【注意!】
第10章(雨森悠人は夢を見る/正義の味方 天守弥人)の総集編です。
過去編が重すぎて途中で断念してしまった方、色々と情報を整理したい方など、状況に応じてご利用ください。
ある日、天守弥人は一人の少年を拾った。
その少年の名前は『志善悠人』。
劣悪な家庭で育ち、愛を知らず幸も不幸も感じたことのない、哀れな少年だった。
彼は天守家へと引き取られ、天守周旋、天守優人、雨森恋の三名と出会う。
しかし、家族全員が彼を歓迎したわけではなかった。
真っ先に周旋によって引き取りを拒絶された志善。しかし、周旋が死んだ妻を蘇生するために異能の開発を行っている現場を目撃してしまう。そこでは自分と歳の変わらない小さな子供たちの姿があり、彼らで人体実験を行っているのだと天守優人から知らされる。
その子供たちの中には、烏丸冬至、幾年ねむる、等の名前もあった。
周旋の下には複数の研究者が付き従っており、八雲、と呼ばれる所長と、海老原、と呼ばれる副所長が主となって実験を進めていた。
志善悠人は、実験体の子供たちを救うことに自らの価値を見出し、自ら実験体へと名乗りを上げる。
「自分が実験体として有益な間は彼らへの実験を止めて欲しい」
弥人の後押しもあり、周旋もその条件を受け入れる。
結果として、志善悠人は実験の被験者としてその家に居候することとなった。
持ち前の頑丈さと、弥人の能力『善』による治療により、被験者でありながらその実験に耐え続けた志善は、いつしか天守と同種の能力を獲得していく。
彼が目覚めた能力の名は『自然の加護』。
自然界に存在する全てを操る能力だった。
言葉にすれば強力だが、天守家の面々と比べれば出力は大幅に劣っていた。
志善は火力に頼らない戦い方を探す一方、そんな志善を横目に天守優人も苦悩していた。
天守悠人の能力は『銃』。
世界中の重火器を司る能力。
拳銃からミサイルまで、あらゆる力を使役できる強力な能力。
ただし、人を殺すための武器で神は殺せない。
圧倒的な火力不足という面で、天守優人は『天守失格』の烙印を押されていた。
そんなある日、ライバルでもある橘家との試合が行われる。
天守家から参加するのは、周旋、弥人、恋の三名。
対する橘家からは、当主である一成、克也、そして月姫の三名が参加した。
第一試合、恋と月姫の戦いは月姫の勝利。
第二試合、弥人と克也の戦いは、完全な互角。
最後まで勝負が着かずに終わってしまう。
そして最終試合。
史上、最も殺すことに特化した能力――『毒』を保有する周旋。
対するは史上最強の男。史上最も守りに長けた『盾』を有する一成。
二人の戦いは、圧倒的一成の優勢で進んでいったが、一成は期せずして周旋の逆鱗に触れてしまう。
その結果発動したのが、天守の秘伝である【天能臨界】。
完全に発動させてしまえば、間違いなく殺される。
そう察した一成は全力で周旋を攻撃し――その結果、周旋は命を落としてしまう。
しかし、その場に居合わせた研究者、海老原選人が悪知恵を働かせる。
彼もまた能力に目覚めており、彼が手にしたのは『屍の加護』と呼ばれる力だった。
その力によって死体を操り、周旋の死を偽装する。
誰にも気づかれぬまま、周旋は死にながら生きることとなった。
一方、試合を乗り越えた子供たちは、学校でも平穏に暮らしていた。
クラスメイトには朝比奈霞の姿もあり、少女は天守優人に憧れる一方、志善悠人とも仲のいい友人になっていた。中には、彼らを監視する役目を受けた被験者の子供が混ざっていたりもしたが、その学校には弥人、克也、月姫、また幼い頃の最上生徒会長も在籍していた。
天守と橘の仲なんて関係なく、互いに友人として彼らは楽しい時間を過ごしていた。
――その時間が、最後の平穏だとも知らずに。
その日の晩。
天守周旋の完全なる支配に成功した海老原は、研究者、八雲を殺害。
同時に、天守家に仕えていた執事のセバスも周旋を使って殺害した。
彼は八雲とセバスの死体も支配すると、そのまま弥人の殺害へと移る。
弥人は【その時】になって、周旋らの死に気が付く。
海老原こそが諸悪の根源であると理解した弥人。
だが、少年は一人の息子として、父との戦いは望まなかった。
もう死んでいるにしても、周旋こそが自分の父親であった。
息子として父を傷つけることはできないし。
父が一人で死のうというのなら、自分も一緒に逝ってやる。
独りぼっちは、寂しいからね――と。
正義の味方ではなく、一人の息子として。
周旋の毒を飲み干し、自害と言う道を選択する。
死までのわずかな残り時間を、海老原は余裕で見逃すことにした。
弥人はその足で優人、志善の二人の下へと向かう。
最初に優人に出逢い、後を託し。
続いて志善と出会った弥人は、地下実験室の子供たちが殺されたと告げられる。
彼らを助ける方法は一つ、天能臨界だけだった。
けれど、その力を使えば弥人は余力を使い切り絶命してしまう。
「助けてよ」
そうとは知らずに志善が乞い、弥人は顔を歪める。
正義の味方が、最後まで捨てきれなかった家族への愛。
それが、彼の判断を鈍らせた。
家族との最期の時間を優先し、兄として死ぬか。
赤の他人の命を取って、正義の味方として死ぬか。
二つを天秤にかけて悩む弥人。
そんな兄を、優人が正道へと蹴り飛ばす。
「それで、後悔はないのか?」
正義の味方を捨てて死んでもいいのか。他でもない『弟』からそう問われ、弥人は最後の最後に『兄』ではなく『正義の味方』として果てる道を選択する。
そして発動された天能臨界――【
その力は、完全にランダムで奇跡を引き起こすというモノ。
そして今回発動されたのは、終わりを拒絶する結界だった。
それにより、死していた子供たちは息を吹き返す。
代わりに、天能臨界を発動した弥人は命を落とした。
「あとは、頼むよ」
後を託され、天守優人は立ち上がる。
対し、志善悠人は立ち上がれなかった。
自分が『子供たちを助けてよ』なんて言わなければ、優人が弥人を『正義の味方』へと蹴り落とすことは無かった。弥人は最後まで『兄』として、家族との時間を守れたんだ。
――自分が弥人を殺したのだ。
そう自覚し、絶望する。
対し、優人は『自分が弥人を殺した』と宣言し、志善を気遣う。
しかしその優しさも志善の絶望を加速させた。
志善は、自分の気持ちに整理がつかず。
それでもきっと、このままでは暴走してしまうと。
なにもかも取り戻そうとみっともなく足掻いて。
きっと、優人を傷つけてしまう、と。
そう、本能の奥底から理解した。
少年は優人に対し、自分を殺してくれと嘆願した。
しかし、弟は殺さないと優人は拒絶。
優人は託された未来へと歩き出し――その背中を志善は見送った。
その瞬間に全身を襲った絶望により、彼の天能が変質する。
『自然の加護』から『星』へ。
史上最強の概念使いへと覚醒してしまう。
そしてついに、各所で戦いが勃発する。
屋敷内で、天守優人とセバスが。
子供部屋で、天守恋と八雲が。
そして庭で、志善悠人と天守周旋、海老原が対峙する。
優人は圧倒的な劣勢に立たされるも、天能臨界に目覚め、勝利。
恋は一切の自覚なく、寝たまま八雲を一蹴。
そして志善悠人。
彼の天能臨界は【
能力は通常時のまま、出力を全て天能臨界相当へと引き上げる――という反則だった。
彼は死した天守周旋を下し、海老原へと詰め寄る。
未だ、弥人の天能臨界は続いている。
そのため、海老原のことは殺しても殺しても死にはしない。
そのため、志善は周旋の天能臨界【終の雫】を利用し【奇跡開帳】を破壊する。
そして海老原を殺そうと能力を使うが――最後の意地を振り絞り、操られていたはずの周旋が海老原選人を殺害してしまう。
諸悪の権化のあっけない死に唖然とするが、志善は庭に近寄る気配を感じて振り返る。
近寄ってきたのは、天守優人だった。
そして、最後の会話が始まる。
天守優人は、死者は戻せなくともこの世界で暮らすことを求め。
志善悠人は、この世界を壊し、新しい世界で幸せをつかむことを求めた。
荒唐無稽な話だが、彼の能力であれば可能だった。
彼の能力は『星』。
天能臨界――つまり、本来の彼の能力の具現は『星の創造』になる。
それが、現時点で地球が存在することにより、『星の恩恵』という強化能力へと変質している。
故に、この星を壊す。
地球さえなければ通常通りの臨界は発現する。
完全に新しい世界を造り直せる。
そこでなら、天能の支配の下に幸せを作れる。
不幸なんて一切ない理想郷が生み出せる。
だから、今回は
この星を、この世界を破壊するから。
必ず『次』を用意するから――今回は黙って死んでくれ。
そう、狂気を走らせる志善。
対する優人は、少年の望みが『天守優人を幸せにすること』だと理解した上で、それを真っ向から拒絶した。
そして、兄弟の戦いが幕を開ける。
圧倒的な強さを見せる志善。
対し、無茶を通して強さを引き出す優人。
二人の戦いは――結果として両方の死をもって決着となる。
しかし、戦いの余波は世界を侵した。
地球の四割が消し飛び。
人類の七割――約60億人が死滅したのだ。
その大半は、志善をかばった優人の天能臨界【
それにより、死して尚、優人は60億の憎悪と向き合い続けることになる。
結果として、いとも簡単に彼の精神は崩壊し。
天守優人という人格は、跡形もなく砕け散った。
そんな彼を死して見ていた志善も、後悔を走らせる。
死者の声は止められない。
天守優人の崩壊はもう決定的で。
自分のしたことが今にすべて繋がっているのだと。
自分の行動が優人を殺したのだと、絶望する。
しかし、そんな二人へと奇跡が起こった。
天守弥人の能力『善』。
かの能力の本質は、
天能臨界を破壊され、弥人の死体へと舞い戻った善。
その不滅性は――死した弥人の蘇生をも可能にした。
命を吹き返した弥人は恋と合流し、二人のもとへと向かう。
二つの死体を前に、弥人は彼らの蘇生を試みる。
既に、弥人に天能臨界を扱えるほどの余力はない。
そのため、彼は自身の天能を二分割し、二人へと譲渡することにした。
最初に、『彼』に力を授けた。
善から分かたれし不滅性により、『彼』は蘇生する。
しかし、もう一つの死体は崩壊する地盤に巻き込まれ、地球の内核まで落ちてゆく。
弥人は咄嗟にその少年を追い、身を投げうった。
――そして、命を吹き返した『彼』は目覚める。
覚えたのは、なぜ自分が生き延びてしまったのか、という強い後悔。
泣きじゃくる妹を前に。
居なくなってしまった二人と父を想い。
少年は、今にも崩れそうになる心を押さえ。
新しく、堅固な『仮面』を用意した。
もう、折れないように。
絶対に間違えないように。
二度と負けないように。
大切なモノを守り通せるように。
今まで通りの自分を捨てた。
――雨が、降り始めた。
血も涙も、何もかも。
感情や、過去の自分さえも洗い流し。
少年は新たな名を、名乗ることにした。
「【雨森悠人】」
その名前に、意味はない。
その余生に一切の意味が無いように。
その人生に何の価値も無いように。
その歩みに何の必要性も無いように。
ただ、その場の気分で、名前を付けた。
後日、奇跡的に天守弥人の死体だけは発見されたが。
決して、もう一つの死体が見つかることはなかった。
【登場人物】
〇雨森悠人
天守家崩壊の事件を生き残ってしまった少年。
自身の価値を見出せず、意味もない名前を自身に課した。
天能は【偽善】+【?】
あの一件以降、死の際で見た【60億の憎悪】が瞼の裏に焼き付いており、本来の天能を使うと拒絶反応で体が震えてしまう。そのため、自分の力を使うのはどうしても譲れない時だけ、と決めている。
学園入学当初から八雲学園長の動向は探っていたが、『あの男は肉体を乗り移る術を会得しているかも知れない』という疑惑から、本体を捜し当てるまでは実力を隠し、確実に殺せると確信できるその時を待ち続けた。
そして今、その時が目前に迫っている。
「八雲選人。お前だけは……確実に殺す」
〇志善悠人
天守家へと拾われ、天能を授けられた少年。
天能は【自然の加護】→【星】へ変質。
過去において一度死んでいる。
「僕は君を幸せにする。たとえ、君を殺したとしても」
〇天守優人
天守家の次男。心優しく、誰より努力を欠かさなかった。
天能は【銃】
過去において一度死んでいる。
「負けて死ぬより、勝って死んだ方が夢見がいいだろ」
〇天守弥人
天守家の長男。正義の味方として人類最高峰の性能を持つ。
天能は【善】
過去において既に死んでいる。
「あとは、頼むよ」
〇天守恋
天守家の長女。弥人をも超える肉体性能を持つ鬼才。
天能は【斬】
現在も存命し、近所のお嬢様学校へと通っている。
「どうして私を頼ってくれないのです、兄上!」
〇天守周旋
天守家当主。妻の蘇生のために多くの犠牲を許容した。
天能は【毒】
過去において既に死んでいる。
「絶対に……貴様だけは許さんぞ、海老原……ッ」
〇天守ともえ
周旋の妻にして、彼が唯一愛した人。
天能は保有しておらず、天守周旋の失った善性でもある。
過去において既に死んでいる。
「酷いわね、あの海老原ってヤツ。ちょっと周旋、アンタからもなんか言ってやんなさい! 私、嫌よ? 意味わからない理由で頭踏まれて終わるのなんて!」
〇セバス
天守家に属する執事の筆頭。また、橘の血統でもある。
天能は【速】
現在も存命であり、天守恋の剣の師匠でもある。
「ありがとうございます、私を止めて下さって」
〇研究者・八雲
天守家の地下実験場の所長。自己肯定と反道徳性の塊。
天能は【強奪の加護】
生死は不明。
「弱者による強者への勝利、その夢物語を現実にするのさ!」
〇海老原選人
地下実験場の副所長。天守家が崩壊した元凶。
天能は【屍の加護】→【屍】
過去において既に死んでいる――はずだった。
死の際で命を拾った男は、志善悠人が自身を殺しに来ないことを悟ると、それを理由に『志善悠人が天守優人に敗北し、命を落とした可能性が高い』と考察。同時に、天守優人が完勝できるわけもなく、良くて痛み分け、両方とも死んだのだろうと考えた。
自分が最も恐れた相手(志善)はおらず。
正義の味方が最も評価した怪物(優人)は死んだ。
自身が生きているというのはそういうことだ。
男は砦として学園を作り上げ、新たなる獲物(恋や橘)を待ち受ける。
多くの手札、いくつかの切り札。
これならば、あの日の志善悠人でさえ完封できる。
確かな自信を胸に、今日も男は嗤っている。
「賭けは俺の勝ちだぜ、天守弥人」
〇橘一成
地上最強の男。橘家の現当主。
天能は【盾】
現在も存命であり、雨森を学園へと送り出した。
「私の落ち度が大きい以上――橘も全面的に協力させてもらう」
〇橘克也。
橘家の長男。歴史上初の喋る天能を保有する。
天能は【皇制執行官】
現在も存命であり、王聖克也として生徒会副会長を担っている。
「……お前は、死なないのではなかったか。弥人」
〇橘月姫
橘家の長女。志善悠人とは気の知れた友人だった。
天能は【幻】
現在も存命であり、今は【夢】の天能により眠らされている。
「少し寂しいですね。……友人を二人も同時に亡くしたのでは」
〇朝比奈霞
志善悠人、天守優人と同じクラスに在した少女。
天守優人に憧れ、この時に正義の味方を志す。
現在も存命であり、月姫同様に夢に堕ちている。
「……どうして、あの人の名前も顔も、思い出せないんだろう」
〇烏丸冬至
地下実験場にて被験者の一人として捉えられていた少年。
他人の気持ちを察するのが得意で、天守優人とは再会の約束をしている。
現在も存命であり、入学当初、雨森の『目を悪くする』という嘘に笑わなかった一人でもある。
「……約束だろ。どうして来ないんだよ……優人」
〇幾年ねむる
地下実験場に捕らわれていた少女。
天能は【夢】
現在も存命してはいるが、強すぎる力の代価として学園のどこかで眠り続けている。
「私は眠るのが好き。みんなも、いっぱい寝て気持ち良くなってほしいんだ」
※この総集編は、作者が第10章を書くにあたって作成したプロット(に少し手を加えたもの)になります。こちらを肉付けし、様々な物語を付け加えてあの物語、総計45話となりました。
そのため、この総集編には10-45『八雲選人』を初めとして、含まれていない内容があります。
本当に必要最低限の情報のみとなっているため、本編未読の方は、せめて10-45だけは読んでから先に進むことをおすすめします。
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