来週あたり、第3巻の表紙発表出来ればします。
お楽しみに。
とりあえず、勝つ。
そうは言ったものの、相手の実力は相当でしょう。
私は少し、勝ち方について思考を巡らす。
私の異能【幻】は、否定の力だ。
目の前に存在する事象を、否定する。
そうして幻と仮定してしまえば、私の力はその現実を
攻撃も防御も、相手の全ての抵抗を無に帰して。
なんの努力もなく勝利を収める。
それが私の戦い方。
この【幻】の最善な勝利方法。
だから、物を創るというのは応用的な力の使い方です。
雨森さまとの戦いで幾度も使った槍だとか。
ああいった武器や現象を現実に反映させるのは、本来の使い方ではありません。
現実を否定するのが私の異能であるが故、
ただ、この使い方は思いのほか便利でして。
戦いにおいて、攻撃手段として私はこの否定を多用していました。
なんせ、あの雨森悠人の肉体すら貫く槍を、いとも簡単に創造できるのですから。
だから、やめられなかった。
いくら強引な使い方だと分かっていても。
この使い方では、本来の出力を出せないと知っていても。
便利だから、有用だから、と。
なかなか手放せないでいたのです。
「に、げろ……っ!」
蚊の鳴くような悲鳴が聞こえて、現実を見る。
その瞬間、無数の【雨森恋の斬撃】が私の全身を切り刻む。
さすがにこれは死ぬ気がしたので、指を振って現実を否定。
その瞬間、全ての傷がその場で消失。
……いいや、斬られた事実を無かったことにしました。
「……なるほど」
先ほど斬られた場所を指でなぞる。
王聖克也の無敵状態を打ち破り。
橘の肉体を、こうもあっさりと細切れにする。
……たとえ雨森恋のオリジナルには劣っていようと、私にとっては五十歩百歩。どちらも即死の攻撃である以上、劣る優るでこれ以上の思考は要らないでしょう。
ただ、この人物の【再現】が尋常ではない。
それだけ理解していれば、あとは不要です。
「本来であれば、再現勝負と行きたいところ……ですが」
どれだけ劣勢でも、工夫と機転次第では勝ち目だってあるかもしれない。多少泥試合にはなるでしょうが、やってみるだけの価値はあります。
……ただ、その少年の暴走状態を見て。
私は考えていた道筋を破棄。
少しガッカリしながら、考えを改めます。
「……それでは間に合いませんね」
再現だけで戦えば、私は苦戦します。
そうなれば私はさらに成長できるはずですが……その代わり、私の自己満足に付き合わせた結果、この少年は耐えきれずに死ぬのでしょう。
まぁ、見ず知らずの少年を是か非でも助けたい、と宣うほど『正義の味方』はしてない私ですが……。
『いいから助けろよ、可哀想だろ』
ふと、袖を引かれた気がした。
クソ生意気な年下の声が頭を過ぎる。
驚いて背後を振り返りますが、そこに少年の姿は無い。
私は少し固まってしまいましたが……やがて、苦笑しながら前に向き直る。
私が初めて得た友人。
天才とは正反対に位置する凡人であり。
そのくせ、私の隣に居続けた少年。
どれだけ私に劣ろうと。
どれだけ敗北を喫しようと。
幾度と折れても立ち上がり。
不屈の意思だけで、私の隣にいた少年。
そして私が、ずっと昔に失ったヒト。
忘れたかった。
でも、忘れられなかった。
あの時間が、楽しかったから。
あの親友のことが、忘れられなかった。
「死者に手を引かれること。それは、生者にとっては足枷であり、死者が遺した呪いでもある」
きっと、
こうして此岸を歩きながら。
今も、彼岸へと渡った者達を探している。
頭に彼らの姿を思い浮かべて。
既に失ったモノの背を追っている。
私も。
兄も。
雨森さまも。
そしてきっと、貴方もでしょう、小賀元はじめ。
……入学当初。
私は、雨森さまに『少年』の姿を重ねていました。
ぜんぜん、その在り方は違うというのに。
別人かもしれないというのに。
最初、私は彼が『少年』かもしれないから、接触を図りました。まぁ、口が裂けても本人には言えない失礼なこと、ですけどね。
正直、今でも彼の正体には確信が持てません。
けれど、貴方は違うのでしょうね。
小賀元はじめ。
なんでも生み出せる、というのであれば。
「…………」
しばしの思考の後。
私は、この少年を救う理由を定めます。
亡霊に手を引かれたから……なんて。
そんな理由で動くのは癪です。不快です。
あんなクソガキに言われて動くだなんて、私のプライドが許せません。だから、私が決めました。
ーー必ず救い、雨森悠人の正体を吐かせる。
彼……雨森悠人の正体。
天守優人と言うのであれば、私との戦いで一度も【銃】を使わなかったという
あの少年だというのであれば、私に生きていることを言わなかった罪、そしてクソガキの分際で私に勝った罪で関節技です。
まぁ、どっちにしろムカつくので、一度関節技で痛めつける決定には変わりないのですが。
そろそろ、私も知っていいでしょう?
「……認めましょう、再現においで、貴方は私より強い」
小賀元はじめ。
あなたの強さを認めます。
私では、ここまでの完成度で雨森恋の斬撃をコピーすることはできません。
この先、年を重ねて技量を高め、それでもこの境地に達することはできないでしょう。
純粋な異能の向き不向き……と言えば簡単なのでしょうが、いずれにせよ、再現において私は貴方に勝てません。
なので、本気でお相手することにしましょう。
「突然ですが、ありがとうございます」
私は彼に感謝を伝える。
本当に、貴方には助けられました。
ありがとう、
「おかげで、余計なプライドは捨てられました」
そして、指を鳴らす。
たった一度きりの、異能の行使。
私は生まれて初めてーー私で私を否定する。
「『橘月姫の再現能力を無かったことに』」
不可逆の否定展開。
その瞬間、私の【幻】は再現能力を失いました。
まるで、最初からそんなものはなかったかのように。
使い方を忘れてしまったように。
完膚なきまでに【無かったこと】に塗り変えられる。
「元々、いつかは捨ててばならなかったことです。否定する力で無理やりに再現をしていれば、いつかその使い方には限界が来る。……その面、私の限界が貴方で本当に良かった。貴方の異能が相手であれば、私は憂いなく私の敗北を認められる」
再現と否定。
中途半端な二刀では、極めた一には敵わない。
片方を捨て、片方を選ばなければ。
私はこの才能を使い潰し、彼の背を眺めるだけの存在になっていたでしょう。
でも、それは今日で止めることにしました。
再現では、貴方には勝てなさそうだから。
私は否定で、貴方を倒すことにしました。
『月姫。いいかい、この【奥義】は誰にも伝えちゃいけないよ』
ふと、いつかの声を思い出す。
始まりは、橘一成と天守周旋の戦い。
最後の最後で、父が見せた理解不能の技の極地。
盾という天能から繰り出された、確殺の一撃。
あれについて、かつての私は父へと聞いた。
当初、父は頑なに教えようとはしなかった。
なにせ、あの技は橘一成のオリジナル。
彼が最強になるために生み出した技術。
橘の歴史において、彼以外に使い手の現れなかった秘奥。
当然、悪用すれば人の歴史すら崩壊するし。
それ以前に、私の技術では再現など不可能。
そもそも能力が違う以上、同じ力は使えない。
今なら分かりますが。
父の生み出した技術は、天守の【天能臨界】に対を成すモノだったのでしょう。
その扱いは難しく。
入学以前……いいえ、入学以降も私では展開するだけでも難しく、マトモに実践で使えるようなものではありませんでした。
だからこそ、父も折れて教えてくれたのでしょう。
使えるわけが無い。
少なくとも、あと10年は難しいだろう、と。
天才、橘一成がそう判断した。
ーーですが。
「今の私なら、問題ないでしょう」
根拠なんてありません。
ただ、出来るような気がした。
それだけの、ふわっとした動機で。
私は新たな扉に、手を掛ける。
「【
これより成すは、神のみわざ。
我らが遠き祖先が使いし、技の一端。
天能の域では行使は出来ず。
故にこそ。
この一時のみ、我が天能ぶち壊して。
その神技を此岸へと降ろして見せましょう。
「【
そして、私の世界は一変する。
次回【私は全てを否定する】
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