次期戦闘機の第三国への輸出を認めるかをめぐって、自民党と公明党との間で、意見の対立が深まり、自民党内からは連立関係に影響しても容認すべきだという強硬な意見も出ています。なぜいま、戦闘機輸出の結論が求められているのか、与党内の意見の対立の背景はどこにあるのか、考えてみたいと思います。
(グローバル戦闘航空プログラムGCAPとは)
戦闘機には、飛行性能や戦闘システムなどから「世代」があり、現在、日本が配備を進めているF-35は第5世代に分類されています。世代が新しい戦闘機が圧倒的に有利とされる一方、開発には膨大な費用がかかるため、日本は、コストとリスクを分担するため、同じ時期に新しい戦闘機の配備を目指していたイギリス・イタリアと第6世代の戦闘機を開発することにしています。
去年12月、日本を含む3か国は、開発の司令塔となる機関を設立する条約を結び、開発に向けた具体的な手続きに入りました。本部はイギリスに置かれ、早ければことし秋にも設置される見通しです。
(なぜいま、第三国輸出が求められるのか)
次期戦闘機など共同開発した装備品の第三国への輸出をめぐり、政府は、2月末までに、与党に結論を出すよう求めています。与党間で難しい調整が求められる課題で、なぜ、政府は、結論を急いでいるのでしょうか。
防衛省は、日本が、他の2か国と対等な立場で開発に携わるには、第三国に完成品を輸出できる枠組みを整えておくことが必要だとしています。3か国だけでは調達数が300機程度にとどまるとの見方を踏まえ、イギリスとイタリアは、輸出による量産を通して、1機当たりのコストを抑制したいと考えています。防衛省によりますと、2か国の国防大臣からは、輸出の重要性や、平等なパートナーシップで貢献する必要性が伝えられているということです。このため、日本が輸出を認めないことになれば、コスト抑制に後ろ向きと受け取られ、不利な立場になると懸念しています。
では、具体的にどのような不都合が考えられるのでしょうか。
3か国の間では、これから、機体の要求性能やどの国が機体のどの部分を担当するかなどをめぐる協議が本格化する見通しです。
防衛省幹部は、戦闘機の開発においては、相手の戦闘機への対応、「対空能力」をより重視するのか、それとも、地上への対応、「対地能力」をより重視するのかという課題があり3か国の間では、求める性能に違いがあると指摘しています。
日本は、専守防衛の立場から、相手の領域に戦闘機を送ることは想定せず、むしろ、「航空優勢」、味方の航空機が大きな妨害を受けることなく作戦を実施できる状態を確保するための「対空能力」を重視しています。そして、中国などを念頭に、数の上で圧倒的に不利な状況で、1機で複数の戦闘機に対応できるよう、多くのミサイルを積むことができる能力や、より遠方から相手を見つけ出せるよう高出力のレーダーが不可欠だとしています。
一方、イギリスやイタリアは、ロシアを脅威ととらえており、地上の敵への対応、対地
能力を重視しているとみられています。このため、地上を攻撃する爆弾を多く積むことができる能力や、地上の状況を把握する多くのセンサーを機体の下部に取り付けることを求める可能性があるとしています。
また、どの国が機体のどの部分を担当するかの協議において、日本は、エンジンや機体構造の軽量化などの開発を主導し、国内の防衛産業の強化を図りたいとしています。
機体にどのような性能を盛り込むのか、どの部分をどの国が担当するのかの協議は、各国の国益のせめぎあいでもあります。防衛省は、他の2か国と対等の立場で協議に臨みたいとして、協議が本格化する来月までに、与党内で結論を出すことを求めています。
(慎重な姿勢の公明党 与党内の話し合いの行方は?)
ただ、与党内の協議は停滞しています。
与党は、去年4月から、「防衛装備移転三原則」の見直しに向けて実務者協議を行い、7月には、次期戦闘機を念頭に、共同開発した装備品を第三国に直接輸出することについては、「認める意見が大半を占めた」とする論点整理を行い、容認する方向で一致していました。
しかし、11月になって、公明党内では、幹部を含めた協議で、「殺傷能力のある装備品は第三国に輸出しないというのが基本だ」として、容認できないという立場が確認されました。
このため、12月の「防衛装備移転三原則」と運用指針の改正の際には、共同開発した装備品の第三国輸出についての結論は先送りされました。
自民党内では、容認したはずの結論を反故にされたという受け止めがひろがり、「連立にひびが入ってもやるべきだ」などと、強硬な意見や公明党への反発が出ています。
一方の公明党では、連立を組む自民党が、政治とカネの問題で国民から厳しい目を向けられる中、「平和」という党の理念に関わることで妥協すれば、支持を失いかねないという危機感もあったものとみられます。
今週13日、岸田総理大臣は、公明党の山口代表と会談し、今後の検討は、実務者の枠組みから政務調査会長どうしに格上げして行うことで一致しました。月末が近づく中、協議を仕切りなおした形ですが、今の時点で歩み寄りは期待できず、今後の見通しは立っていません。
(問題の所在と今後の見通し)
与党内で意見が対立する背景は、どこにあるのでしょうか。
政府は、おととし、国家安全保障戦略を改定し、この中で、防衛装備の海外への輸出について、「力による一方的な現状変更を抑止して、望ましい安全保障環境の創出のための重要な政策手段となる」と位置付けました。
これを受けて去年改正した「防衛装備移転三原則」では、「平和国家としての歩みを引き続き堅持しつつ」、「官民一体となって防衛装備の海外移転を進める」としています。
このため、与党内で意見が対立する背景には、殺傷能力の有無を中心に、どの範囲の装備の輸出であれば、平和国家の理念に反することなく、望ましい安全保障環境を創り出すことに役立つのかについて、認識が一致していないことがあります。
では、次期戦闘機の輸出が与える影響について、両党はどうとらえているのでしょうか。
日本は、次期戦闘機を東南アジアなどに輸出することを検討するものとみられています。これは南シナ海などで中国の力による現状変更の試みが続いていることが背景にあります。中国は、南シナ海のほぼ全域に権利を主張しており、南沙諸島では大規模な埋め立てを行って滑走路などを建設しています。防衛省は、今後、中国がこうした拠点を利用して、航空戦力のプレゼンスを強めることを懸念しています。
自民党では、周辺の東南アジア諸国で戦闘機を防御的に活用する国に輸出すれば、国際紛争を助長することなく、望ましい安全保障環境を創り出すことつながるという見方が多くあります。
一方、公明党では、装備が輸出先の国でどう使われるか、完全にコントロールすることはできず、望ましい安全保障環境につながるか疑問だとみています。さらに、戦闘機の輸出を認めれば、装備輸出の歯止めは、事実上、なくなり、平和国家の理念に反する恐れがあるとしています。
岸田総理大臣は、国会で、「国際共同開発・生産に幅広く取り組むことが国益にかなう」と述べ、政府の立場に理解を求めました。
ただ、NHKの世論調査では、次期戦闘機など他国と共同開発した防衛装備品の第三国への輸出を認めることに、賛成は31%、反対は51%で、輸出に国民の十分な理解が得られている状況にはなっていません。
(まとめ)
次期戦闘機の第三国への輸出を容認するかどうかは、戦闘機開発への影響の問題にとどまるものではなく、戦後の平和国家としての歩みと、望ましい安全保障環境を創り出すこととの両立は可能かが問われている難しい課題です。政府や与党には、国会などを通して、課題への国民の理解を深める丁寧な議論を求めたいと思います。
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