ダルタニャン物語の第1部「三銃士」は「友を選ばば三銃士」とこちらの「妖婦ミレディ―の秘密」の2冊から構成されます。
相変わらず、ワクワクときめきながら少しずつ、再読しています。
ガスコーニュの田舎から憧れの銃士隊に入るべくパリへ上京したダルタニャン。
第1巻では無事にリシュリュー枢機卿の陰謀から王妃アンヌ・ド―トリッシュを救い出し三銃士らとの友情も固くなる、一方で下宿先の大家ボナシューの年の離れた夫人コンスタンス(王妃付きの侍女)への初恋から両想いへの進展、危険な香りを自覚しつつも不思議に惹かれる枢機卿の手先であり絶世の美女ミレディー、そしてミレディ-の侍女ケティのダルタニャンへの恋心を利用したりと、ガスコーニュから出てきた時の初々しさはどこへやらという感じです。
正直、昔からこの巻のダルタニャンは好きではありません。
コンスタンスが枢機卿一派により拉致されて行方不明だというのに、ミレディ-が恋人ワルド伯爵に宛てた恋文を侍女ケティから横取りして、挙句に伯爵を装って夜忍び込むとか、サイテーです。
もっとも、この巻でのダルタニャンは事態を複雑にしてドラマに緊迫感を与えるサブな役回りであって、本筋はラ・フェール伯爵ことアトスと元妻ミレディ-を巡るものと言えるでしょう。
ベネディクト会修道院の尼僧であったシャルロット・バックソンことミレディ-、生来の美貌で知り合った若い僧を誘惑し駆け落ちすることを説き伏せるが、いざ教会の貴金属を盗み出して逃亡という段になって捕まってしまう。2人は牢に入れられるが、ミレディ-は牢番の息子を誘惑してすぐに脱獄、恋人の僧のみ肩に百合の烙印を押される。(刑の執行人は僧の実兄だったため、その後執行人は潜伏していたミレディーを見つけ出し烙印を押す。)
やがて僧も脱獄し、ミレディ-とは兄妹の司祭と偽って別の土地に流れつくが、そこで領主のラ・フェール伯爵=アトスがミレディ-を見初める。
ミレディ-はさっさと僧を捨ててアトスと結婚、伯爵夫人の座に収まる。
地位も名誉も失った挙句捨てられた僧は獄舎に戻り首を吊ってしまう。
伯爵夫人となったミレディ-だが、ある日狩りで落馬し、窒息しそうになった折に衣服を脱がせたアトスに肩の烙印を見られてしまう。
愕然としたアトスは彼女を吊るし首にして自分も全てを捨てて失踪、世間ではラ・フェール伯爵は死亡したものと思われている。
しかし、実は生きていたミレディ-。
その超絶美貌を駆使して、いつの間にイギリスのウィンター男爵と結婚、一人息子も生まれるが、彼女を相続人に指定した3時間後に夫は毒殺される。
その後、美貌と悪魔的なひらめき、行動力を買われてリシュリュー枢機卿の信頼を得、様々な工作活動に携わるが、義兄ウィンター男爵の暗殺(独身の彼がいなくなれば男爵家の財産は全てミレディ-の一人息子へ)とラ・ロシェル攻防戦を巡り新教徒側の最大の擁護者であるバッキンガム公爵暗殺を目的に渡英した際、ダルタニャンからの忠告を受けた義兄に捕らえられる。
ミレディ-は義兄ウィンター男爵の城に幽閉され、公爵の署名を得られ次第植民地に流刑にされることが決定。
悪運もここまでか、と思われるもそこはミレディ-。
石の様に堅い狂信的なピューリタンの見張りの青年フェルトンを前に、自分も実はピューリタンであること(嘘)、かつてバッキンガム公爵に無理矢理辱められ、それを世間に訴えると言うと見せしめに百合の烙印を押されたのだと(嘘)大熱演。
すっかりそれを信じ切ったフェルトンは彼女を殉教の聖女のごとく愛し崇拝するように。
そして、フェルトンは大恩あるウィンター男爵(ミレディ-の義兄)を裏切り、彼女を逃亡用の船に乗せると自分はバッキンガム公爵を暗殺。
たちまち取り押さえられたフェルトンが海上を見やると、彼を裏切り早々にイギリスを離れるミレディ-の船が眼に入るのだった。
フランスへ逃亡したミレディ-は土地勘のあるベチューヌの僧院に身を寄せる。
そしてそこで偶然であったのが、拉致された牢獄から王妃の助力で助け出され匿われていたコンスタンス。
彼女の本性を知らないコンスタンスから、ダルタニャンが連れ出しに来てくれることを聞いたミレディ-は、何から何まで自分の仕事の邪魔をして、かつてワルド伯爵を騙って自分をだました憎いダルタニャンに復讐するためにはコンスタンスはおとりに出来ると踏む。
馬の足音が聞こえダルタニャンらに違いないと判断したミレディ-はコンスタンスを連れて逃げようとするが彼女に躊躇されたため、とっさに毒入りのワインを飲ませる。
飛び込んできたダルタニャンが眼にしたのは瀕死のコンスタンス。呆然としたダルタニャンの腕の中でコンスタンスは息絶える。
ラスト、遂にミレディ-の隠れ家を見つけたダルタニャン、三銃士、ウィンター男爵、首切り役人(ミレディ-が最初に誘惑し自殺した僧の兄)は彼女を捕らえ、私設裁判で死刑を決定、ミレディ-を斬首する。
パリに戻ったダルタニャンはバスティ-ユに入れられることも覚悟するが何と、リシュリュー枢機卿から銃士隊の副隊長に任じられる。
アラミスはナンシーの修道院で僧服をまとい、ポルトスは除隊して資産家の未亡人コクナール夫人と結婚(ラ・ロシェルで戦っている間に夫人の夫が死亡)、アトスは3年ほどダルタニャンの指揮下で銃士隊に留まるもやがて遺産が入り除隊。
三銃士はそれぞれの道を歩み始める一方、宿敵ローシュフォール伯爵とダルタニャンは3度の決闘を通じて友となり小説「三銃士」は終わる。
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第2巻は殆ど「ミレディ-物語」と言って良いような内容。
絶世の美女、恐ろしいほどの野心、邪魔する者はたちどころに消す残忍性、実に濃いキャラクターで三銃士(とくにアラミス、ポルトス)の影も薄まります。
そして魅力はやはりダルタニャンを父親のような優しさで見守るアトス、元妻と対峙する
「この顔に見覚えがおありかね?」
やっぱり渋くて素敵ですねぇ。
最期に再びアトス語録を。
「人に意見を聞いたってその通りにするやつはめったにあるものじゃない。
その通りにするやつがいるとしたら、あとで文句をつけにやってくる気なんだろう。」
「いいかい、ダルタニャン、おれは君が大好きだ。自分の子どもでもこれほど好きになれないかもしれん。」
「泣くがいい、思い切り泣くがいい。君の心は恋と若さと生命に満ち溢れているんだから。俺だって、できるものなら君みたいに泣いてみたいよ。」(コンスタンスを失ったダルタニャンへ)