

 車は新宿から渋谷区へ入り、気付けば青山通りの表参道。

 ケヤキ並木の広い道路を、ゆったりと進んでいる。

 

 

 

 歩道には通勤通学途中の、老若男女の群れ。

 全員が全員、唖然とした表情でチェリオスを見ていた。

 

 或いはニュースを観た野次馬が、カメラを担いで待ち構えていた。

 

 状況を理解した群衆は、悲鳴をあげる者や、「おぉー」と声を出す者と、様々な反応を見せる。

 

 

 

 ヘリはずっとカメラを向けていた。

 チェリオスは百人以上の目と、テレビカメラの向こうにある一億人ほどの視聴者へ向かって、ニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

 腰振りダンスを激しくさせる。

 

 嫁がダンスに反応し、身体を捩らせ感度良好。

 

 興奮した嫁が、景山の顔をフロアカーペットに押し付ける。景山は男泣き。

 

 チャカ、顔バレせぬよう目抜き帽を深く被りながら車を操る。

 

 

 

 堂々とアンナカの袋を破り、衆目の面前で白い粉を吸ってやった。

 

 チェリオスは後ろから追うパトカーに中指を向けた後、両腕を上げて叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

俺は(I'm)生きてる(Alive)ーーッ!!」

 

 

 少なからず沸き立つ歓声と悲鳴。

 その時ばかりは皆、会社や学校の事を忘れて足を止めた。

 

 

 

 

 

俺は(I'm)生きてるぞ(Alive)ッ!! どうだクソッタレーーッ!!!!」

 

「ぎゃあ"あ"あ"あ"あ"!!!!」

 

 

 嫁に顔中を舐められながら泣く景山。

 アンナカの付いた鼻を拭ってから、助手席のツギオン君に命じる。

 

 

「ラジオかけろッ!!」

 

「え!? ら、ラジオ!? ラジオって言いました!?」

 

 

 すぐに車内ラジオを起動。音量もマックス。

 陽気なDJの声が響く。

 

 

『どーもぉ! 伝説のDJ・コービーでーす! 小林克也さんじゃないよ! ラジオの前のステレオ太陽族の皆さん、フリフリ'65な夜は如何でしたか!』

 

「意味分かんねぇ……」

 

 

 愚痴るチャカの様子は、ラジオ局には届かない。

 調子変わらず、DJ・コービーは捲し立てる。

 

 

『さぁ、朝方ムーンライトの憂鬱! それをアブダ・カ・ダブラで吹き飛ばす魔法のナンバーを持って来たぜ! KAMAKURAのみんな聴いてるー!? それじゃ流すぜ!』

 

 

 サンバのリズムと荒削りなコーラスが轟く。

 DJは高らかに曲名を告げた。

 

 

 

 

 

『「サザンオールスターズ」より、「勝手にシンドバッド」。デビュー曲だイェーッ!!』

 

 

 真冬なのに、夏のように揚々とした曲がファンキーでセクシーな歌声と共に流れる。

 チャカは前方に注目し、渋い顔を見せた。

 

 

砂まじりの茅ヶ崎

人も波も消えて

 

 

 今は通勤ラッシュ。渋滞が出来ていた。

 ツギオン君が不安そうに聞く。助手席は、後ろで興じるチェリオスらの動きに合わせてユッサユッサ揺れていた。

 

 

夏の日の思い出は

ちょいと瞳の中に消えたほどに

 

 

「どないします!?」

 

「歩道が空いてんな。こっち行くべ」

 

 

 チャカはクラクションを鳴らしながら、突然車を歩道に突っ込んだ。

 湧き上がる悲鳴を無視し、車はどんどんと進む。

 

 

それにしても涙が

止まらないどうしよう

 

 

 歩道に入った車を、パトカーが追う訳にはいかない。

 焦った表情で先輩は、渋滞迫る車道を進みながら聞く。

 

 

「どうする!?」

 

「走って追うッ!!」

 

「えぇ!?」

 

 

 そう言って二人とも、パトカーを乗り捨てた。

 

 

うぶな女みたいに

ちょっと今夜は熱く胸焦がす

 

 

 ちょっとリズムに乗ったクラクションを吹き鳴らし、群衆を紅海を割ったモーゼのように割る。

 混乱状態の人々の前で、惜しみなくチェリオスと嫁の劣情を見せつけた。

 

 

さっきまで俺ひとり

あんた思い出してた時

 

 

「寄越せッ!!」

 

 

 通勤中のサラリーマンが持っていたコーヒーを奪う。

 アンナカを吸いながら、それを一気飲み。

 腰は止めず、最後の一滴まで飲み干した。

 

 

シャイなハートにルージュの色が

ただ浮かぶ

 

 

 チェリオスは嫁の脱がしたパンティーを投げ、オヤジのハゲ頭に乗っける。

 恐ろしいまでの蛮行に、群衆は興奮とドン引き。

 

 

「助けてぇえーーッ!!」

 

 

 手を伸ばして助けを懇願する景山さえ、見捨てられていた。

 彼の顔は涎とキスマークまみれだ。

 

 

好きに ならずにはいられない

 

 

 

「あ? おい……時間へーきか!?」

 

 チャカはカーラジオに表示された時計を見るが、どうやら壊れているようで何度か叩いていた。

 タイムリミットは九時。時間が分からないのは致命的だ。

 

 

お目にかかれて

 

 

 仕方なくチャカは、腕時計をかけているチェリオスに時間を聞く。

 最高音量のラジオのせいで声が掻き消され、何度も同じ事を叫んでいた。

 

 

 

 

いま何時!?

 

「あぁ!? そうだな、大体なぁ!!

 

「聞こえねぇよ! いま何時!?

 

ちょっと待ってろオイッ!!」

 

いま何時!?

 

「八時半だ! まだ早いッ!!

 

 

 腕時計を見て、チャカに伝えてあげた。

 途端に感情が爆発したのか、愛する人の名を大声で呼んだ。

 

 

不思議なものね あんたを見れば

 

 

「ユキオーーーーッ!!」

 

 

 通りかかった女子高生に見せつける。

 

 

胸騒ぎの腰つき

 

 

「ユキオ好きだぁぁーーーーッ!!」

 

 

 興奮して乗り込もうとする男を殴って振り落としながら、見せつける。

 

 

胸騒ぎの腰つき

 

 

「ユキオ見てるかーーッ!? ユキオぉぉーーッ!!」

 

 

 ちょっと老人を車で跳ねた。

 それでもガンガン見せつける。

 

 

胸騒ぎの腰つき

 

 

「愛してるぞぉーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

 

MUSIC

C'MON

BACK

TO

ME

YEAH!!!!

 

 

 

 雄々しいギターソロが鳴り響く中、混乱状態の青山通りを抜けた。

 再び車道に戻り、スピードを上げながらチャカは叫ぶ。

 

 

「赤坂まで行くぞッ!! 時間がねぇ!!」

 

 

 ラジオを止め、チャカはアクセル全開で車を走らせる。

 さすがに身体を出したままは危険と判断したのか、チェリオスは身体を車内に仕舞った。

 

 その際に萎えちゃったのか、ナニがとは言わないが抜けた。

 ここで終わりだ。

 

 

 

 あれだけハッスルした割には、不完全燃焼な様子のチェリオス。

 気になったチャカは聞いてみた。

 

 

「オイ、イったかぁ?」

 

「いや、イってねぇ」

 

「遅漏か?」

 

「違う……俺ぁ、イったら寝ちまうんだ」

 

「あー……まぁ、分かる」

 

 

 本当は雪緒の名を叫んだら、相手が雪緒ではない事を思い出してクールダウンしただけだ。

 熱っぽい視線で嫁が見て来るが、チェリオスは必死に無視をする。

 

 

 そんな彼の複雑な心中は悟られる事はなく、車は全速力で白金に迫った。

 景山はフロアカーペットの上で気絶している。

 

 

 

 

 

 

 

Lat: 35.670168 Lng: 139.702686

 

Lat: 35.669251 Lng: 139.742453

 

Lat: 35.645594 Lng: 139.732409

 

 

 

SHIROKANE

  白金

 

 

 

 

 

 白金周辺は、かなり騒ついている。

 無線で報告のあったシェブ・チェリオスが、どうやらこっちに向かっているようだからだ。

 

 

「機動隊!! 道路を封鎖するんだッ!!」

 

「安沢さん! 相手は人質取ってるんですよ!?」

 

「アシだけでも止めなきゃ駄目だろぉ! パトカーを使って塞ぐんだ!!」

 

 

 道路上にパトカーが急遽並べられ、迎撃態勢に入る。

 車が停まった瞬間に突入するのか、機動隊の警官たちは端で準備をしていた。

 

 指示を出し終えた後、安沢は苛ついた様子で頭を掻く。

 

 

「ったくよぉ〜! 何だってんだよぉ!! 犯人の要求は!?」

 

「それが、一切要求はないみたいです! 他のパトカーも振り切られたようで……!」

 

「何やってんだ……!」

 

 

 安沢と石黒は知る由もないが、チェリオスらの車の進路があまりにもトンチキだからだ。

 歩道など、一本道を逆走など、的確にパトカーが追って来られないような道を選んでいる。

 

 このような芸当は、東京の道を知り尽くしたチャカだからこそ出来た。

 夜な夜なバイカーらと共に街を暴走して培った、土地勘と悪知恵だ。

 

 

 

 

 遠くから甲高いスキール音が響き渡る。

 石黒が百メートル先から迫る例の車を視認した。

 

 

「うわぁ来た!?」

 

「道は一本道だ! さすがに封鎖した道に突っ込む奴はいない! クズでも命は惜しいもんだ!」

 

 

 相手の持つ恐怖心を利用すると、安沢は主張。

 彼の言う事は尤もだろう。パトカー数台によるディフェンスを前に、必ず人は慄く。

 

 そこを突き、隙を狙って車を包囲する算段だ。

 

 

「来ました!」

 

 

 車はアクセル全開で迫る。

 

 

 

 

「車が停まったらすぐに突入だ!」

 

 

 残り五十メートル。車は止まらない。

 

 

「さぁ、そろそろだな!」

 

 

 残り三十メートル。寧ろスピードが上がった。

 

 

「…………おい」

 

 

 十メートル。スピードが上がった。

 

 

「…………いやいやいや」

 

 

 

 

 五メートル。止まるにはもう遅い。

 

 

「馬鹿かぁ!?」

 

 

 

 

 車は堂々と、車列に突っ込んだ。

 

 衝撃で動いたパトカーに巻き込まれて、安沢は吹き飛ぶ。

 

 割れたガラスと破片を浴び、石黒は倒れる。

 

 

 大きくひしゃげた車体。

 その中からチェリオスが、景山の頭に銃口を押し付けて姿を現す。

 

 

「止まると思ったかジャパポリどもぉーッ!! スパイクストリップも使わねぇ軟弱がぁーーッ!!」

 

 

 運転席から血だらけのチャカが、ヨロヨロと降りた。

 

 

「俺は止めるって言ったのに……!!」

 

 

 ブレーキを踏もうとしたが、チェリオスに銃口を向けられて脅された為、泣く泣く突っ込んだ訳だ。

 覚束無い足取りで、使い物にならなくなった車を乗り捨て。

 

 

 惨劇で一瞬だけ膠着を見せたものの、機動隊はすぐに警棒を抱えて立ち向かった。

 

 だが人質を取るチェリオスの手前、果敢に行動が出来ない。

 

 

「撃つぞ!? それ以上近付いたら撃ーーつッ!!」

 

「ち、近付くんじゃない!! いや助けてくれ!! 助けんかッ!?」

 

 

 嫁もフラフラと、車から顔を出した。

 その時、彼の背後に迫る機動隊員を発見。

 

 

 指差し、呼びかけようとするも遅く、隊員はチェリオスを背後から裸締め。

 

 

「確保ーーッ!!」

 

「あ!? 何しやがる!?」

 

 

 完全に決まった裸締めから、抜ける術はない。

 銃も没収され、万事休すかと思われた。

 

 

 

 

「うおおおおおーー!!」

 

 

 ツギオン君が機動隊を蹴っ飛ばし、チェリオスを解放。

 

 

「おぉ!? 助かった!!」

 

「行ってくださいアニキッ!!」

 

「何言ってっか分からねぇが、ナイスだ!」

 

 

 没収された銃も取り戻す。

 

 嫁と景山を引き連れ、もう目と鼻の先にある香砂邸へ走る。

 他の大勢の機動隊が追おうとするも、パトカーを奪ったチャカが立ちはだかる。

 

 

「オラオラオラーーッ!! 轢くぞ轢くぞ轢くぞーーッ!!」

 

 

 パトランプを点滅させながら、その場でドリフトをかまし、ターンをして警官隊を牽制。

 指令を出す安沢と石黒がやられた事もあり、隊員たちは混乱を極めていた。

 

 

「良くやったッ!! 見直したぞぉーッ!」

 

 

 これ幸いとばかりに、チェリオスは警察を完全に振り切る。

 二分ほど走り続け、ついに香砂邸の門前に到達した。

 

 

 

 

 

 

 時刻は九時前。ギリギリだった。

 包囲していたハズの警察たちは、チェリオスらが起こした騒動によって撹乱され、一人もいない。

 

 

「……とうとう来たぜオイ……」

 

「も、もう良いでしょうか……!?」

 

「駄目だ。警察が来ないよう、てめぇにはまだ人質になってもらう」

 

「誰か助けて……!」

 

 

 ガタガタ震える景山を引っ張りながら、中に入ろうとする。

 それを嫁がなぜか、引き止めた。

 

 

「あ? なんだ?」

 

「行くのだな?」

 

「あぁ、そうだ。行くん────!?!?!?!?!?」

 

 

 

 

 喋らないハズの嫁が、普通に話しかけて来た。

 それだけではない。声が異常なほど渋い。

 

 

「おま……!? その声……ハァアッ!?」

 

「そうだ。俺は男だ」

 

「!?!?!?!?!?」

 

 

 なんとフラット・ジャックの嫁は男だったようだ。

 だが胸もある。今思えば少し顔は男っぽいが、女と言われれば「まぁそうか」と思ってしまいそうな風貌。

 

 声にならない声で当惑するチェリオスに、彼女──彼は説明をする。

 

 

「俺は女になろうと、性転換をしたんだ。所謂……TSって奴だ」

 

「!?……!?!?!?」

 

「だが声だけはどうにもならなかった……だから俺は失語症だと言うカバーストーリーを流して、『喋れない女』を演じたんだ」

 

 

 景山も唖然としている。

 切ない表情で、嫁は続けた。

 

 

「俺はフラット・ジャックに惚れられ、女として奴に尽くした……だがもう、自分を偽る事に……俺は、疲れていたんだ……」

 

「!?!?」

 

「だから男に戻ろうとした……今、俺のアソコは付いている」

 

 

 前を拒絶したのは、付いていたかららしい。

 なぜ気付かなかったのだろうと、チェリオスは自分で自分が不思議だった。

 

 

「だがフラット・ジャックは異常な愛と独占欲を俺に向けた……一人での行動を禁止し、俺からプライベートを奪ったんだ」

 

「!?…………!?!?」

 

「男だとバラしたところで、奴はバイだからノーダメージだろう。あいつは短小の早漏だから、性生活も最悪だった……俺は奴の人形として、オモチャにされ続けるんだ……」

 

 

 熱のこもった視線で、「そう思っていた時……」とチェリオスを見つめながら話す。

 その視線から逃げるように、景山を盾にした。

 

 

「……マイルズに言われた奴が俺を運転手に選んだ時……逃げるチャンスだと考えた。そして……」

 

「やめろ。オイ。言うな」

 

「……君が、女としての俺を思い出させてくれた……」

 

「ふざけんな」

 

 

 彼はふいっと目線を逸らすと、明後日の方を見上げた。

 横顔には憂鬱な影が宿っている。悲しげな瞳には、曇り始めた空を写していた。

 

 

 

 

「……だが。君には、俺よりも心に決めた人がいるのだろ?」

 

 

 泣き出しそうになったところで、隠すように背を向ける。

 

 

「……俺は君のモノになれない。だから俺は、君を諦めなければならない」

 

 

 一歩、二歩と、チェリオスから離れる嫁。

 

 

「……だが、君のその直向きな姿に……俺は感動した。その感動は俺の前立腺から伝わり……人生で最高の快感となったんだ。俺はもう、男に戻れそうにない……」

 

 

 ピタリと足を止め、流し目で彼を見た。

 

 それが彼──彼女にとって最後に見た、チェリオスの姿でもある。

 

 

「……顔も全て変え、もう一度だけ女として生きる。君から勇気を貰ったんだ……諦めなければ、道は開かれると……」

 

 

 持っていた水筒と残りのアンナカをチェリオスに投げ渡す。

 彼が受け取った事を確認すると、嫁は顔を見せずに走り去って行った。

 

 

 

 

「……さよなら」

 

 

 別れを言い残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人……いや。景山と残されたチェリオスは、まずはパチクリ瞬きをする。

 水筒を開き、中身のお茶を飲み干す。

 

 かなり渋く、奥深い味わいだ。

 空になった水筒を捨てると、自分の股間を揉む。

 

 

 

 

 

「……人生最後の相手が男……男と、ヤっちまった……嘘だろ……これから、死ぬのにか?……嘘だろ……えぇ……?」

 

 

 絶望の顔付きで、放心状態の景山を連れて香砂邸の門を潜る。

 

 

 

 

 

 長い長い六日間だった。

 とうとう辿り着いた諸悪の根源の根城へと、チェリオスは足を踏み入れる。

 

 最終決戦の刻は近い。




正式名称は「NEW YORK SNOW・きみを抱きたい」
「RCサクセション」の楽曲。
1984年発売「FEEL SO BAD」に収録されている。痩せたベイマックスにアレが付いてるような絵が目印。
日本が誇るキングオブロック・忌野清志郎率いるレジェンドロックバンド。

おちゃらけているような、忌野の上擦った歌い声が耳に残る一曲。クリスマスを彷彿させるゆったりとしてドリーミーなメロディに、燻し銀のギターラインが走る。

かつて「日本語はロックと合わない」と言った、洋楽コンプレックス的な考えが少なからずあった。
しかしRCサクセションは、イントネーションなど発音に拘った音作りにより、自然なリズムで「話し言葉の日本語」を激しいロックサウンドに組み込む事に成功。
「はっぴいえんど」の時代から試行錯誤された「日本語ロック」の完成形を提示し、現在の邦楽ロックシーンへと繋いだ。
また母音のみを強調せずハッキリと発音する忌野の歌い方は甲本ヒロト、宮本浩次などに影響を与えている。

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