弾丸が僕の天能を砕く。
本気で僕は、彼を殺そうとした。
にもかかわらず、それらはただの一度も届くことはなく。
それ以上の火力で、寸分たがわず相殺された。
(……っ、さっきよりも、
あり得ない。
その少年と戦い、僕の脳内を占めたのはそんな言葉だった。
大地を操り、気候を操り。
歴史を読み解き、時を司る。
この力は最強だ。
負けるわけがない。
僕の方が強い。
もう、僕は優人を超えたんだ。
……超えた、はずなんだ。
(……優人は、臨界すら使ってないっていうのに……ッ!)
焦りが、ジワリと心を蝕んだ。
そうだ、証明しなきゃいけない。
安心して、あとは任せてもらうために。
絶対に次に繋げるから、って。
絶対に、いい世界を造り直すから。
君たちを絶対に幸せにするから。
――だから、安心して死んでくれ。
彼を分からせるために、絶対的な格の違いを見せつける。
そう息巻いて臨んだ戦いが……今では、対等なモノになりつつあった。
大地から無数の槍を生み出し、発射する。
一撃一撃が、並みの臨界程度の威力を誇る。
それらを弾幕を張るように、一部の隙も無く敷き詰め、放つ。
確実に殺す。
そう考えての攻撃も――指の一振りで相殺された。
銃身なく、弾丸だけが虚空より放たれる。
弾丸の数だけで言えば、僕の放った槍よりもずっと少ない。
にもかかわらず、それらの弾丸は槍を壊し、そのたびに跳弾し、瞬く間に僕の攻撃を瓦解させる。
気が付いたころには優人の周辺は安全地帯に。
放った槍も周辺を壊せど彼の体には傷一つ付けられず終わった。
(何を削ればそこまで力を引き出せる……記憶、感情……魂、それとも命か!)
なにか、削ってはいけないモノを彼は使って動いている。
それが何かは分からない。
星は今と過去の歴史を読み解く。
だが、読めるのは歴史だけ。
人の想いまでは読み解けない。
だから、前代未聞、歴史上初。
こんな無茶を通す優人に、『星』の知識は役立たずと成り下がった。
考えうる限り、最低な星の攻略方法。
誰もやったことのない馬鹿をやれば記録がないから分からない。
……なんて、考え付いたって誰が実行できるって言うんだ。
ズキリと。
壊れたはずの心が、痛んだ気がした。
本音が、狂気を破って溢れそうになる。
僕は必死に想いを留め、彼を見据える。
……僕は、君たちが幸せになれる世界を用意する。
そのために僕は生まれてきたんだ。
なら、曲がらないよ、優人。
君がどれだけ無茶を通そうと、僕は折れない。
――確実に君を殺す。
そして、新しい世界で幸せになれ。
「……これ以上君が進化するより先に、本気で殺すよ」
ごめん。
確かに僕も、本気ではなかった。
これくらいの攻撃なら殺せるだろう……って。
どこか、君のことを下に見ていた。
もう、そういうのはやめるね。
「【
僕の後方の、時空が裂ける。
その先に広がるのは黒い空、宇宙。
無数の星が煌めく夜空から、この空間へ。
「が……っ!?」
「この身をもって教わったよ。毒も意外と強烈だって」
同時に、自身の体へと
毒の進行を時の遡行で押し返す。
……本来なら、遡星転やら進星転やらを優人に使えればいいんだけど。
この力を使う時は、技の反動で一時的に体の動きが鈍くなる。
加えて、時間を動かす指定先の判定がかなりシビアだから、技を使っても軽々と避けられ、その隙に僕本体を攻撃……なんて可能性も十分にある。
だから、相手を警戒すればするほどこの力は相手には使えない。
少なくとも、天能変質した直後の僕では使いこなせない。
……さすがは、血の繋がった親子だね。
父上と言い、君と言い。
油断をすれば一瞬で喰われる相手だと、今はっきりと認識したよ。
「油断しない、手加減しない、確実に君を殺す」
毒が、侵食する。
父上の『雫』ほどの速度はないが。
じわり、じわりと。少しずつ、確かに。
宙からの死の贈り物が星を汚染する。
一番近くにいた優人は、確実に死ぬだろう。
いかに天守といえど、宇宙の毒を耐えられるわけがない。
そう確信しつつも、気は緩めなかった。
……予感があったのかもしれない。
君なら、もしかして、って。
「【
虎の子、最後の一発。
だが、それは橘の頭蓋すら貫けなかった。
そんな一撃でどうこう出来る毒ではない。
……って、この知識が無ければ思っていたと思う。
彼方より弾丸が飛来する。
それは僕の後方に広がる裂け目へと突き刺さり。
そのまま、僕の天能ごと『時空の歪み』ををぶち抜いた。
「……いよいよ、極まってきたね」
時空の裂け目が砕け散る。
本来、物理的干渉を一切受け付けない歪みが。
たった、弾丸一発で木っ端みじんに砕け散った。
「……はぁっ、はぁ……はぁっ」
視線の先で、優人は荒い息を吐く。
僕は天能で察していた。
優人は戦いの最中、別な場所でも天能を起動しているということを。
その証拠に、僕の天能が告げていた。
僕の刀を砕いた直後、彼の天能の出力は大幅に上昇した。
けれど今、刻一刻と彼の出力は落ち始めている。
それは、ここではない他の場所で天能を使っている証明だ。
場所は、近くの山の中。
自身で作り、設置しておいた三丁の銃。
そのうち残る一丁を、遠距離から改造し、神を殺せる域まで仕立て上げた。
……知っていたさ。
天能の射程範囲で言えば、間違いなく天守優人は最強だ。
間違いなく、その面で言えば僕の天能すら劣っているだろう。
例えば天能の起こした結果……たとえばさっきの毒で世界を侵せ……と言うのであれば、ゆっくりでも、じっくりでも世界中を毒で覆い尽くせる。けれど、地球の反対側に突如として毒を出せ、と言われれば今の僕では難しいだろう。
だが、おそらく。
優人の天能であれば、簡単にそれが出来る。
僕がこの『
それをいとも簡単に行えるのだから……君は戦い方を間違えたんだろう。
君が、最初から全力で。
わざわざ、僕と会話しに庭になんて来なければ。
僕を殺すつもりで、遠距離戦だけに徹すれば。
……そんなイフの未来を想像して、苦笑する。
「時空を穿つ……か。神殺しの一族。いよいよ笑えなくなってきたよ」
余裕なんて、今の一撃で消し飛んだ。
ありがとう、手の届く場所で戦ってくれて。
ありがとう、僕を殺すつもりが無くて。
おかげで僕は、君に勝てるよ。
「やるよ『
天能が、僕の声に応えて駆動する。
一度、臨界として放出した天能。
既に存在する星を生み出すため、形を成そうと失敗したモノ。
中途半端に勘違いして、中途半端に舞い戻った。
……まるで、僕みたいな半端モノ。
だから生まれた、バグの結晶。
星の恩恵、自身に対する強化能力。
――それを再び、一点へと集中させる。
「少し大きいが、この星を君への弔花代わりとしようか」
どうせ、この星も壊す必要があるんだ。
一緒に星を壊したとしても、その時は必要経費と割り切ろう。
なんてったって、天守優人の葬式だ。
多少ド派手に、世界巻き込んだって許してくれるさ。
「抽出――展開」
風が止む。
音が消える。
優人へ向けた指先に――力が集う。
ここに作り出すのは、星が生み出す最大火力。
星の生誕における始まりであり。
星が終わるその瞬間に弾ける、一瞬の煌めき。
星を潰すほどの圧力と。
宙を焦がすほどの熱量。
海老原の時も。
父上を殺した時も。
最大まで火力は弱めた。
――でも君には、全力で使うよ。
「【
指先に、黒い光が灯る。
ほんの爪の先ほどの虚無。
光も飲み込むような闇。
一寸先も存在しない、ただの
幾ら、君が火力に寄ったとしても。
どれだけ僕に、力で押し勝とうとも。
これは無理だよ。
止めるとか、止めないとか。
そういう話じゃない。
――
今も、優人の天能は力を失い続けている。
既に、彼は奥の手は全て失った。
地球上のどこを探しても、彼が他の場所で天能を行使している素振りはない。
それでもこの状態であるならば……。
――
その二文字が頭をよぎった。
彼を見れば、既に瞳から光は失われている。
どれだけ無茶をしたのか。
どれだけ多くのものを削ってきたのか。
彼には今、どれだけ意識が残っているのか。
……会話すら、もう、できないのかもしれない。
「……最後くらいは、全力の君とぶつかってみたかったよ」
もう、君の本気を見ることはできないだろう。
そう考えると哀しいけれど……きっと大丈夫。
新しい世界に、天能なんてモノを持ち込む気はないけれど。
幸せがいっぱいの場所で、君は幸せに暮らすんだから。
僕の心残りの一つや二つ、気にしないで生きてくれたらいいな。
「……僕と出会ってくれて、ありがとう。優人」
僕は、君に救われた。
何度も何度も、君に助けられた。
君に、生きる目的を貰った。
僕にとって正義の味方は、いつだって君だったよ。
だから僕は、君に幸せな世界を造る。
君のためなら……世界中、全てに恨まれたって構わない。
そう笑い、僕は少年へと【終焉】を贈る。
「さようなら、優人」
☆☆☆
呼吸音が、遠く聞こえる。
苦しさも一周回ってよく分からなくなった。
僕は、ちゃんと両足で立っているのか。
もしくは、倒れてしまったのか。
……そんなことも、よく分からない。
何を、削ってきたのか。
自覚なく、いろんなものを削ってきた。
無茶をする代価として、いろんなものを捨ててきた。
もう、感情なんてほとんど無い。
記憶もいくつか欠落している。
思い出が、どれだけ残っているか。
考えたくもない思考が、脳内で巡る。
冷たい汗が、背中を伝う。
体が、信じられないくらい冷たい。
動きも鈍く、まるで全身が鉛に変えられてしまったようだ。
思考も遠く。
視線の先で、お別れを告げる弟を。
僕は、ぼんやりと眺めていた。
どうして、あんなにつらそうにしているんだろう。
誰が、アイツを泣かせたんだ?
……なあ、誰か。聞いてきてくれないか。
悪いけど、僕は……体が動いてくれそうにない。
もう、指先の感覚が無いんだ。
たぶん、もう、僕は死ぬだろう。
僕は、アイツの場所までたどり着けない。
あの場所まで、手は届かない。
そんな弱音を吐いて、周囲を見る。
弥人。
父さん。
母さん……は、面識なかったっけ?
悠人、って言うんだ。
自慢の、弟なんだ。
凄いんだよ。
僕に出来ないことが、アイツは沢山出来るんだ。
きっと、僕なんか今に抜かされて……。
弥人、父さん。二人も危ないんじゃないかな。
そんなすごい奴なんだ。
……僕は、もう、勝てないのかもしれない。
僕には才能もないし、誰より努力し続けてきたとも思わない。
頑張ってきたつもりでも、上にはきっと上がいる。
才能も、努力も、境遇も。
僕より優れた人はきっといる。
この世界に祝福され、何かの『天才』として生まれ落ちた怪物。
僕にとっては、たぶん、この少年がソレだった。
僕と同じだけ努力しておきながら。
僕なんかより、ずっと『戦い』の才能に溢れていた。
勝てない。
勝てるわけがない。
勝てる要素が一つもない。
心の中にあった自信が、粉々になって崩れていく。
僕は、ゆっくりと目を閉じた。
(……ああ、きっと)
このまま横になって、倒れてしまえば。
勝負なんて諦めてしまえば。
もっと、ずっと楽になるんだろうなぁ。
それは眠る前の心地よさと、よく似ていた。
自分より強い男に負けるのは、恥じゃないんだ。
おとなしく、諦めて。
敗北を受け入れて。
黙って終わりを、受入れよう。
そう、思った。
けれど、目を閉じて、初めて。
僕が抱えているもの。
僕に託した――彼らの想いを思い出す。
『なーに言ってんだい。優人だって十分すごいじゃないか!』
声がした。
振り返るだけの力もなかったけれど。
いつだって僕の背中を支えてくれたその人は。
今回もまた、僕の背中をどんっと叩いた。
自信を持てと。
お前は凄いんだと。
何の根拠もなく、自信満々に。
きっと笑顔で、僕の背中を押し出した。
『なんてったって、僕の自慢の弟だぜ? 負けるわけないさ!』
兄の言葉に、前を向く。
瞼を開く。
もう一人、僕の背中を誰かが押した。
『私は……届かなかった。止めようとしたが、あの少年は既に私を超えている』
生まれたときから聞いていた、その声。
羽織っていたコートが、少し暖かくなった気がした。
その人は僕の背中を強く押し、生まれて初めて僕に信頼を叩きつける。
『だから、お前が止めろ。
そして最後にもう一人、小さな手が僕の背を押す。
懐かしい声がした。
暖かい気配があった。
『ええそうね! とりあえずやっちゃいなさい、優人! ぶん殴ってでも止める! そのあとなんてなるようになるわ! 私が認めてあげます!』
自信満々に、その女性は僕に言う。
振り返る余裕はない。
けれど、彼らが誰かはすぐに分かった。
押された背中が、熱くなる。
尽きていた体に、力が灯る。
ほんの、ちょっとだけ。
乾いた中に、ほんの一滴。
託されたものが、まだ残っていた。
『大丈夫、優人ならできるさ』
「……ああ。力を貸してくれ、兄さん」
父さんも、母さんも。
背中を押してくれて、ありがとう。
もう、お別れしたっていうのに。
いつまでも、頼りない息子でごめん。
でも、頑張るから。
最後まで、一生懸命頑張るから。
だから。
また、どこかで会ったらさ。
いっぱい、時間の許す限り話そうよ。
話したいこと、たくさんあるんだ。
きっと、母さんも驚くんじゃないかな。
僕の大好きな家族の話。
自慢の弟の話が、沢山あるんだ――
☆☆☆
真っ赤な鮮血が、体から吹き上がる。
胴体の過半が、その一撃で弾け飛び。
その瞳からは、完全に光が消えていた。
力なんて残ってない。
残っているはずがない。
一歩も動けない。
腕も上げることはできない。
天能なんて、既に彼の体から消えていた。
それほどの、限界の先で。
それでも少年は、勝とうと足掻いたのだろう。
今際の際に、何を聞いたか。
何を感じて、何を為そうとしたか。
もう、誰かが知ることはないだろう。
けれど、最期まで。
天守優人と言う少年は、弟を殺そうとはしなかった。
「……く、そっ」
兄を殺し、少年は天を仰ぐ。
頬を涙が伝った。
兄のためにと、兄を殺して。
最後に彼が感じたのは、兄からの強い愛情だった。
【進行度成果】
〇天守優人 - 死亡
☆☆☆
憎んでいたわけではない。
嫉妬していたわけでもない。
君は僕の誇りだったし。
君は僕の憧れだった。
だから、僕を救ってくれた君が。
こんな、ふざけた不幸に落ちること。
……それが、どうしても許せなかったんだ。
僕は、君を幸せにしたかった。
もっと笑っていて欲しかった。
兄妹、家族に囲まれて。
楽しく、幸せに生きて欲しかった。
その想いの果てに、立ったまま息絶えた君を見て。
「……ねぇ優人。僕はまた、間違えたのかな」
何もかも手遅れになってから。
今更、胸の痛みと共にそう思った。
次回『繋がる希望、穿つ銃声』
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