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新聞やテレビで、「法廷画」を見たことがあるという人は多いでしょう。
日本の裁判は撮影が禁じられ、報道目的でも、許可されるのは審理が始まる前だけです。法廷画には、文字だけではわからない法廷の雰囲気を伝える目的があります。
どのように描かれているのかはあまり知られていないかもしれません。平成から令和にかけ、30年以上裁判を見つめてきた法廷画家の竹本
先月25日に死刑が言い渡された京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判。竹本さんは昨年9月の初公判以来、京都地裁に連日足を運び、計40枚近くを描きました。
通常の裁判では、傍聴席でスケッチブックを開きます。しかし、京アニ事件は傍聴者が多数に上ったため、ほかの画家と席を共有し、短い時で5分ごとに何度も入れ替わる必要がありました。それでも、絵からは、被告の特徴だけでなく、内面も伝わってきます。
判決を言い渡され、うつろな目で背中を丸める被告。被告人質問で身ぶり手ぶりを交えて
「人の感情というのは、指先の動きや立ち方、脚のそろえ方、服のしわにまで表れます。声のトーンからも心の内を探ることができます」
締め切りに間に合うよう速さも求められます。かかる時間は色つきでも40分ほど。見たままを「描き写す」のではなく、いったん記憶してから「描き起こす」ことが速く描くコツだそうです。
イラストレーターだった竹本さんが、仲間の紹介で初めて法廷画を描いたのは1991年。それ以来、事件史に残る数々の裁判を見てきた中、特に印象に残っているのが、大阪教育大付属池田小児童殺傷事件の宅間守・元死刑囚(2004年に死刑執行)です。
元死刑囚は判決言い渡しの際、法廷で暴れ、刑務官に囲まれて退廷させられました。「わずか1分ほどでしたが、とにかく冷静に観察し、起きたことを描くよう集中しました」と振り返ります。
日本の報道で、法廷画が広く使われるようになったのは田中角栄・元首相のロッキード事件の初公判(1977年)からとされます。当時は法廷でメモを取ることも禁じられ、画家は傍聴した後、法廷の外で描きました。89年の最高裁判決でメモが許され、スケッチもできるようになり、90年代に法廷画が定着しました。それだけ、法廷の様子には社会的関心があるのでしょう。
私は裁判の取材を長く担当してきました。つい手元のノートに集中しすぎ、法廷内での出来事を見逃すことがあります。いつも竹本さんの絵にはハッとさせられます。
来月には73歳になる竹本さん。「気がつけばずいぶん長いこと続けてきたが、法廷画の仕事は生涯続けていきたい。そのためには健康でいないとね」と優しく笑いました。
裁判記事を読む際は、ぜひ法廷画にもご注目ください。
【今回の担当は】杉山弥生子(すぎやま・やえこ) 広島、京都、大阪で司法を担当。法廷では、速くメモを取るため、いつも同じペンを使う。
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