「へぶしっ!?」
神人試合、第一回戦。
天守恋VS橘月姫。
その勝負はあっという間に決着した。
優人と弥人は頭に手を当ててため息を漏らし、恋は白目を剥いて倒れている。
対する橘月姫は――勝ったにもかかわらず、随分と不満げだった。
「……私の人生史上、最もつまらない戦いでした。語るのも頭が痛くなります」
今回ばかりは、彼女の言葉に一切否定は挟まない。
なんてったって、今回の恋は戦う前から
『いやであります! なんで兄上が参戦しないでありますか! であれば恋もたたかわないであります! 兄上よりよわい私がでるなどはじのうわぬり! 橘にも兄上にももうしわけがたちませぬ!!』
『……恋、いいから戦え。これは命令だ』
『やっとわかったであります! わたしは父上がきらいでありますっ!!』
恋の言葉に、父上が傷ついたように見えた。
天守周旋は間違っている。
というより、彼の『やり方』が僕は嫌だ。
嫌われるのも当然だと内心思う。
……それを本人が自覚しているかどうかは分からないけど。
いつか、彼の間違いは正さないといけない。
不思議と、僕はそう決意していた。
それが拾ってくれた『天守』へと報いることだと思うし。
閑話休題。
最初っからやる気のなかった恋が負けるのは目に見えていた。
父上は見るからに顔をしかめていたが、自業自得である。
だが、彼に焦りはない。
それもそのはず。次の出場者は人類最優と名高いその男――天守弥人だったからだ。
準備体操をする弥人へ、優人が言う。
「負けたら殺す」
「ぶっそうだなぁー。ま、お兄ちゃんとしてカッコいいところ見せてくるよ!」
弥人はそう言ってウィンクした。
対して優人は首を掻っ切る仕草の後、サムズアップを裏返した。
ゴートゥヘル。質の悪い応援に弥人は苦笑い。
けど、いつも通りの優人に見えて、きっと心の中では安心しているんだと思う。
かくして弥人は戦場に出る。
天守弥人。
今まで彼が本気で戦っている場を見たことはない。
逆に、彼の本気を引き出せる相手が今まで一人もいなかった。
そういう意味で、僕は今回の戦いに期待している。
天守弥人。優人が目指す【人類の頂き】。
それが見れるかもしれないからだ。
しかし同時に、なんだか嫌な予感もしている。
橘から出てきたのは、人生を舐め腐ってるとしか思えない少年。
弥人よりも少し年上だろうか。
怠惰という言葉は彼のために在るのかもしれない。
そう思えるような私服姿。
しかしソレでも『格好良い』と思えるのは何なんだろう。
橘家としての優れたルックスか。
或いは――隠しきれないカリスマ性か。
しかし、その少年から醸し出される『やる気のなさ』。
果たして彼を相手に、あの弥人が本気を出せるのか。
そういう意味での嫌な予感。
もしかしたら……いや、普通に考えても弥人の圧勝で終わりそうな感じがした。
「ああ、面倒くさい。一番嫌な奴と当たってしまった」
「ひどいなカッツー! 僕ら親友だろ!」
弥人の言葉に僕と優人は驚いた。
『あいつがカッツーか!』
と。僕も、きっと優人も内心はそんな感じ。
なんだぁ、あの人がカッツーか。
ならいい人なんだろうなぁ。
だとしたら橘月姫はなんなんだろう。一成さんもカッツーもいい人で、アイツだけなんなんだろう。あの一点だけ嫌な奴なのは橘家の突然変異なのかな。
「……失礼なこと、考えてません?」
とか考えていたら背後に突然変異。
がっしりと肩を掴まれたため、僕は笑顔で振り返る。
「そんな事思ってないよ! 失礼なこと言わないでもらえるかな?」
「あら、嘘ですね。私、嘘には敏感なんですよ」
ずいっと橘月姫が顔を寄せてくる。
人形みたいに整った顔が目の前まで来て、僕は顔を逸らした。
「めんどくさいヤツだなぁ。ねぇ、優人もそう思わない?」
「僕を巻き込むな面倒くさい」
優人はそう言って僕らから視線を逸らす。
その様子を見ていた橘月姫は、僕から離れてスススッと優人の傍に寄った。
そして彼の腕を抱くと、これ見よがしに僕を見てくる。
「そうですよ面倒くさい志善様。その面、天守様は素直でとても好ましい」
「ふざけんなよ年増! 優人から離れろ病気が移るだろ!!!」
「志善くん、一応、その子は私の娘なのだが……」
近くから一成さんの声が聞こえてくる。
ごめんなさい、一成さん!
でもあの年増が悪いんです! なに優人の腕に抱き着いてやがんだテメェ! なんだったらここで恋ちゃんの仇を取ってやってもいいんだぞ!! 実際に口には出さないけどな!
「……貴様ら、少しは場を考えて――」
「黙ってもらえるかな周旋」
そうこうしていると、父親同士でバチリと火花が散った。
「といっても、すぐ黙ることになるさ。人類の最高傑作が弥人くんなら、神々の最低傑作と自称するのが私の息子でね。事実、橘において類を見ないほどに才能が欠落した子だ」
「……であれば、間違いなく弥人が――」
「勝つと思うかい? ああ、それが普通の相手ならね」
一成さんはそう言って、苦笑いする。
弥人の強さは間違いない。
が、それはあくまで正統なもの。
決して異端な強さではない、純然たる力の結晶。
天守弥人がそうである以上……一成さんの言葉には重みがあった。
「弥人くんは強い。が、その上で言わせてもらうよ」
僕は、対する二人へと視線を向ける。
やる気満々の弥人と、やる気の感じられないカッツー。
そんな二人を眺めて、一成さんは自信満々に告げるのだった。
「橘克也は強いよ。過去――私が敗れたのは一度だけ、だからね」
☆☆☆
「天守弥人、お前……
試合開始、いきなりカッツー……橘克也は問うた。
その言葉に、駆け出そうとしていた弥人は思わず急停止。
目を丸くして問いに答えた。
「いや、嫌いではないけど……いきなりどしたん?」
「……気にするな。ただの儀式だ」
克也がそう返した――次の瞬間。
何かを感じ取ったか、弥人の背へと白銀の翼が現れる。
左右に対の七翼。計十四翼。
無数の羽が空を舞う。
あまりの美麗さに僕らは絶句する。
けれど、少し遅れて弥人の行動の意味を理解した。
天守弥人。
天能名は【善】
善なる者として不滅であること。
あらゆる負傷、あらゆる異常、あらゆる害悪から身を守り。
遍く善の代行として、十四の権能を自由自在に操る力。
また、十四の権能は個々が僕の天能よりもずっと強く、日を跨ぐ度にまた新たに十四の力を選べるようになる――というぶっ壊れっぷり。初めて聞いた時は目を剥いたね。
「あの弥人が……」
隣で優人も驚いている。
弥人の不滅性は常時発動型だ。
どんな時だろうと、寝ていようとなんだろうと発動している。
が、十四の権能を選択するときだけは、あの翼を出現させる必要があった。
弥人は今まで、あの翼まで出すことは滅多になかった。
圧倒的な身体能力。
恋と同等の戦闘センス。
加えて不滅だ。
殴り合いでだって、彼は異能を使った優人より強い。
――そんな彼が、初手で十四の権能に頼る。その意味。
「……なんだろう、とっても嫌な気配がするね」
「ご明察。正直、私も自分の力を測りかねていてな」
気が付けば。
克也の背後へと、見たこともないシルエットが現れていた。
まるで人形のように細長い四肢。
黒いタキシードを身に包み、顔は仮面で隠されている。
……その姿を見た瞬間。
背筋がーー恐怖に震えたのを自覚した。
『Hey Boy! 楽しくヤッてるかい子供たちィ!』
まるで、自分が下品ですと自己紹介するような声色。
だけど……僕の背筋は凍りついていた。
「なん……っ、な、なんだ、よ、あれ……!」
隣を見れば、優人も似たような様子だった。
橘月姫は頬を引き攣らせ、一成さんは苦笑い。
父上はこれ以上ないってくらいの苦渋を滲ませていた。
「……なんだ、アレは。天能……なのか? いや違う。
「けど、自我の云々が問題じゃないだろう。問題は、あの天能が僕らは『嫌だ』ということ。……そうだろう?」
それは、橘、天守としての本能。
直感的に、アレは嫌だと感じた。
両家が同じく感じているのなら……あれは確実に『良くないもの』だ。あの少年……橘克也が保有する天能は、なにか、絶対に良くないものに違いない。
「……ねぇカッツー、それは何かな」
弥人から問いが飛ぶ。
それに返したのは黒衣の天能だった。
『おうオォウ、随分と敵意を感じるぜぇ! なーにを、こんなちっぽけなピエロに向かって本気になってるんだかネェ? なぁ、
「……その名で呼ぶな愚図が。そして弥人、貴様のせいでこの変態が変な言葉を覚えただろうが」
「えぇ……」
弥人が困り顔を浮かべる。
その中で、黒衣の天能は周囲をキョロキョロと見渡している。
僕や優人、月姫とも目があった気がした。
仮面を被っているため正確には分からないが、僕らを見たのだろうと、それだけは何となくわかった。
『なーるほどォ、今回の敵はこの坊ちゃんってことネ! イヒヒヒヒ! イイんじゃネェーの? イイじゃネェーのぉ! 圧倒的格上にぶちかます余裕! 絶望的な力量差を覆すためのギャンブル! そういうのは大好物だぜェ!』
そう笑い、その化け物は両手の指を鳴らす。
そのまま弥人を指さしたソレは、意味不明なことを言い出した。
『【あっち向いてホイ五回勝負】、今回の賭けはそれで行こう!』
依然、弥人が負けるとは思えないけど。
……僕の心の中には、嫌な予感が募りつつあった。
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