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最終章【正義の味方 雨森悠人】
11-15『大怪獣』

 ――天能臨界。

 あの日以来、一度も使ってこなかった力。

 使おうとするたびに、殺した相手のことが過って。

 拒絶反応のあまり、発動すらできなかったモノ。


 胃の奥底から吐き気が上がる。

 鉛のように全身が重くなり。

 血で染まった過去が脳内を巡る。

 控えめに言って、最低な気分。


 それを、覚悟一つでねじ伏せて、無理を通す。



星の恩恵(スターズ)



 それこそが、志善悠人に与えられた唯一の武器。

 その武器は、いつだって何かを守るために在るわけじゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()


 腕を振るう。

 床のタイルを突き破り、無数の岩が周囲を飲み込む。

 まるで濁流のように。

 固体である岩石が、質量にモノを言わせて蹂躙する。


「……こっから先は、一切の手加減抜きだ」


 利用されている死体を極力傷つけたくはない。

 彼らだって被害者に過ぎない。

 殺す相手は――傷つける相手は、八雲選人だけで十分。

 ……今この瞬間までは、そう思っていた。


 けれど、そういった余計に気を割いて、最終的にこの男すら殺すことが出来なかったら? 殺された人たちの無念すら晴らしてやれなかったら?

 そう考えた時、僕はきっと『また』後悔するだろう。


【その時になって、後悔しないだけの力が欲しい】


 そう願って、駆けたこの数年。

 無駄だったとは言わせない。

 この考えが間違いだったとは言わせない。

 僕は、絶対に後悔しない道を選ぶ。

 たとえ、その道程が忌み嫌われるものだったとしても――。


()()()()()()()()()()()、八雲選人」


 甘ったれた思考。

 過去の自分に戻りかけている精神性を【雨森悠人】へと切り替える。

 白髪の老人を睨めば、男は取り繕った笑顔を剥がし、凶悪な貌を見せた。


「はっ、やってみろよ大怪獣。悪ィが、お前を殺す準備は完璧だ」


 奴の声と同時に、土石流を押しのけて無数の死体が僕へと集る。

 それらの実力は……高く見積もっても加護の最底辺程度。

 正直、いくら集まったところで『天能臨界』を使った僕の足元にも及ばない。

 だが、数が集まるというのはそれだけで強烈な暴力だ。

 倒す労力も無料(タダ)ではない。

 天能臨界とて、いつまでも発動できるわけではない。

 過去……まだ偽善を受け取る前ならばいざ知らず。

 今の僕は、体に負担をかければかけるほど死に近づいていく。


 言ってしまえば、僕の一番の敵は【時間】なのだ。


 そういう意味で、八雲選人の作戦は実に見事という他ない。

 幾年ねむるの異能を使って、僕の天能臨界を夢の中で引出し、確認。正体の特定に至る。

 それと同時に強制睡眠による時間稼ぎ。

 目が醒めると同時に、星奈蕾を使って翼を、精神を削り。

 仇敵を前にして、親友に裏切られ、一撃を受けた。

 ここまで徹底して【真正面から戦わない】とは、これが八雲選人の策でさえなければ手放しでほめていただろう。


 けれど、落ち度が一つだけ。


「……随分と、僕を低く見積もったな」


 指を鳴らす。

 僕の隣に産み落とされたのは、引力の黒珠。

 かつて見たそれに八雲の頬が大きく引き攣る。

 咄嗟に奴は死体どもを下がらせようとしたようだが――あまりに遅い。



「――指向性限定、()()()()星の終焉(エンドロール)】」



 可能な限り威力を弱め、今にも消えそうなほどに小さく生み出した、終焉(おわり)

 指向を限定し、放つ重力は『引張』に設定。

 当然、同格を殺せるような殺傷能力は無い。

 だが、雑魚相手であればこれで十分だろう?


「潰れろ」


 拳を握る。

 と同時に、エントランスホールに居たすべての死体が吸引される。

 ただ一点、拳ほどの球体へ。

 何十倍、何百倍、何千倍といった圧力で潰される。

 当然、巻き込んだのは死体だけではない。

 僕が生み出した土石流。

 割れた窓ガラス。

 受付のカウンター。

 照明も、一切合切。

 全てを飲み込み、ゴトリと床に落ちる。


 床に埋まったソレを見下ろし、前を向く。


「……相……っ変わらず、大怪獣(バケモノ)かテメェは」


 絞り出すように、八雲が呟く。

 一瞬で配下全てを消されたことにショックでも受けている様子。

 けど、それはお前の想定が甘かっただけの話だ。


「学ばなかったのか? 天能臨界発動時に限り――志善悠人は最強だ」


 雨森悠人のままでも、きっとお前には勝てるだろう。

 けれど、決定的、絶対的なまでの確証はない。

 だから、雨森悠人であることは、この局面に至って捨てることにした。


 なりふり構わず、お前を殺すことにした。


 精神性はそのままに。

 暴力性は、あの頃のままで。

 ただ殺す。

 目的のため、邪魔だから殺す。


 お前を殺す。


「……あの夜、痛いほど身に染みたと思っていたんだがな」


 お前を殺し、父を殺し。

 兄をも殺した、あの日。

 お前は、僕に逆らったら殺されると知ったはずだ。


 ……仮に、この程度で僕の時間を削り切れると思っているのなら、お前はよほどの馬鹿か間抜けになるわけだけど――残念ながら、僕がお前に向ける評価はそうではない。


 お前はどこにでもいるような小悪党で。

 性根の底から腐り果てたクソ野郎で。

 そのくせ、ちょっとしたことに過剰に怯える小心者で。

 だからこそ、自分が勝つためには一切の手抜きをしない男だ。


 ――そんな野郎が、この程度で終わるわけがない。


 そう確信すると同時に、背後から足音が聞こえた。

 怒りに任せて大地を駆ける音。

 僕は振り返りつつも手刀を振るうと、烏丸の持っていた刀を受け止める。

 表皮をわずかに刀が切り裂く。

 されど、僕の骨を断つことは出来ずに停止した。


「遠回しに告げたはずだったんだけどな……お前じゃ相手にならないって」


 失せろ、と僕は一度警告したはずだ。

 その上で、烏丸冬至は僕に挑む道を選んだ。

 ……そういうこと、だと受け取っていいんだな?

 僕が目を細めたのを見て、烏丸は大きく飛び退る。

 全身から滝のような冷や汗を流し、僕を睨んだ。


 ――烏丸冬至。

 かつての友人。

 僕がこの学校で気を許した数少ない親友。

 そして、世界中の誰よりも僕を恨んでいる男。


 おそらくは、八雲選人が選んだ『雨森悠人を殺す武器』こそが彼なのだろう。

 否定しようがない憎悪、正当なる悪意。

 それら『真っ当』を突きつけることで僕の意志をわずかに揺らし。

 少しでも僕と言う人間を削り、満を持して八雲選人が戦場へ出る。

 つまり、烏丸は僕を削るためだけの前座。

 あの野郎の言葉を借りるならば――【駒】ってところ。


「お前のことは殺したくない。だから――と、手を抜き力を抜き牙を丸めて、説得のために戦うとなると……相応の時が要る。悪いな烏丸、はっきりと言おう。()()()()()()()()()()()()()()()()

「く……っそ!」


 その瞳には焦りが見えた。

 お前は正しい、その怒りは間違っちゃいない。

 今この場において、お前が正義で僕が悪だ。

 ……だからって、殺されないと思ったか?


 昔なじみの志善悠人であれば躊躇うとでも?



 そう思ってたなら、お前に贈るのは失望だけだ。



 右手を伸ばす。


 その手に生まれ落ちたのは、一振の刀。


 空の器。

 滾る炎。

 纏う氷。

 迸る雷。

 個々が並の概念使いと同等の火力。

 おおよそ人を殺すには余りある力の集合体。


 それは名も無き刀。

 かつて兄を殺そうとし。

 星を砕く流星によって砕かれたモノ。


 ……当時に比べれば、出力は低下している。

 この体調だ、あの時の6~7割がいい所だろう。


 けれど。



「……は」



 烏丸の口から、呆然とした声が出た。

 鮮血が吹き上がったのは、それとほぼ同時のこと。


 彼の視線が、己が右腕へと向く。


 そして、自分の腕が()()()()()()()と理解するまで、数秒掛かった様子だった。


「が、あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああ!?」

「憎むべき敵の同情を誘う。……呆れたよ烏丸、いくら何でもそれは『ナシ』だろ」


 力を隠し、憎悪を隠し。

 ひたすら隙を狙うなら策としては『アリ』だ。

 けど、いくらなんでもそりゃ無いだろ。

 ありえないよ、大前提として論外だ。


 自分の憎悪の終着点を、その敵に預けるだなんて。


「……お前は、相手にする価値も無い」


 憎ければ、復讐を成功させる確率を高めるべきだ。

 それをお前は怠った。

 相手の同情を誘い、ただの憶測で物事を測り。

 お前ならきっと大丈夫だろう……だなんて。

 犬の餌にもならない『仮定』を元にこの場に立った。


 ……馬鹿にするのも大概にしろよ。


 僕の覚悟に泥を塗るな。

 その程度の意思で僕の前に立つな。

 憎悪と呼ぶにはお前のソレは(ぬる)過ぎる。


 悪の分際で言わせてもらうよ、正義。



「殺される覚悟も無く死地に立つな。それは、覚悟を決めた者たち全てへの最低最悪の侮辱だ」



 そう吐き捨てて、視線を外す。


 もう、烏丸冬至には興味も失せた。

 この程度の『半端』が切り札なら、八雲の底も見えた。烏丸をきっかけに僕を崩そうと画策しているのなら低能にも程がある。

 それならば、先程の屍兵を際限なくぶつけられていた方が体力、精神的にも削られていたはずだ。


 そう考え、八雲へと歩き出した。


 ーーその、直後。



「……聞こえなかった、訳では無いだろう」



 背後で、立ち上がる気配があって歩みを止める。

 怒気を隠さず、振り返る。

 ……その場に、男は立っていた。

 脂汗を全身から滲ませながら。

 切り飛ばされた腕を押さえながら。

 それでも、一切揺らぐことない闘志を掲げ、僕の目の前に立っていた。


 切断された腕は、蒸気をあげて修復が進んでいる。

 その修復速度は目を見張るほど。

 下手をすれば、点在教諭の時間遡行と同等だろう。


 異能名【虚ろの王】……というのは、最早信じない方がいいだろうな。この男の能力は、王という括りにおいてはあまりにも強力すぎる。

 前々から、烏丸冬至は何らかの理由で本当の異能を隠している『加護以上の異能保有者』だとは考えていた。


 だが、まさか概念使いーー。


 僅かに過ぎった嫌な憶測。

 だが、内通者として忍ばされていた星奈蕾が【加護】しか与えられていなかったのを見るに、おそらく【概念使い】級の異能を押し付けると人間性に何らかの支障が出るのだろう。それも、内通者として無視できないほど大きなモノが。

 だからこそ、内通者として存在していたからには彼の異能も程度が知れる。


 ……そう、思っていた。


「思った通りの異能になる異能。……聞いた時から、随分と【善】に似た能力だとは思っていたが」


 思えば、僕の【偽善】だって第四位だ。

 イレギュラーの結晶とはいえ、第四位。

 概念使いとは程遠い。


 ……であれば、有り得ない話では無いだろう。


「人工的に生み出した【善】の模造品」


 不可能、とは断言できない。

 だって、この男はその『オリジナルの亡骸』を保有しているのだから。彼の肉体を解体し、検分し、研究し、解明するだけの時間は腐るほどあった。

 その果てに、たとえ『亡骸』が原型を留めることが出来なくなったとしてもーーこの男にとっては何の問題もない話だ。



「偽善……とは、呼べないな。善を模倣した虚ろな権能。強いて言えば【虚神(ウツロガミ)の加護】と言ったところか」



 ……お前が悪い訳では無い。

 ただ、お前にその能力を植え付けた男の趣味が悪いと言うだけの話。……だが、それでもだよ、烏丸。

 お前、全部知ってるはずだよな。

 僕がどんな気持ちでこの場に立っているのか。

 僕の目的も、この憎悪も。

 この学園生活で、お前はきっと察しているはずだ。



 その上で、()()()()()()()()使()()()()()()




「不快、絶頂。余程殺されたいと見える」




 あぁ、わかったよ。

 もう、お前のことは友とは見ない。


 お前はただの、障害だ。


 邪魔をするなら、この場で殺す。

 正義だとか悪だとか。

 もう関係ないよ。


 お前が正義だから。

 可能なら、生かしておきたいと思ったけれど。


 もういい、殺す。



「さようなら、友よ」



 思う存分、僕を恨め。


 お前には、その資格がある。


 ただ、この場に立つ資格が無かっただけだ。

時間は少し遡り。

橘月姫の覚醒と、ほぼ同時刻。

戦闘音を聞きつけ、校庭を駆ける朝比奈。

彼女の前に、有り得ない人物が立ち塞がる。



次回【八咫烏】



役者は間もなく揃い踏み。

足りてないのは、たった一人の絶望だけ。

あぁ、そうさ。

この物語には……【大怪獣を殺す毒】だけが足りてない。

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