第1回 小山薫堂さん、自分の生っちょろさを知る
 
  (小山薫堂さんプロフィール)

糸井 小山さんとは、間接的には
色々とご縁があるんですよね。
フジテレビでやっていた
「テレビブックメーカー」(※註1)とか。
あのときは小山さんですよね?

※註1 テレビブックメーカー
1991年4月~1992年3月まで放映された
フジテレビの深夜番組。
出場者は「カノッサ」と言う単位の架空の貨幣をもらい
その貨幣を使って ある出来事の結果を予想しギャンブルをする
といった内容であった。
ちなみにdarlingはレギュラー出演者の一人。
最終的に、最高カノッサを獲得したことが本人の自慢。
また、ツキのないときに、芸名として
「糸井重里7」だとか「糸井重里777」などという
みもふたもない名前を名乗っていた。
小山 そうです。
糸井 あれは、えっらい大変だったでしょう?
小山 ええ。でも、けっこう楽しかったですけどね。
糸井 フジテレビの、深夜枠を開拓する部隊の…。
小山 の、ひとり、みたいな。
ええ。そういう感じです。
糸井 いや、その話はあんまり関係ないかもしんないけど、
ちょっと面白いなと思って。
深夜にこう、荒野があったわけですよね。
そこの砂漠みたいなところに、
パイオニア部隊が乗り込んで行ったわけですよね。
小山 ええ(笑)。
糸井 あのときがデビューなんですか?
小山 あのときが、まあ、デビュー直後ぐらいですね。
大学卒業したときが、
大学4年のときに放送作家になったんですけど、
そのとき最初、
「11PM」(※註2)だったんですよ。

※註2 11PM
お若い読者の方のためだけにあえて説明すると

1990年3月に終了した
日本テレビ放映のあまりにも有名な深夜番組のこと。
大橋巨泉さんによる
「野球は巨人、司会は巨泉」のフレーズは
ここで生まれた。
シャバダバシャバダバ~♪
糸井 誰の司会のとき?
小山 吉田照美さんですね。
で、僕、吉田照美さんのラジオ番組を
ずっとやってたんですよ、
その縁で「11PM」をやることになって。
糸井 はぁー!
小山 で、しばらくしたら、深夜で。
糸井 深夜開拓部隊に?
小山 ええ開拓部隊に(笑)。
なんか、入ることになり。
今もずっと深夜やってるんですけどね。
糸井 え?今はなんですか?
小山 今はフジテレビ、
「禁じられた遊び」
(※註3)っていう、
篠井英介さんっていう役者さんがやってる…。


※註3 禁じられた遊び
毎週木曜日フジテレビ系列で
深夜24時40分より放映中。

http://www.fujitv.co.jp/jp/b_hp/kinasobi/
糸井 観てます!
小山 え?ほんとですか?
糸井 僕は、深夜はつけっぱなしですから。
スポーツニュースの「すぽると!」後は。
ずっとつけっぱなしで、基本的には何があろうが、
ずーっと8チャンネル(フジテレビ系列)でフィックスです。
「カノッサの屈辱」(※註4)あたりは
作家としてやってたんですよね?

※註4 カノッサの屈辱
1990年4月から1991年3月までフジテレビで
放映された深夜番組
現代風俗を歴史の教科書風に紹介するという伝説的深夜番組。
記念すべき第一回目は日比谷エジプト文明から始まる
「近代ホテル文明の成立」であった。
小山 ええ、「カノッサの屈辱」は
やってました。
糸井 データマン的な人は、いた?
小山 各回でいましたね。
ビールやるときは、ビールの専門家に、
やっぱり入ってもらって。
それはやっぱり、そういう方がいないと、
なかなかわかんなかったりしましたし。
糸井 ふーん。その流れで
「料理の鉄人」(※註5)みたいな深夜っぽいやつが、
ゴールデンに移動していったりもして。

※註5 料理の鉄人
あえて説明すると
“美食アカデミー”の
主宰・鹿賀丈史が国内外から
超一流シェフをキッチンスタジアムに招き、
和・フレンチ・中華・イタリアンの鉄人に料理の腕を競わせる。
毎回、異なるテーマ素材が与えられ、
1時間で料理を完成させるのがルール。
1999年9月に終了。
小山 そうです。


日本中の人が観るべきだっ!
糸井 僕が小山さんの名前をテレビのエンドロール字幕で
気にするようになったのっていうのは、
やっぱり深夜だったと思うんです。
そこでこの「人間は何を食べてきたか」という
ビデオの登場について顛末をお話すると・・・。
同じように夜中にテレビ観る人っていう中に、
たまたま宮崎駿さんがいてですね。

これを観ちゃったんですよね、この番組。
すげぇ!って思って。ぜんぶ観た、と。
で、これがそのまま、
オンエアされて消えて行くのか、
って思ったら、
「日本中の人が観るべきだっ!」
っていうふうに思ったらしいんですよ。
小山 はぁー!
糸井 で、「あれの権利はどうなってるんだっ!?」
「うちで買えっ!」
ってことになって。
で、普通だったら、
まあ、シルクロードとかは別として、
ビデオやDVDにならないようなものだと思うんですけど。
小山 ええ
糸井 あの、宮崎さんが、
えらく気に入っちゃったのが原因で、
「糸井さん、あれは観ましたか?」
とか言われるようになって。
ジブリとつき合いのある人たちの間で、
大評判になったわけです。
そしてついに、こういうかたちで出ることになった。
僕も、
「観たら面白いだろうな」
って思ったんですけど、観る機会が無いじゃないですか。
で、こうやって発売されることになって、観たら、
「ほんとだ!、面白い」と。

だいたい、ドキュメンタリーのソフトを、
うちで買って観るっていうのは、
かなりの冒険だと思うんです。
小山 これ、幾らするんでしたっけ?
糸井 DVD8巻、全巻合わせると39,480円。
小山 (笑)かなりの投資ですよね。
糸井 うん。「北の国から」だったら
買いやすいんですけども。
小山 ええ(笑)。
糸井 これを買うっていうのは、
常識的には、ありえないくらいのことですよ。
でも、発売したいって、
宮崎さんが熱をこめて言ったときに、
みんなが、ほんとかなぁ、と
とりあえず観たんです。
ここで、大人たちに興奮が「おおっ!」と感染した。
発売元は
ブエナビスタホームエンタテイメントなんですけど、
ここをも巻き込んじゃったわけですね。
僕も、これがどう売れるかっていうのが、
ものすごく楽しみになっちゃって。
実際にいいものだけど、売るってのは常識の外ですから。
小山 ええ。
糸井 で、ちょうど時代が、
「食い物」に向いてるんだ、
っていう気がすごくするんですよ。
小山さんは放送作家って立場だけど、
やっぱり「食い物」のところに、
知らず知らずのうちに寄ってきてるよなぁ
って思って。
小山 あぁ(笑)。
糸井 で、「食い物と私たち」について、
ここでは話をしようと。
小山 はい(笑)。
糸井 で、まあ、総論的なことを先に言っちゃうと、
ひとつは、食いしん坊の流れがありますね。
小山 ええ。
糸井 で、もうひとつは、
エコだの農業だのの絡んだ、
こう、「食い物」の生産現場の話で。
小山 はい。
糸井 これはどっちかっていうと
生産現場寄りのシリーズなんですけど、
どっちからでも食い物に行っちゃうっていう、
いま時代のムードがあるんですね。
小山 ええ、ええ、ありますね。
糸井 で、これ、ご自分の体験に合わせて、
「食い物と私」の話から入ってこうかな、って。
小山 (笑)はい。

女を口説くための武器
糸井 で、小山さん、もともと、
「食い物」との繋がりは、
何かこう、大転換点みたいなものはありましたか?
小山 えー、ま、転換点、
ふたつ自分の中にあると思うんですけど、
ひとつは、ホイチョイの馬場さんの
あれ
(※註6)じゃないですけど、
女を口説くための武器になるっていうところの
「食い物」、が最初ですね。


※註6 ホイチョイの馬場さんのあれ
『東京いい店やれる店』/小学館
誰と食べるかという視点を欠いたレストラン本と、
デートの基本である食事を軽視した
マニュアル本を、統合。
デートアイテムとしてのレストラン本、
54章360店を網羅。
糸井 なるほど。「店」からですね。
小山 店というか。ええ。
デートの舞台としての店というところと、
で、そのあとに「料理の鉄人」という番組をやって、
料理人の生きざまという意味での「食い物」。
糸井 はぁ、はぁ。
小山 で、あの、
絵画を鑑賞するようなもんだと思うんですね。
糸井 うん、うん。
小山 芸術家の作品を鑑賞するのに
近い楽しみ方があると思い、
それで、最近はずっと、
ま、それ以来、
ずっとそういうふうに来てたんですけど。
この「人間は何を食べてきたか」を観てですね、
いかにその、自分がこう、
生っちょろいところで、
生きてきたのかっていう(笑)。
糸井 これを観たら
みんな思うと思う(泣笑)。
小山 と思いますよね。
糸井 思う!

小山 これ観ると。
だから僕、半分面白いと思う反面、
すごく後悔したんですよ。

これを観てしまったら、
「じゃあ明日は、ロブション
(※註7)のとこ行こうかな?」
っていう気には、ならないですよね(笑)。


※註7 ロブション
超がつくほど有名なフレンチシェフ、
ジョエル・ロブション氏のお店である
東京は恵比寿にあるシャトーレストラン
「タイユバン・ロブション」のこと

http://www.global-rights.co.jp/ROBUCHON/
糸井 それ、だけど、
矛盾そのものなんだけども、観てしまう。
その、方向に行ってますよね、状況は。
小山 ええ。
糸井 観たいんですよね、また。
小山 観たいですね。
糸井 やっぱりその、
鉄人よりも、ナンパ…。
小山 ですね、最初は。
糸井 ナンパ・グルメっていうか。
それは、気づくきっかけとか、
あったんですか?
小山 気づくきっかけですか?
糸井 やっぱ、「女は食いもん」だ、みたいな。
小山 「女は食いもん」(笑)。
「女は食いもん」だ、はですね、
デートするという言い方を、よくしますけど、
じゃ、デートっていうのは、
いったい何なんだって、
突き詰めていくじゃないですか。
そうすると結局、
男は最後にセックスに持っていくための
過程でしかなくて、

その、途中で、
車に乗ってる、映画を観ている、
とかっていうときに、
結局クライマックスっていうのはその、
食のところになると思うんですよ。

その食が、うまくいくかどうかで
次の、最終目的にいくことを考えたときに、
いかに良い映画を観せるかとか、
いかに良いドライブコースとかっていうのも
大切なんですけど、
結局はその、
最後のホップ・ステップ・ジャンプの
ジャンプが食なんで、
そこをいかに押さえるかという。
糸井 そうですねー。
そんなことを思うには、失敗があったという…ことも?

(つづきます)


第2回 失敗というよりは
   良い見本を見せてもらいました

 
  (小山薫堂さんプロフィール)

小山 失敗ですか?(笑)
失敗は…そうですね、
失敗というよりも、
良い見本を見せてもらったっていう。
糸井 うまくやってる人(笑)。
小山 ええ、うまくやってる人。
その方は不慮の事故で亡くなってしまったんですけど
かなり、影響を受けたんですね。
例えばワインを、
良いワインを飲むということの意味とか。
糸井 うんうん。
小山 それまでは、
まだ若かったっていうのもあるんですけど、
ぼくには、1本3万円のワインを飲むなんて、
考えられないわけですよね。
「1本3万円!?」って。
「この人、頭おかしいんじゃないの?」

って思ってたんですけど、
いざ、その世界を知ってしまうと、
非常にそれが…。
糸井 納得のいく(笑)。
小山 ええ。納得のいく。
糸井 1本3万円のワインに、
インパクトを受けたときは、
まだ学生だったんですか?
小山 もう学生ではなかったですね。
学生から、もうちょっと経ったぐらいですね。
それまでは
サントリー・マテウス・ロゼ
※註1)、1,350円」
とか、そういうものが、ワインなんだと。
ワインというだけでもう、
ハイカラな感じがあって。


※註1 サントリー・マテウス・ロゼ
1942年より販売されている
ポルトガル産のロゼワイン。
ほのかに甘い口当たりで、
軽く炭酸を含んでいるのが特徴。
ちなみに現在は750mlで950円と
当時よりも安くなってたりもする。
糸井 うんうん、悪くないぞ、みたいな。
小山 ええ。だったんですけど。
糸井 それがもう、
今まで飲んでいた物が
これはワインじゃないとさえ
思っちゃったりするわけだ。
それは、ショックですよね。
小山 ええ。
糸井 価値観、変わっちゃいますよね。
小山 そうですね。
糸井 そこで、考え続けるのが嫌だと思った人は、
その「デートな世界」から降りてしまうわけですよね。
ここ、いま女性にこうやって囲まれてるから(※註2)
言いにくいけども、
めんどくさいデートのノウハウなんか捨てて、
一気に風俗に行って帰って来るみたいな。


※註2 女性にこうやって囲まれてるから…
アルバイトも含めて
東京糸井重里事務所で働く、男女比率は
女子12名に対して男子が7名と
圧倒的に女子が多い。
この対談当日はテープ起こし担当も含め
4名の女性スタッフが同席していたのでした。
「一気に風俗に行って」という発言の前には、
さすがのdarlingでも、いったん間があった。
小山 あははっ!(笑)
糸井 そもそも、俺は何がしたかったんだ?!
って思ったら…。
小山 ええ、なるほど。
糸井 そういう一派もいる、と。
デートの世界の段取りじみたところをショートカットして、
したいことだけをするっていう方に行く「硬派」も、ね。
いるんですよ、やっぱり(笑)。
若い男にとって、かなり大きな分岐点だと思う。
そして、若かりし小山さんとしては
「硬派」じゃないほうの、デートの世界を選んだ。
ゲーム性の方に・・・。
小山 ええ、ゲーム性ですよね。
キャッチ&リリースみたいなもんですよ(笑)。
糸井 うん。要するに、
俺は漁師じゃないと。
小山 ええ、僕もキャッチ&リリースじゃないけど、
食べなくてもいいんですよ、ほんと。
その、相手の心に入ったって思ったら、
僕はそれで満足できるんですよ。
糸井 はいはい。
小山 そういう意味では、
もしかしたら、
恋愛を、恋愛体質でありながら
恋愛体質じゃないところが、
自分でも、あると思うんですけど。
もう相手が自分のことを好きになった瞬間に、
僕はもうこの人のことはどうでもいいやって、
よく思うタイプなんですよ。

生活力そのものの
プレゼンテーションですよね
糸井 見事にキャッチ&リリースですねー。
いま聞いてて、
すごく良くわかったんだけど、
デートっていうものの分析から
見事だと思うんだけど、
ドライブっていうのは、
自分の持っている世界の距離感っていうか、
2次元的な能力を示しますよね。
小山 2次元的な(笑)。ええ。
糸井 つまり、どこかに行こうと思えば行けるっていう、
「このエリアの中で俺は生きてるんだぜっ!」
っていうプレゼンテーションですよね。
小山 平面な感じが。
糸井 そう、平面な。
そこから、
山に登ろうって思って初めて、
そこで俺の行動エリアは、
つまりローマ帝国なのか、
モナコなのかってことが
わかるわけですね。
で、映画を観るっていうことは、
「俺の内面世界」が
プレゼンテーションされるわけですよ。
小山 (笑)なるほど。
糸井 「俺はこういう感情を持っているから、
 お前との関係は、
 エモーションの部分で、このように展開されるであろう」
っていうプレゼンテーションで。
小山 うん、なるほど(笑)。
糸井 で、食の部分っていうのが、
なぜ、クライマックスになるかっていうと、
「俺が獲って食えるものはこれだ」
「おまえに、この獲物を分けてやるんだ!」
っていうことだから、
生活力そのもののプレゼンテーションですよね。
小山 あぁ…。
糸井 で、そこに、あの、臨時ではあるけれども、
召使いが、
「いかがいたしましょう?」って来てくれたり、
料理人がついてくれるわけです。
「俺の力」を表現するのには、
前の方の空間処理だとか、
エモーションだとかはともかく、なんで。
オスの力量見れるのは食いもんですよね(笑)。

小山 あーっ!、そうですね。
その、お店のスタッフとの
やりとりの妙ってありますよね。
糸井 あそこ、上下関係が見えちゃうんですよね(笑)。
店で、客がペコペコしてたら、
それはたまたまそのエリアに迷い込んできた、
ハイエナのような食い物の取り方(※註3)ですよね。

※註3 ハイエナのような食い物の取り方
ハイエナはライオンの
食べ残しをあさることでも有名。
しかも、ライオンが食べ終わるまで
「じっと」待ってたりもする。
小山 はい。
糸井 理想は、ライオンのように食い物を獲る(※註4)っていう、
その、生活力を見せる場面なんだ。
「強いわ」だし「頼りになるわ」だ、と。
そこに!ベッドという・・・
性を含む結婚の儀式が、成立する(笑)。

※註4 ライオンのように食い物を獲る
ライオンは百獣の王だけでなく、
ハイエナを追っ払って
獲物を食べることでも有名。
小山 成立する(笑)。
糸井 それを、若い人だとかデートの達人は、
色々ちりばめながら、
やってるんでしょうね。
「食い物」がクライマックスだって
ところでもう、今日の結論ですよね。
小山 でも、この「人間は何を食べてきたか」を
観たらもう全てが、
「ごめんなさい、
 もう、申し訳ありませんでした」
って言いたくなる(笑)。
僕の考えは間違ってましたって(笑)。
糸井 「いままで自分が言ってたようなことは、
 バーチャルだぞっ!」
って話でしょ?
小山 ええ、
ほんとそうですね。
糸井 例えば、グランドの上で戦争ゴッコをしてる
サッカーの選手と、
現実の戦争をやっている軍人が出会ったような(笑)。
サバイバル・ゲームで、
エアガンをパンパン撃ってるやつだとか。(笑)。
でも、サバイバル・ゲームの中にも、
やっぱり本能のしっぽというか、
生き物性のしっぽがあるような気がするんで、
それはそれで間違ってはいない、と思うんですよね。
命懸けてる職人さんとかを
見ちゃうと、やっぱり
見入っちゃうじゃないですか。
小山 はい、そうですよね。

俺、何のために食べてんだろうなぁ
糸井 この「人間は何を食べてきたか」という
ビデオを見た時、嫌じゃなかったですか?
小山 僕は、最初に観たときに、
むしろ、放送作家なんで、
テレビとしての
作りの方が気になったんですよ、
「うわっ、あおりも何にもなく平坦な
 この、作り」(笑)とか
「なんで、いきなり
 この何とか地方って
 いうとこから入るんだろうなぁ」
とか。
糸井 説明抜きだもんね。
小山 当たり前のように入るじゃないですか。
リマがどうのこうのとか。
糸井 うん、うん。
小山 テロップなんかも
「中途半端な手書きだなぁー」とか。
そういうほうに、僕は最初行ったんですけど。
その、何て言うんでしょうね、
結論は決して、深くは言わないけれども、
考えるきっかけは
与えてくれる作りだなと思ったんですよ。

僕はよく言うんですけども
今のテレビってもう、
視聴者に対して甘すぎるというか…。
糸井 「この1行だけは憶えといてね」、
っていう1行、強調して書きますよね。
小山 ええ。(笑)とか、
とにかく手取り足取りぜんぶ、
やってくれるっていうのが
今のテレビだとすると。
これはどっちかっていうと、
ほったらかしにしといて、
「お父さんのやることを見ていなさい
 お前はいま何を感じたんだ?」

みたいな感じのつくりになってるんで、
それが、いいなっていうか、
こういう番組って大事だなっていう気が、
先ず、そっちの方が先に感じたんですよ。
で、そのあとに、
あの、何でしょうね、
もう、ごめんなさいっていう、
「俺、何のために食べてんだろうなぁ」
っていう、
ちょっと哲学的なほうにいきますよね。
糸井 あの、嫌だっていう思いと、
もっと見たいって思いが、
ずーっと続きますよね。
小山 ええ。
糸井 小山さんが「料理の鉄人」を
やっていた頃っていうのは、
知識がどんどん増えてく時期ですよね。
食の豊饒さみたいなものが、
いちばん手に入れられる場所にいて、
どんどん手に入れてく時代に、
食に対してどんなことを考えていましたか。
先ずは、のめり込んでいったんですか?
小山 そうですね、
やってくうちに、
そのときはどっちかっていうともう、
必然的に勉強しなきゃいけなかったりとか、
あと、何にもやんなくても
色んな情報が入ってくるじゃないですか。
「ここにこんな料理人がいて、
 こんな人生を送ってきて」とか。
番組やってると、
「こういうテクニックがあるんだ」
っていうのがわかるんで、
そういう環境にいたんですけど。
この「人間は何を食べてきたか」を観て
そういうことを知る前に、
「もっと大切なことがたくさんあるんだな」
という気がしましたねぇ、これは。
糸井 うんうん!
小山 だから、
食の文明の速度が
時が経つにつれてだんだん進化しているとすると、
それまで、なだらかに変化してきたものが
ここ20年とか30年の間に
急激なスピードで変化を起こしたような
気がするんですよ。
糸井 うん、そうですね。
小山 急激に変化しだした時の、
それ以降からしか、ぼくは見てないから、
根底に流れる「それ以前」っていうものが
ぜんぜん入ってないっていう・・・。
糸井 よく僕ら、冗談みたいに言うんですけど、
コレステロールの摂りすぎが問題になっているけど、
コレステロールを自由に摂れるようになったのって、
ここ30年以内なんですよね。
小山 あぁ、そうでしょうね。
糸井 それまでは、足りなかったわけで。
そのコレステロール(※註5)が美味しく感じるから
みんな摂るわけですよね。

※註5 コレステロールとテレビ番組
ちなみに「発掘!あるある大事典」において
コレステロールが取り上げられた回数は
24回にも及ぶ。
そのほとんどが「この●●(食品)が
コレステロールの低下に効く」という内容。
小山 ええ。
糸井 コレステロールって必要だし。
それが足りないからって、
みんながガツガツ摂って、
一気にこう、肥満だとか
動脈硬化だとかになってるわけで。
そういう豊かさゆえの問題が起こってきたのは、
ここ、たった30年だっていうのは、確かなんです。

(つづきます。)


第3回 食の知識と鑑賞力
 
  (小山薫堂さんプロフィール)
糸井 今、食のデータの収集っていうのは、
食いに行くことと、
書かれてあるものを調べるのと
両方やってると思うんですけど、
そうやって知識が増えた上で、
食いに行った時、
びっくりすることって、
増えていくんですか?
それとも減っていくんですか?
小山 増えていくのかも知れないですね。
今まではまったく気づかなかったけれども、
知識を得たことによって、
それが驚きになるってことがあるじゃないですか。
例えばこのうな重
※註1)を、
何も知らなかった頃には、
「うな重、うまいな!」しかなかったのが、
うなぎの種類を知り、
さばき方を知り焼き方を知ることによって、
「おっ、ここはこれやってんだ」
とか、そういう、
気づくチャンスがやっぱり増えますよね。
そういう意味では増えてるんだと思います。


※註1 このうな重を
この日の夕ご飯は、
お客さま向けに「うな重」をチョイスした
ほぼ日スタッフであった。

糸井 それはスポーツ観戦なんかでも、
まったく同じですよね。
小山 あぁ、そうですね。
糸井 同時に、その驚きが増えてくんだけど、
からだ全体が震えるような感動っていうのは
やっぱり、減りますよね。
小山 あぁ!うん。
糸井 もしかしたら総量としては、
同じなんじゃないか?と思うんです。
性欲に例えたらもっとそうだけど、
「やった!」
ってだけで嬉しい時期があって、
だんだんそうじゃなくなりますよね。
どっちがいいんだろう?
何もしなかった方がいいんじゃないか?
って考えてしまうような。

鑑賞力がないと、感動しない
小山 (笑)うん。なるほど。
僕、若い人を食べに連れて行くのが好きなんでけど。
「初めて食べるものを食べる人」を見るのが好きなんです。
スキーに行くときに、
初心者のスキーヤー連れて
上に行くの楽しいじゃないですか。
あの要領で、
初めてフグ食べさせるとか、
初めてしゃぶしゃぶを食べさせるとか。
そういうことが好きなんです。
うちのラジオの番組
※註2)のADの女の子が、
肉が大好きな25才なんですけど、
しゃぶしゃぶをまだ食べたことがないらしいんです。
一度、食べてみたいって言うから連れてったんですよ。
で、こうやって肉をつまんで、
こうやって食べるんだよって教えたら、
ものすごく嬉しそうな顔をして、
食べるわけですよね(笑)。
それを見ると、なんか幸せな気分になるんです。
自分が忘れていた何かを、
そこに、発見できたみたいな。


※註2 うちのラジオの番組
現在、小山さんが出演されているラジオ番組は
FMヨコハマ(土)9:00~11:00オンエアの
「Future Scape」
J-WAVE(土)18:00~18:54オンエアの
「AJINOMOTO 6pm」の2つ。
「土曜日の声は小山薫堂に限る」という人も
いるとか、いないとか。
糸井 それはもう、ポルノですね。
小山 (笑)いいですよ。
糸井 その気持ちは、僕にもわかるわ。
僕も同じようなことしてるんだけど、
一つ気づいたことはやっぱり、
「相手に鑑賞力がないと、感動しない」
っていうことなんです。
よく言うんですけどね、
川久保玲(※註3)が作ったものを、
田舎のおふくろのおみやげに持ってっても、
困るじゃないですか。
そのADの彼女のしゃぶしゃぶでも
「しゃぶしゃぶを食べた」って楽しみだけであって
こっちは
「こないだの肉はどうだ?とか、
 今度の肉はこんなこんな肉だ」とか
比べてた上で
「すげーっ!」て言ったときに、
相手はただ、
「旨いっすよね」言われても
その「旨い」に心がこもってないっていうか。

※註3 川久保玲
69年、"コムデギャルソン"の名で
婦人服の製造販売を開始。
名前の意味は"少年のように"。73年、会社設立。
服飾の既成概念を崩した非構築的で斬新な表現手法は、
多くの外国人デザイナーにも大きな影響を与えた。
洋の内外を問わず、根強い人気を誇る。
darlingの着ている洋服のほとんどは
このブランドであることが多い。。
小山 (笑)それ、頭きますよね。
糸井 うん。頭にくる!
けど、しょうがないですよね。
でも、俺は、どっかに
「あっ!こないだのと違う!」
口先じゃなく言える才能があるやつが
いるんじゃないかと思うんです。
小山 ええ。
糸井 打ち震える才能があるやつが、
いるんじゃないかって。

自前で食ってないとダメですね
小山 そうですね。
若いテレビADの、男の子だったんですけど、
「肉が好きだ!焼き肉が好きだ!」
って言うから、
虎の穴
※註4)に連れてって。
料理長に、
「もうとびっきりのヤツ、出してくれ!」
ってお願いしたら、
「わかりましたーっ!」
って、料理長も張りきって肉を
出してきたわけですよ。
で、食べたら、
「うわっ! うめーっ!」
って感動してて
そいつをパッて見たら、
普通に食べてるんですよ。
「ちょっと待ってくれよ、美味しくないの?」
って尋ねても
「いや、大丈夫です」
って言うわけですよ。
「大丈夫じゃなくって、美味しくないの?」
って言ったら、
「いやっ、あー、大丈夫ですから」
って、言うんですよ。


※註4 虎の穴
とにかくうまい焼肉屋さん。
中目黒に本店がある。
もちろん、タイガーマスクとは
一切関係がない。
糸井 僕の80年代は
その連続でしたね。
小山 そうですか(笑)。

糸井 80年代の僕はいちばん荒んでた時期で、
ゲーム性の強い暮らしをしてましたから。
若いヤツを、
5万円コースのフグとか、連れていって
ただ、ただ世間話してるんですよ。
俺も男だマドロス(※註5)だ、
 そんなこと俺ぁ、おかまいなしだぜ」
っていうポーズをとっていたけど、
ちょっとさみしかった。

※註5 俺も男だマドロスだ
ぼくらスタッフはピンとこないのですが
1950年代後半~1960年代前半の日活映画は
「波止場」もの「マドロス」ものが
全盛だったようです。
石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎らが
マドロスにふんし、いろんな映画に
出ていたようです。
まぁ、「男を売った」ってことであります。
小山 何か言ってくれよ、みたいな(笑)。
糸井 その頃に連れてったメンバーの中に
みうらじゅん(※註6)とかがいたんです。
後に稼ぎのよくなったみうらが、
「糸井さんにフグをおごらせてください」って。
かわいいとこあるわけですね。
連れていってもらったんだけど、
・・・・・(笑)。ま、その・・・・。
「お前、ぜんぜんわかってないな」
ってほんとは言いたいんだけど、
言えないじゃないですか?
いいやつだし、みうら。
…そっか、やっぱ小山さんもやってんだ、
そういうの。

※註6 みうらじゅん
「バットくん」の次の原稿はいつかなぁ。
https://www.1101.com/miurajun/index.html
一部の「ほぼ日」スタッフ間では
頭文字をとって「MJ」と呼ばれている。
マイケル・ジョーダンとは一切、関係は無い。
小山 はい。
糸井 「しゃぶしゃぶ」って行為にもう喜んでる人って、
次のときにもっと美味しい店に行っても、
おんなじように喜ぶだろうし、
その微妙な差をわかるのって
自前で食ってないとダメですね。
小山 そうですねー。
糸井 おごられてても身につかない。
小山 うん、そうかも知れないですね。
糸井 小山さんだったら、コストとして、
ぜんぶ自分のお金で食いに行くじゃないですか。
社の何かの経費とかじゃなくて。
小山 ええ。
糸井 おごられたりってことでもなく。
だから、基準になる何かっていうのが、
贋作を見分ける方法みたいに、
本物を最初に1回だけ食っておくって
いうようなことってありますよね。
小山 うーん。(深くうなずく)
糸井 小山さんが研究したり
面白がってるゲームを
ぶち壊しにする向こう側の世界っていうのが
あるのと同じように、
素材がね、どうしようもなく旨いとき、
料理を飛び越えて生で食えちゃう、みたいなものに、
僕はまた興味を持っちゃってるんですね。
小山 うん。
糸井 それが、農業まわりですよ。
そこがあったので、
ますます、自分をかき立てる
何かになってるんじゃないかなぁと。思うんです。
畑に今なっているものを
その場で取ってきて食べるっていうことの前に、
料理は何ができるか?みたいな。
小山 うんうんうん。深いですね、それは。
糸井 深いんですよ~~。

(つづきます。)


第4回 人間って、
 ほんとはこうやって物を食べてきたんだ

 
  (小山薫堂さんプロフィール)
小山 先日、カリフォルニアにある、
コピア
※註1)」ってところに行ったんです。
そこはロバート・モンダヴィ
※註2)っていう
もう90才のワインのおじさんが、
数年前に自分の私財を何10億って寄付して作った、
ワインと食とアートの美術館なんですよ。

※註1 コピア
小山さんが「コピア」に行かれたことは
「danchy Online」の「一食入魂」で
読むことでできます。
http://www.president.co.jp/dan/20030300/003.html

※註2 ロバート・モンダヴィ
ロバート・モンダヴィワイナリー創設者
「ワイン造りは化学であると同時に芸術である」を
モットーに努力と研究を重ね、カリフォルニアで
最初にステンレスタンクの導入を
たのも
モンダヴィであり、
今また再びステンレスタンクに変えて
オーク製の樽を導入し始め、
最先端技術を駆使しながら、
伝統を重んじるワイン造りを 行っているそうです。
http://www.robertmondavi.com/
糸井 すっごいね。
小山 そこには地元の人たちが
ほとんどボランティアで働いていて。
例えばどういうことをやってるかっていうと、
「芋を変えてポテトチップスを作るとどうなるか?」
みたいな実験をやってて。
来た人はそれを美術を鑑賞するように
ポテトチップスの味を賞味するんですね、
そうものがあるかと思えば、
25ドルくらい払って、
料理教室で大学の講義受けるような、
すり鉢状になってるところで
料理のいろんな講義をやりながら、
食事を食べるっていうところが
あったりするんです。
そこには畑もあるんですよね。
畑にひとりのおじさんがいて、
そのおじさんが
「人参はこうやって作るんだよ」
っていうようなことを説明してくれるんですよ。
説明しながら、
土ん中から人参をボンッて引っこ抜いて、
「食ってみろ」
とかって言うわけですよ。
普通だったら、やっぱり、
洗わなきゃって思うわけじゃないですか。
でも、それを、手で泥をとって
かじったときに、本能というか、
「あ、人間って、
 ほんとはこうやって物を食べてたんだなぁ」
っていうのを感じて、
また自分の甘さを、感じましたね(笑)。
糸井 それ、旨かったですか?
小山 旨かったですね。
土の付いた野菜を食べるということに
躊躇している自分が、
「恥ずかしい」と、
そういう感じがして、
まだまだな、というふうに。
糸井 ぼくは同じようなことを
ものすごい回数やってますけど。
笑っちゃうのがね、
去年、ベルサイユ宮殿の農園(※註3)
行ったんですよ。
そこで同じようなことしたんですけど、
これが、まずいんですよ。

※註3 ベルサイユ宮殿の農園
この時、darlingのベルサイユ宮殿の感想は、
「広くて古くてでかい」であった。
だいたい旅行から帰ってきたときには、
この程度の感想を述べる人である。
小山 へぇー。
糸井 育て方が、まったくまちがってると思った。
僕の農業の先生で、
永田照喜治先生って人がいますけど、
その永田先生がやっている
水と肥料を極力おさえた
永田農法とはま逆なんですよ。
小山 いろんなものを与えてる。
糸井 そうですね。
小山 永田農法の永田照喜治(※註4)先生って、
熊本の天草出身ですよね。


※註4 永田照喜治
大正15年、熊本県天草町生まれ。
神戸大学卒業後、農業を始めた。
たまたま痩せた岩山に植えた作物の味が、
肥えた平地のものより良いことにがきっかけで
研究を重ね、永田農法を考案する。
ある新聞に長崎出身と誤って記され、
それを参考にした媒体は、
よく「長崎出身」と書くのだが。
ご本人は、「どっちでもかまいません」。
糸井 そうですよ。
小山 そうですよね。僕も天草なんですよ。
それで、噂はずっと前からよく聞いてたんですけど。
糸井 あー、そうですか。
いろんな意味で、地元でも有名だったみたいですね。
その先生に連れられて
ベルサイユ宮殿の畑をみて
そこは誇り高い、庭師なんだか農民なんだか、
学生とか、いろんな人が世話してんだけど
いろんなことが、逆なんですよね。
そこで、土のついた野菜を食べたんですけど
これが、ぜんっぜん美味しくないんですよ。
小山 ふ~ん。
糸井 つまり、料理のところで
いろいろ手を入れるっていうのと、
農作物を育てるときに
いろいろ手を入れるっていうのは、
似ているようで、
実は全く違うんですね。
野菜は土から抜いてすぐ食ったら旨いとか、
新鮮だから旨いっていうのは、
そういうものだと思いこんでいたけど、
ほんとのことを知ってしまったら、
そこにも旨いまずいがあるんだ!みたいな。
小山 うんうん。
糸井 金も手間もかけ放題の王宮だから、
グルメ的な考えのまんまで、
どれが旨いだのまずいだのってことを
やっていたんですね。
もっと、ひとりの原始人として
旨いまずいをからだで感じるほうが、
ほんとうなんだということを、感じていますね。
小山 ああ。

行っただけで、うまい店
糸井 小山さんはそういう機会もあるから、
素材なんかについても、
知識を仕入れては
現場でダメージを受けたりするんですか?
小山 (笑)ダメージは、ええ、受けてますよ。
結局、自分で、
「あぁ、ぼくは、味の素が好きなんだな」
っていうのがよくありますよ(笑)。
糸井 うんうん。それって、
自分の脳の中で、処理できないですよね。
小山 ええ。
糸井 自分が、味がわかる人だっていうふうには、
なかなか思いにくいですよね。
小山 ええ、そうですね。
糸井 だけど、仕事としては、
わかるほうに向かってかなきゃいけない。
いわば評論家的になっていくわけですよね。
そういう時はどうやって辻褄を合わせるの?(笑)
小山 辻褄を合わせなきゃいけないですね(笑)。
糸井 うん。
小山 ただ、僕は、料理評論家でも何でもないんで、
どっちかっていうと、
「好きに食べて好きに何かあったら書く」
っていう感じなんで、
まだ助かってるっていうか、
まだ、大丈夫かなって(笑)。
糸井 そっか、評論家として、
世間にさらされてないからね。うん。
小山 ええ。でも、評論家になった瞬間に
「きっと、辛いんだろうな」
って気がしますけどね。

糸井 そうですよねー。
だから、この『人間は何を食べてきたか』
見ると、
こういう考えを徹底的に持った食い物屋さんとかって、
できるんじゃないかな?と、思うんです。
例えば、ブラジルの奥地にいる
呪い師みたいな人がいますね。
小山 ええ(笑)。
糸井 どうやら、そこに行けば、
どんな病気も治るっていうんだけど、
辿り着くまでに、
死ぬ苦しみを味わうらしいですよ。
小山 (笑)そこに行くには。はい。
糸井 そうすると、そこ辿り着いたっていうだけで、
生命エネルギーがもう1回、復活してくる(笑)。
小山 なるほど(笑)。
糸井 それとおんなじように、今で言うと、
永田先生の野菜に惚れ込んだ
今井さんってシェフが、
浜松の山にある山荘に移ってしまって、
そこに泊まる人に
料理を出すレストランをやってるんですけど。
それも、まず、行っただけで旨いですよね。
小山 あぁー、はいはいはい。
糸井 ね?
そこのレストランは、
そりゃもうほんとにおいしいんだけど。
苦労して行ったら、
まずはそれだけで美味しいですよね。
小山 はいはいはい。
それ、心理学用語で、
認知的不協和っていうんですよ。
糸井 はぁ。
小山 自分がこれだけ苦労してるんだから、
美味しくなかったら、
自分の苦労を、
自分を否定することになる
っていうんで、
不協和であることを認知してしまうらしいですよ。
糸井 ふ~ん。
小山 行列も並んだ分だけ
美味しくなきゃいけないっていう感じで
おんなじらしいですよね。
糸井 行列もおんなじですよね。
この人たちが感じている喜びみたいなものは、
文明の中ではもう、お金出して買わなきゃ
ならなくなってる。
それをつきつめていくと、
美味しいものを味わうために、
普段の暮らしの中で
粗食をするとか。
小山 ええ。
糸井 そちらの方にいきますよね、いずれね。

(つづきます。)


第5回 今、自分たちは何を食べているか
 
  (小山薫堂さんプロフィール)
小山 この「人間は何を食べてきたか」にあったんですけど、
ずーっとおんなじパンとベーコンとピクルスしか
食べてないっていう…。
糸井 みんなの話題でしたよ、あれ!
小山 そうですか。
あれ、ショッキングでしたね。
糸井 そうでしょう、ほんとに。
小山 あれはね、僕は毎日
お昼も夜も、
「さー今日は何を食べようかな?」
っていうのがひとつの喜びであり、
苦しみでもありなんですけど、
あれを知らされたときには、
もう、ショッキングでしたね。
糸井 あれ、もう1回ちょっと、
ちょっと引いた目で見ると、
アメリカ人の普通の人って、
ほんっとにマクドナルド(※註1)
通ってますよね。

※註1 マクドナルド
産経新聞によると、「さる調査だと
米国人は週に平均三つのハンバーガーを食べ、
年間四百億ドルを消費する。」とか。
小山 うん(笑)。
糸井 おんなじじゃない?
さらに言うと、
日本人って、旅館のご飯なんか典型だけど、
干物と一汁一菜みたいな?
あの感じっていうのと同じなんですよね。
小山 うん。
糸井 だから、日本人って、
米っていう凄い武器があったおかげで、
あのベーコンとじゃがいもみたいなにはならずに
『じゃがいもVS米(コメ)』で、米の勝ち,
みたいなところで、
勝ってるだけなんじゃないかな。
小山 うんうん。

選べる食事と選べない食事
糸井 色々選べるって思ってるけど、
小山さん、選べるときと、
選べないときと、きっと激しいでしょ?
小山 ええ。
糸井 だから、今、夕食として食べている
このうなぎでも、この近所からとるわけですよね。
これは選べてないわけですよ。
お客さまだから、
何かのそれなりにってことを
これを注文したうちのスタッフは考えたんでしょうけど、
正直言って・・・うまくはない。
小山 (笑)いやいやいや、そんなことないですよ。
糸井 いやいや、お客さまとして言いにくいですけど、
うなぎは美味しいなって思う感動は、
ここにはないけど。
いちおう、「うなぎ」ですから、その事実だけで
三越の包み紙みたいなもんですよね。
近所の中華屋のラーメンをとったのとは違いますよ、
ってだけのことですよね。
これは、それを選択している人たち(※註2)
プロデュース能力の問題なんですけども。

(うつむく、ほぼ日スタッフ。)

※註2 それを選択している人たち
確か、ROCK西本だったはず。
「小山さんの夕飯どうしましょうかね?」
というスタッフの問いに、
「やっぱりさぁ、こういう時は、
 うなぎじゃないの。」
という雑な一言で決定。
確かにプロデュースという概念は
全く無かった。
小山 (笑)
糸井 これは、だから、選べなかった食事。
さらに言うと、自分もそうだけど、
コンビニのおにぎりを食べてるというような、
選べない回数のほうが、圧倒的に多いんですよ。
小山 ええ。
糸井 僕はそうなんです。
ぼくの周りで忙しく働いてる、
「この人はすげーな」って思う人見てると、
お金はあるに決まってるのに、食事を選べてない。
運転手付きのクルマの後ろの座席で、
コンビニのいなりずしかなんか食べている。
まったく、みんなそうなんですよ。
小山 うーん、そうですよね。
糸井 小山さんも多分そのくちだと思うんだけど・・・。
どうしてますか?
小山 僕もほとんどが
選択肢があんまりないことが多いですよね。
糸井 ないでしょうね。
ロケ弁的な食事だったりしますよね。
小山 でも、今ね、うちの事務所に
来てるシェフがいるんですよ。
糸井 はぁー!!
それは乗り越えたな。
小山 これはね、いいですね。
糸井 やったなぁ・・・!!!!
小山 いいですよ。ひとりくらい、
誰か雇うといいですよ。
糸井 はぁー!(感嘆)

小山 シェフが、
「今日、何しましょう?」って訊いてくるんで
「んーと、今日はカレーがいいなぁ」と、
「わかりました、カレーですね」ということになると
事務所のホワイトボードに書いてあるんですよ。
N35
※註2)風オータム・カレー」
なんて書いてあるんですよ(笑)。

※註2 N35
小山さんの事務所の名前のこと。
N35は、食、ファッション、インテリア、
カーライフなど、都市生活者に向けて、
エンターテインメント性あふれる企画や
情報の開発・発信をしています。
代表者・小山薫堂の放送作家としての経験を生かし、
テレビ・ラジオなどの番組企画・制作はもちろんのこと、
執筆活動、舞台劇の構成や演出、CFプランニング、
PRプランニング、ショップ・プロデュース、
ウェブコンテンツ開発など、
さまざまな活動を行っています。
オフィシャルホームページより)
ちなみにN35とは、東京の緯度のことであるとか。
糸井 なんだ!?
小山 なに?それ!って(笑)。
それはきのこと栗が入ったカレーだったりするんですけど。
それがあるから、今は、いいですよね。
糸井 それは、画期的な乗り越え方をしたね!
やろうやろうと思って、やれないことをやったね。
でも、3食は無理ですよね。
小山 3食は無理ですね。1食か2食ですね。
ただ、1食にしても、ま、2食にしても、
意外とコンビニをうまく使ったりも
するわけですよ、できちゃうんですよ、彼は。
糸井 彼は、凄いね(笑)。
彼!すばらしい。
小山 彼はなかなか、いいですよ。
糸井 そこでは、いわゆるフレンチのレストランメニュー
みたいなものよりも、
今ポンとカレーって出たけども、
そのような家庭風のものが多くなるんですか?
小山 いや、そんなことないですよ。
フレンチっぽいのもやりますし、
ゴルゴンゾーラとまぐろのサクを買ってきて、
ゴルゴンゾーラのチーズを付けて食べてみたりとか。
糸井 ってことはなに?
シェフの裁量で、食材をいろいろ用意してくるんだ。
小山 ええ。だから、たまに朝、築地に行きますからね(笑)。
糸井 えーっ!
小山 普通は放送作家事務所で、朝、築地に行くって、
あんまりないですよね(笑)。
糸井 それは、何か、アイデアで乗り越えたねー!
小山 今度ここでも、やりましょうか?
そのシェフをつれて来ますから。


(おおいに湧く、ほぼ日スタッフ。)
糸井 小山さん、
モテた。
小山 モテた、モテた(笑)。
糸井 それ、思いついたときには、やった!と思ったでしょ?
小山 (笑)やった! っていうか、
便利だし、いいなって。

食の行き着くところは…
糸井 その人は、知りあったのが先ですか?
小山 知りあったのが先ですね。
糸井 だんだん、パーソナル化してるね(笑)。
小山 そうですね、なんか(笑)。
糸井 それはさ、芸人さんたちが
テレビに出演してる回数が多くなると、
服を買いきれなくなると
スタイリストと契約した方が
かえって安上がりだっていうかたちで、
借りたものを絶えず着てる状態に
なってったのと似てるね。
あれの食版ですね。
小山 あー、そうですね。
糸井 税金で落ちるし。
小山 税金!(笑)
糸井 つまり、仕事として服を着ているわけだから、
スタイリストと契約して、借り物にしちゃえば、
この服は普段は着られないっていう
突っ込まれかたをしなくていいわけですよね。
小山さん、他にそういう人って世の中にいるのかな?
小山 それはいっぱいいるんじゃないですか?
わかんないですけど。
糸井 前にちょっと思ったのがね、
あるオーナー経営系の会社の
重役用の食堂に行ったことがあるんです。
小山 へぇー。
糸井 そこで、じゃあお昼を、ってなったときに、
何を食べたかというと、
ブリの切り身と味噌汁とお新香と、
せいぜい切り干し大根程度で、ご飯だったんですよ。
それがですね、一個ずつがぜんぶ美味しかったんですよ。
小山 へぇー。
糸井 つまり、ブリの塩焼きも、
たぶん養殖でない、天然ブリだったんでしょうね。
うまいの、あからさまに。
一品ごとの分量は少ないんですよ。
でも、1品ずつがぜんぶ美味しくって、
どこでも食ってるようなものなんだけど、
おそらく干物の日もあるんでしょうね。
それで僕の基準ができたんですよね。
あ、ほんっとに金持っちゃうと、
ここに行くんだって(笑)。
小山 ああ、なるほど。
そんな派手なんじゃなくて、本当に良いものの、
質素なものというか(笑)。


(つづきます。)


第6回 豊かな食卓って?
 
  (小山薫堂さんプロフィール)
糸井 要するに、誰でもわかるものの中に、
高水準っていうものがあるってことがわかって
それで僕の基準ができたんですね。

それとね、とある有名な会社の経営者が
鼻かむときに内ポケットから、
ちり紙を出してたんですよ。
それが、ティッシュペーパーじゃなくて、
内ポケットにすっぽりと、
2つ折りしたちり紙が入ってるんですよ。
これね、粉にもならないし、
鼻かみ具合もいいじゃないですか。
小山 ふーん(笑)。
糸井 ちり紙に代表される感覚と、
重役用の食堂でのブリの塩焼き、っていうのが、
どんどんお金使えるようになったときに、
そこにいくんだなっていう、
基準値になったんですよ。
小山 あー、なるほど。
糸井 ところで、事務所にシェフを雇うなんていうのは
実際、やってみてどうなんですか?
小山 ご飯がね、美味しいんですよね。
ちゃんと土鍋でご飯を炊いて。
糸井 それは、そのシェフと小山さんの
深い愛情、とかじゃないの?(笑)
小山 ぜんっぜんないです(笑)。

糸井 凄いですよね。
モーツァルトですよね、要するに(笑)。
宮廷音楽家じゃないですか。
小山 ええ。
糸井 何人でその食事を食べるんですか?
小山 シェフ入れて4人で食べるんですよ。
糸井 4人っていうのは、最低限かもしんないね。
小山 ええ。
糸井 ひとりだとイヤなもんだよ。
小山 ひとりだと、作ってもらうほうもイヤですもんね。
糸井 いいバランスだねぇ(笑)。
最初、1対1かと思っちゃった。
小山 (笑)1対1じゃちょっと、
さすがにね、悪いですよ。

箸を使うための食事
糸井 今ね、ものすごい裕福なんですよ。
金のかけかたの問題じゃなくて、
たまたま食材と知りあっちゃったもんだから、
米はここの米だっ!
野菜はこれだっ!(※註1)
みたいな。
良い日、悪い日あるんですけど、
すっごい地味な、さっきのブリの照焼きの世界が、
家で実現できるようになったんですよね。

※註1 米はここの米だっ!野菜はこれだっ!
こちらでも紹介されている、新潟県吉川町のお米。
ほぼ日スタッフ垂涎のお米でもある。
野菜は現在、浜松修業中の身である
ゆーないとさんが、せっせと送ってくれている
永田先生の庭でとれたお野菜。
https://www.1101.com/joshi/index.html
小山 へぇー!
糸井 だから、外ですっごい美味しいものって
いうのじゃない限りは、
僕にとってのご馳走って、
午前中や昼前に家で食べるその食事ですね。
極端に言うと、
おかずで3品ぐらいで、
きんぴらがあって干物があって、
みたいなもんなんだけど、
これは、豊かですね。
小山 ええ。あぁ、そうですか。
糸井 うん。それは、かみさんも嗜好が同じだったから、
そこに行ったんですけど、
そこで、誰に見られるわけでも、
見栄を張るわけでもないけど、
ほんとうに美味いものっていうのが、
1食あるだけで、あとが我慢できるんですよ。
小山 あー!なるほどね。
僕ね、すごい上等な箸を買ったんですよ。
糸井 あー!
小山 それは、15,000円の箸なんですけど。
糸井 うんうんうん。
小山 もう、ほんとにこう、
手に吸い付くようで。
糸井 ああ、いいねぇ!(笑)
小山 で、もう、僕は、ただ食べたいんじゃなくて、
その箸を使うために食べるってくらいの
箸なんですよ。
糸井 はぁー!
小山 しかも箸なのに、
メンテナンスまでしてくれるんですよ。
これが佃島
※註2)の職人さんが作っている
ものなんですけどね。
このあいだ久しぶりに、ちょっと傷んできたんで、
持ってったら、当然タダなんですけど、
ヒュヒュヒュッてやって、
ちょっとサラダ・オイルでビューッてやったら、
もう、ピカピカの新品みたいになるんですよね。

※註2 佃島
東京都中央区。
銀座の側にある風情のある下町。
佃煮のふるさとでもある。
糸井 聞いてるだけで、ウットリしてくるね。
小山 (笑)15,000円は高いけれども、
15,000円っていったら、ね?
箸では高いけれども、他のものなら、
そんなに高くないじゃないですか。
で、これを買う、と。
その豊かさたるや、
本当に気持ち良いですよー。
糸井 買ったときから嬉しくて、使って嬉しいもんねぇ。
小山 使って嬉しいんですよ。
カレーうどんなんか食べてるときにも、
チュルチュルッとかってこう、
決してはね返りがないんですよ
(笑)。
糸井 ほんとに!? それ、どこーっ!?
小山 そこでね、店頭にいつも、
こんにゃくが置いてあるんですよ。
糸井 うんうん、「つかんでみなさい」だ。
小山 こんにゃくをつまみなさいと。
横にはすべり止め付きの箸が
つまんで比べるために置いてあるんですよ。
それでこんにゃくの角をつまむんですけど、
こういうつまみかたって、
ふつう絶対できないんですよね、
やってみるとわかるんですけど。
糸井 すっごいねぇ…。
小山 それが、その箸でやると、もう、
こんにゃくが吸い付くように、(笑)。
これはいいですよ。
糸井 教えて。真似していい?
小山 どうぞ(笑)。佃島の職人さんが
作られているんです。
糸井 きっとその職人さんは
ずっと住んでるんだよね、佃島に。
小山 ええ。外から家の中が、
ぜんぶ見えるぐらいな感じのところで
売ってんですけどね。

糸井 その箸は、やっぱりわざわざ、
どっかから買いに来る人がいるのかな?
小山 どうでしょうね。
お客さんの口コミで結構、
増えてんじゃないですかね。
15,000円、10,000円、8,000円、
5,000円っていう値段設定があるんですけど。
糸井 いちばん良いのが欲しくなるね。
小山 いちばん良いのを。一生モンですよ、ほんと。
糸井 ねぇ。箸なくしたら怒りますよ。
小山 怒りますよ。
糸井 万年筆だと、そう思わないよね。
小山 ええ。
糸井 ね。15,000円の万年筆って、普通だもんね。
小山 普通ですよ、ほんとそうですね。
万年筆は、使っても
週に2、3回ですよね、きっと。
糸井 そうですねー。
小山 箸は、毎日、2回3回使いますからね。
糸井 そこに食の世界はあるんですね。はぁー。
それ、こけおどかしじゃないってところが
いいねー。
小山 ええ、それはいいですよ。
ほんと使いやすいですね。
糸井 それ1コ持ってるだけで、誇りですよね。
小山 誇り(笑)。ええ。
糸井 前に、たしか吉本隆明さんが文章の中で
おっしゃっていたんだけど、
コムデギャルソンのことを語るときに、
「自分が進んだ人類じゃないかっていう
 表情でモデルが歩いてる」

っていう言い方をしてて。
上手いでしょう?
小山 あー、なるほど。
糸井 「進化した人類じゃないかっていう表情で、
 モデルたちが闊歩する」って言い方を聞いて、
その言葉がどれだけ、自分の中の服飾史に
影響を与えたか。
値段がもっと高いものを着ても、
進んだ人類になれないときはダメですよね。
小山 うんうん。
糸井 「いいや」、って着てるものと、
誇りを持てる服と、ありますよね。
小山 あー、ありますね。
糸井 箸でもあるよね。
小山 箸、ありますね。
糸井 はぁー。という意味では、
料理食ってるときだってあるよね。
(つづきます。)


第7回 感激する食、のめりこむ食
 
  (小山薫堂さんプロフィール)
小山 器とかって、そういうのあるかもしんないですね。
100円ショップで買った100円の器で食べるものと
そうでないものってあると思うんです。
「M」っていう、お店があるんです。
ここは席が8席だけなんですよね。
糸井 銀座のほうにある、
おじいさんとおばあさんがされているお店?
小山 ああ、行かれたこと、あります?
糸井 行ってないんです。
以前、行こうとした日に
オレが、調子が悪くなって行けなかったんです。
小山 そこは器とかは、
相当いいの使ってるらしいんですよね。
糸井 あぁ、行きそこなってるんですよ。
やっぱり、行ったほうがいいですか?
小山 あー、そうですか。
僕も実は、何回か誘われて、
いっつもお断りっていうか、
ギリギリ、直前に誘われてしまってて
行きそこなってるんですけど、
聞いた話では、すごいんですって
で、スペインに「レスグアルド」
※註1)って、
話題のレストランがあって、
そこのシェフがこないだ…。

※註1 レスグアルド
スペインで最近、話題のレストラン。
シェフはミゲル・サンチェス・ロメラ氏。
脳内内科医師でありながら、シェフでもある、
今最も話題の料理人です。
http://www.hattori.ac.jp/news/news012.html
糸井 ショックを受けた?
小山 ええ、「M」に来られて。
糸井 はぁー。
小山 で、「レスグアルド」のシェフが来て食べたら、
5回泣いたっていうんですよ。
何皿か運ばれてきた料理の中で、
ひと皿ひと皿にものすごく、
お茶とおんなじで意味があるらしいんですね。
わびさびというか。
これにはこういう理由があって、
こういうお水を使って、こういう食材で、
だからこうしたんです。というような、
すごく理論的に作られていて。
その心を聞いたシェフが、5皿分泣いたって。
しかも通訳まで、
訳しながら泣いたっていうんですよ(笑)。
糸井 それ、膨らましてない?
小山 これがホントだって言うんですよ。
そのとき、服部幸應さん
※註2)に誘われて、
いっしょに行こうっていう電話が来たんですよ。
でも、
「ごめんなさい、今日はどうしても行けないんで」
って断ったんですよ。
そしたら、夜、携帯に留守電が入ってて。
「ああ、服部です、
 いま終わったんですけど、
 彼は5回も泣いてしまいました」
とか残ってるんですよ(笑)。
今のようなことを色々と説明してたんですけど。

※註2 服部幸應さん

「料理の鉄人」のあの人。
服部栄養専門学校校長でもある。
http://www.hattori.ac.jp/
糸井 「M」で。
小山 ええ、「M」で。
泣くっていうほど感激、
食で感激するっていうのは…。
5回泣いたっていうのを聞いて、
ちょっと「M」に行ってみたいなと思ってるんです。
糸井 魂の話ですよね。
要するに、しかけ全体っていうか、
その夫婦が作ってる世界に
入り込んじゃうらしい
んですよ。
さっきのブラジルの呪術師じゃないけど。
そういう力がものすごく、どうもあるみたいで。
小山 あぁ、なるほど。
糸井 たぶん「レスグアルド」っていうのも、
僕は本で読んだことしかないけど、
かけ離れたところに世界を構築しますよね。
だから、そういうことも含めて
「レスグアルド」なんだろうな、
とは思うんですけども。
そこまでやっても卑怯じゃないですよね。


西洋に食のお返しをする人
小山 今度、「M」の2人で
「エル・ブジ」
※註3)でフェアーをやるんですよ。
それは、向こうの人が来たときに、
かなり感動したってことがきっかけなのですが
今まで向こうで、そういう前例が
無かったらしいのに、初めて違う国、
しかも日本から呼んでフェアーをやるんです。

ぼくの知りあいに
「料理の鉄人」をずーっとやっていた
テレビのフード・コーディネーターの
女性がいるんですけど
今度、そのスペインでやる「M」のフェアに
その人が、個人でお金をスポンサードするんですよ。

※註3 エル・ブジ
料理評論家の山本益博さんに
「いままでに食べた4000回は
 エル・ブジを食べるための練習試合だった」
とまで言わせた、世界中から注目されている
レストランの一つ。
4月から10月までの
半年のみレストランを開店し、
あとの半年は、
料理の研究にあてている。
スペイン、バルセロナの近郊にある。
http://www.elbulli.com/
糸井 フッフッフッフッ…。
小山 「M」の器って、
ひとつ300万とか、そういう器なんですけど、
そういうものも、全部持っていくらしいんです。
器や鍋の運搬に保険料入れると
1,000万かかるらしいんですよ。
それに、「M」のご主人と奥さんと
スタッフ全員分と行く渡航費ぜんぶ持って
ひとりで2,000万以上負担するらしいんです。
糸井 いちフード・コーディネーターが!
小山 ええ。
どうしてそんなにまでして?
と聞いてみたんです。
するとね、
かつて、千利休が和の懐石をつくったとき、
そもそも懐石というものは、
ヨーロッパの教会における
食のシステムを持ってきたものであると、
ポルトガルとかから、料理が来たおかげで
日本では色んな料理が生まれた。
今回は、その生まれた料理を、
また、西洋にお返しする番なんだ
っていうことらしいんです。
その、食の歴史における意味のあることを、
わたしの貯金の数千万でできるんだったら、
家を買ったりするよりも、
そっちのほうが意味があることなんだ、
って言うんです。
糸井 それ、小山さんが放送作家として
作ったみたいな話だよね。
小山 いや、ほんとうに、そういう人なんですよ。
糸井 …いいねぇー!
小山 いい話なんですよ。
「へぇー!」とかって思って。
それで、そこにスポンサーを付けようとすると、
やっぱり「M」のおじさんは嫌がるわけですよね。
「そんなんじゃ、俺は行かないよ」って。
糸井 うん。うん。
小山 だから、どこもスポンサーが付くことなく、
純粋にそのフードコーディネーターの彼女が
お金を払うんですけど。
これを、彼女の人生として
形に残してあげたい
んで、
いま本を何とか作ってあげたいなぁ
って思ってるんです。
ちゃんとした、
スペイン料理と日本料理の交流みたいな
立派な本ができないものか?
みたいにちょっと思ってるんですけど、
お金がやっぱり無いんで、
今はちょっと、どうなるかは
わからないという感じなんですよ。
糸井 うわぁー…それは、すっごいねぇ…。
小山 すごい話ですよね。
糸井 詩人になりたかった人としては、
それが詩ですよね。
そういうことは、あるんだよね。
小山 ええ。
僕はそこまで自分のお金を使えないっていうか。
偉いなと思いますけどね。
糸井 家を建てるんじゃなくて、
これだ!っていう
そこの思い切りがいいよね。
小山 だから、「宝石を買うよりも、
こっちのほうが輝いてるんだ」って
感じがしますよね。


(つづきます。)


第8回 生きるために食べること
 
  (小山薫堂さんプロフィール)
糸井 多分、5回泣いたエル・ブジの人も
個人で「M」のフェアを
スポンサードするフードコーディネーターの人も
お金の価値を飛び越えさせたのは
動物的な何か、
こう、魂の問題なんだと思うんです。
よっぽど、体が打ち震えることじゃなかったら、
できないですよね。
ほんとは繋がってるんだよなぁ。
はぁー、いいなぁ、いい話だなぁー。
僕ね、この「何食べ」シリーズを、
ベンチャーのレストラン業界の人たちに、
配りたいんですよ。

小山 んーっ!ベンチャーのレストランは、すごいですよね。
糸井 すごいですね。
つまり、明らかにビジネスとして、
ある意味ものすごい完成度があって、
ガッツはあるんですよね。
だから、そこの人たちが、
どこかで、こういうものに触れたら、また何か…。
小山 違うかたちができるかもしれない。
糸井 うん、かもしれない。
今は結局インテリア・デザイナーと
ビジネス・モデルを作る人たちの合体でしょ?
小山 ええ。きっと彼らは別に「食」じゃなくても
いいわけですよね。
儲かるから「食」を今やってるだけで
糸井 そうですね。
やっぱり、「食」って学歴問われないし、
誰かが考えた方法があれば、
それをマニュアルに合わせてコピーしてって、
あとは真心という名の根性を
プラスすればできちゃうんですよ。
何かね、繋がりつつあるんだなー。
うまく言えないんだけど。
今、食うことを禁じられたら、
えらい騒ぎになりますよね。
小山 日本でもラマダン※註1)があれば、違うでしょうね。

※註1 ラマダン
イスラム教の断食月のこと。
太陰暦をもとに作られた
イスラム暦の9番目の月で、
最も神聖な月とされる。
太陽暦では11月下旬ごろから始まる。
断食をすることで、
一年間に犯した罪を償うとされる。
糸井 ラマダンだ!
小山 今ラマダンで思い出しましたけども、
今度、「グルメ・ガーディアンズ」っていう
番組を考えているんです。
糸井 なんだ?それ。
小山 フジテレビで、2クールに1回くらい、
キャンペーン的にやって行こうと思ってるんですけど。
それは何かっていうと、近い将来に、
警視庁と食糧庁が、
食の風紀が乱れてしまった日本を更生するために、
「グルメ・ガーディアンズ」という組織を作り、
彼らが、グルメ刑法というものに従い、
色んな犯罪を逮捕していくんです。
例えば、お寿司屋さんに行って、
お寿司をカピカピにしてしまって、
話に夢中になって
寿司を乾かしてしまっているヤツを
逮捕したり
だとか。
オープニングは、
家庭のすき焼きのシーンから始まるんですよ。
子どもとお母さんとかがみんな
「わーい!すき焼きだー」
とかっていってるような家庭で
「お父さんにすき焼きは任せろ」、
とばかりに、お父さんが
シラタキと牛肉を近くに入れてたりすると
いきなり、「カチッ」とかっていって刑事が、
「お前には黙秘権がある、
 今後お前の発言は裁判で不利に作用することがあるから、
 気をつけて発言しろ。シラタキの石灰は
 牛肉のタンパク質を固くする作用がある」
というようなウンチクを言って、
グルメ刑法第81条3項の、
 牛肉およびシラタキの接近過剰の容疑で逮捕する。

そうやって逮捕していくっていう
バカなドラマをやるんですよ。
糸井 ドラマになってるんだ(泣笑)。
小山 しかも、刑事モノの。
糸井 寿司、乾くっていうのは、
逮捕して欲しいね。
乾き寿司は罪重いよねぇ。
小山 罪重いですよ。
糸井 作る側にも逮捕して欲しい人は
いっぱいいるんだけどなー。
小山 ああ、いますね(笑)。

食の基準になるような店
糸井 いままで、こうやって一気に話を聞いてて、
食い物の話ってやっぱり、
腑に落ちるんですよ。
それって生理的な何かがあるから。
大きい意味でやっぱり猥談なんですよね。
その腑に落ちる部分と、
そっから先はもう聞きたくもないっていうか、
そんなにやんなくても、
っていうところのバランスを
今、探してる時代なのかも知れないね。
すごく腑に落ちるのは
「腹が減ってれば何でもない」っていうことだね。

原点はそこなんだよね。
小山 ええ。
糸井 「食えるだけ幸せだと思え!」っていう
星一徹のお父さんみたいな。
小山 「生きるために食べてる」ものが
多かったんですよね。
でも今の日本の文化は、
どう見ても「食べるために生きてる」人が
大半ですからね。
糸井 うん。うん。
小山 きっと「生きるために食べる」ということが、
わかった上で、「食べるために生きて」たら、
もっとすごく豊かになる
んでしょうね。
糸井 やっぱりラマダンだねぇ。
小山 ラマダンですよ(笑)。

糸井 ラマダンとかさ、
さっき僕が、「自分ちの今のご飯」って言ったけど、
粗食の店というか、
普通に金は取れるんだけど、
「これはどうだ!」っていう基準になるような
そんな店が欲しいですね。
小山 うん、うん。
糸井 朝の定食に近いようなものなんだけど、
めっちゃくちゃ美味い、みたいな。
多分、さっき話にでた銀座の「M」って店なんかでも
基準っていうのは、
そういうところにあるんだと思うんですよ。
小山 僕、写真でしか見てないんだけど、
「水飯」っていうのが
その「M」ってお店にはあるらしいんですよ。
それは、蓮の葉かなんかに、
白いご飯を少しだけ載せて
氷水を上からかけて食べるっていう。
糸井 ドラマチックだよね。
小山 ドラマチックな(笑)。
美味しそうですよね。「水飯」。


(つづきます。)


最終回 つながる、食と食
 
  (小山薫堂さんプロフィール)
糸井 米は、今ね、「僕はこれだな」、
っていうのがあるんで
その米を小山さんに送りますね。
小山 ええ、シェフが炊きますよ。
糸井 いろんなとこで、ご飯を美味しく炊く人もいるし、
美味しいご飯をみんな仕入れているんだけど、
ああいう基礎的な何かっていうのがね、
やっぱり、基準値ですよね。
その後で、枝葉のところは変化していくんだよね。
小山さんにとって
事務所にシェフを入れるってことの
次の時代っていうのは、あるんでしょうか?
小山 個人的にっていうことであれば、
それはやっぱり、自給自足じゃないですかね。
糸井 はぁー…、やっぱりっていう感じですね。
今は僕が農業関係の仕事を
やってるせいもあるんだけど、
話をすると、みんなそういう話になるんですよね。
都会に住居を1ヶ所持ってて、
もうひとつそういう場所を持ってて。
そこで、全部とはいわなくても、
作ったものを食うような生活。
そのもう一軒にあたる場所はね、
ものすごくいっぱいあるんですよ。
捨てられた土地がいっぱいありますから、
そういった土地を使えばいいんですよね。
ほんとに流行るかもね。
今、僕、貸し菜園みたいなもの(※註1)を、
インストラクターを育てながら
作っていくっていうのを、
やろうとしてるんですけども。

※註1 貸し菜園みたいなもの
その構想については
「ダウンタウン・セブン」という番組で
darling自ら、プレゼンテーションをしたことがある。
プレゼンテーションについては
こちらでみることができます。
https://www.1101.com/today/2003-01-21.html
小山 へぇー。
糸井 「どうやって育てると美味しいのができるか」
っていうのは、やっぱり指導員が必要なんですよ。
その指導員を育てるために、
家庭菜園を切り売りして、
そこで採れた作物を、営業する
っていう循環を作っていく指導員を
作って行こうと思ってるんですよね。
それともう1コはね、
小山さんなんかの側から言うと、
ぜひ、そっちを発展させてほしいんですけど
素材の名産地に、料理人がいないんです。
小山 うんうんうん…あっ!(パンッと手を叩いて)
それはそうですね。ほんっとそうですね。
素材が良すぎるが故に、
料理人が生まれない
というか。
僕も天草出身なんですけど
天草の魚とか、ものすごく美味しいんですけど…。
結局は、そのまんまが
いちばん美味いという結論になって
料理人がやっぱ育たないんですよね。
糸井 それとやっぱりカツカツで生きてたことも
影響していると思うんです。
30年前にコレステロールが足りない時代には、
採れた魚を食うっていうときに、
醤油に金かけちゃったら、もうコストになるし、
料理をする時間のコストもかかるしっていうことで、
やっぱりカツカツで生きていた時代の名残があって。
つまり、料理番組でコーディネートを
する人はいても、産地をコーディネートする人は、
いない
んですね。
僕、生まれは上州なんですけど、
小麦の産地なんですよ。
うどんは旨いんだけど、「つゆ」がまずいんです。
みんな「旨い」って言ってるけど、
あれはうどんが強すぎるから、
話が「つゆ」にまで及ばないんですよね。
お店に置いてある七味も
そこらのスーパーで買ってきたような七味で
あることも多いですし。
あれを鉄砲伝来みたいに、
やったらいいなぁと。
海のものを扱ってた人たちには、
山国に行って料理を作らせるとか、
そういう、料理技術の流通っていうのが
どうも僕の手に余るんで、
小山さんに何か考えてもらいたいと。
小山 (笑)
糸井 もったいなくて。
「素質に甘えるな!」みたいな感じなんです。
地肩の強いやつにコントロールを教える、みたいな。
小山 それは、あるかもしれないですね。
糸井 そういうときに、料理人たちが、
さっきのフードコーディネーターの方の
恩返し的な気持ちで、
「じゃあ僕は、この地域でやってみます。」
みたいなことをやったら、いいねえ。


幸せな食のために
糸井 そういえば、さっきから話に出ている
永田先生が自分で作った野菜があるんですよ。
小山 へぇーっ(笑)。それは、すごそうですね。
ワインで言うと、ドメーヌものっていう(笑)。
糸井 これはね、ひどいんだよ。
小山 ひどいって何ですか?もう、硬派?
糸井 もう、買えっこない、
つまり、売りようもないし、すぐダメになっちゃうし、
大根も、すごく小っちゃかったりするんですけど、
これがもう、ほんっとうに旨いです!
葉ものなんかは、
生でも調味料加えたくらいの味がしますね。
それってほんっとになんでもない狭いとこで、
遊び程度に作ってるんですけど
本人が手を下してるんじゃなくて、
近所の大工さんがやってるんです。
小山 へぇー。
糸井 だから、ノウハウとして、
手練手管がいるわけじゃないんです。
永田先生に言われたことを
その通りに守ってるだけなんで。
その意味ではね、
あれをみんな日本中がやるっていうのが、
僕の夢なんですよね。
今、うちのサイトで連載している大学生が
弟子入りで行ってるんですけど(※註2)


※註2 今、うちのサイトで連載している
大学生が弟子入りで行ってんですけど。
浜松で修業中の「ゆーないと」さんのこと。
最近、食べ過ぎであるらしい。
https://www.1101.com/joshi/index.html
小山 ハハハッ、ほんとに?
糸井 そこで朝飯っていうは、
ボールいっぱいの野菜らしいんだけど、
食えちゃうらしいんですよ。
美味しいから。
小山 へぇー!
糸井 今そこで、すっごく雑に作った
カモミール・ティーを、
永田先生から貰って。
これがビニールの袋に、
ただ詰ってるだけなんですけど。
このカモミール茶の2番ダシが効くんですよね。
他にいいのを探しても
あれほどの強さはないんだよ。
小山 へぇー…。
糸井 だから、生命力なんでしょうね。
素材は、まだ研究のしようがないですもんね。
いま名産地って言われてるとこって、
たくさん作ってるところが
名産地っていうことになるんですよ。
適地で、こういう時期にこういう育て方で、
っていう意味での名産ではないんで。
だから、みんな南高梅、南高梅(※註3)といっても、
梅を作ってる人がいっぱいいるという意味が強い。

※註3 南高梅
梅の最高品種の一つ。
母樹選定調査に深くかかわった
南部高等学校の園芸科の生徒たちの
努力に敬意を表し、
南部高校を通称「南高(なんこう)」
と呼ぶことから、
この梅を「南高梅」と命名したのだとか。
小山 (笑)へぇー。
糸井 じゃ、最後に一言ずつ言いましょうか。
現在、奇形的にさえ発達した食文化と、
食うっていうことが、
生きることそのものだったものっていうのが、
ホントは繋がる。
別の道だと思ってたら
大間違いじゃないかなと思うんです。
お互いがお互いを知るっていう時代が来てるんで、
そこは繋がるといいな
っていうのが、
僕の結論ですね。
そのためにもこの「人間は何を食べてきたか」を
やっぱり、怖がんないで見たほうがいいよね。
小山さんはどうですか?
小山 僕は、さっき言ったこととおんなじなんですけど、
「生きるために食べる」ということを、
これを観て、知った上で、
「食べるために生きていく」のが幸せかな

という気がしますね。
糸井 いいね。ありがとうございました!
今日はホントに面白かったです。

(おわりです。)