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来週あたり、第3巻の表紙発表出来ればします。

お楽しみに。

最終章【正義の味方 雨森悠人】
11-12『橘月姫に遺されたモノ②』

 とりあえず、勝つ。

 そうは言ったものの、相手の実力は相当でしょう。

 私は少し、勝ち方について思考を巡らす。


 私の異能【幻】は、否定の力だ。

 目の前に存在する事象を、否定する。

 そうして幻と仮定してしまえば、私の力はその現実を()()()()()()にしてしまう。

 攻撃も防御も、相手の全ての抵抗を無に帰して。

 なんの努力もなく勝利を収める。

 それが私の戦い方。

 この【幻】の最善な勝利方法。


 だから、物を創るというのは応用的な力の使い方です。

 雨森さまとの戦いで幾度も使った槍だとか。

 ああいった武器や現象を現実に反映させるのは、本来の使い方ではありません。

 現実を否定するのが私の異能であるが故、()()()()()()()()()()()()()()()()()ことで、力技で『その場に在る』ことを強要する。


 ただ、この使い方は思いのほか便利でして。

 戦いにおいて、攻撃手段として私はこの否定を多用していました。

 なんせ、あの雨森悠人の肉体すら貫く槍を、いとも簡単に創造できるのですから。

 だから、やめられなかった。

 いくら強引な使い方だと分かっていても。

 この使い方では、本来の出力を出せないと知っていても。

 便利だから、有用だから、と。

 なかなか手放せないでいたのです。


「に、げろ……っ!」


 蚊の鳴くような悲鳴が聞こえて、現実を見る。

 その瞬間、無数の【雨森恋の斬撃】が私の全身を切り刻む。

 さすがにこれは死ぬ気がしたので、指を振って現実を否定。

 その瞬間、全ての傷がその場で消失。

 ……いいや、斬られた事実を無かったことにしました。


「……なるほど」


 先ほど斬られた場所を指でなぞる。

 王聖克也の無敵状態を打ち破り。

 橘の肉体を、こうもあっさりと細切れにする。

 ……たとえ雨森恋のオリジナルには劣っていようと、私にとっては五十歩百歩。どちらも即死の攻撃である以上、劣る優るでこれ以上の思考は要らないでしょう。

 ただ、この人物の【再現】が尋常ではない。

 それだけ理解していれば、あとは不要です。


「本来であれば、再現勝負と行きたいところ……ですが」


 どれだけ劣勢でも、工夫と機転次第では勝ち目だってあるかもしれない。多少泥試合にはなるでしょうが、やってみるだけの価値はあります。

 ……ただ、その少年の暴走状態を見て。

 私は考えていた道筋を破棄。

 少しガッカリしながら、考えを改めます。


「……それでは間に合いませんね」


 再現だけで戦えば、私は苦戦します。

 そうなれば私はさらに成長できるはずですが……その代わり、私の自己満足に付き合わせた結果、この少年は耐えきれずに死ぬのでしょう。

 まぁ、見ず知らずの少年を是か非でも助けたい、と宣うほど『正義の味方』はしてない私ですが……。



『いいから助けろよ、可哀想だろ』



 ふと、袖を引かれた気がした。

 クソ生意気な年下の声が頭を過ぎる。

 驚いて背後を振り返りますが、そこに少年の姿は無い。

 私は少し固まってしまいましたが……やがて、苦笑しながら前に向き直る。


 私が初めて得た友人。

 天才とは正反対に位置する凡人であり。

 そのくせ、私の隣に居続けた少年。

 どれだけ私に劣ろうと。

 どれだけ敗北を喫しようと。

 幾度と折れても立ち上がり。

 不屈の意思だけで、私の隣にいた少年。


 そして私が、ずっと昔に失ったヒト。


 忘れたかった。

 でも、忘れられなかった。

 あの時間が、楽しかったから。

 あの親友のことが、忘れられなかった。


「死者に手を引かれること。それは、生者にとっては足枷であり、死者が遺した呪いでもある」


 きっと、()()()は呪われている。

 こうして此岸を歩きながら。

 今も、彼岸へと渡った者達を探している。

 頭に彼らの姿を思い浮かべて。

 既に失ったモノの背を追っている。


 私も。

 兄も。

 雨森さまも。


 そしてきっと、貴方もでしょう、小賀元はじめ。


 ……入学当初。

 私は、雨森さまに『少年』の姿を重ねていました。

 ぜんぜん、その在り方は違うというのに。

 別人かもしれないというのに。

 最初、私は彼が『少年』かもしれないから、接触を図りました。まぁ、口が裂けても本人には言えない失礼なこと、ですけどね。


 正直、今でも彼の正体には確信が持てません。


 けれど、貴方は違うのでしょうね。

 小賀元はじめ。

 なんでも生み出せる、というのであれば。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「…………」


 しばしの思考の後。

 私は、この少年を救う理由を定めます。

 亡霊に手を引かれたから……なんて。

 そんな理由で動くのは癪です。不快です。

 あんなクソガキに言われて動くだなんて、私のプライドが許せません。だから、私が決めました。



 ーー必ず救い、雨森悠人の正体を吐かせる。



 彼……雨森悠人の正体。

 天守優人と言うのであれば、私との戦いで一度も【銃】を使わなかったという屈辱(舐めプ)、今度関節技に恨みを乗せて返してあげるとしましょう。

 あの少年だというのであれば、私に生きていることを言わなかった罪、そしてクソガキの分際で私に勝った罪で関節技です。

 まぁ、どっちにしろムカつくので、一度関節技で痛めつける決定には変わりないのですが。


 そろそろ、私も知っていいでしょう?


「……認めましょう、再現においで、貴方は私より強い」


 小賀元はじめ。

 あなたの強さを認めます。

 私では、ここまでの完成度で雨森恋の斬撃をコピーすることはできません。

 この先、年を重ねて技量を高め、それでもこの境地に達することはできないでしょう。

 純粋な異能の向き不向き……と言えば簡単なのでしょうが、いずれにせよ、再現において私は貴方に勝てません。


 なので、本気でお相手することにしましょう。



「突然ですが、ありがとうございます」



 私は彼に感謝を伝える。

 本当に、貴方には助けられました。

 ありがとう、()()()()()()()()()()()


「おかげで、余計なプライドは捨てられました」


 そして、指を鳴らす。

 たった一度きりの、異能の行使。

 私は生まれて初めてーー私で私を否定する。



「『橘月姫の再現能力を無かったことに』」



 不可逆の否定展開。

 その瞬間、私の【幻】は再現能力を失いました。

 まるで、最初からそんなものはなかったかのように。

 使い方を忘れてしまったように。

 完膚なきまでに【無かったこと】に塗り変えられる。


「元々、いつかは捨ててばならなかったことです。否定する力で無理やりに再現をしていれば、いつかその使い方には限界が来る。……その面、私の限界が貴方で本当に良かった。貴方の異能が相手であれば、私は憂いなく私の敗北を認められる」


 再現と否定。

 中途半端な二刀では、極めた一には敵わない。

 片方を捨て、片方を選ばなければ。

 私はこの才能を使い潰し、彼の背を眺めるだけの存在になっていたでしょう。


 でも、それは今日で止めることにしました。


 再現では、貴方には勝てなさそうだから。


 私は否定で、貴方を倒すことにしました。



『月姫。いいかい、この【奥義】は誰にも伝えちゃいけないよ』



 ふと、いつかの声を思い出す。

 始まりは、橘一成と天守周旋の戦い。

 最後の最後で、父が見せた理解不能の技の極地。

 盾という天能から繰り出された、確殺の一撃。

 あれについて、かつての私は父へと聞いた。


 当初、父は頑なに教えようとはしなかった。

 なにせ、あの技は橘一成のオリジナル。

 彼が最強になるために生み出した技術。

 橘の歴史において、彼以外に使い手の現れなかった秘奥。


 当然、悪用すれば人の歴史すら崩壊するし。

 それ以前に、私の技術では再現など不可能。

 そもそも能力が違う以上、同じ力は使えない。


 今なら分かりますが。

 父の生み出した技術は、天守の【天能臨界】に対を成すモノだったのでしょう。


 その扱いは難しく。

 入学以前……いいえ、入学以降も私では展開するだけでも難しく、マトモに実践で使えるようなものではありませんでした。


 だからこそ、父も折れて教えてくれたのでしょう。


 使えるわけが無い。


 少なくとも、あと10年は難しいだろう、と。


 天才、橘一成がそう判断した。



 ーーですが。



「今の私なら、問題ないでしょう」



 根拠なんてありません。

 ただ、出来るような気がした。

 それだけの、ふわっとした動機で。



 私は新たな扉に、手を掛ける。




「【()()()()】」




 これより成すは、神のみわざ。

 我らが遠き祖先が使いし、技の一端。

 天能の域では行使は出来ず。


 故にこそ。


 この一時のみ、我が天能ぶち壊して。


 その神技を此岸へと降ろして見せましょう。




「【私は全てを否定する(リフューザル)】」




 そして、私の世界は一変する。


次回【私は全てを否定する】

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