【完結】ハリー・ポッターは邪悪に嗤う   作:冬月之雪猫

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第十四話『禍津』

 クリスマス。一人っきりになった寮の寝室にはたくさんのクリスマスプレゼントが届けられていた。

 ハリーはビックリしながら一つ一つのプレゼントを開いていった。

 ドラコからは爬虫類用の鱗磨きセット。ハリーは早速ゴスペルに使ってやろうと決意した。

 ロンからは魔法界のチェスのセット。《今度、一緒に対戦しようよ!》という手紙が同封されていた。望むところだとハリーは息巻いた。

 ハーマイオニーからは羽ペンのセットが届いた。実はハリーもまったく同じ物を送っていた。ライバルに塩を送ったつもりだったのに、これでは意味がないとハリーはハーマイオニーの気の利かなさをなじった。

 ハグリッドからは木彫りの笛。試しに吹いてみると、意外と悪くない音色だった。器用なものだと、ハリーは少し感心した。

 ニュートからはトランクの改造キット。これを使えば、トランクのスペースの一つをゴスペルやエグレにとって快適な空間に仕上げられるようだ。これも後で使ってみようとハリーは心に決めた。

 マクゴナガルからは一冊の本だった。それはアルバムだった。中身はたくさんの写真で埋められていた。

 ハリーはしばらく見つめた後、アルバムをトランクの奥深くへ投げ込み、他のプレゼントを適当に隅へ追いやって、ドラコに貰った鱗磨きセットでゴスペルの鱗をピカピカにする作業に移った。

 

『……相棒。オレ様がついてるぜ』

 

 ゴスペルはペロリと長い舌でハリーの頬に伝っていた雫を舐め取った。

 

 ◆

 

 ハリーが大広間に行くと、そこにはロンがいた。彼の兄弟の姿もある。

 

「ハリー! こっちに来なよ! 美味しいよ!」

 

 ほとんどの生徒が自宅に帰ってしまったからか、大広間はガランとしていた。

 テーブルは一つを除いて全て片付けられていて、そこに残った生徒達や教員達が一緒にご馳走を食べている。

 ハリーはロンの隣に座った。目の前には、丁度ダンブルドアの姿があった。

 

「おはよう、ハリー」

「おはようございます、校長」

 

 ハリーは沸々と湧き上がる怒りと憎しみを抑えながらダンブルドアを睨みつけた。 

 すると、目の前に七面鳥の足が飛び出してきた。

 

「ほい、ハリー」

「……ありがとう、ロン」

 

 ハリーはロンから受け取った七面鳥の足に噛み付いた。

 それからしばらくの間、ハリーは食事に集中した。

 腹が満たされ始めた頃、まるで大砲のような音が鳴り響いた。目を丸くして振り返ると、ロンの兄弟が巨大なクラッカーを鳴らしていた。

 クラッカーから花火が飛び出し、帽子や小さなプレゼントが降ってきた。

 ハリーはリアルな白鳥の形の帽子を手に入れた。

 

「……いらね」

 

 ハリーが投げ捨てると、それをマクゴナガルがキャッチして、「どうも、ハリー」とクスクス笑いながら被った。

 あまりの事に目を見開くと、今度はハグリッドがマクゴナガルのホッペにキスをした。

 

「おい、貴様!! 何をしているんだ!!」

 

 ハリーはテーブルに飛び乗った。

 

「貴様ぁ!! 先生に何をするかぁ!! 許さん!!」

 

 そのままハグリッドに飛びかかるハリー。

 

「ハリー? どうしたんだ? んー?」

 

 ハリーが掴みかかると、ハグリッドは何故か嬉しそうに笑った。

 

「おうおう! 甘えん坊さんめ!」

「誰が甘えん坊だって、ぎゃぁぁぁぁぁぁ!? 離せぇぇぇぇぇぇ!! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ハグリッドはハリーを抱きしめた。骨が軋む音がした。

 あまり笑い事ではないけれど、ロンはその光景に思わず吹き出した。

 

「なんだなんだ?」

「ハリーはどうしたんだ?」

 

 ロンの兄のフレッドとジョージも面白そうに見ている。

 結局、ハリーは呆れた様子のスネイプが見るに見かねて解放するまでハグリッドに抱きしめられ続けた。

 解放されたハリーはみんなからニヤニヤとした視線を向けられて顔を真っ赤にしながら大広間を飛び出した。

 

「おのれぇぇぇ!! おのれおのれおのれぇぇぇ!!」

 

 中庭に飛び出して、誰が作ったのかも分からない雪だるまに向かって雪玉を投げつけるハリー。

 ハグリッドがマクゴナガルにキスをした事に激昂して醜態を晒してしまった事にやり場のない怒りを抱えていた。

 すると、そんなハリーに雪玉が襲いかかった。

 

「誰だぁぁぁぁぁ!!」

 

 飛んできた方向を睨みつけると、そこにはフレッドとジョージがいた。その更に後ろにはロンもいる。

 

「へいへい、ハリー! 無抵抗な雪だるまとじゃなくて、俺達と遊ぼうぜ!」

「雪合戦だ!」

 

 そう言って、二人は雪玉を投げ始めた。

 

「ええい、やってやる! ロン! お前はこっちに付け!!」

「あー、オッケー」

 

 やれやれとハリーの方に回り込んでくるロン。

 そこからは二対二の雪で雪を洗う大激戦が始まった。

 気付いた時には全員が全身ぐっしょりと濡れてしまい、ガチガチと震えながら校舎に戻っていった。

 

「二人共、こっち来いよ!」

 

 さっさと寮に戻って着替えようとしていたハリーとロンにフレッドが言った。

 

「秘密の場所を教えてやるよ」

 

 無視して帰ろうとするハリーをジョージが抱きかかえた。

 

「おい、貴様!! 離せ!!」

「暴れるなって! 絶対損はさせないからさ!」

 

 大騒ぎをしながら向かった先は六階にある《ボケのボリスの像》の傍の扉だった。

 

「ウッドの後をこっそりつけて見つけたんだ!」

「まったく、こんな場所を独り占めにしようなんて、実に悪いヤツだぜ!」

「ウッド?」

 

 何の事だとハリーが聞こうとする前に、二人は扉に向かって言った。

 

「《パイン・フレッシュ、松の香爽やか》」

 

 すると、軋みながら扉が開いた。

 

「わーお」

「すごいな」

 

 ハリーは抱えられた状態で校内を走り回される屈辱に対する怒りを忘れる事にした。

 それほど、素晴らしい場所だった。

 そこは白い大理石の浴室だった。天井にはロウソクの灯ったシャンデリアが吊り下げられている。浴槽の周囲には百を超える蛇口があり、それぞれに異なる宝石が散りばめられている。

 窓には真っ白なリンネルの長いカーテンが掛けられていて、壁には人魚の絵が飾られていた。

 とにかく豪華だった。

 

「ブルブル震えている時にはうってつけだろ?」

「監督生とクィディッチのキャプテン、そして、俺達だけに許された特権的空間さ!」

「パーフェクトだ」

 

 ハリー達は急いで濡れた服を脱ぎ去った。そのまま浴室に飛び込んでいく。

 それぞれが好き勝手に蛇口を開くと、それぞれ違った入浴剤の泡が飛び出してきた。

 ハリーの捻った蛇口からはブルーとピンクのサッカーボールのような大きさの泡。

 ロンの捻った蛇口からは雪のような真っ白な泡。

 フレッドの捻った蛇口からは香りの強い紫の雲がモクモクと広がっていく。

 ジョージの捻った蛇口からは勢いよく吹き出したお湯が水面を飛び跳ねた。

 あっと言う間にいっぱいになった浴槽に四人は一斉に飛び込んだ。

 

「ひゃっほー!」

「さいこー!」

「きんもちいぃぃぃ!!」

「グレイト!!」

 

 浴槽はとにかく広く、四人が同時に好き勝手に泳ぎ回っても平気だった。

 楽しい時間が過ぎていく。

 四人は仲良くのぼせ上がった。

 フラフラしながら寮に戻っていく途中、ドラコが戻ってきたら連れて行ってやろうとハリーは思った。  

 

 第十四話『禍津』

 

 ホグワーツ特急から降りると、マルフォイ家の屋敷しもべ妖精であるドビーが待っていた。父母の姿はどこにもない。

 忙しい父はともかく、母まで居ない事にドラコは怪訝な表情を浮かべた。

 

「おい、ドビー。父上と母上は来ていないのか?」

「はい、来ておりません」

 

 ドビーの様子も、少し妙だった。普段の卑屈な表情とは違って、どこか夢見るような表情を浮かべている。それに、口調もドビーにしてはハキハキしていた。

 ドラコは奇妙に思いながらも、とりあえず屋敷に帰ろうと思った。母が急病を患って、仕方なくドビーに迎えに行かせたのかも知れないと思ったからだ。

 

「おい、屋敷に帰るぞ」

「かしこまりました。失礼致します」

 

 ドビーがドラコの手に触れると、バチンという音が響いた。

 次の瞬間、ドラコはマルフォイ家の屋敷の前に立っていた。

 とても静かだ。

 

 鉄の門をドビーに開かせ、玄関に向かって行く。

 

「……雑草が少し伸びているな」

 

 ドラコの母は几帳面な性格で、庭いじりが趣味でもあった。それなのに、雑草が好き勝手に伸びている。

 玄関に近づくにつれ、胸がざわめき始めた。

 

 ―――― これ以上、近づいてはいけない。

 

 バカバカしい。

 近づかなければ、中に入れない。

 ホグワーツ特急に長々と揺られたせいで、体はクタクタだ。それに、お腹も空いている。

 母の手料理を食べたいし、ふかふかのベッドに飛び込みたい。

 父母に語って聞かせたい話も山程ある。それに、マルフォイ家の今後についてもシッカリと話し合う必要がある。

 

 ―――― 屋敷に入ってはいけない。

 

 耳鳴りがする。日が暮れ始めて、一気に冷え込み始めた。体がブルブルと震えている。

 早く、中に入って温まろう。

 

 ―――― 引き返そう。ホグワーツに戻るんだ。

 

 戻るのは休暇が終わってからだ。ハリーへのクリスマスプレゼントは通販で買って、当日届くようにしてある。だから、戻る理由などない。

 

「ドラコ坊ちゃま、中へどうぞ」

 

 ドビーが玄関の扉を開いた。その先には暗闇が広がっている。

 

「ドラコ坊ちゃま」

 

 ドビーに手を掴まれた。

 さっきよりも、玄関が遠くなっている。

 気づかない内に、後ずさっていたようだ。

 

「は、離せ……」

「外は寒うございます。どうか中へ、ドラコ坊ちゃま」

 

 ドビーはドラコを引っ張った。恐ろしい力だ。

 

「は、離せと言っているんだ! 命令だぞ!」

 

 屋敷しもべ妖精は命令に逆らえない。その筈なのに、ドビーは離さなかった。

 相変わらず、夢見るような表情で、気色の悪い笑みを浮かべている。

 

「さあ、ドラコ坊ちゃま。中へ」

「待て、離せ!」

 

 ドラコはポケットから杖を取り出した。けれど、バチンという音と共に、手から杖がすっぽ抜けた。そして、そのままドビーの手に収まった。

 

「お、お前!?」

 

 漸く、ドラコは自分の現状を理解した。

 この屋敷は、既に彼の生まれ育ったマルフォイ家の屋敷ではない。

 獲物を狙う、蜘蛛の巣だ。

 ドラコは蜘蛛の糸に絡め取られてしまったのだと理解した。

 もがけばもがく程に糸は絡みついてくる。

 

 ドビーはドラコを屋敷の奥へ連れて行った。

 扉を抜ける度に、まるで崖の淵に向かって歩いているかのような錯覚を覚えた。

 そして、応接間に連れ込まれた。

 

「おかえりなさい、ドラコ」

「おかえり、ドラコ」

【やあ、おかえり、ドラコ】

 

 そこには父がいた。母がいた。

 そして、得体の知れない少年がいた。

 

 ―――― 誰だ……、お前!

 

 そう叫ぼうとしたのに、喉はヒクヒクと動くだけで声にならない。

 

【怯えなくていい。君を害するつもりはないんだ。ルシウスとナルシッサのおかげで、十分に魂を得られたからね】

 

 物静かな声で、少年は言った。

 髪の色が黒い事や、美しい顔立ちである事はわかるけれど、その輪郭が奇妙にぼやけている。薄気味の悪い光を帯びている。

 

「魂……、だって?」

【そうだよ。彼らの心の奥底に眠る感情を餌食にして、ボクは自分を満たした。受肉したわけではないが、ここまで実体を得られれば、とりあえずは十分さ】

「お、お前! パパとママに何をしたんだ!?」

 

 湧き上がる怒りが恐れを上回り、ドラコは叫んだ。

 すると、少年は甲高い笑い声をあげた。

 

【言ったじゃないか、ドラコ。魂を注がせたのさ】

「だから、それは一体……!?」

 

 ドラコが睨むと、少年は冷たい視線を返した。

 

【ドラコ。いけない子だね。誰に向かって、そんな目を向けているんだい?】

 

 そう言うと、少年はドラコの下へやって来た。咄嗟に杖を抜こうとして、ドビーに取り上げられている事を思い出したドラコはドビーを睨みつけた。すると、ドビーは指を鳴らした。

 バチンという音と共に、ドラコの体は床に転がされた。猿轡を噛まされ、手足をロープで拘束されている。ドビーの魔法だ。

 

【ドラコ】

 

 少年はドラコの頭を踏みつけた。

 

【偉大なる存在には、敬意を持って接するべきだ。傅いて、頭を垂れ、命令を与えられる事に悦びを感じるべきなんだ。怒鳴ったり、睨みつけるなんて、もってのほかだ】

 

 少年はドビーからドラコの杖を受け取った。

 

【少し、教育が必要らしい。ついでに覚えておくといい。これが磔の呪文と呼ばれる魔法が対象に与える苦痛だ】

 

 ドラコの目が見開かれる。必死に藻掻く。けれど、逃げる事は叶わなかった。

 

【クルーシオ】

 

 それは、魔法界において、許されざる呪文と呼ばれているものの一つだった。

 想像を絶する苦痛を与える拷問用の呪文であり、その魔法を受けた者は死の救いを求める程だという。

 ドラコは悲鳴を上げた。ロープが腕や足にどれだけ食い込んでも暴れ続けた。

 やがて、顔は真っ赤になり、白目を剥いて、泡を吹きながら痙攣し始めたドラコを少年は嗤う。

 

【情けない。これでも手加減をしたんだよ? まったく、親が親なら子も子だな。だろう? ルシウスにナルシッサ】

 

 二人は動かない。けれど、その瞳からは涙が溢れ出していた。

 魂を抜け殻寸前まで吸い取られ、何時間も拷問に掛けられながら、それでも二人の中の息子に対する愛は消えていなかった。

 その事に少年は舌を打つ。

 

【まあいい。さっさと躾けてしまおう】

 

 そう言うと、少年は嗜虐的な笑みを浮かべた。


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