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今日、とある書籍を読んでいて。

「すごい嘘つくじゃんこの主人公」と思いました。

そんな書籍が今日から発売しております。

読んでくれたら嬉しいです。

第10章・後編【正義の味方 天守弥人】
10-31『怪物の目覚め』

 弥人が倒れた。

 その光景に、僕は息も忘れて立ち尽くしていた。


「……え? ど、どうした、の……?」


 倒れた弥人の下から、どろりと血が滲む。

 それがまるで……地下の子供たちをみているようで。

 僕は、考えるより先に弥人へと駆け出した。


「や、弥人! し、しっかりしてよ!」


 彼の体へと手を伸ばす。

 最初に感じたのは、人とは思えない冷たさだった。

 背筋が凍る。

 嫌な予感に急かされ、彼の体を抱き上げた。

 彼の体は、思っている以上に重たくて。

 ……その理由に思い至って、胸が苦しくなった。


「あ、あああ……ああっ」


 余計な力が一切ないから。

 だから、彼の体はこんなに重く感じるし。

 ……もうすでに死んでいるから。

 こんなに冷たいし、動かない。


「ど、どう、して……どうして、どうして弥人が……」

「志善」


 その声に、振り返る。

 優人は空を見上げていた。

 その頬には涙が伝った跡があって。

 彼は、頬に跳ねた血も拭わずに、僕を見る。


「弥人は死んだ。()()()()()

「……っ、な、ん…っ」


 彼の言葉に、対する返事が出てこなかった。


「弥人は傷を負っていた。……おそらく、地下実験場を壊した奴に嵌められたんだ」

「……ねえ、ちょっと……まってよ」


 だけど、続く彼の言葉を聞いて。

 嫌な予感が、濁流のように押し寄せる。


「天能臨界……どんな力かは知らんが、蘇生の力なんだろう。……まだ天幕が掛かっているあたり、死後も臨界が発動している限りは、この下での【殺傷】は全てなかったことになる。……そんな感じの能力なんだろうか」

「ま、待ってって! て、天能臨界……? そ、そしたら――」


 天能臨界。

 それは、力を体外に出して固める力だって聞いた。

 なら、……弥人が本当にその力を使ったのなら。

 傷を負っていた弥人から……傷を治すための【善】が失われたのなら。


 ぞっと、悪寒が走った。


 そして、自分の言ってしまった【失言】を思い出す。



【助けてよ】って。



 僕は言った。

 僕が言った。

 弥人に対して、僕が救いを請うた。

 子供たちを助けてよ、って。

 助ける代償なんて、何にも考えることなく。

 僕が……言ったんだ。


「あ、ああ……」


 絶望に目の前が真っ暗になる。

 弥人の体を、僕はいつの間にか離していて。

 血の池に沈む彼の姿を見て、心がひび割れた。


 ぴきり、と音がする。

 心が壊れる音と。

 そして――()()()()()()()だ。


 なんで、どうして。

 どうして、僕は――。

 ぐちゃぐちゃに、脳内が後悔で溢れる。


 そんな僕の背中へと、優人の声が掛かった。


「勝手に勘違いして絶望するな。弥人を殺したのは僕だと言っただろ」


 再び、彼へと振り返る。

 その顔を、表情を見て……僕はまた絶望した。


「お前の言葉は関係ない。僕が僕の意志で、僕の言葉であいつを殺した。家族のために生きようとしたあいつを、僕の言葉が正義に蹴り落とした。……それ以上も、それ以下もない」


 その顔は、今にも泣きそうに見えた。

 必死にいつも通りを気取っていても。

 壊れた心を必死につなぎ合わせて。

 無理して、無茶して。

 誰より哀しいはずなのに。

 誰よりつらいはずなのに。

 全て自分の責任にして。

 何でもかんでも……背負い込んで。

 天守優人は、いつも通りに立っていた。


 けれど、絶望した理由はそうじゃない。

 彼のことが心配だった。

 けれど、それ以上に。

 彼が無理をしている『理由』を察してしまって。



『お前は悪くない』



 先ほどの言葉を思い出して――すべて理解する。



 ああ、優人は。

 志善悠人に天守弥人を殺させないために。

 自ら、兄を殺す役目を買って出たのだ。


 僕を、罪悪感から逃すために。

 志善悠人を守るために……天守優人は兄を殺した。



「は、は……あは、ははははは、はははははははははは!」



 気づけば僕は、笑っていた。

 涙を流しながら。

 もう戻らない幸せを噛みしめながら。

 絶望の中で、一人笑った。


「なんにも……なんにも守れてないじゃないか! 馬鹿か、馬鹿なのかな僕は!」


 ふざけるな、ふざけるな。

 死ね、今すぐお前が死ね。

 弥人の代わりにお前が死に直せ。

 自分の中で、声がする。

 お前さえいなければ――って。

 自分が自分を否定する。


「実験室の子供たちを守るため? 自分の生きる価値を見出すため? ふざけるな、ふざけるな! 彼らの不幸に自分の価値を見出して!? 一番大切なモノまで見失って……自分の価値の為に家族を殺した! 一番大切なモノを僕が切り捨てた! ふざけるなクソ野郎! 死ね、死ね、死ね! 死ねよ志善悠人!!」


 お前さえいなければ。

 お前さえ死んでいれば。

 お前さえ、この家に来なければ。

 きっと、全てがうまく進んだ。

 弥人はきっと死ななかった。

 彼は()()()()()()()()を持っているんだ。

 弥人だけなら、絶対に生き延びられた。


 それを、お前が殺した。


「……志善」

「僕を責めろよ天守優人! 僕が君たちの兄を殺したんだ! 君じゃない! 僕が敵だ、僕こそがこの家の害悪だった! 僕なんてあの家で死んでおくべきだった……そうじゃないと、……そう、じゃないと……だめなんだっ。だめだったんだよ!」


 そうでもないと、どうすれば君たちは救われる?

 どこに救いがある。どこに正解を求めればいい。

 僕しかない、僕しかないだろう。

 僕が居なければよかった。

 それが正解じゃないと、おかしいだろう。


「僕を救うな、僕に構うな、僕に手を差し伸べるなよ!」


 僕は叫ぶ。

 優人は、表情を一切変えずに言葉を返す。


「弥人が言っていた。人には生まれてきた意味がある。……たしか、そんな題名で本とか出してたはずだろ。父さん名義だったはずだけどな」

「はっ、なんだよその綺麗事! 生まれてきた意味? 生まれてくるべきじゃなかった人間は居ない? クソ喰らえだそんな空論! 屑の親から生まれたのなら、子も屑だ! 自分を助けてくれた人も守れない! どころか、手を差し伸べてくれた人を現に殺してんだからさ! ここまで腐ったゴミ屑は生まれて初めて見たよ!」


 崩れていく。

 足元が崩れていく。

 僕の根幹が崩れていく。

 大切なモノを守りたい。

 そんな想いすら消えていく。


 守れなかった男に。

 そんな綺麗事を望む資格なんて、あるはずもない。


「殺してよ! 僕を殺せよ天守優人! 僕が生きていたら、必ずみんなを不幸にする! 絶対だ、絶対に志善悠人は殺すべきだ! 生きていていい理由が一つもない!」


 頼むよ、僕を殺してくれ。

 理由なんてない。

 根拠なんてない。

 けれど不思議と確信していた。


 ()()()()()()()()()


 間違いない。

 僕は絶対に、よくない方向に進む。

 君の望まない場所に歩いてしまう。

 それくらいなら、今、ここで殺しておいた方がいい。


 土塊を弄り、鋭いナイフを生み出した。

 優人の手を握り、その凶刃を彼に持たせる。


 僕には、自害できる自信が無い。

 完膚なきまでに死に切れる自信が無い。

 僕は僕を信用できない。


 なら。

 心から信用する君に、僕を殺してもらいたい。

 完膚なきまでに、再起不能なほどに。

 確実に、僕を此処で終わらせてほしい。



「……頼むよ、不幸は、ここで終わらせてくれ」



「…………」


 僕の懇願に、優人は少し固まって。

 それでも、僕の予想通りに。


 彼は、僕の手渡したナイフを捨てた。



「ふざけるなカス。()()()()()()()()()。なら、生きて足掻け」



 いつになく鋭い、彼の言葉。

 それを聞いて、更に絶望が加速する。


 僕は、生きなきゃ、いけないのか?

 先なんて見えているのに?

 君たちを、悲しませるって分かってるのに?

 それでも君は、僕に生きろって言うのか、優人。


「後悔する、絶対に君は後悔する! 思い直せ優人!」

「後悔なんてしない。家族を救うことに何を恥じらうことがある」


 そう言って、彼は僕に背を向け歩き出す。

 待って、待ってよ。

 僕を殺せよ、ここで終わらしてくれよ!

 ダメだ、僕を此処で殺さなきゃ……。




()()()()()()()()()()()()




「ゆ、優人――っ!」


 必死に声を上げる。

 けれど、その歩みは止まらない。


 もう、彼は僕を振り返らない。



「お前は、ここに居ろ。()()()のこと、守ってやってくれ」



 彼は遠回しに、生きろと僕に言う。


 志善悠人は、ここでは死ねない。


 そう、理解した瞬間。



 また、何かが壊れる音がして。




【天能変質】


【所有者:志善悠人】



【保有する天能を再構築致します】



【天能再編】



【該当者に新たな天能を授けました】




【天能名 ”(ホシ)” 】




【あなたの道行きに、幸福が在らんことを願います】




 ……ほら、言っただろ。

 ダメ、だったんだよ、優人。

 さっき、僕を殺しておかなきゃ、駄目だったんだ。


 体が、新たなモノへと生まれ変わる。

 腹の底から力が湧いた。


 自分の新しい力を理解して。



 ()()()()()()と理解したならば。



 もう、志善悠人は止まれない。


 ……そんな事、最初っから分かってたんだよ。




 ☆☆☆




 志善と別れて、屋敷に戻る。

 地下へと向かう廊下を歩きながら、大きく息を吐いた。


「……くそが」


 弥人が死んだ。

 僕が弥人を殺した。

 その事実が、今になって背中に圧し掛かる。

 凄まじい重圧。

 気を抜けば潰されてしまいそうなほどに、それは重くて。


 その重さが、僕の在り方を一から作り替えているようだった。


 いままで頼っていた相手。

 僕が失敗でも、あの男なら何とかしてくれる、って。

 そう、頼り切っていた心の拠り所が、もう居ないと理解して。


 ()()()()()()と、覚悟が決まる。


 頼る相手はもういない。

 僕がやるしかない、失敗するわけにはいかない。

 僕があの男に代わって全てを終わらせる。


 生まれて初めて、正しく【責任感】を抱くことができた気がして。

 その感情を理解してしまえば、今までの自分にはもう戻れない。


 兄が死んだと理解した瞬間。

 天守優人の中にいる【子供心】は死んだんだ。


 僕は、ふと足を止める。


 前方を見る。



「よォ。終わるには良い夜じゃねぇか、天守優人」


「……海老原選人」



 すっかりと猫を被るのをやめた男を見て。

 ()()()()と、本能で理解した。


「お前がそんな顔でここに居る、ってことは……もう死んだか? 随分と粘ったじゃねぇか。常人なら一滴触れただけで即死の毒だっていうのに……あのガキ、飲み干してどこまで歩いたんだ?」

「……毒。飲み干す……」


 それらの単語から、状況を読み取る。

 毒、と言えば父上だが、彼は既に死んでいるはず。

 なら、どうしてこの男が弥人を殺せるだけの毒を生み出せた?

 そう考えると、自ずと答えは導き出せる。



()()()()()か」



 僕の言葉を受けて、男は口笛を鳴らす。


「ヒュゥ、あの兄にしてこの弟ってワケか。ノーヒントで正解するかよ、普通」

「……なるほど、()()()()()()()


 彼の言葉を無視し、結論を叩きつける。

 海老原はピクリと眉を動かした。

 それだけで、僕の結論は正しかったのだと理解できた。


「お前の力……おそらく加護の域だろう。父上を臨界が使えるレベルで支配できるのは見事だが、それじゃ、僕らの天能と比べて劣っているとは思えない。なら、どの部分で劣っているのか考えた。――答えは簡単、()()()()()()()()()()()()()()()

「妄想激しいなァ? 兄弟そろって頭の中お花畑――」



()()()()()()()()()()()()()()。……そのあたりか?」



 カマを掛けると、海老原の言葉は静止した。

 彼は僕を驚いたように見ていたけれど……すぐに驚きも消える。

 先ほどの嘲笑は嘘のように。

 明確な【脅威】を見る目で、僕を睨んだ。



「なるほどなぁ……確かに、一番最初に殺す相手はお前だったか」


「弥人に言われたか? ……なら安心しろ、お前は手順を間違ってない」



 海老原の背後の暗闇から、見覚えのある人影が表れる。

 血に濡れた燕尾服を纏う、眩い白髪の執事。

 うっすらと開いた瞼からは、濁った赤い瞳が見えた。


 ――死んだ、とは思っていたが。


 弥人のヤツ、もしかして父さんとセバスの死体、目の前に出されたのか?

 そりゃ、らしくもなく弱気になるに決まってる。

 僕だって、いきなりセバスの死体と対面してたらどうなっていたか……。

 そう思って、ふっと笑う。


 なら、どうして今は平気なのか。

 答えは簡単だ。


 悲しさよりも。

 絶望よりも。


 他の何よりも勝る【激情】があるからだ。


 前方を見る。

 海老原は、セバスの背後に移動していて。

 廊下の暗闇へと、その姿を消していく。


「そんじゃ、俺は失礼させてもらうぜ。正義の味方の肉体、防腐処理しなきゃいけないもんでな」


 どこまでも不遜に告げて、逃走準備に入る海老原。

 闇に消えようとする彼の背中を見据え。

 僕は、頬を吊り上げ嗤って見せた。




「手順は間違ってない。……ただ、()()()()()()()()()()()




 僕の言葉に、海老原の歩みが止まる。

 ふと、彼は僕を振り返る。

 闇の中で、二つの瞳が僕を捉えた。


 大変だったよ、志善に八つ当たりしそうになって。

 ついうっかり、言葉が鋭くなったと思う。

 けれど、我慢して良かった。

 お前が同情を掛ける余地のない悪人みたいで、本当に良かった。

 相手がお前なら、僕も――()()()()()()()()()()()()


 僕は顔を片手で隠して本音を吐露する。


「お前は、たくさん殺した。みんなを殺した」


 ふと、笑顔が湧いた。

 けれど、それは楽しさから来るものではない。


「何が楽しい、何が面白い。人を殺すことになんの価値がある。人の命を奪えるだけの価値がお前にあるのか? ……あるはずがない。お前程度に、人の命を奪える理由はどこにもない」


 笑顔は止まらない。

 それは、何もかも壊れ果て。

 家族も幸せも失って。

 それでも激情が駆り立てた、不出来な笑顔だった


「教えてやるよ人殺し。お前はやっちゃいけないことをした。人を殺したのなら、お前はもう()()()()だ。生きる価値なんてない。お前が生きることを誰も望んじゃいない」


 男を見る。

 片手を顔から離す。

 その際に、僕の表情を見て。

 僕の目を見て。


 海老原が、僅かに怯えたのがわかった。



「人でなしなら、殺したって殺人にはならないよなぁ」



 あぁ、そうさ。

 お前は、一線を超えた。

 人間であることを放棄した。

 なら、殺されたって文句言えねぇだろ。


 お前は殺す。


 お前はただの害虫だ。

 それ以下のゴミクズだ。

 僕は、その目障りな虫を排除するだけ。


 海老原が僅かに深呼吸する。

 既に怯えはなく。

 その瞳には自信だけが映っていた。


「長ったらしいねェ。言い訳より結論を先に言えよ能無し」

「――地の果てまで逃げようと、お前だけは確実に殺す」

「はーっ、出た出た。そういや兄貴も同じようなこと言ってたぜぇ? 負け惜しみってヤツ?」


 そう、海老原は笑う。

 彼は真っ直ぐに僕の目を見ると、言葉を重ねた。



「自己肯定して満足してんじゃねぇよ。今の、お前もその()()()()の仲間入りするってェ、宣言してるようなもんだぜ」


「そうかよ、死ね」



 背後に無数の重火器を生み出す。

 と同時に、男目掛けて弾丸を放った。


 殺す。

 確実に殺す。


 そう考えての攻撃だった。


 けれど、その攻撃が届くことは無い。

 男の前に佇む執事。


 彼が、それらの弾幕を全て一刀のもとに切り捨てた。


「……ッ」

「ひー、おっかね。そんじゃ、逃げるとしますかね」


 そう言って、男は完全に去っていく。

 その背中を追おうにも……目の前には、恋をも超える剣豪の死体。


「邪魔だ……って言ったら、退けてくれたりしないか、セバス」


 質問。

 されど死体は返事を有さない。

 その体は黙って刀を構えるだけ。


 ここから逃げるにせよ。

 あの男を追うにせよ。

 地下の子供たちと合流するにせよ。


 間違いなく、僕はこの男と戦わなくてはいけない。

 そう考えると、壊れたはずの心が、また痛くなった。


 少しだけ、目を閉じて深呼吸する。

 再び瞼を開いても現実は変わってなくて。



 否応なしに、覚悟が据わる。



 銀色の刀身が闇に煌めく。

 濃厚な殺意が廊下に充満していく中。


 僕は、右手に銃を生み出した。



「……今まで、ありがとう」



 既にここにはいない、セバスへと告げる。

 僕が生まれた時からずっと、彼は僕の傍にいた。

 母さんが死んで。

 父さんも、弥人も。

 色々と……余裕とか、無い時も。

 彼だけは僕に愛情を向けてくれた。

 彼だけはずっと、僕を見ていてくれた。


 血は繋がってないけれど。

 セバス。アンタは紛れもなく、僕の大切な家族だった。


 こう思っていたのは僕だけ、だったかもしれないけれど。

 僕にとっては……お前は、()()1()()()()()、だったんだ。


 だから、せめて。

 お前の供養は、僕がするよ。


 僕は銃のグリップを強く握りしめ。

 目の前に居座る、亡霊へと告げた。



「――さようなら。僕はアンタが好きだったよ」



 返る言葉は、無かった。

 死体は大地を蹴って刀を振るう。


 その頭蓋へと、僕は銃口を向けた。



 暗闇に、銃声が響いた。





 この夜。


 僕はこの手で、父親『も』終わらせるのだ。

『人でなし』


……あぁ。そうだよ海老原。

僕もとっくに、人間なんて辞めている。

僕もお前と同類だ。


どれだけ肯定しようと、関係なかった。

兄をこの手で、正義の味方へ突き落とした時から。

僕の手は、もう、家族の返り血で濡れている。


僕が兄を殺した。

僕は人を殺した。

紛うことなき、お前の同類。殺人鬼だ。


だから、迷ってんじゃねぇよ、天守優人。


お前はもう人間じゃないんだからさ。

人間失格の化け物なんだから。


今更、家族の死体を終わらせる……程度で。


揺らぐな。

慌てるな。

心の痛みなんて気のせいだ。


お前はもう、終わってんだから。

人でなし(・・・・)らしく、冷徹に。

既に終わった家族の頭に、鉛玉を叩き込むだけ。


そこに、何を躊躇うことがある。



そう、僕は自分に言い聞かせる。



きっと、悲鳴をあげる心も。

震える膝も、嘘に違いない……と。




☆☆☆




【嘘なし豆知識】(+第二巻補足)

〇天守弥人の執筆活動

弥人は小学生にもかかわらず、様々な本を書いていました。

その多くが精神論や、正義を語る内容でしたが、内容があまりにも完成されていたために、セバスが『これは世に出すべきだ』と周旋へと直訴し、出版に至りました。

その際、弥人は自分の年齢を考慮して『天守周旋』というペンネームを扱うことに。その結果、世間では天守周旋は正義に熱い熱血男、というイメージが根強く定着してしまう。あとからペンネームに気が付いた周旋本人は、ちょっと苦々しい顔をしたとか、しなかったとか。


ちなみに、弥人の書いた本は、選英学園敷地内の書店でも販売しているらしい。

もしかしたら、雨森悠人が目にすることもあるのかもしれません。

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