2024.03.04

「太平洋戦争」を描いた映画や漫画でかならず問題になる「敬礼」と「服装」の「意外な実態」

私はこれまで、30年近くにわたって元日本海軍を中心に、戦争体験者や遺族へのインタビューを重ね、一次資料を蒐集し、あるいは目を通して、何冊かの本を上梓してきた。このことが縁となって、テレビ番組や映画の考証、監修を依頼されることが時々ある。そこで得た知見は次の書籍にフィードバックすることもあるし、『マネー現代』に寄稿する記事にもそんな要素を散りばめているけれど、このへんで「考証的な豆知識」をシリーズで紹介してみたいと思う。

第2回の今回は、制作のとき、必ず問題になる「敬礼」と「服装」についてである。

海軍兵学校66期の卒業式。卒業生が敬礼し、送り出す教官(左)が答礼している
 

陸軍と海軍の「敬礼」

軍人といえば「敬礼」の動作が必須だが、旧日本陸海軍の軍人を描いた映像作品、あるいは漫画でときどきおかしなことになるのが敬礼である。敬礼と言っても、たとえば海軍だけでも「各個の敬礼(室内、室外)」と「艦船の敬礼(軍艦、短艇)」「軍隊の敬礼」「衛兵及び番兵の敬礼」があり、さらに儀式の種類ごとの敬礼や、敬礼をする側と受ける側の立場による規定などがある。さらに敬礼の動作も、「挙手の礼」「室内の敬礼」「捧げ銃(つつ)」、「目迎目送」などいろいろあって総てを解説するとキリがないので、普段見ることが多いドラマや映画で気になる「挙手の礼」と「室内の敬礼」に絞って話をする。

海軍の敬礼の後ろ姿

まず、挙手の礼。右手を挙げて肘を曲げるおなじみの動作だが、その由来は、相手に敬意を表するための脱帽の仕草からきたとか、全身を甲冑で身を包んだ西洋の騎士が戦いを終え君主に謁見するさい、面当てを上げて自分の顔を見せた動作にあるとか、相手に武器を持っていないことを示す動作に由来する、など諸説ある。

昭和19年、汽車に乗り見送り客に敬礼する戦闘機搭乗員・中島大八大尉

広く知られている通り、日本陸軍と海軍では挙手の礼の腕の角度がちがう。大雑把に言えば、「陸軍は真横に近く、海軍は斜め」なのだが、昨今は特に海軍の敬礼について、映画や漫画であまりに大げさなデフォルメが目立つ。脇を締めて肘を体につけ、腕が垂直になるような妙な敬礼がまかり通っているけれど、これはやりすぎだろう。

昭和56年の映画「連合艦隊」(中井貴一のデビュー作)より。海軍を描いた戦後の映画では、このように極端に脇を締めた敬礼がよく見られるが、これはやりすぎだろう。

参考までに、『陸軍敬礼式(「陸軍礼式」)』『海軍礼式令』の規定を比べてみよう。

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