既に2年半に及んでいるウクライナ戦争。ウクライナが大国ロシアと互角以上に戦っている理由は欧米からの軍事的且つ経済的な支援に他ならない。その欧米による支援の多くを占めるのは言うまでもなくアメリカだ。ところがこのほどウクライナにとって衝撃的な調査結果が出た。“ウクライナを支援する予算を承認すべきでない”。これにアメリカ国民の55%が賛成したのだ。民主主義の代表格・アメリカで世論は大きな力を持つ。そして、もしアメリカが手を引いたら・・・。今後のウクライナ支援を読み解いた。

「私が就任したら24時間以内に戦争を辞めさせる」

戦争が始まって以来ウクライナへの支援額の合計は日本円換算で約26兆円。そのうち支援に積極的なイギリスが約1.7兆円。EUが約5.5兆円。日本は約1兆円。どれも小さな数字ではないが、アメリカは桁が違う。約11.2兆円で全体のおよそ3分の1を占めた。
そのアメリカでCNNが出した調査結果。それによると”ウクライナへの支援のための追加資金を承認すべきか”という問いに対し、全体の55%が“すべきではない”とした。民主党支持者でも38%。共和党支持者では実に71%がウクライナ支援に消極的だった。
民主党支持者でも4割弱がいわゆる“支援疲れ”なのか支援に消極的だ。支援に積極的なバイデン大統領も大統領選を来年に控え、世論は無視できないだろう。

支持者の7割以上が、もう支援をしなくてもいいと考えている共和党。その大統領候補支持率トップのトランプ氏は明確に支援反対を打ち出している。更に他の大統領候補も半分は支援に消極的だ。

上智大学 前嶋和弘教授
「(支援に反対する共和党大統領候補の支持率)これを足すと7割を越えます。調査によっては85%を超えるものもあります。トランプ氏が言っているのは『私が就任したら24時間以内にウクライナ戦争は止めさせる』と。どうやってやめさせるのかみんな首を傾けるんですが、支援を止めるんです。つまりウクライナに徹底して不利な妥協をさせるということ…。この調査結果で私自身はこう思います。“潮目が変わった”と…。共和党が(大統領選で)優位になったらウクライナ支援は止める…。かなりの確率でそうなると見えてます」

アメリカの潮目を変えた存在の一人がトランプ氏であることは間違いないだろうが、トランプ氏とまさに2人3脚でウクライナ支援を止めるべきだと訴え続ける人物がいる・・・。

「“なぜ遠く離れた国を支援しなければならないのかわからない“と・・・」

タッカー・カールソン氏。59歳。元FOXニュースの人気番組司会者で“過激な司会者”と呼ばれてきた。現在は自らのSNS番組で陰謀論的な話題やウクライナ支援に否定的なコメントなどを発信している。例えば…。

タッカー・カールソン氏
「なぜ我々はロシアと戦争をしているのか。我々のとる外交政策によって重大な悪影響がもたらされている。経済の崩壊はもちろん、人類が絶滅する可能性すらある。多くに罪のない若者たちが殺され何千億ドルのも金が浪費された…」(SNS番組より)

またゼレンスキー大統領について、“彼は汗っかきでネズミのよう”“キリスト教の迫害者だ”など罵詈雑言を繰り返している。
カールソン氏についてアメリカで政治学を教えるピットニー教授は言う。

クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授
「政治的右派がロシアをキリスト教の庇護者としてみている。彼らはプーチンの威勢の良さや男らしさの誇示などを称賛している。つまりプーチンには一定の指示があるのでタッカー・カールソンはその支持を代弁しているのです」

政治的右派の代弁者という立場をとるタッカー・カールソン氏は、大統領選では当然トランプ氏を支持する。トランプ氏もタッカー・カールソン氏の番組に度々出演してきた。先日も共和党候補者討論会を欠席したトランプ氏は、タッカー・カールトン氏のSNS番組に出演し、持論を語っている。

トランプ前大統領(SNS番組より)
「恐ろしい恐ろしい戦争から国民を救出するのがバイデンの仕事だ。それは容易にできる…。そもそも戦争を始めさてはならなかった。私が大統領だったら絶対に始まっていない…」

因みにこのインタビューは再生回数2億6千万回以上にのぼった。トランプ氏とタッカー・カールソン氏、どちらも一定の支持層に熱狂的人気を誇る。

クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授
「(タッカー・カールソンは)トランプ氏の政策を明確に表現している。トランプ氏は24時間以内に戦争を終わらせられると主張しますが、それを信じる人は殆どいません。しかし、“ウクライナは我々には関係ない”と考えている共和党支持者にとっては響くメッセージです。彼らはロシアやプーチンの支持者ではないかもしれないが、“なぜ遠く離れた国を支援しなければならないのかわからない“と考えているからです」

確かにインフレで生活が苦しい人々にしてみれば、“他国を助ける前に自国民を何とかしてくれ”と考えるだろう。しかし、世の趨勢から思っても口に出せなかった…。タッカー・カールソン氏はそれを代弁したのだろうとピットニー教授は言う。

クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授
「タッカー・カールソンは公然とロシアを応援していたし、公然とロシアの味方だと言った。そして、冷戦時代とは違い現在アメリカの政治的右派にはロシアを支持する人がかなり多くいます。(中略)トランプやタッカー・カールトンは共和党の暗部に訴えています。共和党の政治に携わったことのある私くらいの年の人間なら“移民に対する憤り”“非白人に対する憤り”貿易保護主義や孤立主義の系統が常に根底にあったことを知っています」

しかし、タッカー・カールソン氏に限っていえば現在の言動が“信条”というわけではないと前嶋教授は分析する。

上智大学 前嶋和弘教授
「この人の経歴見ると不思議なんです。最初はCNN。次にMSNBCという今、左寄りの…。それからFOXニュース…。そもそもこの人は政治的にどこに行ったらいいかを見ていて、“私たちは報道じゃない。意味を伝えることだ”と言ってる。だから今はトランプについてるのが一番いいんだって考えてる。(だから今は2人3脚で)トランス氏が板門店に行って金正恩と会った時、タッカー・カールトン一緒にいたんですよ。トランプ氏がタッカー氏に行くべきか聞いて、絶対に行くべきって言われたんで行ったんですよ。彼に言われて…」

トランプ氏とタッカー・カールソン氏のタッグが生み出したアメリカ国民の潮目の変わり様は、簡単には元に戻らないようだ。

ロシア的な法を一切無視した行動を・・・、アメリカの民主主義が結果的に認めてしまう

上智大学 前嶋和弘教授
「アメリカって世論の国でありますが、気が短い国で…。勝ち馬に乗ってないといけないんです。戦争は勝っている国を応援する。判官びいきで負けてる方に頑張れって言うんじゃなくって、負けてたら“そんなところにアメリカのお金使ってどうするの”ってなる…」

反転攻勢が膠着状態であることもアメリカの支援離れの風潮を後押ししているという。このままだと、共和党政権になる前に支援の先細りは十分に考えられるが、番組のニュース解説、堤氏は懸念を語った。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏
「万が一アメリカが支援を減らす、あるいはやめるとなった場合、ヨーロッパだけでは支えきれない。結果的に非常に不利な停戦案を受け入れなきゃならない。極端な場合、敗戦…。そうなった時、ロシア的な法を一切無視した行動が是認され、それを支持した北朝鮮、あるいは支援してきた中国、そういうところが結果的に勝利に終わってしまう。せっかく冷戦が終結して、これから冷戦終結後の恩恵を世界が受けるという時から30年余りで全く違う世界なってしまう。残念ながらそれを世界一の軍事力経済力を持ったアメリカの民主主義が結果的に認めてしまう。それを考えると、背筋が寒くなった…」

(BS-TBS 『報道1930』 9月4日放送より)