本編を読んで「最近、なんか辛気臭いよ!」と叫ぶ方々へ。
全然辛気臭くない、短編を投稿しました。
【イマジン・ブレイド~現金至上主義の変態が英雄になるまで~】
めちゃくちゃ久しぶりの短編です。
暇な時間がありましたら作者ページから読んでみてください。
セバスチャン。
長年、天守家に仕える一人の老執事。
また、その名前は紛れもない本名であったが。
同時に、それが全てではないのだろう、と彼らは知っていた。
「物好きもいたものだよ。橘でありながら、天守に付くなんて」
その男――橘一成は身支度を整えながら口を開く。
場所は橘邸の執務室。
出入口の横には、息子である克也が腕を組み立っていた。
「セバスの話か。……無事であればいいがな」
「無事じゃないみたいな言い草だね。執行官がそう言ってるのかい?」
一成がそう問うと、克也の体から異形が浮かぶ。
白い仮面をかぶった奇妙な人形。
その怪人は、普段ならけらけらと嗤うはず。
されど、さしもの怪人とてこの状況を笑って過ごせる度胸はなかった。
『多くは言わねぇが、急いだほうがいいぜ。天守邸から尋常じゃねぇ力を
「……君がそこまで真面目なのを見るに、本当なんだろうね」
執行官――と名乗るこの怪人。
その雰囲気と口ぶりから『信じるに値する』と一成と克也は判断する。
『ああ、大マジだぜ。下手したら一成……アンタでも後れを取る可能性アリだ』
「へぇ。負けるってかい? だとしたら笑えないね」
そう言って、橘一成はコートの袖に手を通す。
振り返ったその男は、いつも家で見る『父親』の姿ではなくて。
正真正銘、世界最強たる『橘家当主』として、その場に立っていた。
「準備はいいかい、
彼がそう言った瞬間、室内にいくつかの気配が生まれる。
「あたりまえじゃろ。何百年ぶりの出陣じゃと思っとる?」
「三百年程度かな。……でも、今回は出来れば戦いたくないと思っていてね」
窓の外へと視線を向ける。
まるで、世界が終わったような暗い曇天。
雲の中から雷が垣間見える。
その中で。
遠く、遠く。
地平線の彼方にも思える、ずっと遠くで。
ただ一カ所、眩いほどに光り輝く場所が見えた。
「目的地は天守家。最優先事項は、あの家に残った人命の救助だ」
そして、世界最強は動き出す。
そう囁く本能を押し殺し、彼は決意と共に歩き出す。
☆☆☆
「くっ」
その強さに、僕は思わず歯を食いしばる。
僕は廊下を走りながら、周囲へと召喚した銃火器をぶっ放す。
弾幕と言って差し支えないほどの量。
それを、その男は刀一つで斬り払い、一切減速なく詰めてくる。
「化け物か……っ!」
異次元の技量。
天守と比べても遜色ない身体能力。
生きながらこの【域】までたどり着ける血筋など世界でも極わずか。
彼の髪色、目の色から察するに――間違いなく、橘の血統。
容赦なく振り下ろされた刀を、拳銃で受け止める。
感じたこともない衝撃と、どろりと喉を掴むような殺意。
普段のセバスからは絶対に感じない、
奥歯を砕けるほど噛みしめる。
「……人の尊厳を……なんだと思っている」
次の瞬間、腹部へと回し蹴りが叩き込まれる。
防御できるような余裕はなくて、咄嗟に身を引いたものの余りある威力。
内臓が、大きく歪む。
激痛と猛烈な吐き気。
吹き飛ばされ、廊下を転がりながらそれらに耐える。
何とか勢いを殺して態勢を整えるも、その頃には追撃が迫る。
目の前へと追随してきたセバスによる、刀の一閃。
咄嗟に後方へと飛んでそれを躱すも、なんとかギリギリ。
頬の皮一枚、刀の切っ先でやられたのか血が噴き出した。
思わず足がもつれて、廊下に転ぶ。
その隙をセバスは見逃さず、突き刺すように刀を繰り出した。
躱す、カーペットに刀が刺さる。
後退する、さっきいた場所にまた刺さる。
下がる、刺さる、下がる、刺さる。
一瞬でも動きを止めたら串刺しになる――と。
目の前で見せつけられて苦笑する。
「ビビるなよ、天守優人」
自分に言い聞かせ、さらに後退する。
セバスは僕を貫くべく、刀を大きく振りかぶり――
その、直後。
廊下の天井付近――セバスの後方に、ライフル銃が三丁生まれる。
一年前はまだ荒かったが、この一年で随分と力の使い方も理解した。
その果てに生み出した銃の使い方。
それこそが、遠隔で召喚+遠隔で操作、だ。
それを、僕を殺すことに躍起になっているセバスの死角で行使する。
絶対に視線は向けない。僕の一挙一動では読ませない。
僕はあくまでピンチのままで。
気づかれることなく、意識外から狙い撃つ。
セバスは刀を振り下ろす。
と同時に、三丁の銃は火を噴いた。
至近距離からの、ライフル弾。
銃声を聞いてセバスも異変に気付いた様子だが、もう遅い。
迷った彼の刀が減速する。
それよりも早く、僕の弾丸が彼の頭蓋へたどり着く。
「勝――」
間違いなく、勝った。
そう思った――
――そんな僕の心の、隙をつくように。
「【加速】」
目の前から、セバスの刀が、消えた。
……消えたように、錯覚した。
それほどの速度で、彼は振り向き弾丸を切り捨てていた。
「……っ!?」
その光景に、今更思い出す。
セバスは一般人を装っていた。
だが、それは違う、この男は間違いなく橘だ。
で、あるならば。
セバスだって持っているはずなんだ。
橘の血統の証明たる――【天能】を。
「瞬間的な、
嫌な予感に背筋が凍る。
僕はさらに後退するべく足を動かす。
――よりも、ずっと早く。
セバスは、再び僕へと刀を振り下ろしていた。
「――っ」
回避は、もう不可能。
天能を用いた状態のセバスは、僕では対処不能なほどに速すぎた。
ああ、くそ。
こんなんだったら、もっと鍛えておくんだった。
そう、苦笑しながら。
僕は用意していた、
狙いは外さない。
時間的にも、ぎりぎりだろうけれど。
焦りはなく、不安もなく。
確実に当たるだろうと、確信があった。
「ショット」
そう口にするのと、ほぼ同時に。
窓を突き破り、彼方から弾丸が飛来した。
「――っ!?」
どうやら、死体と言っても意思くらいはあるみたいだ。
記憶はなくても、感情は無くても、意志があるなら
距離にして、この家から十キロ先。
父さんも、セバスも。
恋、志善……弥人でさえも知らない僕のとっておき。
十キロをコンマ数秒で穿ち貫く、僕特製の【オーダーメイドライフル】。
それを、常に撃てる状態のまま、山奥に待機させていた。
狙いは外さない。
さっきの攻防で、速度は分かった。
そして理解した、これならば天能ありきでも防げない。
死角からの弾丸を防いだことで、この男は僕を格下だと認知した。
加えて僕を追い詰めていること。
どんな攻撃をされようと対処できた、という事実。
それら様々な要因が重なって、優越感は滲みだす。
感情が動く。
――なら、そこには必ず【隙】がある。
意志があるなら必ず油断は存在する。
その隙間を縫うように。
弾丸、一発。
全身全霊を込めたソレを叩き込む。
目の前の死体から、焦りが伝わる。
驚きが伝わる。
怒りが伝わる。
しかし、その一撃を前にはそんな感情もむなしく散った。
それらをまるっと撃ち貫いて、その弾丸はセバスの頭蓋へと叩き込まれる。
「【
目の前で、セバスの頭が右へと跳ねる。
カラリと、静かな闇の中に、彼の刀が落ちる音が響いた。
力なく倒れ始めた彼の体は、そのまま廊下にぐしゃりと崩れる。
「はぁ、はあ……、はぁっ」
今晩にでも試そうと、用意していた甲斐があった。
まあ、戦うために彼を探し歩いた結果がコレなんだから、笑えもしないけど。
改めて、目の前の現実を見る。
血を流して倒れる家族の死体。
死んだ。
殺した。
僕がセバスを殺した。
家族を、殺した。
「……っ」
ずきりと、壊れたはずの心が痛んだ。
兄を言葉で殺し。
親同然のセバスを、力で殺した。
……分かっていたさ。
兄に、あの言葉を送った時点で分かっていた。
自分は、人殺しになるのだと。
「はぁ……っ、クソッ!」
目の前の死体から目を逸らし、道の先へと視線を向ける。
ダメだ、この際現実逃避でもいい……今はまだ折れるな。
お前には……僕には、まだやるべきことが残っているだろう。
恋……は、心配いらないか。
ああ見えて、やるときは僕より強い。
それに、恋が本気を出すのなら味方は近くに居ない方がいい。
志善は少し心配だが、弥人の近くに居るのなら海老原のけん制になる。
仮に海老原が父さんを引っ張り出して来ようと……今の志善なら逃げるくらいは出来るだろう。それくらいの強さはあると信じている。
そこまで考え、結論を出す。
自分がまず、優先すべきこと。
それは、弥人が蘇生させたと思われる子供たちの安全確保。
次点で恋、志善との合流。
……最後に、海老原の抹殺だ。
そう、最後だ。
あの男を倒すのは、全てを守り切った後で良い。
……そうでなきゃ、兄の遺言を守れなくなる。
「……あとは、任されてるんだ」
殺したい。
今すぐにでもあの男を殺しに行きたい。
心の中で、復讐心がそう叫ぶ。憎悪が滾る。
けれど、兄の最後の言葉を思い出し。
心を奮い立たせて、前を向く。
兄が救おうとしたもの。
彼が大切にしていたもの。
救えるものは、全て助ける。
まだ、掌から零れ落ちていない幸福は、絶対に逃さない。
もう、二度と。
目の前で……誰かを死なせるわけにはいかないんだ。
僕はそう決意し、暗闇へと歩き出した。
――その、直後だった。
ずさりと。
背後で、何かが立ち上がった気配があって。
驚き、振り返る。
そして、大きく目を見開いた。
「セ、バス……っ!?」
立ち上がっていた。
確実に脳天を貫いたはずなのに。
殺したはずなのに、その男は立っていた。
なんで。
どうして。
どうやって。
疑問が溢れる。
死体を操る以上、死体を殺しても意味はないのか?
ふざけろ、そんな話があるか。
頭を撃たれて動ける馬鹿がどこに居る。
死体にも意志があるのなら。脳が正常に動いているなら。
頭さえ潰せば、潰すことができれば、間違いなく――
【
ふと、自分の言葉に引っかかる。
そして、嫌な予感が膨れ上がった。
――まさか。
殺した――と思っていた。
貫いた――と、思いたかった。
自分が殺した家族を、直視できなかった。
だから確認しなかった。
……できなかった。
本当に僕は、セバスの頭を撃ち抜けていたのか?
「………………えっ」
ずぶりと。
僕の腹を、セバスの刀が貫通する。
喉の奥から、熱くてどろりとした鉄味が込み上げる。
驚いて、僕はセバスの顔を見る。
その、貫いたはずの頭を見て。
絶望感に、その場に膝をついた。
勝ったと思った。
倒したと思った。
これなら、弥人にも通じると。
父さんだって、認めてくれるって思った。
けど、箱を開ければ答えは違った。
体格でも。
技術でも。
経験でも。
運でも。
なんでもなかった。
今回、天守優人の敗因は、とっても簡単で。
【
今になって、痛いほど思い知る。
父さんが言っていたことは、全て正しかったんだ。
天守として生きるには――僕の天能は、あまりにも弱すぎた。
【嘘なし豆情報】
〇セバスの天能
天能名【速】
世界で唯一、朝比奈霞の【雷神の加護】と速度で張り合える力。
能力は指定したモノの瞬間的な加速能力。霧道走の【瞬間加速】の完成形。
圧倒的な身体能力。
常軌を逸した剣術の技量。
それらに速度が加わった時、彼の肉体は天守の動体視力でさえ追えぬ域に達する。
ここだけの話、雨森悠人が霧道走を最初の少しだけ見逃していたのは、セバスと同系列の異能をそれだけ高く評価していたから、と言うのも理由の一つ。
また、橘月姫との戦闘時に使用した『加速』は、偽善でこの能力を模倣したモノだったりする。
☆☆☆
少年は、ふと過去を思い出す。
そういえば、兄は一年前にこうも言っていた。
「天能臨界を前提とした力もあるみたいだよ」って。
次回【銃の使い方】
少年は、死の淵に至って初めて。
その力の使い方を、理解する。
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