DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread. 作:明暮10番
ステイサムも「クリスマス」って名前の傭兵役をやっているんですけどね
悪魔の山手線運休騒動から、十時間ほどが経過する。
東京は夜に染まり、退廃的な空気を漂わせ始めた。
六本木のビル街は、彩り豊かな光で満ちていた。
乱痴気騒ぎの欲望が、さめざめと振る小雪と共に舞っている。
華やかな宵街の一角、特に過激な雰囲気を醸す地帯。
朝方、チェリオスが押し入った、あのクラブだ。
「………………」
「チャカよぉ……おめえ、どうしたその顔……」
「なんでもねぇっすよ」
「なんでもねぇ訳ねぇだろ」
クラブのオーナーであるチャカの顔は、包帯とガーゼだらけだった。
明らかに異様な彼の姿を気になったのか、小太りの男が聞く。
「喧嘩か? それにしちゃあ、おめぇがボコされんのは珍しいな」
「不意打ち食らわされただけっすから、タカさん。普通にやってりゃ勝ってた」
「あー、なるほどなァ。今日のおめぇなんか大人しいと思えば、負けて悔しい訳か」
「んな訳ねぇよ」
図星を突かれ、自身の上司にあたる人物にも荒い口調を使う。
チャカの注意はずっと、一つに向けられていた。
絢爛なライトとミラーボールの乱反射が照らす店内。
お立ち台で踊るストリッパー達と、ねっとりとした視線を向ける客らを見下ろせる二階の個室で、彼らの密会は敢行された。
ロシア人と日本人の集団が、テーブルを中心にちょうど二分割された状態で話を進めている。
その中にはロック、レヴィ、そして全員を束ねるバラライカと、彼女の右腕であるボリスの姿があった。
チャカがチェリオスに提示した、香砂会系ヤクザとロシアンマフィアの報告会だ。
イカれた殺し屋に啖呵切った手前、情報収集にリソースが向き、他にはほぼ無関心だった。
「あの、クソハゲ……今に見てやがれ……地獄に送ってやっからなぁ……」
だが、決して彼はチェリオスに屈服している訳ではない。
怒りに燃える頭の中では、様々な謀略が巡らされていた。
「……チャカ坊、どうした? 目がヤベェぞ。キメたか?」
「キメてねぇよ」
「なんだおめぇ……」
不機嫌な顔付きのままタバコを乱暴に咥え、勢い良く紫煙を吐き散らす。
タバコの煙が空気の海に混じり流れる中、バラライカは眼前にいる男と対話を続けている。
「……ところで『板東』さん。香砂会側は現在、どのような動きを見せていますか?」
彼女の口から放たれた英語を、通訳であるロックの口から日本語に変換して、「板東」と呼ばれた男にパスされる。
板東は関西弁で質問に答えた。
「炙り出しすんのは読んどったんやが、ちょいと不可解な事をしとるんやわ」
「不可解な事?」
「せや」
ひたいを爪で掻いてから、板東は続ける。
「……どういう訳か、歌舞伎町や錦糸町のオカマども締め上げとる」
同時刻、錦糸町の某所で、彼の言った「締め上げ」が行われている最中だった。
「やめてーーッ!? やめてーーッ!!??」
全裸のまま亀甲縛りで天井に吊るされたオカマを見ながら、巨軀の男がギラリと睨む。
古めかしいダックテール。チェリオスが追っている、「モロ」だ。
「おめェ、サカモト……なんだコソコソ、ウチの組の事ァ探ってやがるようだなァ」
「知らないわっ!! 知らない過ぎるわよっ!?」
「知らない過ぎる訳がねェ。おめェだけじゃなくてなァ、色んなトコのカマ野郎が香砂会の情報を集めてやがる」
「ワテクシは関係ないわ!?!?」
「寧ろおめェが筆頭なんだ」
モロは部下に合図し、何かを持って来させた。
それは大きな肉切り包丁だ。
サカモトと呼ばれたオカマの顔からサァーっと、血の気が引く。
「オカマなんだからよォ。『後ろだけあれば良い』よなァ?」
彼の部下たちが、サカモトの両足を掴んで暴れさせないようにする。
モロは肉切り包丁の峰でトントンと肩を叩きながら。ゆっくりとサカモトに近付く。
「駄目駄目駄目駄目駄目待って待って待ってッ!?!? ワテクシ『タチ』だから前も使うのッ!?!?」
「じゃあこっから後ろだけにしろ」
「アッー!! 思い出したーッ!! 思い出しましたわーーッ!? 確かワテクシッ、フラット・ジャッ君に頼まれただけだったのですわーーッ!?!?」
サカモトが吐いた名前を聞き、モロはピタリと足を止める。
彼の眼前には、サカモトの「アレ」がぶら下がっていた。
「フラット・ジャッ君ってなんだ?」
「歌舞伎町で、海外マフィア相手に医薬品の横流しをしているブローカーです。フラット・ジャックですね」
部下の情報を聞き、モロは不敵に笑う。
「海外マフィア相手かァ……ウチの組に戦争仕掛けた奴と関連があるかもな」
「い、言ったからもう、ワテクシ許される?」
モロは考え事をするかのように口をモゴモゴさせてから、吊るされている彼を見上げた。
「俺ァ、正直モンが好きだ。こっちの質問に、ちゃァんと包み隠さず答えてくれる、正直モンが好きだ」
「そ、そうでしょそうでしょ!? ワテクシ正直者なのッ! 近所でも評判なのよッ!!」
サカモトの言葉を聞いた途端、モロはなぜか嬉しそうに笑いながら突然歌い出す。
「知ってるぜ! 日本中知ってるあの歌だろっ! 交差点で百円拾ぉったぁよぉ〜♪」
足を捕まえている部下二人を指差し、続きを歌わせる。
「今すぐコレ交番に届けよォぉ〜ぅオゥッ!!」
「いぃ〜つぅ〜だぁ〜、って、俺は正直さぁ!」
次に吊るされているサカモトを指差す。
戸惑いながらも、続きを歌う。
「き……近所でぇもぉ……ひょ、評判さぁ〜あ、ア〜♪……?」
差した指を左右に動かし、指揮者のように振る舞い出すモロ。
彼の指に合わせるように、部下とサカモトでのコーラスが始まる。
「リぃ〜ンリン♪ ラァンラン、ソォ〜セェジィーッ♪」
「ハァーイハイ、ハァームゥーじゃあなァいぃ〜♪ なんて事わっ!」
「ぜ……ぜぇ〜んぜん、かぁーのぉーじょーもー言ぃ〜ってない〜♪」
全員で声を合わせる。
「「「へぇ〜いへいっ! にぃ〜ほぉ〜ん〜じゅうぅうぅ〜〜っ!」」」
最後は、モロが独唱で締めた。
「知ってい〜るぅ〜さぁあ〜ぁあ〜〜〜〜っ!」
肉切り包丁を振り上げた。
「正直モンならハナから吐いとけジャリぃーーーーッ!!!!」
鮮血と悲鳴と、切られたサオとタマが宙を舞う。
翌日の正午となり、エアロビをするフラット・ジャックは眉を顰めていた。
「おかしいわね……オカマ仲間から情報が来なくなっちゃったわ。サカちゃんからも来ないし……」
トレッドミルで最大スピードにして走るチェリオスが叫ぶ。
「時間だぁぁーーッ!! 電話貸せーーッ!!」
「もう五十デシベルほど声量下げられないの?」
エアロビをしながら、固定電話の子機をチェリオスに投げ渡す。
受け取ると彼はトレッドミルから降り、アンナカを振りかけたメロンを食べながら電話をかける。
着信したのは、勿論だがチャカの携帯電話だ。
彼は路地裏で、数人の仲間たちを前にしながら応答する。
「お……お前か……! 待ってたぜ……!」
「約束の時間だ。会合とやらはやってたか?」
「あぁ。ちゃんとなぁ? 色々聞いたぜぇー?」
「全部話せ」
チャカは昨夜の密会での内容を思い出し、チェリオスに伝える。
「まず、連中は束ねてんのは『バラライカ』って女だったぜ」
「バラライカだとぉ?」
チェリオスは思わず、エアロビ中のフラット・ジャックを見る。
ステップニーをしながら、彼もまた驚いた様子で話す。
「ホテモスの超大物じゃないの! まさか日本に来ているなんて……!」
「噂じゃあ、アフガン帰りのイカれた軍人崩れどもを従えてるって聞く」
「合点がいったわ……! 新宿での騒ぎは、間違いなくバラライカの仕業よっ!」
「じゃあ待て待て、オイ……じゃあなんで、香砂会系のヤクザと密会してんだ? こいつらが襲ってんのは、香砂会のクラブだろが?」
チェリオスは即座に、「そこのところどうなんだ」とチャカに聞く。
唇の下に開けたピアスを弄りながら、彼は情報を伝えてくれた。
「謂わば、クーデターだ!『鷲峰組』が、親殺しをすんだよ! ホテル・モスクワはそれを助ける為に雇われたんだ!」
チャカから奪った、スタームルガーを確認しつつチェリオスは、鷲峰組の事をフラット・ジャックに聞く。
「確かに香砂会系のヤクザね。戦後に香砂会が出来てからの古株って聞いたわ。まぁ、あまり派手な噂は聞かないけど」
「それはまぁどうでも良い。チョコの名前はあったか?」
電話越し、顔が見えない状態でチャカはニヤリと笑う。
「──あぁ! あったぜ!『本拠地で匿っている』ってぇ、話だ!!」
舎弟たちの方を見ると、全員が下卑た笑いを浮かべていた。ついでにガッツポーズ。
だがそんな様子を、チェリオスらが気付けるハズもない。
「ホテル・モスクワの本拠地にいんだなぁ!? 間違いねぇな!?」
「え? あんたに毒盛った奴、ホテモスと組んでるの? おかしくない?」
エアロビのキックトントンをしながら、フラット・ジャックは疑問を呈す。
「おいフラット・ジャックッ!! ホテル・モスクワの本拠地を言えッ!!」
「港区のレストランにあるわ……一応、あたしの顧客だし……」
「そこに行くッ!!」
「いや待って待って!? だからおかしくない!?」
チェリオスは電話を切り、即座に出動しようとする。
エアロビの片足上げをしながらフラット・ジャックは、待ったをかけた。
「あんたに毒盛ったのはヤクザでしょ? で、そのヤクザのいたクラブはホテモスに吹き飛ばされたんでしょ? で、ホテモスは香砂会と戦争中なんでしょ?……チョコの味方じゃなくない?」
しかしチェリオスは全く、聞く耳を持っていない。
テーブルに積まれたアンナカを全て懐に詰め込むと、早速部屋を出ようとする。
エアロビのポニーをしながら、何とか説明を叫ぶ。
「それに考えれば考えるほどおかしいわよ!? なんか、ややこしくなってない!?」
ターンを決めた後に、チェリオスの方へ振り返る。
もう彼は出て行った後だった。
片付けをする嫁の姿だけが、そこにある。
「もう出て行ったの?」
嫁はコクリと頷く。
次に両手を突き出し、円形に回す仕草を取った。
「え? 車のキーも持ってっちゃったの?」
また嫁はコクリと頷く。
「……なんで渡しちゃったのよぉ〜〜?」
呆れながらもエアロビだけは止めないフラット・ジャックだった。
ガレージから現れたランボルギーニ。
法定速度を完全に無視したスピードで、道路を爆走している。
運転手は勿論、リンゴをアンナカにまぶして食らうチェリオスだ。
「最高かよランボルギーニぃーーッ!!!! フォーーッ!!!!」
フラット・ジャックの車であるランボルギーニは、良く良くメンテナンスされていた。
極上の乗り心地とスピード感、そして三徹目による異様な興奮から、チェリオスはおかしくなっていた。
「目指せモスカァーーウッ!!」
溢れ出る高揚感は、見えているものを見えなくしてしまう。
「アッ!?」
息を吐くように信号無視。
その時に歩道から飛び出して来た歩行者を、ブレーキが間に合わずに轢いた。
昼下がりの街の中を、男は一人歩いている。
コートを靡かせ、疲れた顔でタバコを咥え、道路脇を行く。
「………………」
彼は昨夜の会合での話を、何度も想起していた。
あの時、「火傷だらけの女」は言った。
「我々は立ち塞がる全てを殲滅する」
黒く澱んだ目で睨みながらも、馬鹿にした笑みを見せる彼女の表情が思い出される。
「我々は無条件の力を行使し、利潤を追求する。それがマフィアと言うものだ」
あの目には、幾多の修羅場を超えた彼でも思わず、底冷えを感じてしまった。
「その上で我々は、リスクの多くを負担している──」
こいつらは闇だ。
最初はモスクワと語感が似ている事と、自分たちの味方だと言う意味で「モスラ」と形容したものだ。
「──つまり、『全ての決定権はあなた方でなく、我々にある』」
それが間違いだったと。
「ゴジラ」を呼んでしまったのだと察した。
だからこそ、この男──板東は焦っていた。
鷲峰組の存続の為にホテル・モスクワを引き込んだのは、他でもない彼の提案だ。
だからこそ、焦っていた。
事の発端は香砂会の現会長の決定だ。彼は鷲峰組を潰す気でいる。
板東は、今は亡き鷲峰組組長の恩義に報いるべく、何としてでもそれは避けたかった。
外道と言われようが、麻薬の売買に手を染めてでも組を守った。
だが限界は来るものだ。
追い詰められた彼は──だからこそ、ホテル・モスクワを呼び込んだ。呼び込むしかなかった。
共に協力し、香砂会を制する大勝負に出ようと、考えていた。
昨夜の会合で分かった。
ホテル・モスクワは奪うつもりだ。香砂会も、東京も……鷲峰組さえも。
自身の考えた計画は、「オジャン」となったのだと悟る。
板東は焦っていた。
表情に出さずとも、焦っていた。
「……窮鼠猫を噛んだまではエエが……根こそぎ犬に喰われるっちゅー訳か……最悪やな」
横断歩道の前で立ち止まる。
信号は青だ。ヤクザが律儀に信号を守るのも滑稽だなと、苦笑いする。
考え事をする為に立ち止まったのだと、自分を納得させた。
「……始末をつけなアカンわなぁ……」
信号機の青いライトが、黄色へと移り変わる。
「……せやけどまずは」
そして赤となった。
「……銀公とメシでも食うか」
横断歩道を渡るべく、一歩彼は踏み出した。
途端、信号無視のランボルギーニに轢かれる。
板東はまずボンネットに全身をぶつけ、血を撒きながら路上へと吹っ飛んだ。
「ッ!?!?!?」
アスファルトを二転三転、着ていたコートはボロボロに破れる。
皮膚は裂け、骨は折れ、体内体外問わずに血が吹き出す。
衝突によるエネルギーが消えた頃、板東の姿は酷い有り様だった。
身体をくの字にし、血溜まりに塗れ、惨めに車道で寝っ転がる。身体が全く動かない。
薄れ行く意識の中で、板東は一言呟く。
「んなアホな……」
ぷつりと、意識を手放した。
チェリオスはすぐに車を停めて、轢いてしまった男の様子を運転席から見る。
「悪い」
再びアクセルを踏み込み、その場を後にした。
彼が目指すはただ一つ。ホテル・モスクワの東京支部の拠点のみだ。
車を全力で走らせ、麻布にあるロシアン料理専門の大きなレストランに辿り着く。
フラット・ジャックの情報ならば、ここをホテル・モスクワ日本支部が根城にしているとの事だ。
「見えて来たぜ」
チェリオスは車を徐行させつつ、アンナカをありったけ吸い込みながらコーヒーを飲む。
さて、このレストランから数メートルほど離れた所に、一台の車が停まっていた。
中には一人のチンピラと、チャカが乗っている。
「チャカさん。あそこが、ロシア人の拠点っすか?」
「俺の情報網舐めんじゃねぇーし。ダチがあの店で何回か会合してる怖いロシア人を見たんだってよ」
「でも……チャカさんの言った、火傷だらけの女は見なかったっすね」
「知らねーし、んなのは。今はあの、薄らハゲがノコノコかちこんで間抜けに死ぬ様を見てぇんだ」
ホテル・モスクワがチョコを匿っている云々の話は、勿論の事だが嘘だ。バラライカの口から、一言も出ていない。
チャカは聞いた情報に嘘を混ぜ込ませて、チェリオスを乗せてやったに過ぎない。
「あのクソハゲ……俺のイカしたルガー持って行きやがってなぁ〜……こーなりゃ、火種ばら撒いて死んで貰っちゃうぜぇ〜……!」
「火種ってなんすか?」
「戦争だ戦争! 俺っちのシナリオはこうだ!」
忌々しげに、チェリオスと無理矢理交換させられたニューナンブを見ながら、チャカは計画を話す。
「さっきになぁ、あのレストランにタレ込んでやったよぉ。『鷲峰組からの刺客が来る』ってなぁ!」
「例の薄ハゲを、鷲峰組の人間に仕立て上げたんすか?」
「そーそー! で、あいつはみすみす突撃して、あっさり死ぬ! で、ホテル・モスクワは報復に動く! そうなりゃ、香砂の連中も勘づくもんだべ?」
「そうしてから……なにすんすか?」
「鈍チンだなぁ〜おめぇ!『お嬢』攫って、どっちかに売って金にすんだよ!」
「あー、アレっすね。マッシュアップっすね」
「マッチポンプな?」
ケタケタと下品な笑い声をあげる。
「残念だけど、昨日のあの様子じゃ鷲峰は終わりだにゃぁ。せめて俺の為、金のなる木になって枯れてくれってな」
プランを語り終えたと同時に、舎弟がレストランの方を指差し報告する。
「来ました! あの、外人っすよね!」
「うおっ、マジで来た。見た目も頭も筋肉かよ」
ランボルギーニが一台、レストラン前で停車した。
フロントガラス越しに見えるチェリオスは、白い粉を吸っていた。
「うわ。チャカさんの言った通りっすね。キメてますよ」
「筋金入りのヤク中だなアイツ……」
「降りました降りました」
降車し、店の風貌を見渡してから彼は堂々と、正面から入って行く。
「マジかよ! 正面突入か!?」
「イカれて普通の考え出来ねーんだろ。まさか向こうはタレ込まれて、てめぇの襲撃に備えているなんざ夢にも思わねーだろーなぁ!」
「マヌケっすね。ちょっと野次馬やって、帰りますか」
車内から様子を伺う二人。
その時はすぐに訪れた。店内から甲高い銃声が、三発響く。
「撃った!! 撃ったっすよ!!」
「あー。ありゃ死んだな」
構成員で満席のレストランに、ネジの外れた暴漢一人。多勢に無勢だ。間違いなく、さっきの三発の銃声で、チェリオスは死んだ。
「近くを通りかかったフリして覗きましょうよ!」
「いやぁ、待て待て! すぐに行ったら俺らも怪しまれんだろ鈍チン! 三分待つぞ!」
チェリオスが死んだ事を確信し、ご機嫌なチャカ。二人は口々に、作戦の成功を喜び合う。
次の瞬間、また三発、銃声が響く。
「え? また聞こえた……」
「多分、トドメ刺したんだろぉ? マジモンのガンマンは、確実に死ぬまでタマ撃ち込むもんだ!」
チャカの解説を聞き、舎弟が感心する。
これでやっとチェリオスが死んだと安堵し、また二人は喜び合う。
六発、追加で鳴る。
「え? さすがに多くないっすか?」
「お? おぉ? アレじゃね? 防弾チョッキ着てたんじゃね?」
次は単発の銃声ではなく、連続したものが響く。
拳銃ではない。ライフル銃やサブマシンガンの類だ。
「ガガガガガって鳴ってますよ?」
「…………チタンでも腹に仕込んでんのか?」
銃声は鳴り止む事はなく、様々な銃のものが混ぜこぜに響き始め、更に激しさを増す。
店内からマズルフラッシュによる閃光が、入口から漏れていた。
「いやいやいや。戦争になってんじゃないっすか」
「………………裏口に仲間でも隠してたんじゃねーの?」
一階の窓が割れ、中から人間が飛び出して来た。
一人、二人、三人と飛び出す人間は増える。
「ど、どうなってんすか!? ロシア人がやられてるっぽいっすよ!?」
「いや、ありえねーって。おかしいだろ」
店内からロシア語の怒号や悲鳴が、銃声に混じり始める。
壁から貫通した弾丸が外に飛び、レストランは弾痕だらけになって行く。
終いには爆発が起き、後方の壁が丸ごと吹き飛んだ。
「……………………」
「ありえねぇって。ありえねぇって」
戦争は一階のみならず、二階にも移動する。今度は二階で爆発が起き、吹き飛んだ人間が地面に落ちた。
看板が落下し、電気が全て消え、爆発と銃声が断続的に発生。
破片と流れ弾で、辺りは凄惨な光景と化していた。
「…………………………」
「…………………………」
身体に火が付いた男三人が店内から出て来て、路上で力尽きる。それを最後に、喧騒は鳴りを潜めた。
そしてもう一人、ボロボロの状態で入口から出て来る。
髪を振り乱し、腰も砕けんばかりの足取りで逃げようとする、口髭を生やしたロシア人だ。
彼は路上で膝立ちとなり、ロシア語で叫ぶ。
「いきなりなんだお前はーーッ!? 俺を誰だと思ってんだぁーーッ!? モスクワの頭目なんだぞぉーーッ!!!!」
廃墟同然となったレストランから、男が一人のしのしと顔を出す。
男の姿を確認した途端、チャカは思わず「ヒュウ」と、情けない息を漏らした。
「俺ぁ反共主義者だ」
ロシア人の顔面を蹴飛ばし、気絶させてやる。
その男とは、チェリオスだ。
悪鬼が如くの極悪面で、レストランからかっぱらって来たであろう紅茶をティーポットのまま飲んでいた。
「……チョコいねぇじゃねぇか」
煩わしそうに、ティーポットを投げ捨てる。
「めざせモスクワ」
「ジンギスカン」の楽曲。原題は「Moskau」のみだが、邦題をサブタイトルに起用。
1979年発売「Dschinghis Khan」に収録されている。
西ドイツ出身の六人組音楽グループで、この曲と「ジンギスカン」で世界的ヒットを叩き出した。
オリジナルメンバーは二人のみとなってしまったが、何と現在も活動中と言う生きる伝説。
思いっきり洋楽ですが、70年代ディスコシーンや、80年代「竹の子族(派手な格好して道端で踊る人たち)」などにブームメントを巻き起こし、和訳カバーが作られまくったと言った点から一つの日本的カルチャーミュージックとして起用しました。「ヤングマン」と「USA」みたいなノリ。
昭和どころか、「もすかう」として平成でもネットミームになるほど、長く愛される名曲。「恋のマイヤヒ」も好き。